「ファストフード」を再定義
Coaching
適切な食事を取れば、ランに必要な栄養を補給でき、次のランのためのリカバリーも速くなる。そんな食事方法を紹介しよう。
賢い食事がランの上達につながる。単純すぎると思うかもしれないが、紛れもない事実だ。
「トレーニングに効果的な食事を取るうえで最も重要なのは、ワークアウトに必要なエネルギーを体に蓄えること。そして、ワークアウトから体を回復させるためのエネルギーを補充することです」そう語るのは、モニーク・ライアン(登録管理栄養士、スポーツ栄養士)。持久系のプロアスリートやチームにアドバイスを提供しているモニークによると、私たちはいつでも次のランに備えて栄養補給をしていることになる。
理想的な食事とは
何をいつ食べるべきなのかは、走行距離やペースなどさまざまな要素によって異なるが、日々の食事内容はどのランナーもほぼ同じだ。
ランナーなど持久力を必要とするアスリートは、摂取カロリーの半分以上を炭水化物、4分の1をタンパク質、残りは脂質から得るべきだと説明するのは、ライアン・マシエル(登録栄養士、Precision Nutritionパフォーマンスニュートリション部門ヘッドコーチ)。炭水化物は、さつまいものようなデンプン質の多い野菜や全粒穀類など、栄養価の高い食品を選ぶのがおすすめだ。タンパク質は、鶏肉、魚、ヨーグルト、卵、シード、豆、豆腐など、動物および植物由来の食品から摂取できる。また、良質の脂質は、アボカド、ナッツ、オリーブオイルなどに含まれる。
この栄養素の内訳には、どのような根拠があるのだろうか。モニークによると、ランニング中は、炭水化物と脂質が燃焼するという。「ランニングがよりハードで距離が増すほど、必要な炭水化物の量が増えていきます」炭水化物はグリコーゲンとして筋肉と肝臓に蓄えられ、体が最も簡単に利用できるエネルギー源のグルコースとして放出される。この貯蔵されたグリコーゲンを使い果たすと、思ったよりも早くエネルギー切れで動けなくなってしまうとモニークは話す。脂質も燃料になるが、主に脂肪組織と筋肉組織内に貯蔵されているため、燃料に転換するためには時間とエネルギーが必要になる。
ランニングの後は、炭水化物と脂質の組み合わせに加え、第3の主要栄養素であるタンパク質を摂取することが重要である。「タンパク質は筋肉の修復と再構成に役立ち、炭水化物は使い切ってしまったグリコーゲンを補充できます」とモニークは語る。つまり、この3つの栄養素を合わせて摂取することで、リカバリーのプロセスを促進できるのだ。
基本について整理できたところで、この栄養素の知識をランニングの前後と、ランニング中に活用する方法について紹介する。
ランニング前の食事
ラン開始前の3時間以内にバランスの良い(前述した主要栄養素を含む)食事を取れば、それ以上に何かを食べる必要はなくなる、とライアンは語る(残念ながらおやつは必要ない)。
食事の内容については、炭水化物、脂質、タンパク質をどのような割合で摂取するのが自分の胃に最も合っているか試してみるといい。ランを途中で中断したくなければ、チーズバーガーや豆類など、脂質の多い食品や食物繊維が豊富な食品は胃腸に負担がかかるため、避けたほうがいいだろう。
1時間以内に75分以上のランに出かける予定があり、空腹を感じている場合は、消化の良い軽食を取ることをライアンは推奨する。「一般的に、1時間以内に走る場合は、タンパク質、炭水化物、少量の脂質を含んだシェイクやスムージーなど、飲める食品をすすめています」また、全粒穀物などの良質な複合糖質も摂取しておきたい。複合糖質は分解に時間がかかるため、ランニング中の「もうひと頑張りしたい」と感じるタイミングで、エネルギーが血流に放出されるのだ(シェイクの材料としては、オーツ麦、ピーナッツバター、ベリー類、豆乳または牛乳がおすすめ。ただし、満腹になるほど飲まないこと)。
短いランの前なら、バナナ(定番なのには理由がある)やピーナツバタートーストなど、炭水化物を含み、食物繊維が少なめの軽食を取るといい。
ランニング中のエネルギー補給
ランニングのとき、いつもポケットに食べ物をしのばせておくランナーも、食べ物を携帯する習慣のないランナーも、ここからがポイント。90分未満のランの場合、一般的に走りながらエネルギーを補給する必要はないとモニークは指摘する。90分以上走る場合はエネルギーを補給しよう。
90分以上走る場合は、まずその日の早い時間に良質の食事を取るのが理想的。こうすれば、グリコーゲンの貯蔵量が、最高レベルの状態で走り出せるとモニークは言う。「その後、ランナーは1時間ごとに炭水化物を30-60グラム摂取すること」これには、ジェル、グミ、スポーツドリンク、またプレッツェルなどの炭水化物たっぷりのスナックが適している。これにより、体が筋肉と肝臓に蓄えられたグリコーゲンを使えるようになるだけでなく、炭水化物を追加してエネルギー満タンの状態をキープできる。
専門家によるヒント:ハーフマラソンやフルマラソンなど長距離レースのトレーニングに励んでいるのなら、炭水化物を含むさまざまな食品を試す機会として、毎週のロングランを活用しよう。なかには受け付けない食品もあるので、自分に適した食品が見つかるまで試してみよう。
「トレーニングに効果的な食事を取るうえで最も重要なのは、ワークアウトに必要なエネルギーを体に蓄えること、そしてワークアウトから体を回復させるためのエネルギーを補充すること」
モニーク・ライアン
登録管理栄養士、スポーツ栄養士
ランニング後の食事
シューズを脱いだ瞬間にプロテインシェイクを飲む必要はない。だが、筋肉を修復させるエネルギーを補給するために、タンパク質と炭水化物を含む軽食や食事をランニング後1時間以内に取ることを目標にしてほしいとモニークは語る。具体的な数値で言えば、体重1ポンド(約0.5kg)あたりタンパク質を10-25グラム、炭水化物を0.5グラム摂取することをすすめている。
もっとシンプルにしたければ、「早朝に走った場合は、栄養満点の朝食を食べる。仕事の後に走った場合は、自宅で夕食を食べましょう」とモニーク。「ランのタイミングによっては、リカバリーのための食事が次の食事と重なることもあります。その際は、適切な栄養素を摂取してください」
カーボローディングについて知っておきたいこと
炭水化物はランナーにとって不可欠だが、人生において楽しみが多すぎるとかえってつまらなくなるのと同様、過ぎたるは及ばざるがごとしだ。その好例がお馴染みのカーボローディング。これはその名の通り、長距離を走る前に炭水化物を大量に摂取して、パフォーマンスを最大限に高めるのに必要なエネルギーを取るというもの。即効性のあるエネルギー源として炭水化物がとても重要であることを考えると、理にかなった戦略だ。しかし、多くのランナーは間違ったやり方で実践しているとライアンは指摘する。
カーボローディングだからといって、ワークアウトの前に毎回パンを大量に食べ、レースに備えて毎晩夕食にパスタだけを食べていいことにはならない。また、5Kランに向けてカーボローディングをする必要もない。カーボローディングは、90分以上走る場合にのみ体にメリットをもたらす栄養摂取法であり、適切な方法で行う必要があるとモニークは語る。
持久力を必要とするランの数日前から、食事に占める炭水化物の割合を70-75%に変えて(一般的な食事で推奨される割合は50%ほど)、タンパク質と健康的な脂質も十分摂るようにする。ロングランやレース前日の夜に山盛りのスパゲティを食べて、翌朝に腹が膨張したような気分で目覚めるようなことは避けたい。特に炭水化物が多めの食事に慣れていない場合は要注意だ。ロングランやレースの2-3日前からカーボローディングを始めれば、すでにグリコーゲンが最高レベルに蓄えられているため、前日は普通の食事を取ることができるとライアンは説明する。こうすれば、起きた時に空腹を感じ、ランニング前に食事を取ってその日のエネルギーを補給できるため、重さを感じることはまったくなくなるだろう。
この3つ(レース前にカーボローディングを取り入れる場合は4つ)のポイントを参考に、賢く栄養補給し、ランを向上させよう。
文:アシュリー・マテオ
イラスト:グラシア・ラム