プレワークアウトの特徴と、摂取判断の目安
食事
このようなサプリメントを摂取する際の潜在的なメリットとリスクを専門家が説明。
ワークアウトの効果を最大限に高めようとしている場合、サプリメントの「プレワークアウト」を試したことがある人や、試してみたいと考えている人もいるだろう。 しかし、プレワークアウトとはいったいどんなもので、どのような効果があるのだろうか。
プレワークアウトに正式な定義はないと語るのは、理学修士、 登録栄養士、 認定アスレティックトレーナーとしてDana White Nutritionを主催するデーナ・アンジェロ・ホワイト氏だ。「プレワークアウトは、運動中のパフォーマンスアップをうたうサプリメント食品の総称として注目を集めています」と彼女は言う。プレワークアウト製品が宣伝する効果には他にも、エネルギー量、血行、集中力の増進などがあるという。
また、水に溶かすパウダー製品として販売されることが多い(缶飲料、シェイク、カプセル、バーの場合もある)プレワークアウトサプリには、アミノ酸やクレアチン(筋細胞に自然に存在するアミノ酸の一種)、ベータアラニン(肝臓で産生されて体内に自然分布する非必須アミノ酸の一種)、カフェイン、一酸化窒素の前駆物質など、スタミナアップを期待できる物質が含まれていることが多いと、博士号、 ストレングスコンディショニング認定スペシャリスト、 ACE認定ヘルスコーチの資格を持つシャロン・ギャム氏は説明する。
「これらの成分は個別にも手に入りますが、プレワークアウトサプリは、成分を配合することで、個々に摂取した場合よりも効果を高めていると訴求しています」と彼女は言う。
これらの製品は、持久力が求められるタフなワークアウトを対象にしていることが多いが、さらに強度の高い中程度の運動をする場合でも、ワークアウトに備えてエネルギーサプリを摂取したいと感じる人はいるはずだとギャム氏は述べている。
こうした製品のメリットとしては、激しい運動前の体力アップに加えて、筋力や反応時間の向上、回復時間の短縮などが挙げられている。 ただし、他のサプリメントの例に漏れず、プレワークアウトの摂取時には、あらかじめかかりつけ医に相談しなければならない。特に、一部の成分は、処方薬やOTC(市販)薬と相互作用を引き起こすおそれがあるため、専門家の判断が欠かせない。
プレワークアウトのはたらき
端的に言って、サプリメント食品について行われている科学研究は、きわめて限定的なものにすぎない。
「プレワークアウトサプリの運動能力向上効果を示す研究も確かにあるのですが、あまり有力なエビデンスはなく、所見も雑然としています」とギャム氏は言う。
パワー系の競技を行う、20代前半の男性選手12名を対象にした小規模研究では、俊敏性と反応力を測る2分間の運動能力試験を4種類行う前に、高エネルギー飲料かプラセボ飲料のいずれかを摂取するように指導されていた。 2009年の『Journal of the International Society of Sports Nutrition』で発表された論文によれば、カフェイン、ビタミンC、ハーブ由来成分、植物由来成分を含むエネルギー飲料を摂取した任意参加者は、プラセボ群と比べて反応時間が有意に短縮され、エネルギーや集中力の発揮度向上を自覚したという。
また別の小規模研究では、クレアチンとベータアラニンを含む多成分のパフォーマンスサプリメントが、筋量や除脂肪体重、下半身の筋力に効果をもたらす可能性が調べられた。 研究の被験者はウェイトトレーニングを行う20代男性24名。彼らがプレワークアウトサプリを摂取したうえで週3回のトレーニングを8週間にわたって実施したところ、「サプリメントを摂取せずに同じプログラムを実施した対照群よりも、筋力が9%ほど増加したとのことです」とギャム氏は語る。
他にも、サウスフロリダ大学の運動科学者が実施した研究では、20歳から30代前半の男性13名が4週間にわたって、カフェインベースのプレワークアウトを摂取したところ、無酸素状態のピーク(最高速度での運動)能力と平均筋力値(平均的に発揮された筋力)が有意に向上していた。 ところが、ホワイト氏はこれらの所見にきわめて懐疑的だ。
「ほとんどのプレワークアウトサプリの主成分は、1種類の興奮剤か、複数の興奮剤を組み合わせたものです」と彼女は語る。 「興奮剤は、神経のショックでエネルギーが発揮できているかのような錯覚を起こさせますが、これは見せかけです。 実際には、カロリー以外の源からエネルギーは得られないのです。」
さらに、ギャム氏は資金提供が所見に偏りをもたらした可能性があると警告する。 「こうした研究の多くは、サプリメント企業と金銭的なつながりを持つ科学者によって行われたものであることに留意しなければなりません。これらのメリットを鵜呑みにはしない方がいいでしょう」と彼女は補足する。
プレワークアウトサプリに潜むリスク
プレワークアウトは一般的に安全であると考えられているが、ホワイト氏とギャム氏は口をそろえて、ある問題の可能性を指摘する。それは、カフェインなどの興奮物質の過剰摂取だ。
「興奮剤の毒性は潜在的なリスクです」とホワイト氏は警鐘を鳴らす。 「サプリメント食品は規制が緩いため、こうしたものを口にしていると、不適切な用量や粗悪品を摂取し、有害な副作用が発現するリスクに身をさらしかねません。」
実際に、『Nutrients』誌に発表された2019年の研究では、18~65歳の被験者872名の半数以上(54%)が、プレワークアウトサプリの摂取後に、心臓の異変や皮膚反応、むかつきを自己申告していたことが明らかになった。 ホワイト氏はさらに、成分の透明性も深刻な問題だという。
「具体的には、ラベル表示の不正確さ、非公開成分の『独自配合』、複数製品間における統一性の欠如といった問題です」と言う彼女は、100点の製品のうち約半数が、諸成分の含有量を隠していたことを明らかにした研究があることを挙げている。
実際に、先述の『Nutrients』の論文の著者たちは、独自配合のプレワークアウトサプリが、被験者に有害な副作用をもたらす原因となっていた可能性を指摘している。なぜならば、そうした独自成分はラベルに表示されていないからだ。 「大部分のMIPS(多成分プレワークアウトサプリ)は、独自配合成分をさまざまな分量で含有しており、成分量が公開されていないものもあるため、これらの副作用の主因を判別することは難しい」と論文には記されている。
さらに、「プレワークアウトサプリが汚染されていたり、ラベルに記載されていない危険物質が含まれていたりする可能性もあります」とギャム氏は言う。 「例えば、あるプレワークアウトサプリでは、メタンフェタミン(中毒性の高い興奮物質の一種)に似た物質が含まれていることが明らかになり、リコールに至りました。」
高血圧を患っている場合も、プレワークアウト自体の摂取を避けた方がよさそうだ。 『Journal of the International Society of Sports Nutrition』で発表された2018年の小規模試験では、プレワークアウトサプリが、心血管系の副作用と結びつけられる可能性の有無が調査された。 活動的な生活を送る15名の女性健常被験者のうち、1件の服用例で、拡張期血圧(血圧最小値:心臓の拍動間に測定した動脈の血圧)の上昇が記録されている。
結論
プレワークアウトサプリを摂取する際は、事前に医師の判断を仰ぐようにしよう。 かかりつけ医の承認が得られたら、NSFインターナショナルやUSP(米国薬局方)、ConsumerLabなどの第三者機関による試験が実施されている製品を買うようにギャム氏は勧めている。
「人工甘味料などの添加物が入っている製品も避けた方がいいでしょう」とのことだ。 一方でホワイト氏は、プレワークアウトのトレンドそのものに一切乗らないことを強く勧めている。
「率直に言って、プレワークアウトサプリにはどんなメリットも見出せません。こうした製品を使って後悔した人たちを、何人も目にしてきましたから」と彼女は言う。 「個人的に一番おすすめするのは、過剰ではない範囲で、適量のコーヒーか紅茶を食べ物と一緒に摂取して、カロリーと安全な量のカフェインを取り込むことです。」
また、成果を急ぐ必要性にも疑問符がつく。 プレワークアウトを摂れば即効性が得られそうに思えるが、体力と持久力の向上に身体が必要とするだけの時間をかけてやりながら、トレーニングサイクルを進めていくことが大切だ。 忘れてはならないのは、適度な休養と栄養摂取を先決にすべきことだ。これらはいずれも回復に大きな役割を果たし、次のワークアウトを成功に導いてくれる重要な要素である。
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文:エイミー・カペッタ