回復を促す食事
Coaching
何をいつ食べるかによって、筋肉修復の速さは格段に変わる。以下のルールに沿ってダブルデューティダイエットを実践しよう。
数十億ドル規模のプロテインパウダー業界が私たちに向けて情報発信するとしたら、その内容は食事と身体機能の関連性についてだろう。
「私たちは、広範な回復プロセスに必要な栄養素を、食事によって身体に取り入れています」と言うのは登録栄養士であり、Precision Nutritionの主任栄養学者で認定ストレンクス・コンディショニングスペシャリストのライアン・D・アンドリュース氏だ。そのような回復プロセスとは、筋肉や結合組織の回復などである。ストレス、集中的なトレーニングあるいは外傷による炎症を抑え、筋肉の修復と増強に必要なホルモンの生成を促すのだ。
「私たちは、広範な回復プロセスに必要な栄養素を、食事によって身体に取り入れています」
ライアン・D・アンドリュース
登録栄養士であり、Precision Nutritionの主任栄養学者で認定ストレンクス・コンディショニングスペシャリスト
しかしセッションの直後に何を食べるか(強力なポストワークアウトミール)が特に重要と考えるのではなく、食事に対して総体的なアプローチを取ることが迅速な回復に役立つ。以下の栄養補給ガイドラインに沿って1日、そして1週間と実践し続けて、効果を実感しよう。
01. タンパク質が豊富な食事を取ろう。
筋肉は主にタンパク質でできているため、この主要栄養素を摂取する必要がある。タンパク質は運動後にダメージを受けた筋肉組織を修復し、新たな筋肉を作ってくれる。だが、プロテインパウダーに頼りすぎるのではなく、できるだけタンパク質豊富な自然食品を食べるのが良いとアンドリュース氏は言う。『Nutrients』誌に掲載された最近のレビューによると、こういった食品にはその自然含有物の中に他の必須栄養素(ビタミン、ミネラル、抗酸化物質)が含まれているので、回復をさらに促進してくれる可能性があるということだ。つまり、スムージーを飲むより天然サーモンを食べる方がお財布に(そしてカロリーにも)嬉しい効果があるのだ。
「ハードなトレーニングをするなら、1日につき体重1キロあたり少なくとも1.6グラムのタンパク質摂取を目標としてください」とアンドリュー氏は言う。体重が約70キロの人なら、タンパク質の量は110グラムである。一例を挙げるなら、朝食に卵2個またはナッツバター入りオートミールを、昼食にチキンまたはキヌアソースのテンペとブロッコリーを、おやつにヘンプシードを大さじ一杯入れたギリシャヨーグルトを、夕食にポテトと葉野菜を添えた魚一切れなどだろう。
有酸素トレーニングや高強度インターバルトレーニングを1時間以上続けるなど、強度の高いトレーニングの後は、できるだけ早めにタンパク質が含まれる食事を取るようにする。そうすることで、筋肉のタンパク質の分解を抑えて、回復力に弾みをつけるのだとアンドリュース氏はいう。
02. オメガ3脂肪酸を摂ろう。
オメガ3脂肪酸は、人間の体内で作ることができない。「抗炎症性があることが知られており、筋肉痛を和らげながら骨の修復力を強化する、必須の栄養素です」と登録栄養士でCulina Healthの共同設立者、バネッサ・リセット氏は語る。同社はニュージャージー州ホーボーケンを拠点に栄養サービス事業を展開している。米国国立衛生研究所によれば、女性は1日に1.1グラム、男性は1.6グラムを目標に摂取すべきだという。
サーモン、サバ、牡蠣などの海産物にはオメガ3脂肪酸が豊富に含まれている。また、ヘンプシード、チアシード、クルミを混ぜることによっても摂取できる。それぞれ一食あたりオメガ3脂肪酸が2.5グラム以上含まれているので、それをオートミールやヨーグルトに混ぜたり、サラダにトッピングしたりする。
03. 低炭水化物ダイエットはやめておこう。
最近、低炭水化物ダイエットが大ブームとなっているが、アスリートはブームに簡単に乗らないのが賢明である。「炭水化物はグリコーゲンという形でエネルギーとなり、トレーニングで『消費』された後、筋肉へと戻ってくるのです」とリセット氏は言う。
ワークアウト後の炭水化物の摂取が2時間遅れても、グリコーゲン合成率が半減してしまうのですとリセット氏。つまり筋肉がダメージを修復するための燃料が減ってしまうのだという。リセット氏が提案するのは、全粒粉のような複合糖質を毎回の食事で取り、それをトレーニング後1時間以内にも摂取することである(1時間以上のトレーニングをしていなければ、必要ない)。専門家が勧める食材としては、サツマイモ、ジャガイモ、キヌア、オートミール、オオムギ、果物などが挙げられる。
04. 果物や野菜を多彩に食べよう。
「活動的に動くと、体にストレスをかけエネルギーを大量に消費するため、栄養の所要量が上がる傾向があります。」とアンドリュース氏は言う。例えば、ビタミンB群は、細胞による消費可能なエネルギーの生成を助けるので筋肉の回復に役立つとリセット氏は言う。ビタミンCも痛みの管理に役立つとする研究もある。
アンドリュース氏は、必要な微量栄養素を確実に摂取するには、色とりどりの果物や野菜を多く食べるのが最も簡単な方法だと強調する。すべての種類を摂取する必要はない。「赤、紫(または青)、緑、オレンジ、黄色の果物や野菜を毎日食べるようにしてください」とリセット氏。あるいは、少なくともほぼ毎日それを心がけてほしいと言う。
05. 発酵食品を食べよう。
プロバイオティクスなど胃腸の健康を助ける善玉菌は、特にプロテインと組み合わせて摂ると、筋肉のダメージを抑え、回復を促進するという研究が『PeerJ』誌に掲載されている。同研究によると、バチルスコアグランスという一般的なタイプのプロバイオティクスが、前述のプロテインを速く消化する消化酵素を作るため、栄養素をより早く吸収できるという。
アンドリュース氏は、自然発生したプロバイオティクスを含む、自然食品や加工を最小限に押さえた食品であるヨーグルト、ザウアークラウト、昆布茶、キムチなどの摂取をすすめている。タンパク質と一緒に食べることによって効果を最大限引き出すことができる。
06. スパイスでひと味添えよう。
これらの回復力を高める食品をしっかり体内に摂取するために、スパイスを使って味にアクセントを付けよう。ターメリックにはポリフェノールが豊富な複合栄養素クルクミンが含まれ、トレーニングの前後に摂ると、筋肉のダメージや炎症が和らげることができる。ショウガはハードなトレーニングの後、筋肉力を回復するのに役立つ可能性があるとする研究が『Phytotherapy Research』に掲載されている。そしてカカオは、その抗酸化物質によって血流が良くなり酸化窒素の発生を促すとする研究もある。つまり、より多くの酸素と栄養素が速く筋肉へ届くようになるという。これらのスパイスのいずれかを、週5日大さじ2杯ほど摂れば効果を実感できると思われるが、1日の食事に少量ずつ加えても差し支えないだろう。
07. 酸味のあるドリンクを飲もう。
具体的には、タートチェリージュースが良い。長距離ランニングなどの集中トレーニングの前後に700ミリリットルを少なくとも7日間連続で飲むと、筋肉痛が緩和されるとする研究もある。なぜなら、主に抗酸化物質が炎症と闘ってくれているからである。
もちろん、食事ではある程度までしか回復させることができない。筋肉の回復のためにさらに必要なのは、習慣的に行うストレッチ、そして最も重要なのは十分な睡眠である。しかし私たちに言わせれば、食事はストレッチ(そして正直なところ睡眠)よりもちょっと楽しくできる生活習慣なのである。