ランに効く筋力トレーニング
Coaching
大臀筋、大腿四頭筋、ハムストリング、コアを強化するエクササイズ。体のバランスと安定性を向上させよう。
長い間、ランニング愛好者の間では、「優れたランナーになりたければ、とにかく走れ」というのが定説だった。筋力トレーニングでランのスキルを強化するのは変わり者の発想。ランニングに悪影響をもたらすとさえ考えられていた。つまりウェイトを持ち上げれるトレーニングは、貴重なランの時間を奪うだけでなく、筋肉が肥大してペースが落ちるという説である。Nike Runningのグローバルヘッドコーチを務めるクリス・ベネットは、そんな時代を振り返る。ランナーはただ走ればいいのだという考えが、数十年間にわたって信じられてきた。
だが幸いにも、そんな説は過去の話。脚の筋力と持久力がアップすれば、フォームが改善して少ない労力でハードなランに取り組めるようになるというのが現代の常識だ。つまりは、けがの頻度が減るということである。「筋力トレーニングは、けがを防止するための安全対策」とクリスは断言する。
認定理学療法士でNikeパフォーマンスカウンシルにも所属するデレック・サミュエルは、まさにこの現代理論をアスリートに説いている。「ランニングをトレーニングの中心に据えるランナーや、唯一のエクササイズと位置づけるランナーはたくさんいます。でもそのせいで、膝痛に悩まされるランナーが後を絶たないのです。ランニングだけでは、関節を良好な状態に保つための筋肉が鍛えられません。ランナーに必要な筋肉をつけるには、筋力トレーニングが欠かせないのです」
「筋力トレーニングは、けがを防止するための安全対策」
クリス・ベネット
Nike Runningグローバルヘッドコーチ
ちょっとした変化を取り入れる
リバースランジに取り組んでみよう。
定番の筋力トレーニングだが、ランナーにとって数多くのメリットがある。「リバースランジにはバランスが必要になるため、ランニングフォームの改善につながります。ランジの動き自体が大臀筋、大腿四頭筋、ハムストリングを強化するので、ランをパワーアップさせ、膝をサポートして安定性を強化してくれるんです」とクリスは語る。エクササイズ中にコアが体を安定させるので、腹筋、腹斜筋、腰も強化できるのだ。
また、ランジの動きはランニングの動きも向上させる。(走る動きをスローモーションで見れば、1回1回がミニランジのような動きであることがわかるだろう。)さらに、ランジは一度に片脚だけを使う動きなので、左右の筋肉のバランスをチェックすることもできる。バランスが悪い場合は、弱い側のランジを多めにするか、硬くなった部分をフォームローラーでほぐして対処しよう。
脚を前に出すフォワードランジではなく、後ろに出すリバースランジを選ぶ理由は、適切なフォームをキープしやすい動きだから。フォワードランジでは前脚の膝が足首よりも前に出ることが多く、膝に負荷をかけてしまう。だが脚を後ろに出す動きならそんな負担も減らせるのだとクリスは言う。(この理論は韓国の研究でも実証された。研究者がフォワードランジ、リバースランジ、ウォーキングランジを比較したところ、リバースランジは、膝のけがのリスクが少なく、脚の筋繊維により強く働きかけるという結果が出ている。)
動きに慣れるため、まずは筋力トレーニングにリバースランジを取り入れ、左右で5回ずつやってみよう。最初は効果を実感できなくても、1週間後には脚が強くなって10回できるようになるとクリスは語る。簡単だと感じるようになったら、ランジで体を下ろした時に毎回姿勢を5秒間キープしてみよう。それでも物足りなかったら、次は3ポンド(約1.5kg)のダンベルを持ってチャレンジ。さらに鍛えたければ、ダンベルを持ったまま5秒間のキープも加えてみる。
「段階的にレベルを上げていけば、いきなり回数を増やしてけがをするより高い効果が期待できます。少ない回数からでも、ランをレベルアップさせることができますよ」
リバースランジの方法
両足を腰幅に開いて立ち、手は腰の上に置く。この姿勢からスタート。片脚を後ろに一歩引き、両脚が90度の角度になるまで曲げる。前の太ももが床と平行になるまで下ろして、膝は足首の上に来るようにする。前足を床に押し付けながら、後ろ脚を前に戻し、最初の姿勢に戻る。左右を替えて繰り返す。これで1回。
動きの効果を高めるために
体を引き締め、動きを常にコントロールしよう。最初から最後まで、肩は水平に保ち、上半身をまっすぐ伸ばして腹筋を引き締めたままにする。ランニング中と同じように、上半身が揺らいだり、前かがみになったりしないように注意。
前脚に集中しよう。リバースランジでは、前脚のなかでも特に大臀筋と大腿四頭筋がポイントだ。この筋肉を引き締め、安定した状態をキープするように心がけながら脚を後ろに踏み出し、力強く最初の姿勢に戻る。
前脚の膝は床と垂直に立てること。関節への負荷を減らすため、前脚の膝が左右に傾かないようにする。
さらに進歩するためのヒント
01. プランクの姿勢をキープ。
このエクササイズではコアが鍛えられるので、ランニング中に上半身がふらつくのを防ぎ、エネルギーを節約できる。また、肩を強化する効果もあるため、腕を振るのが楽になるとクリスは語る。頭から足首まで一直線になるようにして(背中が下がったり、腰が上がったりしないようにする)、肩の真下に手首がくるようにし、腹筋、大臀筋、大腿四頭筋を引き締める。この正しいフォームを1分間キープすることを目標にしてみよう。
02. 「ランニングアーム」に挑戦。
クリスおすすめの定番ドリル。フォームの改善、また効率と持久力の向上に役立つ。つまり、もっと速く、もっと遠くまで走れるようになるエクササイズだ。両手にそれぞれ2-3ポンド(約1-1.5kg)のダンベルを持ち、走っている時のように腕を動かす。肘をまっすぐ後ろに引き、両腕を体の脇に近づけた状態に保つ。30秒間続けたら休憩を入れて、また30秒間動かす。これを2セット繰り返そう。ダンベルの重さは3ポンド(約1.5kg)以上にしないのが、クリスからのアドバイス。このダンベルはフォームを意識するためのもので、上腕二頭筋を鍛えるためのウェイトではない。
03. カーフレイズに取り組む。
ふくらはぎを鍛えると、走る際に地面を押し出す力が強くなり、アキレス腱も保護できる。(アキレス腱が伸びる、または断裂するのは、ランニングで最もよくあるけがの1つだとデレックは語る。)レイズを行うには、両手を腰に置いて立った姿勢からつま先立ちをする。この姿勢を2秒間キープしたら、ゆっくり体を下ろして最初の姿勢に戻る。これで1回。15回を1セットとして、3セット行う。簡単すぎると感じる場合は、片足ずつ上げてみよう。その際、反対側の足は床から数センチ離した状態をキープすること。