感情に任せた食事とそのコントロール法
Coaching
ストレスがたまっている時、人は食べ物に頼りがちだ。感情に流されないための方法をチェック。
- 感情的摂食は、生理的な空腹の合図ではなく、感情的な引き金が引かれることによって起こる。
- ストレスのためにポテトチップスの袋からどうしても目が離せない場合、それを平らげることのメリットとデメリットを書き出してみるとよい。
- 「どうしても食べたい」という衝動を抑えるには、「私は食べ物に屈せず、この状況に対処できるはず」と、自分で自分を鼓舞しよう。
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忙しい一週間がようやく終わった金曜日の夜遅く。仕事は思うようにいかず、家族には苛立ち、ワークアウトも散々だった。夕食を終えた後、衝動を抑え切れずにチップスの大袋(あるいはクッキー1箱、ワイン1本、またはそれらすべて)を開けてしまった。気付いたときには、すでに空になっていた。
「これは典型的な感情的摂食であり、生理学的な空腹の合図ではなく、感情的な引き金に反応して摂食するときに起こります」こう語るのは、ロサンゼルスの認知行動療法士であり、『End Emotional Eating』の著者であるジェニファー・タイズ心理学博士。「感情的摂食の特徴は、通常であれば選ばないような食品を、普段の量以上に食べてしまうことです」摂取すべき栄養に対して確固とした意志を持っていても、こうした行動で目標達成が行き詰ってしまう。
「感情的摂食と関連しているのは、悲しみ、不安、退屈などの感情です。ただし、そのきっかけとなるのは必ずしもネガティブなものとは限りません」と、Precision Nutritionのカリキュラムディレクターであるクリスタ・スコット=ディクソン博士は述べている。たとえば、家族と一緒に過ごす楽しいクリスマスディナーでは、すでに満腹だとしても、懐かしさのあまり、おばあちゃんが作ってくれたクッキーを食べてしまうだろう。スコット=ディクソン博士曰く、「厳密に言えば、これも感情的摂食ですが、必ずしも悪いものではありません」1回きりの不摂生の場合、それだけの価値があるなら害はない。
「問題になるのは、感情を避けたり抑え込んだりするための食事が習慣化し、それに気付かない場合です。人間のすべての感情の中で最も大きな引き金となるものは、ストレスです」とタイズ博士、スコット・ディクソン博士は口を揃える。タイズ博士曰く、食べ物はいつでもすぐに手にすることができる逃避手段であるが、その効果は一時的だ。そして、食べた後、ストレスが戻ってきて、チップスの袋を空にしてしまった自分に腹を立てることになる。
「満腹感と罪悪感だけが問題なのではありません。ストレスを和らげるために、食べ物を慢性的に利用すると、望ましくない体重増加につながる恐れがあります。そして、自分の食事をコントロールできないと感じててしまうと、ドミノ効果のように、一貫したトレーニングルーティンや適切な睡眠スケジュールを維持するモチベーションも低下しかねません」とスコット・ディクソン博士は警告する。
だが、ここで朗報。そうした負のスパイラルは予防できるし、すでに始まってしまっている場合でも、以下の簡単な自己認識で止めることができる。
1. 一時停止するスキルを習得する。
衝動的な間食や食事の前、またすでに食べている物をもう一口食べてしまう前に、「なぜ自分はこれを食べようとしているのか」と自問することをスコット=ディクソン博士は推奨している。「実際に空腹だからそれを食べようとしているのでしょうか。このシンプルな自問により、自分をコントロールできるようになり、本当に必要でないときや食べたくないときに食べてしまうのを抑えることができます」と博士は言う。一方、『Nutrients』誌に掲載された研究によると、食べ物の選択を無意識に任せていると、衝動的な食事、大食い、脂肪と糖分の多い食品を選ぶ可能性が高くなるという。
2. より良い選択肢を準備しておく。
「デメリットなく充足感を得られる他の方法を考えてみましょう。たとえば、お気に入りの作家の本に没頭する、友人に電話する、ガイド付き瞑想をするなどです」とタイズ博士。これは、博士が「心を落ち着かせる方法の多様化」と呼ぶ戦略だ。リストにしてキッチンに貼り付けて、意識しておこう。
特に強い欲求がある場合は、もう少し掘り下げて考えてみる。タイズ博士が提案するのは、肯定的な部分と、否定的な要素を書き出してみること。たとえばお気に入りのポッドキャストを聴くことと、大量のチョコレートアイスを頬張ることのメリットとデメリットを書き出してみることだ。「アイスクリームを我慢することは、楽しみを我慢することではなく、気分を良くする選択をしているのだと気付くことが大切です」とタイズ心理学博士は語る。
3. 空腹時に健康に良い食事をする。
おいしくて栄養価の高い食品を選ぶと、コントロールを失う可能性が低くなる、とスコット=ディクソン博士は語る。「低脂肪のたんぱく質、果物、野菜、繊維質の豊富な炭水化物などのできるだけ加工されていない自然食品は、感情的摂食の影響を受けにくい化学的環境を作り出します。栄養価の高い食品は、気分を整えるのに役立ち、パニックに陥るような血糖値の乱高下を起こしません」食事の計画を立てることで、自分の行動に対する責任感が生まれるだろう。
4. 睡眠を優先する。
これは意外なことではない。フィンランドで発表されたレビューによると、睡眠時間が6時間以下だと、感情的摂食が増加することがわかっている。「睡眠時間を増やすと、気分を良くする食べ物を選択する意志力が高まります」と、ヘルシンキ大学の社会調査学科の講師であり、この研究の著者であるハンナ・コンティネン博士は述べている。「加えて、十分に休息を取ると、より幸せな精神状態を維持しやすくなります。食べ物に癒しを求めるような感情に陥る可能性が低くなるのです」
5. セルフケアと羽目を外すことを混同しない。
ストレスの多いとき、特に自分でコントロールできない出来事が起こったときに、自分をいたわることは重要だ。しかし、タイズ博士は次のように忠告する。「苦しい時期だからと言って、何を食べてもいいわけではありません」そうではなく、「私は食べ物に屈せず、この状況に対処できるはず」と、自分で自分を鼓舞すること。タイズ博士曰く、「自分に優しくするというのは、優れたコーチになるようなものです。つまり、あなたならできると信じ、あなたが最善を尽くせるように応援してくれる人。どうにでもなれ、と言う人ではありません」
6. 先延ばしする。
食べることは自分の意志で選択できる。体をコントロールしているのは自分の意志であることを思い出すだけで、キッチンから立ち去ることができることもある。タイズ博士によると、衝動を感じたとき、多くの人は「この衝動はますます酷くなり、今食べないと3倍は食べてしまうことになる」と考える。「しかし、衝動は波のように来ては去るものです。衝動に気づいても、落ち着いて判断を先延ばしすれば、恐らく衝動は引いていくでしょう」と、タイズ心理学博士は述べる。
感情を抑え込むためでなく、空腹時に食事をすることは、食事をもっと楽しめるというメリットもある。食べている間や食後に感じる幸福感や充足感。それこそが、食べ物が本来与えてくれるものなのだ。
文:マリッサ・スティーブンソン
絵:グラシア・ラム