屋外でのランニングとトレッドミルでのランニングの違いについて知っておくべきこと
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トレッドミルか、屋外か。それぞれのランニングのメリットとデメリットについて、3人の専門家が解説。
健康を増進して寿命を伸ばし、エンドルフィンの放出にも役立つ。数あるワークアウトの中で、昔からほぼ一貫した評価がなされている種目といえばランニングだ。 トレッドミル、トレイル、トラック。走る場所に関わらず、それぞれのランニングにたくさんのメリットがある。 そこで質問。トレッドミルでのランニングには、屋外でのランニングと比べて、どんなメリットやデメリットがあるのだろうか?
まずはそれぞれの役割を理解しよう。 たとえばトラックでのランニングは、スプリントやインターバルのようなスピードトレーニングに最適だ。 一方のトレッドミルは、現地のランニングルートを知らない場合や、天候や地形などが不確かなときに役立つ。 屋外とトレッドミルのどちらかを選ぶ際には、スキルレベルや目標といった要素に加え、現在利用できるマシンやトラックは何かを把握し、最も便利な選択肢を検討すればよい。 屋外でのランニングとトレッドミルでのランニングについて、知っておくべきことを紹介しよう。
トレッドミルと屋外の違いは?
「トレッドミルにも、屋外のランニングにも、双方にメリットがあります。どちらを選ぶかは、主に個人の好みと環境によるでしょう」と、デイビッド・ジョウ(理学療法士)は語る。
トレッドミルと屋外でのランニングに認められる主な違いのひとつは、それぞれの運動で要求されるランニングメカニクス(走行フォームや走行技術)だ。そう説明するのは、ユスフ・ジェファーズ (NASM認定パーソナルトレーナー)だ。
屋外のランニングでは、体を前進させる力を常に生み出さなければならない。そのため、パワフルで効率的な背面のメカニクス(つまり適切なフォームの維持)が必要になる。 効率的な背面のメカニクスは、ハムストリング、大臀筋、ふくらはぎなど、走行時のパワーを生み出す背面の筋肉の働きに関連してくる。
一方のトレッドミルでは、ベルトが足の下で自動的に回っているので、背面の筋肉の働きをある程度肩代わりしてもらえる。 トレッドミルランニングのデメリットの一つは、マシーンによるパワーの肩代わりに起因する。トレッドミルではストライドが小さくなり、フロントサイドメカニクスが制限される可能性があるのだ。フロントサイドメカニクスは、体の前側のフォームを決め、足首の背屈、股関節や膝の屈曲、ニュートラルに保つべき骨盤の位置に影響を与える。
トレッドミルでのランニングのメリットとデメリット
「トレッドミルは、ランニングのレパートリーに加えたいツールです」とジェファーズは言う。 トレッドミルの主なメリットとしてジェファーズが挙げるのは、空調の効いた室内に置かれていることが多く、屋外のランニングでは不可能なスピードや傾斜の角度調節といった条件をコントロールできることだ。
またトレッドミルのベルトは地面とまったく異なるクッションの役割も果たし、長期にわたる骨や関節の健康維持にも役立つ。 アクティブリカバリーとしてトレッドミルでウォーキングをしてもいい。
トレッドミルは、表面が通常平坦で凹凸がないうえ、ベルトの構造のおかげで屋外よりも足への衝撃が少ない。そのため関節への悪影響を減らせる可能性もあるとジョウは述べている。 関節の機能障害や痛みなど、けがからの回復を目指す場合にはトレッドミルでのランニングが有効である(ジョウ談)。
心血管系の疾患、平衡感覚の障害、めまいなどがある人や、手術や下半身のけがからの回復過程にある人は、トレッドミルでのランニングが最適な手段かどうか、医療専門家に相談してほしい(ジョウ談)。
トレッドミルでのランニングは、比較的負荷の低いアクティビティとみなされている。だがシューズがフィットしていなかったり、健康状態が完全ではなかったり、ランニングメカニクスに問題があったりといった個人別の要因によってけがが生じる可能性もある(ジョウ談)。
ランナー膝、シンスプリント、疲労骨折、アキレス腱炎、足底筋膜炎、筋肉のアンバランスは、トレッドミルでは悪化するおそれもある。道路でのランニングに比べて路面の状態に変化がなく、同じ動作を延々と繰り返すためだ(ジョウ談)。
トレッドミルでのランニングは、ランニング初心者に有効だ。傾斜やスピードを調節したり、ペースやワークアウトの強度をコントロールして走行スピードを一定に維持したり、インターバルトレーニングの練習にも使えたりするからである(ジョウ談)。 そして空調の効いた環境でトレーニングできるため、天候のような予測不能の外的要因に煩わされずワークアウトに励める。 そのため、トレッドミルを取り入れたワークアウトは成功につながりやすいといえる(ジョウ談)。
ただし、ベルトが平坦で凹凸がないトレッドミルでは、ある特定の筋肉群を鍛える効果が屋外ランニングに劣る可能性もある。 直線コースで安定して走れるトレッドミルは、屋外のように多様な地形を走る練習にならないこともある。 屋外で走る際には、これから走る路面の状態、坂のアップダウン、気温の変化について事前に調べておきたい。
屋外は、路面の状態が多様で傾斜もある。そのため前脛骨筋(すねの前側)、ふくらはぎの筋肉、股関節の外転筋と内転筋など、足首から足先を安定させる筋肉の使い方がトレッドミルとは異なってくる。
「トレッドミルランニングは、ランニングの第一歩としておすすめできます。しかし屋外のランニングでは、平坦ではない路面や坂道を進むために多様な筋肉(特に脚部)を使います」とジョウは話す。
トレッドミルだけでランニングをする人は、ベルトが平坦で変化のない路面を走ることから、ハムストリング、大臀筋、ふくらはぎ、腰を安定させる筋肉、股関節の内転筋と外転筋(脚を内側や外側に動かす筋肉)が十分に発達していない可能性もある(ジェファーズ談)。
トレッドミル上の前方移動を繰り返すことで股関節屈筋が硬くなり、平坦な路面がバランスや安定性への負荷を減らして大臀筋や体幹の筋力を衰えさせる。トレッドミルの使用に伴って生じるこのような不具合が、下位交差性症候群のような筋肉のアンバランスに発展する可能性もある(ジョウ談)。
トレッドミルでのランニングで、屋外でのランニングに匹敵するワークアウト効果を目指すには、傾斜を1.0に設定すればいい。そう語るのは、登録栄養士、運動生理学者の肩書を持つジェイソン・マホフスキー (認定ストレングス・コンディショニングスペシャリスト)だ。
屋外でのランニングのメリットとデメリット
トレッドミルとは異なり、屋外では自分の力と地面の反発からスピードとパワーを生み出さなければならない。そのため、ランナーをより力強く成長させられる可能性がある(ジェファーズ談)。
風景、自然、人、障害物といった環境の変化を体験できるので、屋外でのランニングは精神的な刺激も得られる(ジョウ談)。 一般的に、運動には認知機能を高める効果があることがわかっている。 そして自然にも、認知機能やメンタルヘルスを向上させる働きがあることが研究で示されている。 屋外でのエクササイズは、屋内での運動より脳への効果が高いことを示唆する研究もある。 たとえば、注意力、記憶力、抑制機能(行動、思考、感情の衝動をコントロールする働き)の向上が期待できる。
社会的な交流の一環として、屋外でのランニングを利用することも可能だ。 たとえばパートナーや友人と一緒に走ったり、また地域のランニンググループでジョギングをするなら屋外がいい。 2022年の研究によると、パートナーと一緒に走るランナーは大幅に増加している。また複数人が集うランニングセッションの数も増えている。 ランニング仲間を得られたことでランナーへの社会的なサポートを感じられ、また他者との関係や比較において肯定的な意識を持てたと答えるランナーが多かった。
屋外でのトレーニングは、あらゆるレースの準備にも役立つ。 完璧に準備してスタートラインに立つために、参加予定のレースのコースをシミュレーションしておきたい。 マホフスキーがすすめるのは、長い坂道や急カーブの練習。レース当日まで期間があれば、コースの別の箇所で練習してもいい。道路が通行禁止になったら、レース当日のために大事を取って道路でのランニングは休もう。
しかし住んでいる地域によっては、屋外でのランニングが困難を伴うこともある。 また屋外でのペースのコントロール方法を最初から身につけるのは難しい。トレッドミルのように走行ペースを設定できず、走る路面も常に変化するからだ。だがひとたびペース感覚を体得すれば、より効率的に走れるようになる。 コンクリートやアスファルトのような硬い路面の上を走ると、関節や骨のけがを引き起こすおそれがある(ジェファーズ談)。屋外ランニングの負荷に耐えられる筋力がついていない場合は特にそうだ。
関節や骨のけがが心配な場合は、同じ屋外でも草地や芝の上、陸上トラック、トレイルなどの柔らかい場所で走ることをマホフスキーは提案している。
屋外のランニングでは、路面の変化、風、気温といった環境の変化も考慮したい。このような変化は、すべて、ペース、ワークアウトの強度、パフォーマンス全般に影響を及ぼす可能性がある(ジョウ談)。
関節や骨のけがを防ぐために、マホフスキーがすすめる2つのエクササイズを試してみよう。
1.ダブルレッググルートブリッジからシングルレッググルートブリッジ
マホフスキーからのアドバイス:大臀筋が働くのを感じるはずだが、首、背中、膝に痛みや緊張が生じないようにしよう。
- 仰向けになり、膝を曲げ、足の裏を床につけ腰幅に開く。 息を吐いて腹筋に軽く力を入れる。
- 大臀筋に力を入れて引き締めながら、かかとで床を押して腰を持ち上げる。 膝の外側でバンドを押すようにイメージし、内側に倒れないようにする (初心者は、膝が内側に倒れるのを防ぐために、膝の周りにレジスタンスバンドをつけてもいい)。
- 腰が左右どちらかに傾かないようにキープし、大臀筋に力を入れたままにすること。
- 2~3秒この姿勢をキープしてから、コントロールしながら腰を下ろして最初の姿勢に戻る。
- 最初の姿勢から、左膝を胸に引き寄せる。
- コアと大臀筋を引き締め、右のかかとで床を押して腰を持ち上げる。 左右の腰の位置をそろえること。左右で高さがずれないようにする。
- 2~3秒この姿勢をキープしてから、コントロールしながら腰を下ろして最初の姿勢に戻る。
- 左側でも、ダブルレッググルートブリッジ、シングルレッググルートブリッジの順に繰り返す。
- 8~12回で1セットとし、2~3セット行う。
2.シングルレッグルーマニアンデッドリフト
- まず、足を腰幅に広げて立つ。
- 右脚でバランスを取り、左膝を軽く曲げて左脚を床から少し持ち上げる。
- 腰を折って上体を前傾し(お尻を後方に突き出すイメージで)、左脚を後ろに伸ばす。 左膝は少し曲げたままにし、足、膝、腰の高さをそろえること。 左右の骨盤の前面が床を向くようにする。
- 2~3秒この姿勢をキープしてから、コントロールしながら脚を下ろして最初の姿勢に戻る。
- 8~10回で1セットとし、左右で2~3セット行う。
結論:トレッドミルか屋外か
「全体的に考えて、トレッドミルでのランニングも屋外でのランニングも、効果のあるトレーニング方法だと言えます。自分の目標や好みに応じて決めるのがベストでしょう」とジョウは語っている。
判断できない場合は、スポーツパフォーマンスに関する専門知識を持つ有資格の理学療法士やランニングコーチにベストなアプローチを相談するといい。
自分に最適なランニングを判断する方法はもう一つある。 自分の強みと弱みを知ろう。ランニングコーチや理学療法士に相談すれば力になってくれるはず。 バランスの取れたランナーになるために、強みだけでなく弱みにも目を向けることが大切だ。
短期目標と長期目標を立てることも重要となる。 たとえば、5Kを目標にトレーニングをする初心者や自分でペースをコントロールする方法を身につけようとしている人は、トレッドミルで短めのインターバルの練習をすると、一定のペースで走る感覚がつかめるかもしれない(ジェファーズ談)。 経験豊富な人は、屋外の坂道トレーニングを繰り返し、パワーやランニング効率の向上につなげるといいだろう。
「屋外だけで走っているランナーや、トレッドミルだけで走っているランナーには、両方で走ることをおすすめしています」とジェファーズは語る。また初心者にはスピードトレーニングとしては屋外でのランニングをすすめ、距離を延ばしたいときはトレッドミルを使うようアドバイスしている。 「1つのやり方だけで満足できる、誰にでも有効な解決策などありません」
マホフスキーは、「ランニングを習慣にすることが最も重要です」と言う。トレーニングの場所について細かい知識を得たり、目標に向けて最も効果的な方法を判断したりするのは後からでもいい。
最後にジョウがすすめるのは、自分がモチベーションを保てる方法で取り組むこと。一般的に、トレッドミルと屋外のランニングを両方とも習慣にして、健康全般とパフォーマンスを最大限に高めることがプラスの効果につながる。
よくある質問
トレッドミルと屋外、どちらのランニングが効果的?
どちらか一方が他方より優れているというわけではない。 どちらのトレーニング環境が適しているかは、短期目標と長期目標によるし、個人の好み次第だ。
屋外でのランニングは、トレッドミルでのランニングよりきつい?
屋外で走る場合は、路面の状態、気温、高低差など、自分ではコントロールできない環境的な要素があるため、トレッドミルでのランニングよりきついことがある。
文:タマラ・プリジット