適切な睡眠衛生が運動パフォーマンスを向上させる仕組み
健康とウェルネス
今こそ睡眠に関する知識をまとめてチェック。
良好な睡眠衛生とは、つまり最適な睡眠のために必要な一連の行動と環境を整えること。アスリートにとっては、最も大切な回復手段のひとつだ。 アメリカ合衆国保健福祉省によると、適度な睡眠は免疫力アップやストレス軽減だけではなく、気分を明るくし、記憶力を高め、筋力の回復や修復も助けてくれる。 質の高い睡眠をとるのに苦労している人は、フラフラになる以上の睡眠不足を経験しているかもしれない。それがアスリートなら、睡眠不足によるマイナス面に対してさらに敏感になっていることだろう。
浅い眠り:ノンレム睡眠第1段階とノンレム睡眠第2段階
状態:ノンレム睡眠第1段階は、うとうとし始める段階のことだ。 体はまだ完全にリラックスしていないが、脳の働きと眼球の動きは遅くなり始める。 うとうとしているときに、体が落下するように感じたことがあるはずだ。 あるいは急に目が覚めるほど筋肉がこわばり、ピクッと動いたりした経験も一般的である。 どちらもこの睡眠段階で起きるまったく正常な睡眠阻害要因だ。 これような反応は、次の睡眠段階に進むときに生じる体の弛緩現象の一部である。
第2段階では、心拍数と呼吸数が下がり、筋肉がさらに弛緩し、体温が下がる。これにより脳の活動が遅くなり、体はさらに深い眠りへと移行する。
運動パフォーマンスへの影響:この2つの睡眠段階は、間接的ながら運動パフォーマンスに影響しかねない睡眠不足の度合いを示してくれる。 通常は、眠りにつくまで5~20分ほどかかる。 だがこの時間には個人差もある。 すぐに眠れる日もあれば、寝付くまでに時間がかかることもあり、時間がかかったからすぐ睡眠不足ということにはならない。 それでも寝付くまでに延々と時間がかかり、眠気、記憶障害、体力低下などといった睡眠不足の症状を自覚している場合は、医療の専門家に相談して、何が起きているのかを明確に把握するのがいいだろう。
徐波睡眠
状態:「深い眠り」としても知られる徐波睡眠では、呼吸数と心拍数が下がり、筋肉がさらにリラックスする。また眼球の動きが完全に止まり、体の弛緩がさらに進む。 質の高い徐波睡眠がとれれば、気分がリフレッシュし、朝には十分な休息が取れている。 これがないと、意識がもうろうとしたり、ぼんやりしたりすることになる。
運動パフォーマンスへの影響:徐波睡眠では、体は修復モードに入る。 この睡眠段階の間に、組織の修復、成長、細胞の再生などが起こっている(シムス博士)。 また、この段階で免疫システムが強化されるとも博士は指摘している。 この睡眠段階で、身体はヒト成長ホルモンも放出する。このホルモンが、筋肉の修復だけでなく筋肉の構築にも関わっている。そう説明するのは、 モンテフィオーレ医療センターの睡眠覚醒障害で行動睡眠医療プログラムのディレクターを務めるシェルビー・ハリス(心理学博士、行動睡眠医療)だ。
レム睡眠
状態:レム睡眠は、ほかの睡眠段階とはまったくの別ものだ。 起きているときとほぼ同じくらい脳の活動が活発となる。 米国国立衛生研究所(NIH)によると、呼吸が速く不規則になり、心拍数と血圧が上昇し、眼球が左右に急速に動き始める。 そして、夢を見るのはたいていこの段階だ。
運動パフォーマンスへの影響:シムス博士によると、記憶、認知、スキルはレム睡眠の間に定着する。 複数の研究によると、レム睡眠の持続時間が少し変化するだけでも、一流アスリートのパフォーマンスに影響を与える可能性がある。
(関連記事: 睡眠が十分に取れているかチェック)
睡眠がとても重要な理由
睡眠不足は体内に貯蔵されたグリコーゲンを激減させる(シムス博士)。 グリコーゲンはグルコース(糖)の一形態で、体の主要なエネルギー源のひとつだ。いくつかの研究によると、グリコーゲンの貯蔵量の回復は筋肉の修復に不可欠であり、アスリートの持久力を高めるのに役立つ。
十分で質の高い睡眠をとらないと、グリコーゲンの貯蓄量が減り、疲労感が生まれ、中枢神経系に影響し、ひいては体の震え、こわばり、倦怠感へとつながる。 そして筋力、反応時間、平衡感覚、協調運動能力が低下し、モチベーションや気分まで落ち込んでしまう(シムス博士)。 これはどれも運動パフォーマンスに必須の機能だ。
適切な睡眠衛生を身につけるには
良い睡眠の習慣化に、必須の条件といえば一貫性だ。 個人差はあるが、たいていの人は7~9時間の睡眠が必要だ(ハリス博士)。 必要な睡眠時間を確保するため、また質の良い睡眠をとるために、シムス博士とハリス博士は以下の方法を推奨している。
1.就寝前のルーティンを作る。
なるべくいつも同じ時刻に寝て、同じ時刻に起きるようにすることで、体は眠るべき時間を覚え、自然に目覚めるようなってくる(ハリス博士)。 照明を落とし、電子機器を消し、就寝の1時間~30分前はスマートフォンやテレビなどの画面をあまり見ないようにする。 リラックスする必要があるならば、電子機器の代わりに本を手に取ろう(シムス博士)。 ある研究によると、就寝前の読書は睡眠の質を上げ、さらに睡眠時間を延ばす効果があるという。
2.寝室を涼しく保つ。
部屋が暖かすぎると、体温を下げるのが難しくなる(シムス博士)。 いくつかの研究からも、就寝時の温度環境(つまり室温)は、質の良い睡眠をとるための最も重要な要因のひとつであることが分かっている。 最適な寝室の温度は人それぞれだが、体の概日リズムをサポートするためにサーモスタットを18℃にセットしておこう(シムス博士)。 エアコンがない場合は、空気の循環を良くするために扇風機を使うか、薄手のシーツや衣服を選ぶか、ベッドに入る前に低温のシャワーを浴びるとよい。
3.明かりを消す。
「寝室を涼しくて暗い洞窟のようにするのが理想です」とシムス博士は語る。 「充電器のライトを覆う。 時計の表示を暗くする。 スマートフォンは画面を下にして置く。 遮光カーテンをかける。 周囲の明かりを完全に消すことができない場合は、アイマスクを試してみてください」とシムス博士は勧めている。 光(特にブルーライト)は、メラトニンのレベルを乱し、概日リズムを狂わせる可能性があり、それが入眠をさらに難しくさせる。
4.熱い風呂に入るかシャワーを浴びる。
「水蒸気には心と体をリラックスさせる効果があります。またお湯から出るとすぐに体は熱を放出し始め、体の芯の温度が下がります。これが脳に『そろそろ寝る時間だよ』という信号を送るのです」とシムス博士は説明する。 2019年に発表されたメタアナリシスによると、寝る1~2時間前に熱いお風呂に入ることで入眠時間が10分改善し、睡眠の質も高まることが明らかになっている。
5.静寂を作る。
多少の騒音があっても眠れるという人が多いが、自動車、鉄道、飛行機の騒音などは睡眠の質に大きな影響を与える可能性がある。 簡単な解決策の例として、耳栓やホワイトノイズマシンを試してみてもいいだろう(シムス博士)。
文:フェイス・ブラー