アスリート向けの代替ミルク
Coaching
乳成分を含まない「ミルク」が、新たな健康ドリンクとして注目を集めている。さまざまな選択肢を理解して、自分にぴったりの代替ミルクを選ぼう。
行きつけのカフェで、いつの間にか何種類ものミルクがメニューに載っている。そんなことが起きても、訝しがることはない。現在、世界では通称「代替ミルク」と呼ばれる植物性ミルクの市場が急成長しているからだ。米国の非営利団体「グッド・フード・インスティチュート」の調査によれば、2019年に米国の植物性食品および代替飲料のカテゴリーで消費ナンバーワンを記録したのが代替ミルク。牛乳の売上は前年とほぼ変わりないが、世界の代替ミルクの売上高は2024年までに380億ドルに到達するものと見込まれている。
「このブームは、植物ベースの食事の増加傾向と一致しています」と語るのは、ニューヨークの管理栄養士サマンサ・カセッティ氏。『Sugar Shock』の共著者としても知られる栄養と健康の専門家だ。植物ベースの食事は心臓に良く、免疫の強化、炎症の抑制、体重の維持、病気のリスク削減の可能性などの多様なメリットが確認されている(もちろん動物福祉の問題もない)。そして植物性ミルクは、乳製品と比べて製造時の環境負荷が大幅に少ない(温室効果ガス排出の原因という観点から食品を見た場合、乳製品は食肉に次いで第2位の二酸化炭素排出を引き起こしている)。
「代替ミルクは商品ごとに栄養素、風味、濃度が異なるため、自分の好みやニーズに合わせて選ぶのが正解です」
サマンサ・カセッティ
(栄養と健康を専門とするニューヨークの管理栄養士、『Sugar Shock』共著者)
牛乳とヤギ乳が違うように、代替ミルクにもそれぞれ違いがある。各ミルクについて詳細を学ぶ前に、まずは買い物の際に役立つ基本的なガイドラインを覚えておこう。
- 無糖を選ぶ。糖質が多い食事は、病気のリスク、体重の増加、睡眠の質の低下と関連付けられる。無糖のオプションがない場合は、添加された糖分が1杯あたり4グラム以下のパックを選ぼう。それがカセッティ氏のお勧めだ。
- 置き換えられた栄養素に注目する。牛乳にはタンパク質、脂質、ビタミンD、カルシウムが含まれる。
だが、代替ミルクに含まれる栄養素はまちまちだ。同じ種類であっても、ブランドによって栄養素が違うこともあるとカセッティ氏は指摘する。栄養成分表示に目を通し、上記の栄養素が強化されていることを確認しよう。
- シンプルなものを選ぶ。「水、アーモンド、塩」など、可能な限り短くてシンプルな原材料表の商品をカセッティ氏は推奨している。つまりミルクの加工を最小限に留め、舌触りの良さや賞味期限の延長を目的とした添加物(栄養なし)が大量に含まれていない商品を選ぼう。
代替ミルクは商品ごとに栄養素、風味、濃度が異なるため、自分の好みやニーズに合わせて選ぶのが正解なのだとカセッティは語る。さまざまなニーズに対応させるため、複数の代替ミルクを用意しておくことも勧めている。専門家が推奨する以下のチョイスを試してみよう。
朝食に最適:オート
クリーミーで滑らかな舌触りに加え、コーヒーやカフェラテとの相性も抜群(牛乳のように泡状にもなる)ということで、近年オートミルクの人気は急上昇中だ。2018年には品切れが続出し、新型コロナウイルスの後にも再び品切れ状態となった。わずかな甘みと塩気があり、シリアルにかけても美味しい。またホットケーキやマフィンの材料にしたり、もちろんオートミールの材料としても最適だ。ただしオーツ麦を搾ってミルクにするので、オーツ麦をそのまま食べた時よりも栄養素の一部(タンパク質や食物繊維など)が減っているとカセッティは説明する。
平均的な1杯:120カロリー、脂質 5g、タンパク質 3g
ワークアウト前に最適:アーモンド
運動前にスムージーを飲むなら、脂質の少ないアーモンドミルクをベースにしてみよう。そう勧めるのは、管理栄養士のローレン・スレイトン氏。ニューヨークでFoodtrainersを創した専門家だ。脂質は消化吸収に少し時間がかかるため、トレーニング直前に摂取しすぎるとペースが落ちたり、ワークアウト中に気分が悪くなったりする場合がある。
平均的な1杯:40カロリー、脂質 3g、タンパク質 1g
ワークアウト後に最適:エンドウ豆
エンドウ豆のタンパク質でできたエンドウ豆乳は、牛乳に匹敵するタンパク質を備えた数少ない代替ミルクのひとつ。1杯あたり8gのタンパク質を含むので、そのまま飲んでもスムージーに入れても、リカバリーに理想的だとスレイトンは語る。エンドウ豆の栽培に必要な水はナッツよりもかなり少ないため、最もサステナブルなオプションのひとつでもある。
平均的な1杯:70カロリー、脂質 4.5g、タンパク質 8g
さり気なく料理に加えたい時に最適:大豆
同じ大豆からできた豆腐と同じように、豆乳も料理の味付けを邪魔しない。代替ミルクとしては最古参だが、近年は一部の人が消化しにくいフォドマップ(特定の食品に含まれる糖類)の含有量が高いために人気が落ちているとカセッティ氏は語る。また遺伝子組み換えも多いため、大豆自体を避ける人もいる。ちなみに遺伝子組み換え大豆が健康に与える影響について、専門家はまだはっきりとした結論を出してはいない。消化の問題がない限り、有機栽培された遺伝子組み換えではない(念のため)無調整の豆乳を選べば、クリーミーなビーガンパスタやサラダのドレッシングなど、従来の乳製品を使ったレシピによくマッチするとカセッティは助言している。
平均的な1杯:80カロリー、脂質 4g、タンパク質 7g
料理に深みを加えたい時に最適:ココナッツミルク
わずかに甘みとナッツの風味があるクリーミーなココナッツミルクは、スープやカレーなどの味わいを深める。また焼き菓子とも相性が良いとスレイトン氏は語る。またココナッツミルクには、他の脂質よりも消化しやすく、減量と脳の健康とも関連付けられた中鎖脂肪酸トリグリセリドが含まれている。一般的に、料理用なら缶入りタイプがおすすめだ。紙パック入りよりも風味が強くてカロリーも高いので、使う量は控えめにしよう。一方、紙パック入りのココナッツミルクは軽めなので、そのまま飲んだりスムージーに入れたりするのに適している。
平均的な¼カップ(缶詰):120カロリー、脂質 12g、タンパク質 1g以下
平均的な1杯(紙パック):50カロリー、脂質 5g、タンパク質 1g
DIYに最適:ヘンプミルク
マイルドなナッツの香りと土っぽい風味があるヘンプミルクは、さまざまな用途に使用できる。そして自分でも簡単に作れる代替ミルクなのだとスレイトン氏は語る。お勧めの作り方は、ヘンプシードと水を混ぜるだけ。水に漬けておく必要も、濾す必要もない。このカテゴリーでは、摂取が難しいオメガ3脂肪酸も含まれている。ヘンプミルクは炎症を抑制する効果があり、全力で頑張るアスリートに最適だ。
平均的な1杯:60カロリー、脂質 4.5g、タンパク質 3g
どれか1種類を試して好きになれなかった場合でも、完全に見切ってしまう前に別ブランドの商品も試してみよう。代替ミルクの品質や味わいは、ブランドによって大きく異なるからだ。お気に入りが見つかれば、そのミルクの利点を最大限に生かした使い方ができるだろう。