汗とは一体何なのか?
スポーツ&アクティビティ
なぜ、汗をかくことが重要なのでしょうか?エクササイズ時の発汗量の違いに合わせて、エキスパートが汗の秘密を説明します。
身体能力を高めようと思うと、負荷、持続時間、漸進性など、さまざまな変動要因について考えなければならない。しかし、汗に注意しようと思ったことがある人はあまりいないだろう。
何気なくタオルを手に取って顔を拭くだけで、汗にどのような意味があるのかまでは気にしないことが多い。 しかしこれでは、特に運動に対して体がどのような反応を示しているのかを教えてくれる大きなヒントを見逃していることになる。 汗には何が含まれているのか、なぜ汗に注意しなければならないのかといった重要な疑問に対する専門家の答えをチェックしよう。
汗とは何か?
カリフォルニア州にあるDISC Sports and Spine Centerの神経外科医兼スポーツ専門家であるアリ・メシワラ医学博士によると、機能の観点では、汗は単なる体温調節の手段だ。 湿度の高い環境にいるときや、運動によって深部体温が上昇しているとき、またはその両方が当てはまる状況では、汗の蒸発によって深部体温の調節が行われる。
汗自体に体温を下げる効果があるわけではない。 汗が空気に触れて乾くことで、一定の深部体温が維持される。 扇風機の前に立つと短時間で涼しくなるのはそのためだ。 空気に触れるとさっぱりするだけでなく、汗が蒸発し、体温が正常に戻る。
汗には、水分のほかに、ナトリウム、塩素、カリウム(これらは電解質とも呼ばれる)が含まれている。 特にナトリウムは、体液のバランスの維持、神経インパルスの最適化、筋収縮の調整など、体のさまざまな機能に必要不可欠であり、汗によって最も多く排出されるミネラルでもある。
もしも電解質は排出されずに水分だけが排出されると、細胞のナトリウム濃度が過度に高まって、細胞が脱水状態になり始めるという深刻な状態に陥り、細胞の機能が停止するおそれがある。 反対に、排出されるナトリウムの量が少なすぎると、細胞が膨張し破裂してしまう。発汗によって適量のナトリウムを排出するのは、体が細胞のバランスを損なうことなく深部体温の変化に対応する手段なのだ。
汗に含まれているナトリウムの量が多いかどうかを確認するにはどうすればよいか?
汗の量は重要な要素の一つだが、汗の濃度も重要だ。しかし、濃度を管理するのはいささか難しい。そう語るのは、Go for the Gold Nutritionの管理栄養士兼スポーツ専門家である栄養学者のアシュリー・ハープストだ。
研究によると、汗の量と組成は人によって大きく異なるため、自分は汗っかきだと思う人でも、発汗によって大量の電解質(特にナトリウム)が失われているとは限らない。 また、汗をかきづらい人でも、ナトリウムが急速に失われている場合がある。
自分の汗に含まれるナトリウムの量が多いかどうかを見極める方法の一つは、運動後にウェアや肌を観察することだ、とハープストは言う。 ナトリウムの排出量が多い場合は、粒状または粉状の白い物質が肌やウェアに薄く付着し、 肌がザラザラするという。
また、顔をつたう汗が口に入ると塩気が強く、目や皮膚の開口部(切り傷や擦り傷など)に入るとしみる。
これは、暑い中で高負荷の運動を行っているときに起こりやすい。体が急速冷却モードになり、ナトリウムの排出量が増えるからだ。 しかし、体の働きには個人差があるため、低負荷のアクティビティでこの状態になる人もいる、とハープストは述べている。
通常、水分や電解質を補給すれば問題ないが(詳しくは後述)、運動中や運動後にナトリウムが不足すると、筋けいれんが生じる場合がある。 また、血圧変動により、うつ伏せの状態から立ち上がると目まいがして(起立性低血圧)、フラフラすることもある。
そのため、汗に含まれるナトリウムの量に気を配ることが重要だ。疲労感の抑制やけいれんの防止に役立つほか、血圧の調節や全般的な機能を改善するために効果的だ。
ナトリウムを補給するにはどうすればよいか?
汗の管理において重要なもう一つの要素は、排出された成分の補給だ。水分が重要なのは明らかだが、ナトリウムの補給を怠ると体液のバランスに悪影響が生じる、とナタリー・アレンは言う。ミズーリ州立大学で生物医科学の臨床准教授と体育会のチーム栄養士を務める管理栄養士だ。
アレンによると、ナトリウムの補給にはスポーツドリンクが役立つ。スポーツドリンクに含まれる炭水化物には、細胞へのナトリウムの取り込みを促す効果があり、これにより水分補給も促進される。 また、プレッツェルやナッツバターなどの食品にも、炭水化物とナトリウムの両方が含まれているという。 塩気のある食品を食べることのメリットとして、喉が渇いて水分摂取量が増えることもあげられる、とアレンは述べている。
他のミネラル(カリウムと塩素)の補給も大切であり、 そのためにはバナナがおすすめだ。 アレンによると、バナナはカリウムと炭水化物の両方を含み、とても消化しやすいため、これらの成分をすばやく補給することができる。
速乾ウェアはどのように役立つか?
汗でびしょ濡れになるのは、不快なだけではない。汗が蒸発せずに長時間体表に留まると、深部体温が上がったまま下がらなくなり、運動能力に影響が生じる。そう語るのは、カンザス州マンハッタンを拠点に活動するC.S.C.S.(認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト)であり、USA Cycling認定サイクリングコーチでもあるガレット・シーキャットだ。
寒い環境で運動すると、寒さを相殺するために発汗量が増え、蒸発によって深部体温が早く低下するため(早すぎる場合が多い)、さまざまな問題が生じる。 蒸し暑い環境では、汗が蒸発しづらく、肌の湿り気やべたつきが長時間続き、蒸発による冷却効果が得られないという危険がある。
そのため、速乾性に優れたレイヤーには、単にあらゆるエクササイズで「持っていれば役立つ」アイテム以上の価値がある。急激な体温の変化による低体温や熱疲労のリスクを抑えることができるからだ。 屋内のジムでも、汗が蒸発せずに留まると過熱によって運動能力が低下する。
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「最もよくあるミスは、厚着をしすぎて、ワークアウトの初めから汗をかいてしまうことです」とシーキャットは言う。 「気付いたときには手遅れかもしれません。 額に汗をかく頃には、すでにアンダーレイヤーは汗でびしょ濡れになっている可能性があります。 そうすると、濡れたレイヤーを脱いで乾かすか、着続けるかの難しい選択を迫られることになりますが、ワークアウト中はそのどちらも気が進みませんよね」
また、このような状況に気付かない場合があることも、大きな問題だ。 学術誌『Physiology & Behavior』の2021年号に掲載された研究によると、運動中は、それが低負荷のアクティビティであっても、屋外で座っている場合と比較して、温度の変化に鈍感になるという。 そのため、運動中に発汗や蒸発を観察しても、当てにならない。
一般的に、心拍数、酸素消費量、筋疲労と同じくらい、発汗量は運動能力に影響する。 もっと効率的に、そしてもっと快適にワークアウトをするために、汗に注意し、適切なウェアや飲み物を選ぼう。
文:エリザベス・ミラード