ワークアウト時に電解質の摂取は必要か?
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電解質の効能は、誇大表現なのか。それとも実際に効果があるのか。基礎的な疑問から解いていこう。
ワークアウトの負荷を高めるほど、通常は汗をかく量が増える。すると失った水分を補わうため、水分の補給が必要になる。 ここで汗とともに、電解質が失われてしまうという話もよく耳にする。電解質を含まない飲み物では不十分なのか?
答えは「イエス」だ。でも電解質の補給は、そんなに難しくない。
電解質とは?
電解質は、体液のバランスを適切に保ってくれる必須ミネラルだ。そう説明するのは、オレゴン州ポートランドにあるReal Nutritionのオーナーで、スポーツ栄養学を専門とするマリサ・マイケル(管理栄養士)。 マイケルいわく、成人の体重の60%が水分であることを考えれば、体液のバランスは重大な問題である。
そして体液は、バスタブのお湯のようにただ循環しているわけではない。 体温の調節、関節の保護、栄養素の運搬など、常に重要な機能を果たしている。 このような機能を維持するため、体内で水分をうまく配分するのに欠かせないのが 電解質なのだ。
「電解質は水分を引き寄せる働きがあり、体液の維持、筋肉の収縮、神経系の機能に欠かせません」とマイケルは説明する。
体内には、そのような機能を取り仕切る7種の電解質がある。主な働きは以下のとおりだ。
· ナトリウム:血圧を調整する
· カリウム:筋肉の収縮や神経の伝達を助ける
· カルシウム:骨や歯の形成に欠かせず、血液を固める働きもある
· 重炭酸:心臓の働きを助ける
· マグネシウム:血糖値を安定させ、免疫力を高める
· クロール:消化を助け、酸性とアルカリ性のバランスを保つ
· リン:細胞の増殖と修復を助ける
ワークアウトで失われたときに、初めてその存在を意識されることが多い電解質。だがカフェインのようにエネルギーを高める働きはない。 最も重要な電解質の役割は、体内の各システムが本来の働きを維持できるよう手助けすること。この役割は、体を動かすアスリートにとって特に重要なのだとマイケルは説明している。
「運動後には、水分と電解質を補給しましょう。特にナトリウムの補給がとても大切です」
電解質はアスリートに必要か?
電解質には、さまざまな効能がある。それならば、ウォーターボトルの水にパウダーを加えたり、ジェルやスポーツドリンクを常に用意したりする必要があるのだろうか? 実をいうと、必ずしも必須ではない。
アスリートのパフォーマンス向上に及ぼすサプリメントの効果については、さまざまに議論が分かれている。 2020年に『Clinical Journal of Sport Medicine』(スポーツ医学臨床ジャーナル)で発表された研究もそのひとつ。砂漠で起伏のある地形を走ったウルトラマラソンランナー266人を対象に、ある調査が行われた。
ナトリウムレベルを測り、電解質に関連のある症状を確認したところ、多くのアスリートがトラブル回避のために電解質を摂っていたにもかかわらず、サプリメントの補給が吐き気や足つりの防止に役立っていないことがわかった。
2018年に『Journal of the International Society of Sports Nutrition』(スポーツ栄養国際学会ジャーナル)に掲載された研究論文では、アスリートの多くが自分に合った水分補給プランを用意していない問題が指摘されている。 たとえば、自分の半分程度しか汗をかかないランナーと一緒に同じ距離を走った場合のことを考えてみよう。 このとき2人の水分と電解質の摂取量が同じでも、汗をかくランナーにとっては電解質が不足しているのに、汗をかかないランナーにとっては多すぎる場合もあるのだ。
電解質は食事から摂取できるか?
体内の電解質を測定する方法はいくつかあるが、通常は、Basic Metabolic Panel(基礎代謝パネル)のような血液検査を行う。 しかし血液検査で電解質をチェックするには、医療機関に足を運ばなければならない。あまり気軽にできるとは思えないし、費用もかかるだろう。 幸いなことに、電解質をうまくコントロールする手段はある。
ニュージャージーにあるケルシー&クーパーズ・キッチンのケルシー・サックマン(管理栄養士)は、次のように話している。「電解質バランスを保つ最善の手段は、健康的な食事を摂ること。 電解質は、さまざまな果物や野菜に含まれています。バナナ、ジャガイモ、葉物野菜、ナッツ、種子類、乳製品などです。 西洋の一般的な食事では、ナトリウムと塩化物は食塩から摂取できます」
健康的な電解質バランスの維持に役立つ食材には、他にも次のようなものがある。
· ホウレンソウ
· アボカド
· 豆類
· ケール
· イチゴ
· 牛乳
· トマト
· オリーブ
· 七面鳥
· レーズン
· 鶏肉
· スイカ
「食事中心」のアプローチは、基本的なバランスの維持に最適である。 体液のバランス維持に必要な電解質だけでなく、ビタミン類、食物繊維、フィトケミカルも幅広く摂取できるからだ。
日常生活でのバランス維持ならば、これで十分だろう。しかし、ワークアウトに取り組むとなると話は別だ。特に負荷の高い運動に励む場合、ホウレンソウやスイカを多めに食べた程度では、失われた電解質の補給に追いつかないとサックマンは語る。
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サックマンは説明する。「汗をかくような運動を行う場合、水分を多めに摂って、失われる水分を補う必要があります。 ワークアウト前後やワークアウト中の水分補給は必須です。 ハードな運動を1時間以上続ける場合は、スポーツドリンクを飲めば汗で失った電解質を補えます」
暑い日や湿度の高い日に運動する場合は、さらに汗をたくさんかくため、水分と電解質の補給がより重要になる。 また標高の高い場所では、特に汗をかかなくても、水分と電解質を多めに摂るべきだとサックマンは言う。 標高の高い場所では、脱水状態を起こしやすくなるからだ。
電解質のバランスが崩れると現れる症状
長時間の運動や負荷の高いワークアウトを行わない限り、スポーツドリンクが予防策としての効果を発揮することはない。 その場合に望ましいのは、排尿によって余分な電解質を排出してしまうことだ。
もし過剰に摂取し続けた場合、特に1種類の電解質だけを摂り続けることが問題を引き起こす可能性もある。 たとえば『World Journal of Emergency Medicine』(緊急医療ワールドジャーナル)で発表された研究論文によると、電解質のアンバランスが以下の症状の引き金になる。
· 発熱
· 吐き気
· 意識障害
· 浮腫み
· 頻脈
ほかにも、筋力低下、こむら返り、頭痛、けいれんといった症状につながる可能性もある。 ただ、こういった症状が現れるのは最悪の場合であり、映画やドラマを見ながらスポーツドリンクを飲んだからといって、悲劇に見舞われることはまずないだろう。
上記の研究では、発症者のほぼ半数に腎障害、糖尿病、心臓疾患などの基礎疾患があり、電解質が過剰に蓄積しやすい体質だった。
以上のような懸念もあるが、ハードなエクササイズに取り組む際は電解質パウダーやスポーツドリンクを飲むようにサックマンは勧めている。 日々の食事に果物や野菜を摂り入れ、電解質の最適なバランスを保つことも重要だ。 電解質のバランスが崩れていそうな不安を感じているのなら、医師に相談しよう。
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