音楽とモデルの世界に変革をもたらす2人
Culture
ともに19歳のトムとディーバは、業界の常識を覆し、若い世代にインスピレーションを与えるべく奮闘している。
ひとつになろう。離れていても、心はつながっている。ホリデー 2020 ルックブックに登場する注目の人物に、いま誰かとつながる大切さについて尋ねた。
ディーバ・ヘクマットとパートナーのトム・オースティンにとって、時間はいくらあっても足りない。
それぞれモデル、ミュージシャンというクリエイティブな10代。そんな2人にとってロックダウンの期間は、人種差別や社会変革などの難しいテーマについて語り合う絶好の機会であったと同時に、自分たちのキャリアの幅を広げる良いきっかけになったという。将来振り返ったとき、この時期を有効に使って何か成し遂げたと言えるようにしたいと2人は考えている。
「あの3か月、なーんにもしないでダラダラ過ごしてたなーなんて振り返って思うのは嫌なんだ」とトムは語る。ロンドンから車で1時間ほど北上したところにある小さな町で育ち、Niko Bの名で活動するラッパーだ。「だから、自分の部屋でいろんなことに取り組んでいるよ。5分前には存在しなかったものを生み出すのが好きなんだ」
そうやって生み出されたものの中にヒットシングル2曲があり、いずれも再生数は数千万回に上る。一方ディーバは、モデル兼アクティビストとしての道を切り開いている。Instagramを通じてモデル事務所に所属。人気上昇中の自身のプラットフォームを利用して、クリエイティブ業界に残る時代遅れの美の基準を覆そうとしている。クルディスタン出身でロンドン在住の彼女は、自分たちの世代が直面する問題について、Instagramで仲間と定期的に対話を行っている。
「人種や平等について話し合うことは簡単ではないけれど、すごく大事なこと」とディーバは言う。「自分が大事だと思うことについてはいつも全力で声を上げてきたけれど、ここ数か月間は、桁違いに声が響いてる」
Instagramでつながりを築き、固定観念や伝統的な道筋にとらわれない創造的な活動を幅広く展開する2人が、世界を変えるにはみんなが他者を支えたいという気持ちを引き出すことがいかに重要か、また彼らの世代がどのように困難に立ち向かっているかについて語る。
「5分前には存在しなかったものを生み出すのが好き」
トム
最近の多くの出会いやつながりがそうであるように、2人もソーシャルメディアを通して出会ったんだって?
トム:ディーバとの間に共通の知人がいて、「かっこいいな」と思ってフォローしたのが始まりだよ。それで気付いてもらうためにすぐにアンフォローしてまたフォロー。それでもスルーで、さらに5回、10回繰り返したよ。確か11回目に反応があったんだ。それで今。
ディーバ:今の関係だよね。
これもまた最近の傾向の1つだけれど、2人ともまだ19歳なのにもういろいろなプロジェクトに関わっているよね。自分たちの活動について聞かせて。
ディーバ:まず第一に、私はモデル。モデルとして活動してる。でもこの業界でここ数年、自分自身の考え方が明確になってきて、有色人種の若い女性やこの業界の私みたいな若者を支えるためのプラットフォームを作ることができた。モデル業界を改善したくて。
トム:音楽は間違いなく自分にとって一番大事。でも音楽を通じて、他のクリエイティブな領域にもたどり着けると思うんだ。具体的に言うと、自分のミュージックビデオの1つでディレクターを務めた経験。音楽を作りながら、映像も手掛けた。それからカバーに使う写真を撮る計画も。ビデオで着る服のデザインもできたらいいな。どんな創造の扉でもとりあえず開いて、中に飛び込んでみる。音楽、映像撮影、写真、そして「ファッション」って言葉は好きじゃないからアパレルって言おうか。そう、ほんとに全部だよ。
ディーバ、クリエイティブ業界で中東出身の女性として表現を追求してきた経験を聞かせて。
ディーバ:私のすべての活動の根底にあるのは、子どもの頃、クルド人や中東出身で自分と同じような活動をしている人をネット上で見なかったこと。それは私だけじゃなく、自分のお手本を見つけられない友達はいっぱいいた。それはほんとにがっかり。若い女の子は金髪で目が青いというような外見が一番で、昔からの西洋の美に価値を置く考え方を教え込まれてきたけど、それは現実的じゃないから。まったくおかしな考え方だし、無意味だと思う。
だから業界でもっと多様な美を受け入れるようにしないといけない。今のところ、業界で少しは多様性が増してきたと思うけど、それは私のいる側、つまりモデルやキャスティングの側だけ。これからは制作プロセスで何ができるかを考えるべき。舞台の裏側は相変わらずほとんど白人。たとえば、黒人モデルを12人起用してるからって進歩とは言えないと思う。舞台裏の制作側やチームがみんな白人だったら意味ないんじゃないかな。目に見えるところだけじゃ本当の多様性とは言えない。誰にとっても公平な考え方をしないといけないと思う。
音楽とモデル、それぞれの業界で、認識を変えようとする活動に対して、どんな反応がある?
トム:「マーマイト(英国の名物ともいえる食べ物の一つ。クセがあり好みが分かれやすい)みたいな感じかな。つまりわかる人もいればわからない人もいる。『この曲どうよ?前のが良かった。今回のはどうだろう?』って言う人もいるだろうし、『これはすごい。こんな音楽、これまでに聴いたことがない』つまり既存の音楽とは違って聴こえるって言う人もいる。それをプラスと見る人もいればマイナスと見る人もいる。すべてその人の考え方次第。僕の音楽が話のいいネタになるんだ。僕の音楽をみんながどう考えてるのか聞くのは本当に好きだな。その人にとって僕の音楽が何なのか、自分で判断してほしいと思ってるからね。
ディーバ:反応は本当にさまざまね。私の場合は、たくさんの若い女の子たちとつながってて、みんな『ありがとう』って言ってくれる。それはすばらしいこと。私が変化を起こそうとしているのは、そういう反応があるからこそなんだ。
トム:ほんと、ディーバはすごいよ。『子どもの頃、自分にもっとふさわしいお手本がいたらなあ、毛深かったり眉毛が濃かったりする女の子のお手本がいたら良かったのに』っていつも言ってた。それで女の子からのこんなコメントやメッセージを見せてくれるんだ。『いつも濃い眉毛のせいでいじめられていたけど、あなたのおかげで受け入れられるようになりました』ディーバは周りにそんなすごい影響を与えてる。
ディーバ:1人でも多くの女の子が見た目に関して嫌な思いをしないで済むようになれば、それは私にとってすごくうれしいこと。私の見た目だけじゃなくて、ルーツもポジティブな影響を与えられたら。日々テロリスト呼ばわりされるし、ゴリラとかチューバッカとかって呼ばれたこともある。腕がちょっと毛深かったりするだけで、そういう嫌な、ひどい呼ばれ方をしたら傷つく。だけど女の子たちにはそこをくぐり抜けて強くなってほしいと思う。
「1人でも多くの女の子が見た目に関して嫌な思いをしないで済むようになれば、それは私にとってすごくうれしいこと」
ディーバ
「ネットにアクセスするのなら、いつまでもいつまでもスマホの画面を眺めているだけじゃなく、誰かとつながり、何か価値のある会話をした方がいい」
ディーバ
あなたたちの世代が広範囲に人とつながれるようになったのはどうしてだと思う?
トム:単純にソーシャルメディアの力だと思う。昔、僕の父は100人に何かをアピールするためにポスターを1,000枚印刷し、歩き回って1,000枚のポスターを貼らないといけなかった。僕たちはInstagramとかいろんなソーシャルメディアに投稿するだけで、ストーリーやイベントを掲示できる。それで5分ぐらいの間に5,000人の目に触れることになる。ソーシャルメディアを通して扉を開き、変化を起こすチャンスは信じられないくらい膨大だよ。
ディーバ:ほんとそのとおり。ソーシャルメディアは前代未聞のツール。お金を稼いだり、情報を流したり、他の人を支援したりというふうに、良いことに使うことができるかと思えば、墓穴を掘って自滅することもある。でもそれは選択の問題であり、『どうしてスマホを使うのか、自分は何を求めているのか』という問題意識にかかっていると思う。
だから私は、ソーシャルメディアを通じて人々に変化を促したり、学ぶ意欲を後押ししたい。ただ無限にスクロールし続け、自分の見た目や今の自分、収入の多い少ないに落ち込むためだけにソーシャルメディアを続けたくはない。
ネットにアクセスするのなら、いつまでもいつまでもスマホの画面を眺めて大量の情報を見るだけじゃなく、誰かとつながり、何か価値のある会話をした方がいい。
「ソーシャルメディアを通して扉を開き、変化を起こすチャンスは信じられないくらい膨大だよ」
トム
ソーシャルメディアに加えて、今、さまざまな場所で、変化や現状打破への強い衝動や、渇望みたいなものが感じられるし、それに人びとの注目が集まっている。どうしてだと思う?
ディーバ:私たちの世代が極端に疲れているわけじゃないと思うけれど...ちょっとうんざりしてるのは確か。でもそれも本当に私たち次第。私たちの世代が中心になって変化を起こせたら、と心から思う。
自分の意見に全く賛成してくれない親と激しくやりあっている白人の子どもたちをよく目にするし、そんな動画もたくさんある。でも口論をしたり、ぶつかり合うことも必要だと思う。
私は自分が大事だと思うことについてはいつも全力で声を上げてきた。不平等なことや人種に関しては特にね。けど、ここ数か月間は、桁違いに声が響いてる。これはみんな内に閉じこもっているせいだと思う。積もって行き場のない怒りを、どこかに押しやらないといけない。
最後に、毎日つながっている数百万人とだけじゃなく、2人でどうやってお互いに助け合って団結してるの?
トム:ディーバには自分の活動を隠さず見せてる。ディーバの意見はすごく尊重してるんだ。ディーバが背中を押してくれるから。何かを作ると、それを誰かに見せるのが楽しみになるよね?それって、ただ自分が楽しんでやってるだけじゃないってこと。
ディーバ:私たち2人はお互いにまったく違うの。それぞれに創造力を発揮してる。私がうまくいってるところをトムが見て、トムのやる気につながる。トムに新しい仕事が入るとか、いろいろやってることを見て、「やったね、すごい」って思う。で、自分を高めるにはどうすればいいか考える。トムが刺激になって私を奮い立たせてくれるから。これは素晴らしいことだよ。
トム:そう言ってくれるとめちゃくちゃうれしいよ。
報告:2020年7月