初心者ランナーのためのマラソントレーニングの9つの重要なヒント
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レース当日に向けて心と体の準備をする方法について、専門家の意見を参考にしよう。
マラソンに挑戦するということは、初心者であれ経験豊富なランナーであれ、それ自体がアスリートとしての大いなる偉業だ。 マラソンに必要とされるのは、トレーニングの積み重ねはもちろん、忍耐力と強い心身、そして当日までのプラン。
マラソンに初挑戦する人なら、レース前の栄養補給の方法や、ゆっくりと確実に距離を伸ばしていく方法、回復に役立つヒントについて、興味があるはず。
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初めてスタートラインに立つにあたって、専門家がすすめるトレーニング方法を学び、楽しく完走するためのヒントをチェックしよう。
ヒント1:プランを立てる
この格言をご存知だろうか? 「準備を怠るということは、失敗する準備をしているのと同じこと」厳しいように聞こえるが、一理ある。マラソンのトレーニングのような、体の限界に挑むような行為ではなおさらだ。
だが、「失敗」の定義はそれぞれ異なる。 重要なのは、自身を可能な限り成功に導くということだ。この場合の「成功」を大まかに定義するとしたら、それは怪我をしない(またはトレーニングの過程で体のケアをする)、自分の力に自信を持つ、最初の2ポイントに辿り着けるよう適切な栄養補給を行う、そしてトレーニングもレース当日も、走ることを楽しむことだ。
Orchard Street Runnersの創設者、ジョー・ディニートは、時間があれば『Hansons: Marathon Method』を読むことを推奨している。ディニートいわく、この書籍では「初心者向けのマラソントレーニング方法が説明されている」そうだ。また、マラソントレーニングに関わる生理学、栄養学、回復方法を理解するために必要な知識を得られるため、初心者にとっては最高の参考文献だとしている。
RRCAおよび米国陸上競技連盟レベル1認定ランニングコーチであるラジ・ハティラマニによれば、最適なマラソンのトレーニングプランとは、これまでのランニング経験、現在の健康レベル、怪我やコンディション、仕事のストレスなどの生活要因、個々がマラソンで掲げている目標などの要素を考慮に入れたもののことを指す。
「初心者向けに1週間のトレーニング計画を立てるとすれば、イージーラン、ロングラン、インターバルまたはテンポランといった様々なランニングワークアウトを組み合わせたものになるでしょう。それに定期的な筋力トレーニングや、クロストレーニングを加えることになります」とハティラマニ。 距離の話で言えば、毎週10~15%以内のペースで、距離を長くしていくことを推奨している。 また、オーバートレーニングや怪我を防ぐため、高負荷のワークアウトを連続して行うのは避けよう。
ヒント2:身体評価を行う
履きなれたランニングシューズを履いてロングランに出かける前に、現時点での体の状態をチェックしておくことが重要だ。
理学療法士(D.P.T.)のノア・エイブラハムズは、どんなアスリートと会うときにも、必ず最初にパフォーマンス目標について話を聞く。 彼はそこから、トレーニングを始めるにあたって体が感じると予想されること(痛みなど)について、アスリートが理解できるようサポートする。 次に複数の体力テストを行い、アスリートの動き方や、足首、体幹、腰回りの強度をチェックする。 どれも効率的に走るために重要な部位だ。 このテストには、ラテラルランジ、スクワット、サイドプランク、ニートゥーウォールなどの動作も含まれる。これによって専門家はアスリートの動き方を確認し、可動性エクササイズや筋力トレーニングで改善できる余地のある部位を探すのだ。
また、彼は水分および栄養補給、筋力トレーニングと回復(特に睡眠)の重要性について、そしてドライニードルや深部組織に働きかけるマッサージといった回復方法についてもアスリートと話し合う。 「事前に聞いておくことで、アスリートが掲げている目標を達成するために何をすべきか理解できます」と彼は語る。
可能であれば、怪我などを予防するためにも、トレーニングプランの早い段階で理学療法士に相談する機会を設けよう。そこから定期的に診てもらうか、指示されたエクササイズを継続して行うことがおすすめだ。
ヒント3:一緒にトレーニングを行うコーチかチームを探す
マラソンのトレーニングプランはオンラインで見つかるかもしれないが、経験豊富なコーチに相談した方がより多くのメリットを得られるだろう。自分の運動経験やニーズ、能力に合わせて、カスタマイズしたプランを提案してくれるからだ。 コーチを雇う金銭的余裕がない場合でも、無料で参加できるコミュニティや、コーチングを無料で提供してくれるコーチは数多く存在する。
エイブラハムズは、コーチを見つけることを強く推奨している。なぜなら、コーチはトレーニングプランに対するアスリートの反応を見て、成長を促したり、トレーニングを調節したりすることができるからだ。これは一般的なオンラインガイドではおそらく不可能なサポートだろう。
ディニートは、グループでトレーニングを行うことで、知り得なかった知識を得ることができると話す。 また、様々な経歴や能力を持つ人々と共に走ることは、トレーニングに関する知識やヒントを得られるだけでなく、目標を達成する助けにもなってくれる。 ただし、仲間にとって最適なトレーニングが、自分にとってもそうであるとは限らない。だからこそ、コーチの存在が驚くほど有用なのだ。
ヒント4:土台を築く
ランニング用の基礎を作ることは、怪我の予防に必要不可欠。
「ランニングの経験を着実に積み重ねて、確固とした土台を築いておく必要があります。初めてのマラソンでは4時間以上走ることになるでしょう。その間ずっと、体を垂直に保たなくてはなりませんから」とディニートは語る。
怪我を防ぐため、距離は必ずゆっくりと伸ばしていこう。基礎を築いていく過程では、途中で歩いても問題ない。 ディニートはこの過程において、怪我を防ぎ、可能な限り最高の形でスタートを切れるようにするために、自身の回復方法にも着目するよう助言している。
しっかりとしたベースができたら、今度はバリエーションを加えてみよう。坂を走ったり、トラックでスピードワークに挑戦したりしてみるといい。 ディニートは、基礎固めに半年から一年をかけることを推奨している。この期間に、より長い距離を走ることに慣れ、体にかかる負担に慣れていくのだ。 これだけ時間をとっておけば、その間に学び、適応し、実験し(時には失敗もして)、怪我をした場合に備えて、リハビリと回復のための時間も確保することができるだろう。
ヒント5:筋力トレーニング
ランナーにとっても、筋力トレーニングは怪我予防に不可欠な対策だ。また最大筋力と反応筋力、ランニングエコノミー(一定のランニングペースを維持するために体が使用する酸素=エネルギー消費量)、最大酸素摂取量の向上にも貢献することが、『Journal of Strength and Conditioning Research』に掲載された2017年の論文で示されている。 だが心配は無用だ。オリンピック級のリフティング選手を目指さなくとも、筋力トレーニングのメリットは充分に得られる。
ハティラマニによれば、フォームの改善と怪我のリスクを軽減するには、週に少なくとも2回の筋トレを取り入れることが重要だ。 彼は特に体幹、背中、腰、臀筋、ハムストリング、大腿四頭筋、ふくらはぎを鍛えるエクササイズを推奨している。 また、これらのエリアを鍛えることで持久力とスピードが向上し、さらに腸脛靱帯症候群やランナー膝、梨状筋の問題といった、ランナーによくある怪我のリスクを最小限に抑えることができると述べている。 目標を達成するだけでなく、その過程でも怪我を防ぐために必要な筋力トレーニングの方法については、コーチまたは理学療法士など、資格を持つプロに相談しよう。
ヒント6:クロストレーニング
筋力トレーニングに加え、クロストレーニングもまた、最高の状態でスタートラインに立つために役立つ手段だ。
エイブラハムズは、気分転換のためにもランニングとはまったく異なる種目でクロストレーニングを行うことを推奨している。 水泳はその好例だ。
「私が水に入るのが好きなのは、浮力の作用で少し浮くことができるからです。 また、水圧による圧迫作用もあります」と彼は述べている。
ディニートは、ロッククライミングや水泳などのクロストレーニングを行うことで、ランニングでは不可能な方法で足と 腰回りの筋肉を鍛えることができると述べている。 筋肉のストレッチを行うリストラティブヨガをルーティンに取り入れるのも、良いクロストレーニングになる、とエイブラハムズは語る。
ヒント7:リカバリーワークの重要性を軽視しない
レース当日に向けて、可能な限り長い距離を走っておきたい。そんな誘惑に駆られることもあるかもしれないが、回復のための時間を取ることは非常に重要。
「マラソンレースに向けたトレーニングで、体にどれだけの負担がかかっているか、多くの人が忘れてしまいがちです」とエイブラハムズは語る。体を優しく労わり、適切なケアを施すことが大切だ。
エイブラハムズは、「どこか一か所ではなく、体全体をケアする」ことで、スポーツやリカバリーワークにホメオスタシスに基づいたアプローチを取り入れている。ドライニードル、グローバルストレッチ(頭からつま先にかけてのストレッチ)、筋膜リリース、アクティブリリースで、筋肉の健康状態を改善することができる。 特に重点を置くことが推奨されるのは、胸筋、第1肋骨付近の肩甲下筋(首の付け根のちょうど下あたり)、腰筋(背中の長い筋肉)、梨状筋(臀部の深部にある小さな筋肉)、腰方形筋(腹壁の最奥にある、足と足首に伸びる筋肉)だ。
ヒント8:栄養に気を配る
マラソンのトレーニングプランで重要なもうひとつの要素は、栄養だ。 自らの足で長い時間と距離を走るには、適切な栄養を補給して体を回復させ、エネルギーを供給する必要があるとエイブラハムズは言う。
「一般的に、摂取すべき栄養は個々によって異なります。マラソンのための栄養戦略も同じです」と語るのは、登録栄養士(R.D.)、 スポーツ栄養学認定スペシャリスト(C.S.S.D.)、 そして認定管理栄養士(L.D.N.) の資格を持つレイアン・グエンだ。彼女は次のように続けている。「マラソンにトレーニングプランが必要であるのと同じように、栄養の面でも、レース当日だけではなく、トレーニング期間を含めた栄養計画を立てることが大切です」
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トレーニングで適切な栄養補給を行わなければ、レース当日に苦労することになるだろう、とグエンは述べる。 人それぞれニーズは異なるが、活動レベルを上げる際は誰でも、エネルギー摂取量(食事の量)を増やす必要がある。
「ランナーは、主要栄養素である炭水化物、タンパク質、脂質をバランスよく摂取し、加えて果物と野菜を豊富に取り入れる必要があります」とグエンは語る。 また、この中でも炭水化物は主要なエネルギー源となるため、量を増やす必要があると付け加えている。
栄養についてトレーニング期間に参考にすべきヒント
トレーニングにおいては、事前の栄養補給が重要だとグエンは言う。消化の早い単純炭水化物を30~60グラムほど摂取することで、活力をアップしながら、トレーニング中の腹部の不快感を防ぐことが可能だ。 スポーツドリンクやアップルソース、フルーツスナックや数口分のエナジーバーを取り入れてみよう。
60~75分、またはそれよりも短いランニングを行う場合、トレーニング中の栄養補給は、水分と電解質の補給を除いて、特に必要ないケースがほとんどだとグエンは言う。 これがあなたにとって適切かどうか、登録栄養士に相談することを彼女は提案している。 これよりも長い時間走る場合は、持ち運びが簡単で、すばやく食べることができ、胃腸に負担をかけ過ぎない炭水化物を補給することを推奨している。
トレーニング中は1時間ごとに30~90グラムの炭水化物を補給することが理想的で、これはランニングの長さに応じて増やしていく必要がある。 これは、レース当日の栄養補給計画を立てることにも役立つ。 グエンは炭水化物と電解質を含んだスポーツドリンクやジェル、グミ、エナジーチュー、フルーツスナック、ドライフルーツ、チョコレートを含まないキャンディを試してみることを推奨している。
水分補給については、15~30分ごとに行う必要があるという。 問題なく食べ物や水分を摂れるよう、適切な水分と栄養を補給する練習をしておくことが非常に大切だ。
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グエンは、トレーニング後の栄養補給も同様に重要だと語っている。トレーニング後の胃は、燃料の補充を必要としている、空のガスタンクと同じだという。 「燃料を補充しなければ、次のトレーニングを『空の』状態で開始しなければならなくなります。これは怪我や疲労に繋がり、ワークアウトを完了することも難しくなってしまいます」
理想的なトレーニング後の栄養補給は、炭水化物、タンパク質、水分をトレーニング完了から30~60分以内に補給することだ。 「早ければ早いほど良いですし、何も口にしないよりは、何か口にした方が良いでしょう」と彼女は言う。
ヒント9:過程を楽しむ
あなたができる最も重要なことのひとつが、過程を楽しむことだ。 トレーニングを辛く感じることもあるだろう。心と体には大きな試練が待ち受けているかもしれない。しかし、常に楽しもうと心がけてみよう。 マラソンを走ることは、それ自体が大いなる偉業だ。そんな旅に出た自分の一歩一歩を称えよう。
文:タマラ・プリジット