心が免疫システムに与える影響
Coaching
ストレスや不安は侵入者を撃退する体の能力を弱める。下記の情報を参考にしよう。
最悪のタイミングで風邪をひいたことがあるだろうか。例えば、締切に追われているとき、人間関係に悩んでいるとき、家族にパーフェクトな休暇をプレゼントしようと考えているとき、金銭問題で疲れ切っているときなど。このような時に風邪をひくのは、おそらく運が悪かったからではない。あなたの免疫システムが何週間あるいは何カ月にもわたって重なったストレスに参っていたからかもしれない。
免疫システムのしくみ
さっとおさらいしよう:免疫システムとは、有害なウイルスや細菌から体を保護する最強の防御ラインとして機能する、細胞やタンパク質で構成された複雑なネットワークである。その免疫システムを強化するには、健康の他の分野に注目する必要がある。今回は、免疫ネットワークに直接影響を及ぼすメンタルヘルスを取り上げる。
脳と体は密接に関わりあっているので、心が乱れていると身体の他の部分の健康も損なわれる。「すべての免疫器官、つまりリンパ節、脾臓、胸腺などは、脳幹から脊髄に達する神経によって密接に連携しています」と言うのは、アンドルー・ワイル統合医療センターのリサーチディレクターで『The Balance Within: The Science Connecting Health and Emotions』の著者、エスター・M・スターンバーグ医学博士だ。「ストレスを感じると、これらの神経から放出される化学物質が免疫細胞の正常な機能を妨げるのです」
「すべての免疫器官、つまりリンパ節、脾臓、胸腺などは、脳幹から脊髄に達する神経によって密接に連携しています」
エスター・M・スターンバーグ
医学博士、アンドルー・ワイル統合医療センター リサーチディレクター
そのうえ、ストレスの多い出来事の間は脳の中心がフル回転し(闘争逃走反応という)、副腎を刺激してストレスホルモンのコルチゾール分泌を促す一連のホルモンを放出する。これらの神経化学物質とストレスホルモンが組み合わさると、呼吸や心拍数が速くなり、集中力が高まる。これは、選手権での優勝を目指す一流アスリートや熊に出くわしたハイカーにとっては良いことかもしれないが、長期的に見ると、慢性的なストレス反応は体に有害である。
「慢性ストレスは、辛い状況が数週間あるいは数年もの間続く、例えば人間関係や金銭のトラブルを抱えている時に生じます」と認定精神科医でウェルデン大学臨床心理学博士課程の上級教職員トレーシー・マーシュ博士は言う。急性のストレス要因(例えば、車の故障)が生じた場合は、緊急事態の脅威が過ぎると、即座に副交感神経系(「安静と消化」)が働いて、コルチゾール反応を逆転させるが、慢性ストレスの場合は回復が遅く、コルチゾールが常時分泌されるとマーシュ博士は語る。このため、炎症が継続して、免疫システムが侵入者を検知して攻撃する機能が妨げられ、さらに外部から侵入してきた異物や異質な細胞と闘うT細胞の働きも阻害される。
これは、慢性的なストレス状態に置かれた介護者の方が、介護をしていない人より免疫反応が弱い可能性が高いこと、またPTSDの人が自己免疫疾患を発症するリスクが高いことを示す研究を裏付けているといえる。
ストレスと病気の悪循環に陥らないためにはどうすればいいのか。そのヒントはこうだ。
1. 緊張の初期の兆候を見逃さない。
「多くの場合、心よりも体の方がずっと早くストレスを感じていることを教えてくれます」とワシントンDC在住の精神科医、エバ・ゲイモンドームズ医学博士は言う。不眠、体重の増減、胃腸障害、頭痛など、体に生じた問題を記録しておこう。このような問題は、ストレスが忍び寄っていることを、それが免疫システムに達するはるか前に示しているのかもしれない。
2. 健康的な生活を送ろう。
すでに健康的に過ごしているなら素晴らしいことだが、もしそうでなければ今から始めよう。定期的な運動、少なくとも7時間の睡眠、果物、野菜、脂肪分の少ないタンパク質(地中海料理など)を取り入れた食事によって、ストレスレベルが下がり、免疫システムが強化されるとスターンバーグ博士は話す。もし、それらすべてを実践することにストレスを感じたら(例えば休日などに)、少なくとも1つ優先することを決めておこう。
3. 大切な人とハグをしよう。
大切な人や家族と寄り添うと、結合ホルモンであるオキシトシンが分泌され、免疫を抑制するコルチゾールやストレスホルモンであるノルアドレナリンを低減するとマーシュ博士は言う。であれば、学術雑誌『サイコロジカル・サイエンス』に掲載された、ハグをすると病気をしにくくなるという研究にも納得がいく。体調が悪くなりかけたら、ひとまず、一緒に暮らしている人と過ごしていれば症状が和らぐかもしれない。マーシュ博士は、これはオキシトシンが痛覚閾値、幸福感、治癒プロセスに効果をもたらすからだと話しており、親身になって話を聞いてくれる人と話したり、仲の良い友人と一緒に過ごしたりするだけで、このホルモンが分泌されることに注目している。犬や猫といっしょに10分間丸まっているだけで、コルチゾールのレベルが下がる可能性があるとするワシントン州立大学の研究もある。
4. もっとマインドフルになろう。
「ストレスや不安を感じているとき、脳は身体が危害にさらされている状態とまったく同じように機能します」と認知行動療法の専門家でMind Your Strength CoachingのCEO、メラニー・シュモイス氏は説明する。「気持ちを落ち着かせて深呼吸し、視覚、嗅覚、聴覚を使って身の回りの環境に注意を向けると、危険はないことを脳が理解します。なぜなら、もし安全が本当に脅かされているなら、小休止できないからです」シュモイス氏は言う。「一度気持ちが落ち着くと、前頭前野という脳の論理的思考を司る部分が再び機能し始め、体内で安心感を生み出す思考を行うのです」
納得できただろうか?マインドフルネスに基づく療法と免疫システムを弱めるストレス、不安、うつ病の軽減は、200以上の研究のメタ分析により関連付けられている。マインドフルネスの瞑想によって、細胞の免疫力を向上させるとともに、ストレス関連の病気を減らすことができるとする別の研究レビューもある。
自分の環境に感覚を集中させることは、マインドフルネスの1つの方法である。また、アンドルー・ワイル博士の4-7-8呼吸法を実践し、呼吸に意識を集中させて、生活のストレス要因の除去を試みることもスターンバーグ博士は勧めている。これは、4つ数えながら鼻から息を吸い、7つ数えながら息を止め、8つ数えながらしっかり息を吐く、という呼吸法である。
5. 心が落ち着く活動を実践しよう。
先手を打つことが重要。「ストレスのないときに自分を振り返り、心を静める時間を取れば取るほど、ストレスが生じたときの対応能力が高まります」とゲイモンドームズ氏はいう。何をするのがベストなのか?同氏は心を落ち着かせるものなら何でもよいと言い、何もしないよりもする方がよいが、最低限20分間は1つの活動を行うことを勧めている。ウエイトリフティングをして気持ちが落ち着くなら、それもいいだろう。ヨガや読書でもいい。何を選ぶにせよ、心地良い睡眠や入眠につながり、安静時の心拍数、血圧、慢性的頭痛、腹痛を和らげ、集中力や生産性も高まるとゲイモンドームズ氏は言う。
以上の情報は、「幸せな心と健康な体」を目指すためのものである(これをマインドフルネスの新たな合言葉にして取り組んでいこう)。