ランナーに適した食事について エキスパートの意見を紹介
食事
エキスパートが、パフォーマンスを向上させる効果の高い食べ物を紹介する。
初心者ランナーにとっても、ベテランのマラソンランナーにとっても、栄養摂取は(睡眠や考え方などの他の要因と連動して)エネルギーレベルを決定し、パフォーマンスに大きな影響を与える要因である。
「平均すると、1マイルのランニングで100キロカロリーほど消費されるため、3マイルのランニングで約300キロカロリーが消費されることになります」と語るのは、レスリー・ボンチ。 公衆衛生学修士(M.P.H.)、スポーツ栄養学認定スペシャリスト(C.S.S.D.)の肩書を持ち、カンザスシティーチーフスとカーネギーメロン大学陸上競技部においてスポーツ管理栄養士をつとめる。 「これは必ずしも、カロリー摂取量を大幅に増やさなければいけないという意味ではありません。しかし、週に50マイル以上走るランナーは、必要なカロリー摂取量がどうしても高くなります」
人それぞれに個人差がある。 そのため、食事は個人に依るところが非常に大きい。 とはいえ、ランナーは、ランニングに適した個人の食事を考える際に、鍵となる主要栄養素と微量栄養素を含めることを重視すべきだ。
「これは何よりも、筋力、スピード、スタミナ、時間よりも必要な回復力、才能、ランニングシューズを最大限に活用するためなのです」とボンチは言う。 「1つの食べ物や1つの主要栄養素が、ランナーにとって必要なすべてを提供するのではありません。皿やボウルやグラスに盛られたさまざまな組み合わせの食べ物が、栄養価を高め、パフォーマンスを最大限に引き出すのです」
主要栄養素
大半のランナーに当てはまる主要栄養素の割合は以下のようになる。 週に50マイル以上走るランナーは、カロリー摂取量を増やしても、以下の主要栄養素の割合を保つことが推奨される。
1.炭水化物
「炭水化物を含む食べ物は、中程度の負荷のランニングには50%のエネルギーを、高負荷のワークアウトにはほぼすべてのエネルギーを発揮します」とボンチは言う。 炭水化物は筋肉と肝臓の両方にグリコーゲンとして貯蔵され、運動中にエネルギーとして活用されることが、その主な理由である。 つまり、炭水化物は、ランナーが1日に必要とするカロリーの45~65%に相当するはずだとボンチは説明する。
2.脂質
ボンチによると、脂質は、中程度の負荷のランニング(最大心拍数の50~70%で行うランニング)に残りの50%のエネルギーを供給する。
「脂質は、低負荷のランを長時間続けるための燃料源となります。脂肪酸が分解されエネルギーに変換されるからです」と彼女は続ける。 「脂質は、通常、ランナーが(1日に)必要とするカロリーの20~30%に相当します」
3.タンパク質
ボンチによると、タンパク質は、ランナーが必要とするカロリーの20~25%に相当する。 タンパク質は、分解にかかる時間を考えると、ランニングにとって望ましい燃料源ではないとボンチは言う。しかし、主要栄養素は、筋肉の修復と成長に極めて重要な役割を果たすのだ。
「この主要栄養素は、筋肉と骨、ホルモンと酵素の産生、最適な免疫系機能など、あらゆる体内組織の成長と修復に欠かせないものです」とメラニー・サレイバーは語る。彼女は、理学修士(M.S.)、 登録栄養士(R.D.)、 認定栄養士(C.D.N.)、 国際スポーツ栄養学会認定栄養士(C.I.S.S.N.)の資格を持ち、ニューヨークを拠点に栄養指導を行っている。 「これは、筋タンパク質合成と呼ばれます。距離を重ねても筋肉を維持したい場合、それに相応しいタンパク量を意図的に摂取し続けると、筋タンパク質合成が促されやすくなります」
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微量栄養素
1.鉄分
鉄分の主な役割は、赤血球が酸素を全身に運ぶ手助けをすることだ。 しかし、この微量栄養素は、エネルギー生産においても主要な役割を果たしている。
「女性ランナーは、生理中の失血により、血中鉄分濃度が低くなりがちですが、これはすべてのランナーにも言えることです。持久力を要する運動では、赤血球の分解が増えることで、貯蔵されたエネルギーが使い果たされてしまうからです」とサレイバーは語る。
鉄分が含まれた食事は、ワークアウト全体を通じてエネルギーレベルを維持するのに役立つ。
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2.カルシウム
適切なカルシウム量の摂取は、骨塩密度の維持(および改善)に必要だ。 これは、筋肉収縮、血液凝固、神経伝達にも欠かせないとサレイバーは説明する。 乳製品や緑色の葉物野菜には、この微量栄養素が豊富に含まれている。
3.ビタミンD
日中、外に出てランニングをすれば、太陽のおかげでビタミンDをある程度摂取できる。 しかし、このビタミンは、食事で補うことも重要だ。ただし、ビタミンを自然に含む食べ物は限られているため、見つけるのは難しい。 こうしたビタミンは、牛乳、鮭、卵に含まれるといわれている。 朝食用シリアルやオレンジジュースにも、ビタミンを強化したものがある。
「ビタミンDは、体内でカルシウムとリン酸塩の量を調節するため、骨の健康に欠かせません」とサレイバーは語る。
医師や登録栄養士と話し合い、サプリメントが自分に役立つかどうか確認してみよう。
4.マグネシウム
もう1つの微量栄養素であるマグネシウムは、骨の健康にとって重要であり、神経機能と筋機能、電解質バランス、血糖値、代謝にも関与しているとサレイバーは説明する。 「マグネシウムはパフォーマンスを高め、消炎効果も発揮します」と彼女は語る。
水分補給と電解質
週の走行距離が2桁に達している場合、大量の水分と電解質を摂取する必要がある。両方とも、ランニングにパワーをもたらし、ランニング後の体にエネルギーを補給する効果がある。
「水分は脱水症を防ぎ、体を冷やし、輸送媒体として機能します」とサレイバーは説明する。 「水分は体内に貯蔵されますが、その量は限られているため、水分と電解質は定期的に補給するよう心がける必要があります」
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ランナーの食事に含めるべき食品5選
「以下に挙げたもの以外にも、消化に問題がなく、胃腸障害が起きないことをランナー自身がわかっているのであれば、それは最適な食べ物と言えます。そのことを忘れずに」とボンチは言う。 そして、さらに重要なのは、食べ物は楽しむためにあるということ。だから、実際に好きな食べ物を栄養素として選ぶことが肝心だ。
1.卵
卵からは、豊富なタンパク質を簡単に摂取できる。
「卵は小さな食べ物なので、胃腸の中で場所を取りません。それに、とても消化が良いのです」とボンチは言う。 「卵をランニング前にイングリッシュマフィンやトルティーヤに乗せて食べたり、オムレツや野菜のフリッタータのような形で、ランニング後の食事に含めてみてください」卵は軽食なので、レース前夜に食べるものとしても相応しい。
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2.オートミール
プレーンタイプにベリーを添えたり、ティースプーン1~2杯分のハチミツや純度100%のメープルシロップをかけたり、好みに合わせて自由に盛り付けできる。 オートミールには、炭水化物が豊富に含まれているだけでなく、食物繊維も相当量含まれている。 全粒オーツ麦(インスタントオーツではなく)は、炭水化物が豊富な他の食品と比較してGI値が低い。これは、血糖値の急上昇を引き起こさないことを意味する。
「オートミールは血糖値をゆっくりと上げ、長時間にわたってエネルギーを維持します。満腹感も長く続きます」とサレイバーは言う。また、長距離ランの前に食べれば素晴らしい朝食になると付け加えている。
3.タルトチェリージュース
タルトチェリージュースは、激しいランやワークアウトの後に飲むと、体が回復しやすくなる。また、長くて忙しい1日を過ごした後、就寝前に飲むと、睡眠の質が向上する。
「タルトチェリー(アメリカンチェリーの一種)には、メラトニンのほか、高濃度のアントシアニンが含まれています。これは、イブプロフェンなどの抗炎症薬(NSAID)に似た抗炎症特性を持つフラボノイドです」とサレイバーは説明する。 「就寝前に飲む場合は、眠りにつきたい時間の30~60分前に、8オンスほど摂取してください」
4.鮭
魚は、主要栄養素であるタンパク質の宝庫だ。主要栄養素は、食間の満足感を高める効果がある。 言うまでもなく、魚にはオメガ3脂肪酸も豊富に含まれている。
「これらの必須脂肪は、ランニング後の炎症を抑える効果があります。これが結果的に、組織の修復を促し、筋肉痛を軽減するのです」とサレイバーは言う。
オーブンや焼き網で焼くなどして調理したサーモンフィレを、敷き詰めたライスや野菜の上に盛れば、完璧なリカバリーディナーになる。
5.米またはキヌア
これらの2つの食品には、複合炭水化物が豊富に含まれているだけでなく、調理が簡単というメリットがある。 まとめ買いをして、1週間を通じて食事に取り入れてみよう。 用途が広いため、温かい丼や、サラダ、付け合わせなどによく使われている。 ボンチは、キヌアを温かいシリアルやオートミールにサイドディッシュとして加えることも勧めている。
「炭水化物やその他すべての食品に言えることですが、ランニング前の食事で肝心なのは分量です。テニスボールくらいの少量サイズを意識してください。そうすれば、胃にやさしい食事になります」とボンチは言う。 「ランニング後の食事に穀物またはデンプン質の炭水化物をとる場合は、全体の3分の1程度の分量にすることが望ましいです」
結論
すべてのランナーが模範とすべき特定の食事というものは存在しないため、専門家たちは、さまざまな主要栄養素と微量栄養素を食事に含めるなどして、カロリーの質に重点を置くべきだという点で意見が一致している。
「ランナーやアスリート、あるいはアクティブに活動する人にとって最も重要なのは、全体として基礎となるエネルギーのニーズを満たし、その上で自分のトレーニングに合った栄養素をプラスすることです」とサレイバーは言う。
文:エイミー・シュリンガー(NASM認定パーソナルトレーナー)