準備運動でワークアウトの効果を最大に
Coaching
トレーニング前に数分間ウォームアップをすることで、トレーニング効果が倍増する。
まだ火も点いていないオーブンに、パン生地を放り込んでも意味がない。まずはオーブンを予熱してから、パン記事を滑り込ませるのが定石だ。予熱を省略してしまうと、インスタ映えから程遠いパンが焼き上がるだろう。ワークアウトを始める前にも、同じことがあてはまる。つまりウォームアップが必要なのだ。
オーブンの予熱のように、休んでいた身体を運動モードに移行させるのがウォームアップ。これを怠ると、望んだ結果が出せなくなる。Nikeマスタートレーナーのジョー・ホルダーが説明する。「ウォームアップによって、使用する筋肉への血流が増加します。短時間で可動域が拡大し、精神的にもセッションに取り組む準備が整うのです」
「ウォームアップによって、使用する筋肉への血流が増加します。短時間で可動域が拡大し、精神的にもセッションに取り組む準備が整うのです」
ジョー・ホルダー
Nikeマスタートレーナー
このような要素がすべて組み合わされることで、瞬時にパフォーマンスを発揮できるのだ。筋力とコンディショニングを論じる学術誌『Journal of Strength and Conditioning Research』に掲載された32件の研究によると、ワークアウト前にウォームアップをした人の79%で全体的なパフォーマンスが向上している。そしてもちろん、このパフォーマンス向上は長期的な筋力強化や心臓血管の健康を保つのに役立つ。
ウォームアップを省略するリスク
ワークアウト自体の時間がなかなか取れないとき、ワークアウト前の準備に費やす数分間を煩わしく感じてしまう。だが結局は調子を崩したり、筋肉にハリや痙攣をもたらしたり、ひどい筋肉痛や炎症を招くことを考えれば準備は怠れない。ウォームアップの省略に警鐘を鳴らすのは、筋力とコンディショニングの認定スペシャリストとして活躍するミシェル・オルソン博士。アラバマ州モンゴメリーのハンティンドンカレッジで、スポーツ科学を専門とする上級臨床教授も務める専門家だ。
「ワークアウトで適切に動くためには、筋肉や心臓を含むすべての細胞と臓器に、普段よりも多くの酸素と栄養が含まれた血液をたくさん循環させなえればなりません。ウォームアップによって血液中の酸素を増やしておくと、めまいや動悸を防ぐのにも役立ちます。動悸は必ずしも異常ではありませんが、長距離ランナーの心臓にとってはあまり良いことでもないのです」とオルソン博士は説明する。
デメリットは他にもある。「筋肉が硬いままワークアウトをすると、姿勢が崩れて大きめの筋肉が十分に運動できなくなります」と説明するのは、パフォーマンスセラピーを専門とするデビッド・リーヴィー氏。シカゴのリアクトフィジカルセラピー創立者でもある。たとえば一日中デスクの前に座っている人は、股関節の屈筋が固くなりがちで、骨盤が少し前に出ている(前傾)傾向がある。このためランやリフトでも腹筋や大臀筋が十分に動かず、ハードなワークアウトの効果が低下するのだ。
おすすめの準備運動
ウォームアップはやったほうがいい。だが問題はその方法だ。オルソン博士が勧めるのは、10-15分のウォームアップ。ただしワークアウトの強度が高かったり長時間にわたったりする場合は、ウォームアップもゆっくり丁寧に時間をかけるべきだ。だがホルダーいわく、ウォームアップもやりすぎは禁物。準備運動が長過ぎたりハード過ぎたりすると逆効果になる。応用生理学の学術誌『Journal of Applied Physiology』の研究によれば、20分間の激しいウォームアップを実践したサイクリストは、短時間の適度なウォームアップをこなしたサイクリストより筋肉の疲労度が大きく、ペダルをこぐパワーが低下した。
メインの運動前にエネルギーを消耗しないように、ウォームアップの強度を10段階中の4-5あたりに留めることをホルダーは提案している。また時間がないときは、すぐメインのワークアウトに取り掛かってもいい。ただし最初の数分間は強度を落とし、ウォームアップの代わりにするのがオルソン博士からの助言だ。
以上のアドバイスに加え、どんなワークアウトにも適した素晴らしいウォームアップの構成を紹介しよう。一通りこなしたら、もう汗をかいているはず。つまり本番に取り組む準備ができているということだ。
一般的な準備運動(5分)
まずは広背筋、大腿四頭筋、ふくらはぎ、足首など、主要な筋肉グループやこわばった部位をフォームローラーで柔らかくしよう。ホルダーによると、どれも準備不足になりがちな筋肉だ。フォームローラーがない場合は、ラクロスボールなどの固いボールで代用してもいい。次は軽い有酸素運動に移行する。「心拍数を少し上げ、一般的な動きに身体を慣らしてどんなアクティビティにも対応できるようにします。こうすることで、より多くの酸素が筋肉に送り込めます」とオルソン博士は言う。ジョギング、スキップ、サイドシャッフル、カリオカなどの動きで、さまざまな方向へ身体を動かしてみよう(動きがわからなかったらネットで検索。ただし理学療法士や認定トレーナーのような有資格者による情報源を参考にすること)。
関節を動かして周囲の筋肉を活性化(3-5分)
ヒップクライシス、ショルダークライシス、ハーフニーリングヒップオープナーなどで、特定の関節を動かすことに注力しよう。可動域を全開にするワークなら何でもOKだ。「意図した方向にどれだけ広く関節を動かせるかが重要」とホルダーは言う。Nike Training Clubアプリでは、このタイプのワークを優先する上級プログラムをホルダーが用意している。関節が滑らかになるとフォームが向上し、ワークアウトの効果が高まる。次は重要な筋肉にスイッチを入れよう。特にコアと大臀筋を意識して、筋肉と脳をつなげるアクティベーションエクササイズに取り掛かる。後から取り組むメインのワークアウトで、必要なスピード、筋力、持久力を発揮できるように筋肉の準備を整えるのだ。バードドッグ、プランク、グルートブリッジをそれぞれ1セットやるのがホルダーのおすすめ。
動的な運動と軽いプライオメトリクス(2-5分)
最後は、特定のワークアウトを補完する動きでウォームアップを締めくくろう。静的な運動から始めることで、筋肉や関節が連動して瞬発的な可動域が広がり、ワークアウト中の可動域を極大化できるとホルダーは言う。逆に体側を伸ばして止めるような静的ストレッチは、発揮できる筋力を低下させかねない。その次は、中枢神経系(CNS)を活性化する簡単なプライオメトリクスで締めくくろう。プライオメトリクスとは、爆発的なジャンプのことだ。中枢神経系が活性化すると、ワークアウト中に素早く効率的な力を生み出すことができる。
ランニング前のウォームアップは、どうすればよいのだろう?オルソン博士は、ウォーキングランジとフランケンシュタインキック(別名「おもちゃの兵隊」)を勧めている(モンティ・パイソンの「バカ歩き省」もぜひ参照しよう!)。ハムストリングスクープ、ニータック、Aスキップでもいいだろう(わからなければネット検索)。スクワットラックを使えるなら、スモウスクワット&リーチの後でスクワットジャンプを加える。高負荷トレーニングワークアウトの前のウォームアップには、ゆっくりした自重スクワットやランジを入れるのがオルソン博士のおすすめだ。ホルダーいわく、なわとび、ポゴホップ、タックジャンプでも効果が得られる。
ウォームアップした身体は、十分に温まって弾力もついている。まるでオーブンから出した焼きたてのパンだ。おいしい朝食で一日を始めるように、ウォームアップが理想的なワークアウトを約束してくれる。
文:ロザリン・フレイジャー
絵:ジョアナ・エレーラ