適切なトレイルランニングシューズ選びのポイント

トレイルを駆け抜ける高揚感と自由に勝るものはない。トレイルランニングは、心身を鍛えられるだけでなく、他のランニングでは得られない感覚を楽しみ、自分の走りを次のレベルへと押し上げることができる。どんな変化にも適応できるよう、周囲の環境の変化を目と耳と肌で感じながら走る。

だがこのようなチャレンジには、けがのリスクがつきまとう。だからこそ、基本的なトレイルランニングギアとオフロードに適したシューズを着用し、スマートにトレーニングする必要がある。まずは、安定性に優れたトレイルランニングシューズを選ぼう。

トレイルランニングは、ランニングの総合的なパフォーマンスを高めるのに役立つ。絶え間なく変化する未知の環境を走ると、姿勢、足の運び方、脚の踏ん張りを常に調整せざるをえなくなる。この生体力学的な調整の習慣により、ランナーは道路にもトレイルにも対応してより効率的に走れるようになるのだ。

メリットはそれだけじゃない。オフロードを走る時は、一般的に最大速度が低下し、負荷が増えてくる。起伏のあるトレイルでのランニングでは、滑らかで硬い路面でのランニングよりも代謝エネルギーの消費量が5％増加する。これは学術誌「Journal of Experimental Biology（実験生物学ジャーナル）」に掲載された研究で立証された。負荷が高まる原因のひとつは、足の運び方を常に変えなければならないこと。歩幅（前後）と歩隔（左右）の広さが、常に大きくばらつくのだ。研究者によると、増加する負荷の半分以上は、過酷な地形を上ったり進んだりするための機械的な運動によって生じる。

メンタル面でのメリットもある。数々の研究が、トレイルランニングのメンタルな効果に注目してきた。ある2019年の研究は、オフロードランニングが都市生活でのプレッシャーを軽減してくれることを証明した。学術誌「Extreme Physiology and Medicine（極限状態における生理学と医学）」に掲載された研究では、トレイルランニングをするとストレスと精神的な疲労が軽減され、気持ちが明るくなり、自己肯定感が高まる可能性が高いことが分かった。ランナーがトレイルランニングを自覚的運動強度が低くて楽しい気分になれる「娯楽」と見なしている傾向も明らかになった。

トレイルランニングには、配慮すべきリスクもある。不安定な路面はただ走りにくいだけでなく、実際にけがをする可能性も高まる。ある2021年の調査では、人気トレイルランニング大会に向けて準備を進めていたトレイルランナーの4分の1が、過去12ヵ月の間にランニング関連のけがを1回以上したと回答している。けがの症状が出た部位は、主に下肢。特に膝、足首、そして踝から先だ。水ぶくれや靴擦れのような軽いけがでも、ランニングができなくなる可能性は十分にある。筋違いや捻挫はもちろん、もっと深刻なけがも珍しくない。

ストレスやリスクを増やすことなく、トレイルランニングのメリットを得る秘訣はあるのだろうか？研究者によると、ランニングエコノミーを改善して生体力学的な安定性を確保するには、ランニングシューズの選択が重要だ。安定性に優れたトレイルランニングシューズを選ぶことは、最も賢い投資のひとつと考えられる。

トレイルでも、通常のロードシューズを着用するランナーがいる。しかしトレイルランニングでは、舗装路でのランニングより優れた安定性が求められる。泥、岩、茂みなどの不安定な路面では心身をフル回転させなければならず、足首、膝、足をけがのリスクにさらすことにもなる。

そのような環境で、シューズがどんな違いを生みだすのだろうか？

優れたデザインのトレイルシューズには、安定性を高め、下半身の動きを改善する機能が備わっている。

まず高品質のシューズには、丈夫なトラクションがある。これは岩の多い路面や滑りやすい泥など、ランナーがあらゆる過酷な地形を克服するのに役立つ。

予想外の悪天候、でこぼこの地形、小枝や小石などから常に足とつま先を守るため、衝撃をブロックする丈夫な保護機能も必要だ。

最後に、シューズの中で足をしっかり固定しながら足首の角度を保つことができるように、硬さとクッション性を兼ね備えている必要もある。滑りやすい路面やでこぼこの路面で、トレイルランナーは足首を捻挫しがちだ。

安定性に優れたトレイルランニングシューズと、安定性に優れたロードシューズは、まったく別の買い物だと肝に銘じておこう。

安定性に優れたロードシューズは、足首が過剰に回内（オーバープロネーション）するランナー向けにデザインされており、土踏まずのサポートが厚い。ミッドソールをヒールまで拡張してサポート性を高めている場合もある。ロードで安定性に優れたシューズを使用しているランナーは、同じように安定性に優れたトレイルシューズを探そう。

ロードでニュートラルなシューズを使用しているランナーでも、トレイル用には安定性に優れたシューズを検討するとよい。安定性に優れたトレイルランニングシューズは、でこぼこの路面を走る際に足と足首のぐらつきを防いでくれる。険しい地形を克服するために、その他の安全機能や技術的な機能も備えている。

良いトレイルランニングシューズを買いたいなら、シューズを裏返してアウトソールを確認するとよい。マウンテンバイクのタイヤのようなデザインになっているはずだ。例えば、摩耗に強いラバーを使用したラグがあり、多方向へのトラクションを備えたシューズを探そう。粘着性のある突起が、上り坂でも下り坂でも強力なグリップを発揮する。

そのようなシューズは耐久性にも優れており、とがった岩や木の切り株から足を保護できる。しかしソールが重すぎて、万能性に欠けるシューズは避けるべきだ。軽量でグリップに優れ、トレイルでもロードでも滑らかな履き心地のシューズを見つけよう。

地面に近い場所にある枝や石、岩くずの堆積物などから足を保護できるシューズが良い。足首周りを包み込んで、土や岩くずの堆積物をブロックするゲートル付きの履き口などに注目しよう。つま先周りにスキンを追加したシューズなら、つまずきやけがを防いで足を保護できる。分割ロックプレートも、優れた耐久性を発揮する。

保護力が重要な一方で、やはり通気性も必要だ。登山靴のような履き心地のシューズは好ましくない。アッパーの重要なエリアにメッシュを使用したシューズは通気性に優れている。

トレイルシューズは、ロードシューズよりぴったりフィットする場合が多い。圧迫感のあるタイトなシューズは好ましくないが、トレイルランでは多方向にさまざまな動きをするため、シューズ内での摩擦を最小限に抑え、靴擦れや水ぶくれを防ぐべきだ。そのために役立つ技術的なポイントがいくつかある。

例えば、ヒールカップやヒールの追加クッショニングは、足をしっかり固定するために役立つ。足中央部の周辺に加えたダイナミックバンドシステムは、でこぼこの道でも足を安定させる。かかとからつま先までフォームを搭載したシューズは、優れた反発性、安定性、クッション性を発揮し、岩の多い地形でも快適でスムーズなランをサポートする。

着用するソックスによっても、シューズのフィット感は変わる。多くのトレイルランナーは、ロードよりも厚手のソックスを着用する。良いソックスは、ウール混紡のウーブン素材を使用している場合が多く、シューズ内でグリップを発揮して足のずれを防止する。そして通気性にも優れ、湿気を逃がすようにデザインされている。足首とふくらはぎの一部をカバーし、靴擦れなどの摩擦を最小限に抑えたトレイルランニング用ソックスが理想的だ。コンプレッションソックスなら、長距離ランでも快適な着用感が持続する。どちらのソックスを選ぶにしても、必ずそのソックスを着用してから、さまざまなトレイルランニングシューズを試着してみよう。ソックスによって、シューズのフィット感が変わる場合もあるからだ。

シューズのオフセットとは、ヒールの高さとつま先または前足部の高さの差異を指す。オフセットは、シューズのクッショニングの量によって変化する場合が多い。クッショニングの多いシューズは、オフセット（ヒールからつま先への傾斜）が大きくなりがちだ。

トレイルランニングシューズは、使用しているロードランニングシューズとオフセットが同等のシューズを選びたい。それには理由がある。トレイルランナーの中には、強い接地感を求めてオフセットを極小化したシューズを好む人もいる。そういったミニマルなシューズはオフセットが4mm未満で、足中央部から前足部で着地するのに適している。

一方、多くのロードシューズはオフセットを大きめに設計してあり、舗装路にかかとで着地する走り方に適している。どちらが優れているのか、一概には言えない。しかしオフセットのタイプを急に変更すると、急激な生体力学的変化が起こって痛みやけがを誘発する可能性もある。

最後に、せっかくトレイルを走るなら、サステナビリティに配慮したデザインのシューズを履きたいという人も多いはず。ペットボトルをリサイクルしたウェアやフットウェアを着用すれば、廃棄物だけでなく二酸化炭素の排出量を削減し、自分が走る野山の環境保護にも貢献できる。

製品に使用されたコットンなどの素材が、化石燃料由来の殺虫剤や合成肥料を使わずに育てられているのか気になる人もいるだろう。誰でも、世界の二酸化炭素排出量を削減する方法は見つけられる。自分たちだけでなく、将来の世代のためにトレイルを守るための大切な選択だ。サステナビリティに関するNikeの取り組みをチェックしよう。