女子サッカーの地位向上とアスリートの自立に向け「なでケア」を創設
大滝麻未(おおたきあみ)さんは、「サッカーは男性のスポーツだ」という意識を転換したいという思いから「なでケア」を創設。アスリートたちの「女子サッカーなんて」と卑下するマインドセットを変え、キャリア構築を検討する機会を提供している。さらに、セクハラ問題や女子アスリートの悩みの解決に向けて相談窓口を設置。今後は、スポーツの枠を超えて女性の可能性を広げられるプラットフォームとなるよう活動を続けていく。
プロフィール
団体:なでケア13歳から15歳の女子サッカーアスリートの受け皿が不足しているという問題を、㆞域と連携しながら解決を図る。また、アスリートの現役そして引退後を含めた''キャリア構築''の機会も提供。マインドセットを変え、一人の人間としての自立を支援する。"サッカーは男性のスポーツ"という偏見と向き合いながら競技の魅力を伝えている。https://nadecare.jp/
なでケア創設者:大滝麻未(おおたきあみ)さん
年齢:32歳
背景:JEF UNITEDレディース所属
在住:東京都江東区
「サッカーは男子のスポーツ」という意識を変えたい
大滝さんがサッカーを始めた頃、「女子でサッカーをするのは珍しい」と言われていました。家族にも、「サッカーは中学校で辞めて、違うスポーツをしてほしい」と止められていたそうです。「サッカーは女子がずっと続けていくスポーツではない」という価値観が一般的だったのです。そうした価値観に違和感を覚えたのは、中学校でアメリカへ留学した時でした。アメリカでは、男女関係なくサッカーに取り組んでいたのです。
大滝さんは、日本に根強く残る「サッカーは男子のスポーツ」という固定概念を変えたいと言います。
「2011年FIFA女子ワールドカップで日本女子代表チームが優勝した時、ガラリと景色が変わりました。その時の景色をもう一度見るために、アスリートの立場から何ができるかを考えました。協会の取り組みを待っていても何も変わりません。私たちが自覚を持って活動していかなければいけないという課題意識を持ったのです」
大滝さんは、女子サッカーの普及や「サッカーは男性のスポーツ」という偏見を払拭する活動などを行う「なでケア」を創設。その中でも特に重視したのは、女子サッカー選手のマインドセットを変えるということでした。
「女子サッカーのアスリートやスタッフ自身が、『女子サッカーなんて』『誰も応援してくれないので価値がない』などと思っているという現実がありました。世の中の女子サッカーへの眼差しを変えるには、まず自分たちが変わっていかなければならない。そんな思いから、マインドチェンジの取り組みをスタートしました」
アスリートたちは、女子サッカーの地位を低く感じていることと、「サッカーしかしてこなかった自分」に価値を見出せないという2つの問題を抱えていました。この問題の解決に向けた取り組みとしてキャリアビルディングの勉強会などを実施。「女子サッカーを頑張りぬいたこと」を自信にし、自立的に歩んでいけるよう支援をスタートしました。
「私はセカンドキャリアという言葉が好きではなくて、『サッカーをやっているとき』も『引退後』も繋げて、自分のキャリアとして構築していけるようにしたいと考えています。そのためには、もっと現役中に色々なことを経験したり、多様な人に会う経験をしたりすることが欠かせないと思います」
大滝さんは、「キャリアを選ぶか、女子サッカーを選ぶか」という二者択一ではなく、どちらも選べる環境をつくりたいと思いを語りました。
女子アスリートが直面するセクハラ問題に挑む
なでケアを立ち上げた直後、中学生から指導者にセクハラを受けているという相談を受けました。大滝さんはこの告発を機に女子アスリートが直面しているセクハラ・パワハラ問題をどう解決するか検討を始めます。
「これまでもスポーツ界ではセクハラ・パワハラ問題が存在してきました。当事者が口をつぐんで、表に出なかったケースも多くあったでしょう。身近な中学生がセクハラにあい、『これをきっかけにサッカーを嫌いになってほしくない』と強く思いました。二度とこんな思いをする子を出さないために、アクションを起こさないといけないと突き動かされました」
こうした思いから大滝さんは、なでケアに相談窓口を設置。重視したのは、選手が相談に乗る場であるということです。
「言いにくいことを相談する時は、どのような人が聞いてくれるのかが重要なポイントになります。そのため、同じ目線に立てる少し遠い先輩が話を聞いているという雰囲気を設計しました」
相談窓口は、専門家との相談を重ねながら、現在、プレオープンを迎えました。今後は、必要な子にきちんと窓口の存在を伝えられるよう情報発信をしたいと考えているそうです。
女子サッカーならではの魅力を伝えていきたい
大滝さんは、なでケアを立ち上げた2019年当初と今とでは思いが変化してきたと語ります。
「立ち上げた当初は、男子サッカーと比較して、『なぜ男子と女子とでは違う扱いなのか』と考え、男子サッカーに追いつく方法を探していました。しかし、なでケアでの活動を重ねる中で、比較することがもったいないと思うようになったんです。女子サッカーと男子サッカーとでは、根本的に違う魅力があると感じるようになりました」
現在は、女子サッカーにさらに大きな可能性を感じていると言います。
「女子サッカーは、これから新しい価値を生み出していけると感じています。サッカーやスポーツという枠を超えて、今までになかったような、女性の活躍や女性を勇気づけることにつなげられるプラットフォームを構築していきたいと考えています」
2011年ワールドカップの感動を超えて、女子サッカーアスリートのサポートを軸に活動を広げていけるよう、これからも大滝さんは活動を重ねていきます。
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