東洋大学 石田洸介 選手

東洋大学 石田洸介

Mental
日々の充実感を積み重ねて、先へ

───あなたの走りを支えるもの・ことは何ですか?

自分の気持ちを落ち着かせる時間をつくることです。普段の練習であっても「今日はできるだろうか」なんて緊張するときは、あまり気負いすぎないように、好きなK-POPのaespaなどを聴いて心を無にします。精神統一みたいなものですね。

それから、食事も走ることを支えてくれています。寮の食事でいちばん好きなのは天津飯。献立表に「天津飯」の文字を見つけると、その週は「この練習を頑張ったら食べられる」と活力になるんです。厳しい練習の直前に食べるのは、飲むあんこや和菓子、エネルギー系のゼリー。練習直後はリカバリー系のゼリーやオレンジジュースなど、糖質を摂取するよう心がけています。


───走ることの原動力は何ですか?

自分はそもそも、走ることがあまり好きではないんです。日々練習していて「このまま投げ出したい」と思う瞬間は、正直何度もあります。でも、そういう場面を乗り越えてこそ、毎日の充実感が味わえる。一日いちにち「自分に負けなかった」という結果を積み重ねた先で、自分の求めている走りができるんだと思うんです。だから、レースで自分に打ち勝ったときの達成感は、何事にも代えられません。中学のときからこの喜びを味わってきましたが、それでも同じ感情に出会うたび、走っていてよかったと心の底から思います。

もうひとつ、仲間の存在も原動力です。中学と高校の仲間が頑張っているニュースを聞くと、悔しくもなるし、また一緒に走りたいとも思う。練習でもレースでも「仲間と競りたい」という気持ちは、大きなモチベーションですね。

東洋大学 石田洸介

Run
這い上がってきた強さが、自信になる

───ナイキのシューズを履いて、あなたの走りはどう変わりましたか?

ナイキとの出会いは中1のとき、ペガサス。次に世界陸上で速い選手が履いていたのを見てズーム マトゥンボを知り、憧れて買ってもらいました。日本のシューズはかかとから接地するタイプが多いけれど、ナイキのシューズはつま先で接地しやすい設計になっているんですよね。それが最初はちょっと合わなかったものの、どうしてもナイキが履きたくて、つま先寄りの走り方に変えていきました。するとすぐにスピードが出やすくなり、結果も伸びた。靴に合わせて走り方を変えたのは、ズームマトゥンボが初めてだったと思います。ただ、距離に対応するとスピードが出なくなったり、スピードを優先すると距離が厳しくなったりするから、ベストな走り方はいまでも模索中ですね。

現在のレースシューズでいうと、今年からアルファフライ 3をいています。去年、チームの梅崎(蓮)選手が履いていてかっこよかったから試してみたら、フィット感と反発力がすごくて感動したんです。自分に合う反発を手に入れて、これならもっと速く走れそうだと思いました。


───そんなナイキのシューズとともに、最近乗り越えたことは何ですか?

去年の箱根駅伝で思うような結果が出せず、しばらく陸上を休んだ時期です。常に上を目指していかなければならないなかで「自分にとって陸上って何だろう」と考える時間が生まれたことで、改めて、日々のゴールを積み重ねていく大切さを感じました。小さな勝利でもいいんです、それを全力で続けた先に、大きな目標が出てくるものだから。

そうやって、時間はかかっても自ら考え、這い上がってこられるのは自分の強みです。結果を出せているときは、何も考えていなくても良い状態が保てている。でも、一度立ち止まると、やっぱりいろいろ考えてしまうんですよね。中学までは走れば勝てていたから、昔からやっている練習方法などに、無意識に縛られていた部分もあります。

這い上がるためには、固定観念を手放して新しい自分をつくることが欠かせません。「入賞しなければならない」ではなく「僕は入賞したい」というように、陸上を義務ではなく自分の目標としてとらえるようにしたのも、また走れるようになったポイントだと思います。そんなふうに意識が変われば、また陸上と向き合える。自分の許容量が広がって、新たな走りが見えてくるんだと思います。

東洋大学 石田洸介

Passion
熱量や勝ちたい意欲が、技術と同じくらい大事

───走っていて熱くなれる瞬間はどんなときですか?

練習では、気持ちが燃えすぎると設定タイム以上に力んでしまったりするので、少し熱を抑えるようにコントロールしています。でも、レースは別。やっぱり自分の力を出しきりたいし、チームのためにも結果を出したいから、基本的にいつも熱くなっていますね。とくにレース終盤の「そろそろ勝負が始まるかもしれない」というタイミングでは、勝ちたい気持ちがぐんぐん強くなり、熱を増します。レースの一番きついところではネガティブな感情も出てくるけれど、そういう一瞬を、自分の熱量のある気持ちで乗りきった場面がこれまでに何度もありました。

とくに長距離ランナーにとって、熱量や勝ちたい意欲というものは技術と同じくらい重要なもの。箱根を目指す選手はみな、365日練習に励み、狭き門に挑戦してきた仲間です。普通なら出会わないような苦しみを抱えることもあるけれど、そのぶん、大きな喜びを味わうこともできる。大舞台で最後に身体を動かす原動力は、やっぱり情熱だと思います。


───チームのなかでともに熱くなれるメンバーや、ライバルは誰ですか?

4年の梅崎の走りはすごく信頼しています。一緒に襷をつないできたチームメイトとして、尊重しあっている関係だと思う…。梅崎が自分を信頼してくれているかはわからないけど(笑)。梅崎がいい結果を残せば、自分も頑張りたいと思えます。さっきは自分の関東インカレを見た梅崎から「やっぱり負けられない」という言葉ももらいました。

今年はお互い役職に就いているのもあって、チーム運営についての会話が増えており、ビジネスパートナーのような関係になっています。ただ、4年になって、練習以外の場面でもコミュニケーションを取る機会は多くなりましたね。


───これから見てほしい自分の姿を教えてください。

今シーズンの目標は、一つひとつのレースで悔いを残さないこと。今まででいうと、高校の前半は結果が出ずに苦しみ、コロナでインターハイが中止になって迷いが出たりもしましたが、高校3年生の時ひさしぶりに走ったレースで高校記録が出せたんです。あのときの勢いは自分でもすごかったと思う。今年もそんな最高の走りで、東洋の歴史に自分の名前を刻みたいと思う。東洋大の選手として、走りきりたい。「その一秒をけずりだせ」「怯まず前へ」というチームスピリッツに恥じない走りをすることが、人の心を動かすと思うんです。自分も、誰かの心を動かす走りがしたいです。