夜間ランニングのメリットと安全のヒント
スポーツ&アクティビティ
日没後にひと汗かいてみようという人に、 まずは知っておくべきことをご紹介。
ベテランランナーであれランニングの初心者であれ、走る時間帯には好みがある。道路でも、トレイルでも、トレッドミルでも同じだ。夜明けに走りたい人もいれば、真っ昼間に走りたい人もいる。 もちろん仕事終わりに走りたいという夜型の人もいるだろう。
夜のランニングにも、固有の利点はある。そう指摘するのは、バル・ナタラジャン。内科とスポーツ医学の2分野で専門的な資格を持つ医師だ。 しかし他のアクティビティと同様に、夜のランニングにも特有の難点はある。とりわけ懸念すべきは安全面の対策だ。
ここでは夜のランニングに期待できるメリットから、安全に取り組むためのヒントまでを紹介しよう。
夜のランニングに期待できるメリット
1.昼よりも涼しい夜のほうが体を機能させやすい
気温が比較的低いということが、日没後のランニングがもたらす最大のメリットのひとつ。暑い季節はなおさらだ。 夏にランニングに取り組む場合は、太陽からの紫外線が最も強くなる時間帯(一般的に午前10時~午後4時)の外出を避け、気温が下がる時間帯を選ぶことで、熱疲労や熱中症などの発生リスクを減らせる (ナタラジャン医師談)。
直射日光に当たらなければ、体は深部体温を維持しやすいし、体温の上昇を防ぐ発汗反応もいくぶん抑えられる。 運動時に汗をかくのはとても重要なことだが、暑い中でのワークアウトは過剰な発汗の原因にもなる。多量の汗をかくと、筋肉の働きを助ける電解質が失われ、運動を続ける能力に悪影響が及ぶ可能性があるのだ。
汗をかくことで失われる主な電解質といえば、ナトリウムや塩化物などだが、マグネシウムやカリウムも汗によって失われる。 このような電解質は、すべて体全体の健康に不可欠だ。 カリウムは細胞に送り込む体液の量を調節する機能を助け、ナトリウムは細胞外の体液量のバランス維持に役立つ。 またマグネシウムとカリウムは、いずれも神経機能を助ける役割を果たす。
「電解質のバランスが崩れると、パフォーマンスに影響が現れ、ひどい疲れを感じることがあります。 極端に悪い環境に体が対応しようとする際に、そのような症状が出やすくなります」とナタラジャンは言う。
夜のランニングでも汗をかくが、真っ昼間ほど多量の汗をかくことはないだろう。
2.栄養を摂らずに走るより、栄養補給後に走る方が楽
運動前に食事をするかどうかを左右する要因は、運動に出かける時間帯や胃腸の敏感などにも関連してくる。そう語るのは、理学士のビクトリア・ローズ。 カナダ運動生理学会認定臨床運動生理学の有資格者だ。
夜にランニングをするメリットの1つは、すでに何度か食事や軽食を摂った状態で出かけられることだ。 言うまでもなく、適切に水分補給をする機会も十分にあるはずだ(ローズ談)。 ちなみに、アスリートは運動の2時間前に約400~650mlの水分(運動中と運動後にも追加の水分)を摂取すべきだと全米スポーツ医学協会は推奨している。
どんな時間帯に走るにしても、適切な栄養補給は大切だ。 運動に出かける1~2時間前に、十分な炭水化物、適量のタンパク質、少量の脂質を含むバランスの良い食事を摂るようにローズはアドバイスする。 運動前にはこの組み合わせで栄養を摂るのが望ましい。炭水化物は脂質やタンパク質と比べて、すぐに消化されてしまうからだ。 また炭水化物をたくさん摂ることは、筋肉がすぐにエネルギーを使えるという点でも効果的。
夜のランニングについて考慮すべきポイント
1.ランニングの前に動的なウォームアップをする
1日の大半をどう過ごしているかが、ランニングに向き合う気分に大きな影響を与える。 1日中ほとんど立ちっぱなしの人も、歩き回っている人も、座ったままでいる人も、道路、トラック、トレイルなどで走る前にウォームアップが必要だ。
「1日中ずっと画面を見て過ごした結果、全身のこりや腰痛に悩まされて来る患者さんがたくさんいます」とナタラジャンは語る。 しかし一日中活動していたからといって、着替えてすぐに夜のランニングに出かけられるというわけではない。 たとえば、仕事中にずっと立っていた日でも、座ったまま過ごした日でも、筋肉が硬くなると感じることがある。
「やはりウォームアップは意識的に取り入れる必要があります」
ナタラジャンもローズも、十分なダイナミックストレッチで筋肉を温めることを推奨している。 ダイナミックストレッチは、可動域を全開して体を動かすストレッチだ。 スタティックストレッチのように一定の姿勢を保って伸ばすのではなく、体を活発に動かし、 この後に行う運動に備えて、筋肉、関節、腱を動かす。 ローズのお気に入りはランジやサイドランジ。ナタラジャンのおすすめは、グレープバインランニングドリルで左右両方向に動く準備運動だ。
2.いつもより入眠に多少時間がかかる可能性がある
夜のランニングにまつわる懸念のひとつは、睡眠障害を引き起こす可能性があること。 運動によって心拍数が上昇し、アドレナリン、ノルアドレナリン、エンドルフィンの分泌が増える。長距離や高強度のワークアウトをした後は、特にその傾向が強い。 なかでも気分を高めてくれるエンドルフィンは、脳を刺激して入眠を妨げることがある。
「エンドルフィンの分泌量が増えると警戒態勢が解けないので、眠りにつくのに時間がかかることがあります」とローズは語る。 全員がそうなる訳でもないので、夜のエクササイズによってどの程度リラックスしにくくなるかをチェックしてみよう。
夜のエクササイズは睡眠サイクルに影響を及ぼす可能性もある。 最も注目に値するのは、学術誌『Sleep Medicine Reviews(睡眠医学レビュー)』で2021年に発表されたメタ分析だ。就寝前にテンポランやスピードワークアウトといった高強度の運動をこなすと、体の回復に最も効果のあるレム睡眠が減り、睡眠の質の低下につながることがわかった。 1回の睡眠サイクルの間に、第1および第2段階(浅い眠り)から第3段階(深い眠り)に入り、最終的に第4段階(レム睡眠)に移行する。 レム睡眠は睡眠全体の約4分の1に相当し、夢を見る段階でもある。
米国国立睡眠財団によると、完全な睡眠サイクル5~6回分の睡眠を確保できる人(1晩あたり7.5~9時間の睡眠時間に相当する)は、睡眠時間が少ない人と比べて起床時にリフレッシュできる。さらにはエネルギーに満ちた気分になれる可能性が高いと言われている。
質の高い睡眠は、運動の面でのリカバリーに不可欠だという研究もある。睡眠不足は炎症の原因になり、筋肉の回復、グリコーゲン貯蔵、翌日の認知機能(反応時間、判断、意思決定など)を妨げるというのだ。 また別の研究では、睡眠不足によってワークアウト後に欠かせない筋肉の修復プロセスが損なわれる。そのためスポーツのパフォーマンスにマイナスの影響が現れるおそれがあることも示されている。
もちろん、運動に対する反応は人それぞれだ。夜遅い時間に走った後でも、すぐに眠れる人はいるだろう。 夜のランニング後に、質の高い睡眠がとれるかどうかチェックしておこう。 ランニング後やリカバリー日の睡眠衛生に違いが見られない人は、夜のランニングが向いていると言える。 ただし何らかの変化に気付いときは、負荷を減らす(または医師に相談する)こと。
寝る前に興奮したり、すっきりと目が覚めなかったりする傾向が見られたら、ランニングの時間をなるべく早い時間帯にずらしてみよう。 睡眠に問題がある場合は、医療の専門家に相談して解決策を教えてもらう必要もあるだろう。
(関連記事:アルコールと睡眠の関係を専門家が解説)
夜のジョギングに出かける前のチェックリスト
夜のランニングに出かける心構えは できただろうか。 出かける前に、ジョギングを安全に楽しむポイントがいくつかある。
ランニングアプリでルートを決めておくことも大事な準備の一つ。どんな時間帯でも安全第一だが、暗くなってから出かけるときは特に重要だ。 アプリのプライバシー設定で、位置情報の共有を無効にしておこう。 以下は安全なランニングに役立つのアドバイスだ。
1. 視認性の高いウェア(またはギア)を着用する
夜間は、自動車のドライバー、自転車に乗る人、また歩行者からランナーが見えにくくなる(ナタラジャン医師談)。 Nikeの基本アイテムを身に着けて、視認性を向上させよう。
明るいカラーのカラフルなウェア。 ブラックや暗いカラーのウェアではなく、ホワイト、オレンジ、イエローなどの明るいカラーのウェアを選ぼう。 こういったカラーなら、ヘッドライトや街灯に照らされて視認性が高くなる。
リフレクティブ(再帰反射)素材のアクセント。 これだけで安全が保証されるというわけではないが、リフレクティブ素材が光を放ち、自動車のドライバーから見えやすくなる。 ごくシンプルなワークアウトウェアしかない場合は、リフレクティブの素材や装飾をあしらったベスト、ウィンドブレーカー、ボトムスなどの購入を検討しよう。クリップ式リフレクター、アームバンド、リフレクティブテープなどを購入して持っているウェアに付けたり、安全ライトをピンでアウターに留めたりする方法もある。
ヘッドランプ。 ヘッドライトは前方の道を明るく照らすだけでなく、行き交う自動車や歩行者から見やすくなる効果もある。 ランニングライトならコンパクトで、頭に快適に着用できる。
2. 夜間のランニングでは大きな音量で音楽を聴かない
暗い中を走るときは、周囲の音に気を配ろう。 ヘッドフォンをつけたり、ポータブルスピーカーから大音量で音を出したりすると、周囲の音をかき消してしまう。 音楽やポッドキャストを聴きながらランニングを楽しみたい場合は、音量を控えめにして聴くか、周囲の様子を認識しやすいように片耳だけイヤホンを装着しよう。
3. ランニングに出かけることを身近な人に伝えておく
出かける前に、通常走るエリアや、走る予定のルートやトレイルを、少なくとも誰か1人に知らせるようにしよう。 ルート上の主な目印や様子、服装、ランニングの大まかな所要時間なども伝えるようにする。
「帰宅したら、無事に帰ったことを伝えましょう」とローズ。 万が一助けが必要になった場合に備えて、スマートフォンを持って行こう。転ばぬ先の杖だ。
文:ジェシカ・ミガラ