ランニングで活性化する7つの筋肉群
健康とウェルネス
ランニング中にスイッチが入る筋肉には、意外なものもある。それについて、ここで紹介しよう。
走り終えたときの気分は何とも爽快だ。 身体を激しく動かしてエンドルフィンが大量に放出されると、かのランナーズハイが訪れる。 しかし、ランニング時には特にどの筋肉のスイッチが入っているのだろうか? 足を蹴り出して前進するとき、下半身全体のスイッチが入っているのだろうか? それとも、腕で勢いをつけるから、上半身のスイッチが入っているのだろうか? それについて探ってみよう。
私たちの身体は走るようにできている
ヒトは二足歩行をする唯一の霊長類だ。 私たちは2本の脚で直立する。 走ることはDNAに刻まれており、 走るように進化してきたのだ。 事実、私たちの身体は走るように進化しているため、ヒトが地球上で最高の長距離ランナーだと多くの科学者は考えている。 確かに、短距離走者ではないだろう。チーターより速く走ることはできない。 しかし、走ることが可能な人体構造と汗による体温調節能力が組み合わさることで、長距離走に最適な身体を得たのだ。
では、ヒトがそれほど優れたランナーであるのは、ランニングのどのような生物力学に起因するのだろうか? ランニングを担っているのはどの筋肉群だろうか? そして走るとき、いくつの筋肉が使われるのだろうか?
ランニングの生物力学
1998年に学術誌『Gait & Posture』で発表されたある画期的な研究によると、ランナーの足取りは、主に次の2つのフェーズに分けられる。
- スタンス、つまり足が地面に着いている時間
- スウィング、つまり足が空中にある時間
これは、歩行周期と呼ばれる。 スタンスフェーズでは、足が地面に接している。 足を地面から持ち上げて、前に移動させると、スウィングフェーズに入る。 その後、身体が空中にある、つまり両足が地面から離れているフロートフェーズに入る。 走っている間ずっと、この周期が繰り返され、前に進むのだ。
スウィング周期の各フェーズにおいて、さまざまな筋肉が活性化する。 ランニングに関わっている重要な筋肉を理解することは、スピードアップや技術の向上にもつながるだろう。
走る際に使われる筋肉
1.股関節屈筋
股関節屈筋を構成する筋肉は主に3つある。腸腰筋(大腰筋と腸骨筋)と大腿直筋だ。 これらの筋肉は臀部の前にある。 スタンスフェーズで、これらの筋肉が屈伸して体を押し出す働きをする。 また、歩行周期の始終を通して膝屈曲を制御し、背骨と骨盤を安定させる働きもする。
股関節屈筋は縮んでいるのが一般的だが、注意を払う必要もある。 股関節屈筋が縮んで短くなればなるほど、可動域が小さくなり、歩幅が狭くなるからだ。 これは自然な足取りを阻害し、フォームに悪影響を与え、最終的にはランニングエコノミー(一定量の酸素でどれだけ速く走れるか)に影響する。
2.臀筋
大臀筋と中臀筋は、スタンスフェーズで重要な役割を果たす。 脚を後ろに送るとき、強い臀筋が身体を前に押し出し、股関節を伸ばす。 臀筋は、骨盤のいかりのような役割を果たし、特にフロートフェーズで両足が地面から離れているときの動作を安定させる。
臀筋が弱いと、ランニングエコノミーに悪影響が及び、ケガのリスクが増大する。 『Clinical Biomechanics』で発表された研究では、ランナーの膝の痛みは、臀筋が弱いことに起因するケースもあるとしている。 別の研究では、腸脛靭帯症候群を患うランナーを対象に6週間の臀筋強化プログラムを行った。 プログラムが終了すると、対象のランナーのうち、2人を除く全員に回復が見られた。 この結果は、ランニングにおける臀部の重要性を示している。
3.大腿四頭筋
大腿四頭筋は、大腿前筋から成る4つの筋肉群だ。 上り坂を走ると、大腿四頭筋が熱くなるのを感じるだろう。 間違いなく大腿四頭筋はランニングにおいて重要な役割を果たしている。 大腿四頭筋は、股関節を曲げ、膝を伸ばして、着地の衝撃を吸収して安定させる。 これにより前進し、スタンスフェーズからスウィングフェーズに移行して、エネルギーがハムストリングスに伝わるのだ。
4.ハムストリング
太ももの後ろにあるハムストリングは、股関節を伸ばし、脚を制御する二関節筋だ。 ハムストリングは、押し出すフェーズで力を生み出す働きをする。 速く走りたいときや、効率的にダッシュしたいときに、強いハムストリングが必要になる。
多くの人、特に女性は、大腿四頭筋が優勢になっている。 つまり、大腿四頭筋が過度に使われ、 筋力や可動域の面において、大腿四頭筋とハムストリングの比率に大きな差が生じるのだ。 そのために筋肉がアンバランスになり、ランニングエコノミーが低下する。 この場合、ウエートリフティングやその他のクロストレーニングメソッドでハムストリングを強化することで、ランニングのパフォーマンスを向上させることができる。
5.腓筋
シンスプリントは、ランニングによる怪我のおよそ15%を占める。 これは、以前は脛骨過労性骨膜炎と呼ばれており、ランニング中に腓筋と脛を酷使することが原因で、ランナーに多く発生する症状だ。
非常に重要な役割を果たす腓筋は、ランニングに欠かせない機能をさまざま持っている。
- この筋肉は、すね、つまり前脛骨筋の前面に縦に走り、スウィングフェーズでロッキングチェアのように踵を地面から持ち上げる。 そして、つま先に体重を移し、身体を前に押し出すのだ。
- ふくらはぎのヒラメ筋は、足首を曲げ、脛骨を真っすぐにして安定させ、直立姿勢を維持できるようにする。
- ヒラメ筋は最初の接点であるため、足が地面に当たる衝撃を吸収する。
- 歩行周期の各段階を移行していく中で、ヒラメ筋が足を前方へと跳ね上げる。
ふくらはぎが弱いと衝撃を吸収できず、足を引きずるようになり、足取りが重くなる。 ばねのような足取りにするには、ふくらはぎを鍛えることが欠かせない。
ふくらはぎを鍛えるエクササイズをいくつか紹介しよう。
- 縄跳び:母指球で着地しながら縄跳びをする。 踵からではなく、必ずつま先から着地すること。 この動きでふくらはぎを活性化できる。 5分間止まらずに行い、ふくらはぎを強化しよう。
- カーフレイズ:踵が外に出た状態で台の端に立ち、 ふくらはぎを使って背伸びをする。 つま先を広げ、足首を伸ばした状態で、一番上で動きを止める。 その後ゆっくりと踵を下げて直立姿勢に戻る。 これを15回繰り返す。
- ヒラメ筋スクワット:背中を壁に付けて立ち、両足を前に踏み出して膝を曲げる。 スクワットの姿勢になり、背中と大臀筋を壁に密着させる。 母指球に体重を掛けて上半身を起こし、 筋肉に力を入れた状態を30秒間キープする。
6.腹筋
腹部にあるこの筋肉は、上半身と下半身をつないでいる。 走ると活性化され、直立姿勢を安定させる働きをする。 腹筋が強いと、下半身の安定感が増し、力を発揮できる。
陸上選手は腹筋を使う。 それは股関節を大きく伸ばして足を振り出し、スピードを生み出すためだ。 また、走っているときの転倒を防止するために、背骨を軽くひねって過度な動きを抑える働きも持つ。 腹筋、特に腹横筋と斜筋は、上半身を反対方向に回転させて安定させる際の土台として機能するのだ。
7.上半身の筋肉
ランニング時には、下半身の筋肉の方が圧倒的によく使われる。 しかし、走るためには上半身の筋力も必要だ。 腕は身体を前進させる動きを助け、勢いをつける。 このとき広背筋、肩、三角筋が特に大きな役割を果たす。
背中と肩の筋力が強いと、ランニングエコノミーが向上する。 腕の筋力も強ければ強いほど推進力になる。また、上半身の筋力で直立姿勢を維持することで、走っている間の猫背を防止できる。 良好なランニングエコノミーを保つ上で、走る際の姿勢は極めて重要だ。 腰が曲がっていると呼吸量が制限され、働いている筋肉に送られる酸素や栄養素の量が減ってしまう。