トレッドミルを好きになるには
Coaching
トレッドミルのメリットを知って、屋内ランニングをもっと楽しもう。
新しい景色を堪能し、肌に日の光を感じ、そよ風に髪をなびかせ、気の向くままに走る。たどり着くのはコーヒーショップ、友人の家、それともきれいな橋の向こう側?屋外でのランニングには尽きることのない魅力がある。だからと言って、トレッドミルでのランニングが、正反対のつまらないトレーニングというわけではない。
「トレッドミルがつまらない存在になるのは、設定をそのまま放置して使っているときだけです」と言うのはジェシカ・ウッズ(Nike Run Clubコーチ)。これはありがちなミスだという。確かに、機械の上でのランニングでは、道路や山道を自由に駆け抜ける体験を再現することは不可能。しかし、トレッドミルは屋外のランニングを再現するためのものではないのだ。
「トレッドミルで一番大切なのは、ツールとして使うことです」とウッズ。彼女はニューヨーク市のトレッドミルスタジオ、Mile High Run Clubのマネージャーでもある。トレッドミルの活用法を学べば、前向きな姿勢でランニングのパフォーマンス向上を目指すことができ、最終的にはつまらないマシンとは呼べなくなるはずだ。そのためのヒントやワークアウトを以下に紹介する。
まずは、トレッドミルをポジティブに受け入れるために、次のことを知っておこう。
自分で決められるのがトレッドミルの魅力
屋内ランニングには、本来あるべきはずの障害がない。道路の穴も、風の抵抗もなければ、極端な暑さや寒さ、湿気、またコースによっては赤信号の連続といったパフォーマンスを台無しにする悩ましい要素も排除されていると、ウッズは言う。それに、屋外のランニング中にペースと距離を把握したければ、スマートウォッチを使用してGPSの精度に頼るしかないだろう。
さまざまな要素をコントロールできれば、ペース配分に集中でき、距離を伸ばしやすくなるはずだ。
トレッドミルは体への負担が少ない
道路を走るランナーは、アスファルトが関節に優しくないことを自覚しながらも、屋外を走る魅力には抗えない。一方、トレッドミルにはパッド付きのベルトがついており、(トレイルやある種のトラックのように)足首、膝、腰が受ける衝撃を緩和してけがのリスクを減らしてくれる。そう語るのは、ベネットコーチとしてお馴染みのクリス・ベネット(Nikeグローバルランニング シニアディレクター)。適度にクッションの効いたトレッドミルなら、体重を支える関節をいたわりながらワークアウトできる。その結果、長期にわたって屋外のトレーニングを元気に続けられるようになるだろう。
「トレッドミルがつまらない存在になるのは、設定をそのまま放置して使っているときだけ」
ジェシカ・ウッズ
Nike Run Clubコーチ
屋内ランニングは理想のワークアウト
レースに向けたトレーニングに取り組んでいる場合、屋外でのランニングは何ものにも代えがたい。しかしトレッドミルにも長所はあり、これは雨の日や寒い日に限らない。ベルトの上で走れば正確なペースを設定できるし、何度も腕時計を見たり憶測だけを頼りに走ったりする必要もない。特にスピードワークアウトでは効果絶大だとウッズは話す。好きなだけ傾斜をつけることもできるのだ。
体感的にはトレッドミルのほうが楽かもしれないが、実は体が動くパターンを見れば電動マシンと屋外ランニングの間には大きな差がない(スポーツ医学の学術誌『Sports Medicine』掲載記事より)。この記事によると、有酸素運動の効率を測る最大酸素摂取量(VO2max)を比べても、トレッドミルと屋外ランニングの効果はほぼ同等である。
専門家によるヒント:トレッドミルで「平地」のワークアウトを行うには、変化に富む自然の地形に似せて、傾斜を1パーセントに設定するとよい。トレッドミルだとベルトが足の動きを助けて筋肉の活動が弱まるが、傾斜はその影響を打ち消す効果もあるとウッズは言う。
最大限にトレッドミルを活用する方法
トレッドミルのメリットについて納得したところで(まだこの記事を読んでいるということが納得している証拠)、トレッドミルのトレーニングを効果的に、そして楽しく進める方法を伝授しよう。
1. 徐々にスタート
ランニングにはウォーミングアップが極めて大切。特にトレッドミルでハイスピードのワークアウトやインターバルトレーニングを行う場合にはなおさらだ。「血流と体温を高め、体の動きを連動させながら可動範囲を広げるのがウォーミングアップの目的。こうした全要素がフォームとスピードの向上につながります」とロビン・ラロンド(NRC Chicagoコーチ)は言う。
やってみよう:5-10分ほどジョギングしてから(軽いジョグペース)トレッドミルを降り、アクティベーションドリルを2-3種類行う(ハイニースキップ、かかとのヒップタッチ、ウォーキングランジ、レッグスウィングなど)。これで筋肉がさらに緩み、ペースを上げる準備が整う。
2. 自分のフォームとポジションを確認
走行中はトレッドミルから転げ落ちたくないという恐怖から(身に覚えがあるだろう)、ついマシン前方のディスプレイに近づきがちだ。「そうなると、自然なストライドで走れなくなってしまいます」とウッズとベネットコーチは声をそろえる。ベネットコーチはこうアドバイスする。「時々自分のポジションを確認し、マシンのディスプレイに近づきすぎていると思ったら、やや後ろに下がりましょう」
ウッズのアドバイスは、疲れたときも、トレッドミルのアームを握るのは我慢すること。手すりに頼るとストライドが崩れるという。スピード設定を上げすぎてアームにしがみつきたくなったら、それはスピードを落とす合図だ。
最後に、メールや電話はワークアウトが終わってからにすること。動くベルトの上を走っている間は、集中力の妨げになるようなものはなるべく避けるべき。転げ落ちた瞬間を動画に撮られたくないならなおさらだ。
3. アクセルとブレーキを繰り返す
インターバルトレーニングとは、所定の時間で負荷と休憩を繰り返すトレーニング。そうすることで脚力の強化とスピードの向上が期待できる。これをトレッドミルで実践すれば、心身の集中をキープしながら、勘に頼らず正確なペースが刻める。
「トレッドミルで走ると、特定のペースに合わせやすくなります。まさしく筋肉に記憶させるようなイメージ。正確なペースに慣れれば慣れるほど、屋外でもその感覚を掴むのがうまくなります」とウッズは言う。
やってみよう:インターバルトレーニングを組み込む方法は無数にあるが、ウッズのお気に入りは、徐々に負荷を高めていく段階的なワークアウトだ。まず10Kペース(80%の負荷)で3分間、次に5Kペース(90%の負荷)で2分間、そしてマイルレースペース(100%の負荷)で1分間走る。各セットの終わりに90秒の休息を入れる。初心者はまずこれを1セット、上級ランナーは2-3セットやってみよう。他のさまざまなインターバルワークアウトは、NRCアプリをチェック。
「ベルトの上で走れば正確なペースを設定できるし、何度も腕時計を見たり憶測だけを頼りに走ったりする必要もありません。特にスピードワークアウトでは効果絶大です」
ジェシカ・ウッズ
Nike Run Clubコーチ
4. 傾斜を上げてみる
ランニング中は、傾斜をいろいろ変えてみるのも面白い。傾斜の変更は、大臀筋、大腿四頭筋、心肺系の強化にもつながるとウッズは言う。
上り坂のランニングは、実はスピードトレーニングの変形。傾斜を付けると抵抗が増し、体の出力を上げざるを得なくなる。ちょうどスピードアップして走るのと同様に、カロリーを燃焼して筋力が高まり、フォームも改善される。上り坂のランニングには、脚のすばやい筋収縮を促して瞬発力を鍛える効果もあり、平地でのスピードトレーニングに相当する。
やってみよう:20分間の「ローリングヒル(緩やかな丘陵)」ワークアウトに挑戦。まず傾斜を0%に設定し、楽なペースで2分間走る。次に傾斜を1%に上げて1分間、2%に上げて1分間、そして0%に下げて1分間走る。さらに傾斜4%で1分間、0%で1分間、2%で1分間、1%で1分間。3%で1分間、2%で1分間。そして最大となる5%に傾斜を上げる。走り始めから18分になるまで傾斜の上げ下げを繰り返し、最後の2分間は傾斜を0%にしてクールダウン。スピードは一定に保ち、負荷を高めたい場合はやや速めのペースで走ること。
(このワークアウトは、NRCアプリのガイドラン「ローラーコースター」が参考になる)
5. 歩いてもOK
ベルトが動くからといって、がむしゃらに走らなければならないわけではない。「インターバルをしているなら、リカバリーのためにウォーキングレベルにスピードを落とし、呼吸数が平常に戻るか心拍数が下がるのを待ちましょう」とウッズ。インターバルで高い負荷をかけたときほど、しっかりリカバリーしよう。そうすれば、次のインターバルで最大限の効果が得られるという。
インターバルをやらずに、ウォーキングのためだけにトレッドミルを使うのもいい。トレッドミルでのウォーキングはクロストレーニングのメインメニューにもなるとウッズは言う。「実際に走らなくても、脚を疲れさせることができます。スピードを上げずに負荷を高めたければ、ウォーキングのペースを保ちながら傾斜をきつくしていきましょう」
やってみよう:前述したワークアウト、特に傾斜をつけるワークアウトをウォーキングでしてみよう。ペースは、ウォーキングの平均速度である時速4マイル(時速約6.4キロ)以下に。
6. 必ずクールダウン
軽いジョギングか早歩きで、ワークアウトをゆっくりと終わらせよう。ちょうどウォーミングアップから徐々にランニングを開始するのと同じ要領だ。「急ブレーキをかけるようにワークアウトを終えないこと。クールダウンをすれば血流を促して回復プロセスが始まり、筋肉の回復を助けてくれます」とウッズは言う。クールダウンはリカバリーに欠かせない。
やってみよう:スピードを時速4.5マイル(時速約7.2キロ)以下に落とし、5-10分間ジョギングかウォーキングを続ける(時間がないときは2分でも効果がある)。終わったらマシンをきれいに拭いて完了。
以上、トレッドミルが優れている3つの理由と、5つのワークアウトを紹介した。これでもうトレッドミルを「つまらない」マシンなどとは呼べないはずだ。
文:アシュリー・マテオ
イラスト:ユエ・ウー