走るときはウェイトベストを着た方がよい? エキスパートがメリットとデメリットを解説
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ウェイトベストを着用して走れば、有酸素運動と筋トレを同時に行える一石二鳥の効果があるのは事実。ただし、覚えておくべきいくつかの注意点がある。
ウェイトベストを着用してランニングをするメリット
認定パーソナルトレーナー(C.P.T.)、RRCA認定ランニングコーチ、そしてUSATF認定の陸上コーチとしての肩書を持つメーガン・ケニハン氏によれば、 ウェイトベストを着用して走ることには、いくつかの明らかなメリットがあるという。
最も顕著なのは、身体の位置と足の着地方法がウェイトベストの使用によって強調されるため、走行時のバランスを改善できる点だ。
「ウェイト付きのランニングではより多くの力を発揮するよう身体が鍛えられるため、スピード向上にも役立ちます。トレーニング後にウェイトなしで走ると、身体は同じ力を発揮する方法を覚えているため、トレーニング前と比べて速く走れるようになるのです」とケニハン氏は言う。 「もう1つの利点は、心血管系が強化されるため、ランニング効率が向上することです。」
ウェイトベストを着て走ると、身体を前進させるためにより激しい全身運動が必要になるとケニハン氏は言う。 これにより心拍数が増加し、血液を筋肉に送るために心臓のポンプ機能がより速くなる。 その過程において懸念される心臓血管系の問題を抱えていない限り、この効果はパフォーマンス向上につながるとのことだ。
ただし、体力が弱まってけがをしやすい状態にある人や基礎疾患を持っている人の場合は、ウェイトベストを着用して走ると、合併症のリスクが高まる可能性があるという。 ウェイトベストを着用して試走する際は、事前に必ず医師または医療専門家に相談し、そのような不安を解消しておこう。
研究者の知見
ウェイトベストのメリットとデメリットに関する研究の数はまだ限られており、その理由としては、被験者数が少いこと、対象期間のタイムフレームが短いこと、あるいはその両方が挙げられる。
とは言え、ウェイトベストを使用したトレーニングがランナーに恩恵をもたらすことを示す結果がいくつかある。 たとえば、2012年に学術誌『The Journal of Strength and Conditioning Research』で発表された小規模な研究では、ウェイトベストがランナーの敏捷性をわずかに改善させるのに役立つことがわかった。ベストを外した状態でジャンプすると、着用前と比べてより力強いジャンプができることが示されたのだ。
同じ学術誌に掲載された2021年の研究論文では、体重の10%に相当するウェイト付きのベストを着用すると、ベストを着ないで走るよりも多くのカロリーが消費されることがわかった。 これは、被験者が身体活動を行わずに1日8時間、3週間にわたってウェイト付きベストを着用したところ、ベストを着用しなかったグループと比較して顕著な体重減少が見られた臨床試験と似ている。
また、ウェイトベストを使用したスプリントパフォーマンスのトレーニングに関する11の研究論文を再検証した結果、ベストを使用したケースでは血中乳酸量の値が改善され、ランナーが疲労するまで長時間にわたってスプリントに耐えられることがわかった。 ウェイトを何も付けていない空のベスト(通常は約2kg)など、より軽量のベストでも、長距離ランでは役立つことが示されていた。
しかしながら、ベストの負荷にはバラつきがあり、体重の5~40%と大きく異なっていたため、全体的な効果を判断するのは困難だった。 そのため研究者たちは、スプリンターと持久走ランナーのトレーニングのメリットを判断するには、今後の研究で最適な負荷と量を詳しく調べる必要があると結論付けた。
注意すべき潜在的なデメリット
理学療法士(D.P.T.)でありFlexibility Physical Therapyのオーナーでもあるレイチェル・マクニール氏は、ランニングはウォーキングと比べて身体にはるかに大きな力をすでに生み出しているという点に注目すべきだと述べている。 たとえば、ランニング中はかかとで着地するたびに体重の3~4倍の力が発生するとマクニール氏は指摘する。
「私たちは、けがのリスクを減らすために、これらの力を常に軽減しようとしているのです」とのことだ。 「ウェイトベストは関節に圧縮力をかけて全身に影響を与えますが、これは直感に反しています。 ランナーにとっては、ジムでの筋トレセッションでシンプルにウェイトを持ち上げる方がよほど効果的です。」
他のデメリットとして、ウェイトベストを着用すると思うように速く走れなくなるため、ランニングのフォームを手放す方向に身体のメカニズムが変化してしまう可能性があるとケニハン氏は付け加える。 ウェイトが軽めであればより直立姿勢で走ることが可能になり、姿勢が改善される可能性があるものの、ウェイトが重くなると、前か後ろに傾いたり、歩幅を調整したりして、新しい方法で補おうとする力が働くからだ。
「また、ウェイトベストで上半身に負荷をかけ過ぎると、脊椎のけがや姿勢の悪化につながる可能性があります。重すぎるベストの着用は、全体的に猫背の姿勢につながりやすいのです」とケニハン氏は注意を促す。 このケースは、特に体幹(コア)が鍛えられていない場合に当てはまる。コアが強ければ、ベストをより効果的に利用できるようになるだろう。
結論
他のさまざまなタイプのフィットネスイクイップメントと同様、ウェイトベストの是非は、個人の好みと、それがどのように個人に影響するかによって決まる。 ウェイトベストに絶大な信頼を寄せて使用する人もいれば、反対に脊髄損傷のリスクを高めてしまう人もいる。 そのため、ウェイトベストを試着する前に、医師または理学療法士に確認することが非常に重要だ。
ベストを試してみる際は、ランニング中に身体にぴったりフィットするものを選ぶことをケニハン氏はすすめている。 ウェイトを身体の前面に付けると、走る際に前に押し出される感覚を味わえるが、前面だけではなく、胴体の周りに分散して均等に重さを感じられるようにする必要がある。また、重量が体重の10%を超えないように抑えなければならない。
「できれば重さを調整できるタイプのものが理想的です。そうすれば、何も付けない状態から始めて、徐々に最大容量まで増やしていけるでしょう」とケニハン氏。 「ウェイトベストを着て走るのは1回につき数分間から始めて、時間と重さを増やしていくのはゆっくりと徐々に進めていきましょう。」
文:エリザベス・ミラード