睡眠の質を上げる5つのヨガポーズ
健康とウェルネス
眠りやすくなるヨガポーズを睡眠の専門家が紹介。
就寝前にリラックスするのが難しいときは、ヨガマットの上で数分間のポーズをとると安らかに眠れるかもしれない。
世界中で多くの人が十分な睡眠を取るのに苦労しているが、その理由は様々だ。 米国睡眠協会の2021年データによると、米国では5,000~7,000万人の成人が睡眠障害を抱えている。 さらに、世界では70%の成人がパンデミックを契機に睡眠の問題を新たに1つ以上抱えることになったことがPhilips 2021 Global Sleep Survey(ブラジル、フランス、イタリアなど13ヵ国の成人が対象)によって明らかになった。
睡眠の問題の中でも最も多いのが不眠症、つまり入眠や睡眠の持続が困難な症状だ。 事実、米国では成人の30%が短期的な不眠症に、10%が慢性的な不眠症に悩まされている。
米国疾病予防管理センターによると、成人が心身の健康を維持するには一般的に1日7時間以上の睡眠が必要とされている。 ところが、米国の成人の35%以上は典型的な24時間サイクルの間にとっている睡眠時間が7時間に満たないと睡眠財団は発表している。
ヨガで睡眠の質を上げる方法
心身をしっかりと休ませる状態にする方法がいくつかある。たとえば、就寝6時間前からはカフェインを摂取しない、ベッドに入る前にスマートフォン、タブレット、テレビを消すなどだ。 しかし、特に効果的な方法として挙げられるのは、心を落ち着かせるヨガポーズを数種類行うことだ。
「眠るための準備を整えることが重要です。就寝前に決まったリラックス習慣をつけると、自然に眠りやすくなります」とサラ・シルバーマン心理学博士(行動睡眠医学を専門とする睡眠健康コンサルタント)は説明する。 「緩やかにストレッチしたりリラックスする動きをしたりすることが、もうすぐ寝る時間だということを心身に伝える内なる合図になります」
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就寝前のヨガ習慣は、安らかに眠れなくて困っている人にも効果がある。 19の研究を対象としたメタ分析を行い、学術誌『BMC Psychiatry』で2020年に発表されたシステマティックレビューによると、ヨガは睡眠障害に悩む女性の睡眠の質を高める効果がある。就寝前にヨガをやらない人と比べると、その効果は明らかだという。
肉体的な緊張に加え、気持ちが高ぶって次々と考えが頭に浮かぶ状態が重なると、交感神経系(闘争・逃走モード)を刺激し、入眠や睡眠の持続を妨げる、とマーク・スティーブンズ(認定ヨガセラピスト、国際ヨガセラピスト協会会員)は指摘する。
「心を落ち着かせるヨガ習慣をつけると、逆に副交感神経系(休息・消化モード)を刺激して眠気を誘い、健康的とされる7~9時間の継続した睡眠を促すことができます」
睡眠の質を上げるヨガポーズ
ここでの目標は呼吸法を意識することだ。「ゆっくり呼吸するように意識することで、心身の緊張がほぐれ、眠くなります」とシルバーマンはアドバイスする。
スティーブンズは就寝前に次に紹介する30分の入眠シーケンスを薦めている。 まず数分間、座って意識的に浅い呼吸をする。 次に数分間かけて、息を吸うときよりも長めに吐くようにしていく。
「これはヴィシャマヴリッティ・プラーナヤーマと呼ばれる呼吸法で、心を落ち着かせる効果があります。 この呼吸パターンを続け、次のポーズを行います」
1.心を落ち着かせるポーズ(約2~3分)
横寝になって腕を上半身の左右どちらかに置く。床側の足の膝を少し前に出し、90度の角度に曲げる。 反対側の足は膝から下を後ろに出す。こちらも90度の角度にする。
「このように非対称のポーズをとることで、ヒップ、足、上半身が軽く伸ばされ、全身の緊張が解けます」とスティーブンズは説明する。 長めの枕に胸を載せると、しっかりリラックスして1日の緊張がほぐれていきます」
2.チャイルドポーズ(約5分)
まず両膝立ちになる。 次に骨盤がかかとに触れるまで腰をゆっくり降ろしていく。 足の甲をマットに付ける。左右のつま先が互いに触れるようにする。 つま先を合わせたまま、両膝を少し広げる。 お辞儀するように上半身を前に倒していき、頭をマットに付ける。胸は両腿の間か上で固定する。 手のひらを上にして肘の力を抜いたまま、両腕を腿の隣までゆっくり移動させる。
「膝を広げて胸を床に付ける対称ポーズをとることで、足とヒップの緊張が解け、背骨がしっかりリラックスします」とスティーブンズは言う。
3.座って前屈(約2~3分)
マットの上に座り、両足を前に伸ばす。 両足を合わせる。 ゆっくりと前屈し、両腕をできるだけ下(膝、ふくろはぎ、つま先)に伸ばしていく。
「このポーズは背骨を緩め、副交感神経系を刺激します」とスティーブンズは説明する。
4.両足を壁に上げるポーズ(約5~10分)
仰向けに寝て臀筋を壁に(約5cm)近づけ、上半身が壁と直角になるような姿勢をとる。 両足は曲げて壁に寄りかかった状態にする。 手のひらを上にして、両腕を床に付けたまま伸ばしていく。 両足を壁の上の方に伸ばし、固定する。
「シンプルな倒立によって、足腰のリンパ液が流れると同時に心拍数が低下します」とスティーブンズは説明する。「非常に鎮静効果の高いヨガポーズです」
ちなみに、リンパ系は体液レベルを維持し、体から異物を排除する役割を持っているため、リンパ液を流すことで体液バランスが良くなり、免疫が高まる。
5.自分の内に意識を向ける呼吸瞑想(約5分)
楽な姿勢で座る。 「深呼吸しながら息を長めに吐き、気持ちを落ち着かせましょう」とスティーブンズは説明する。
「呼吸するときに心の中で『吸う』、『吐く』と言うのもよいでしょう」
就寝前の正しいヨガのやり方
シルバーマンによると、古くから伝わるこの方法を就寝前に実践する場合は、ベッドに入る2時間前に行うのがよい。
「最適なタイミングは人によって異なるので、自分でいろいろ試してください」と彼女はアドバイスする。 「体を激しく動かすと体幹の温度が上がることがあります。 睡眠状態に移行するには、ベッドに入る前にその温度を数度下げる必要があります」
照明を暗くしたりロウソクを点したりするのもよいそうだ。寝る前に明るい光を避けることで、自然な睡眠サイクルが維持されるからだ。 米国国立睡眠財団によると、光は概日リズムに直接影響を及ぼすことが証明されており、睡眠と覚醒のサイクルを司っている。 環境が睡眠衛生に極めて大きな役割を果たしている点についてはスティーブンズも同意見だ。 「涼しい、居心地がよい、暗い、静かである、という最高の睡眠環境を整えることが重要です」と彼は言う。
プラクティスでは長さよりも動きのほうが重要だ、とシルバーマンはアドバイスする。 「自分の体が必要としていること、気持ちが楽になることに耳を傾ければ、リラックスと緊張の緩和につながります」
早い時間帯にヨガをすることも夜ぐっすりと眠るのに役立つ。覚えておこう。 学術誌『Alternatives Therapies in Health and Medicine』に投稿された2014年の論文では、不眠症を抱える高齢の男女(60歳以上)が週2回のヨガプラクティスを12週間続けたところ、睡眠パターンと健康状態全般が大幅に向上したことが示された。 具体的には、全体的な睡眠の質、睡眠効率、睡眠時間、活力、精神状態、心の健康が著しく改善した。
スティーブンズによると、ヨガで睡眠の質を上げる鍵はルーティンとして習慣づけることだ。週に数日または毎日少しずつやるのがよい。 時間をどのように使うかで大きな差が出る。
「大半の人に効果的なのは、1日の早い時間帯に行う激しく刺激的なプラクティスです。昼間、夜間を通して活力のバランスが良くなります」
文:エイミー・カペッタ