専門家に聞く、激しいワークアウトをした後の筋肉痛の対処法
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4名の医療従事者が、痛みを和らげながら早期に回復する方法と予防のコツを伝授する。
筋肉痛は筋力を高めるうえで大切な行程だが、痛みにも限度がある。 筋肉に痛みを感じると、次のワークアウトのモチベーションが下がるだけでなく、運動機能や身体的パフォーマンスにも一時的に支障を来す場合がある。
運動後約24~72時間後に感じることが多い筋肉痛を、遅発性筋肉痛(DOMS)という。症状は圧痛からより深刻な痛みまでさまざまだが、ある研究では、運動に慣れていない人や運動から遠ざかっていた人に起こりやすいとされている。 例えば、オフを過ごしてトレーニングに復帰したアスリートは、シーズンの終盤よりも痛みを感じやすくなる。
ワークアウト後の筋肉痛対策として鍵となるのが、予防だ。ただし予防することを忘れて、脚を引きずりながら家を歩き回る羽目になったとしても、痛みを軽減する方法はまだ残されている。 ここでは専門家の助言を借りながら、筋肉の回復を助ける方法を紹介しよう。 ただし、過剰な違和感が何度も起きるような場合には、怪我などの重い症状が進行している可能性もある。 痛みが治まらなければ、かかりつけ医など医療従事者への受診を検討してほしい。
筋肉の早期回復に役立つ方法とは?
1.すぐに運動をやめない
激しいワークアウトをすると、すぐにシャワーを浴びて横になりたいという誘惑に駆られることもあるだろう。この衝動に負けてはならないと語るのが、キャロル・マック。 理学療法博士で、ストレングス・コンディショニング・スペシャリストでもあり、ストレングスコーチとしてCLE Sports PT & Performanceも主催している。
「激しいワークアウトの後の筋肉痛を和らげるには、ゆっくりと体を動かすのがいちばんです」と語る彼女によれば、20分の遅いウォーキング、ゆっくりとしたヨガのフロー、軽いジョギング、ゆったりとしたサイクリングなどが効果的だという。 ただしこれらの運動は、楽すぎると感じる程度に抑えなければならない。ここではパフォーマンスの向上は目指しておらず、筋肉にゆっくりとクールダウンを促しているだけなのだ。
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例えば、2003年の『Sports Medicine』誌に発表された研究では、この種の運動はDOMSの痛みを和らげるために最も効果的であることが判明しているが、その効果は一過性であるともされている。 つまり、穏やかな運動は短期的には有効だが、他の手段も取り入れた方がよいということだ。
2.鎮痛薬を試す
炎症や痛みの緩和効果をうたうジェルやクリームには、さまざまなものがある。 そのすべてに文字通りの効き目があるわけではないが、役に立つ製品も多いと語るのは、ユタ州のMountain View Pharmacyで薬剤師を務める薬学博士、ダニエル・ブライシュだ。
「外用薬を用いた鎮痛療法は、痛みが集中している特定の部位に狙いを定められるという利点があります。経口薬で懸念される、全身性の副作用を最小限に抑えられますね。 ひとつ残念なのは、処方の強さに応じて、1日に2~4回塗らなければならない製品が多いことです」とブライシュは言う。
ショルダープレスによる肩の痛みや、ランニングによるふくらはぎの痛みなど、1カ所に軽い痛みがある程度なら、塗り薬がすぐに症状を和らげてくれるだろう。
3.スポーツマッサージを予約する
あらかじめ激しい運動をすると分かっているときは、その後にマッサージの予定を入れておけば、優れた効果を期待できる。 2017年の『Frontiers in Physiology』に掲載された研究レビューでは、激しい運動の後にマッサージ療法を受けると、DOMSの緩和や筋力向上に効果があることが明らかになった。
こうした効果が得られた背景には、皮膚温や筋肉温の上昇、血流やリンパ流の改善など、さまざまな要因が起因しているだろうと研究者たちは記している。 また、マッサージをすれば副交感神経が活性化されやすくなるため、リラックスするまでの時間が短縮され、筋肉の緊張やこわばりが減って、筋肉痛を全体的に抑えられる。
しかも、ワークアウトとマッサージを同じ日に行う必要はない。 先述の2017年のレビューでは、マッサージで最も高い効果が得られるタイミングは、運動の約48時間後とされている。 ただしスポーツマッサージを受ける際は、事前にかかりつけ医など医療従事者の判断を仰ぎ、怪我のリスクを避けるようにしよう。
4.回復に有効なものを食べる
運動後の食事や軽食の内容を吟味すれば、筋肉痛や疲労感を軽減するうえで、ストレッチや痛み止めクリームなどの直接的な対策と同等の効果を期待できると語るのは、カナダのマニトバ州ウィニペグで登録栄養士、スポーツ栄養の専門家として活動するステファニー・フナチュークだ。
彼女は他にも、運動後1時間以内に、たんぱく質と炭水化物を一緒に食べることを勧めている。一般的には、たんぱく質25グラムと炭水化物50グラムを摂ればいいようだ。 具体例としては、ギリシャヨーグルト1カップと果物、たんぱく質が豊富なスムージー、ツナサンドなどが挙げられるだろう。
「たんぱく質は傷ついた筋肉の修復と生成、筋肉痛の緩和、回復時間の短縮に効果的です。 炭水化物は、筋肉にエネルギーとして蓄えられているグリコーゲンを補充するために必要です。それによって次のトレーニングの質が高まり、回復が早まるでしょう」とフナチュークは言う。
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5.ワークアウト前にフォームローラーを使う
筋肉痛を抑えるために、ワークアウト後にフォームローラーを使う人もいるだろうが、この有効性は研究で完全に裏付けられているわけではないと語るのは、リン・ミラー博士。 理学療法士であり、ノースカロライナ州のウィンストン・セーラム大学で理学療法学科長を務めている。
「エクササイズ後のフォームローラーの使用が、筋肉の成長の一部である通常の治癒過程に影響を与えたり、痛みを軽減してパフォーマンス向上を促進したりするという推測を裏付けるような研究は全く存在しません」と博士は言う。
だからといって、フォームローラーをただの流行と片づけるわけにもいかない。 2021年の『Journal of Sports Science & Medicine』に掲載された研究では、ワークアウト前にローラーとダイナミックストレッチを併用すれば、とくに可動域の面で著しい回復効果が得られることが明らかになった。 メイヨークリニックによれば、これは筋膜リリースという現象が促されるためだという。つまり、筋肉と関節の周囲を覆っている固い膜の弾性が向上するのだ。 こうなると、体を動かす際の制約は小さくなる。
6.進歩は着実に
さほど激しくないトレーニングの後でも、ワークアウト後にはいつも筋肉痛になるという場合には、ワークアウトの進度が速すぎる可能性があるとミラーは言う。 回復を強く意識しながらトレーニングプランを調整すれば、筋肉の回復を促すことができる。 また、本来の意図に沿うように、ワークアウトの強度を再調整しておこう。 言い換えるならば、休養をしっかり取りながら、ワークアウトに力を尽くすことだ。 目標は、ワークアウトで常に体を酷使するのではなく、体に回復時間を与えてやること。
「運動後の筋肉痛を抑えつつ、回復力を高められると証明されている唯一の方法は、運動を段階的に進めていくことです」とミラーは言う。
では、トレーニングで無理ばかりしていないかを判断する方法はあるのだろうか。 マックによれば、ワークアウトをしていない間でも疲労感を覚えたり、イライラが募ったり、あまり眠れなかったり、緊張感やストレスを感じたり、モチベーションが減退したりするといった、痛み以外のオーバートレーニングの徴候が表れるはずだという。 他にも座り心地が悪くなったり、腕を頭よりも高く上げにくくなったりと、痛みのせいで体の動きに支障が生じることもある。
ある程度の痛みは誰にでも起きる当たり前のことで、激しいワークアウトの後であればなおさらだ。 ただしマックによれば、ふつうではない痛み、なかでも、鋭くズキズキする痛みには注意が必要となる。疲労骨折やねんざ、その他の使いすぎによる怪我に多く見られる症状であるため、医師の診察を受けた方がよいという。
文:エリザベス・ミラード