ベアフットランニングの意義 — 挑戦する価値はいかに?
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シューズを脱ぎ捨てたら、パフォーマンスは向上する? 裸足でのランニングのメリットとデメリットについてエキスパートが解説。
裸足(ベアフット)でのランニングについて、多くの人は自分と無関係で、路面によっては少し危険なものと考えているが、エキスパートによれば、長い目で見た場合にいくつかのメリットが考えられるという。 しかしそれは、シューズはもう要らないということなのだろうか?
第一、ベアフットランニングは最近始まったトレンドではない。 歴史家によれば、世界初のマラソンランナーであるフィリッピデスは、今から数千年前に、裸足で300マイルを走破したという。 ベアフットランニングへの関心が急速に高まったのは、クリストファー・マクドゥーガル著『Born to Run』が2009年に出版されたのがきっかけだった。この本では、岩の多い地形をサンダルや素足で走り抜けるインディアンのタラウマラ族が紹介されていたのだ。
次のランニングは素足で走ってみるべきか、それとも実績と定評のあるランニングシューズを履き続けるべきか? ここでは、ベアフットランニングを試してみたい人が検討すべき重要な疑問について、エキスパートの答えを紹介する。
そもそも、裸足である必要性は?
ベアフットランニングについて話そうというときにおかしな質問だと思われるかもしれないが、実際のところこの疑問には大いに議論の余地がある。なぜなら、「ナチュラルランニング」にミニマリストシューズを含めてもよいと考える人が大勢いるからだ。そう語るのは、認定ストレングス・コンディショニングスペシャリスト(C.S.C.S)の資格を持つ運動生理学者で『The Marathon Method』の著者でもあるトム・ホランド。彼はポッドキャスト「Fitness Disrupted」のホストも務めている。
ミニマリストシューズは、土踏まずのサポートやパッド入りのソールといった構造をほとんど持っていない。 その目的は主に、ガラスの破片や尖った小石など、皮膚を傷つける可能性のある危険から足を守ること。
「ここは議論が分かれる点ですが、厳密にいえば、この種の履物はシューズには数えません。なぜなら、その役割は地面の上のものから足を守ることで、 足を支えるものではないからです」とホランドは言う。 「そのため多くの人が、ミニマリストシューズを着用しながら、自分はベアフットランニングをしていると言います」
ベアフットランニングのメリット
C.S.C.S.および認定ランニングコーチの資格を有し、理学療法士でもあるアリーナ・ケネディによれば、ベアフットランニングを続けることで、足と足首の筋肉を大幅に強化できるという。
「舗装されていないトレイルを裸足で走ることを想像してみてください」と彼女は言う。 「でこぼこの路面に足の関節と筋肉を合わせながら走らないと、体を支えることができません」
そのような状況下で裸足で走ることは、適応力、筋力、バランス感覚の向上に役立つ。 経験を重ねるにつれ、ランナーとしての回復力が高まり、全体的により優れたアスリートへと成長していけるとケネディは言う。 また、普段履いているシューズの種類によっては、足にかかっていた重さがかなり減り、スピード向上につながる可能性がある。
ベアフットランニングのデメリット
まず、鋭利なものや危険なものを踏むかもしれないという安全上の懸念がある。 完全に裸足で走る場合は、自分がいつ破傷風の予防接種を受けたのか、ワクチンの効果がいつまであるのかを、常に把握しておこう。 そうすることで、万一、細菌が足に侵入するような深い切り傷を負った場合も、深刻な事態を防ぐことができる。
また、路面に関する考慮事項もあるとケネディは言う。 大半の人は、手入れの行き届いた自然の低木地帯を走るわけではなく、 普段はコンクリートの歩道や車道など、硬い地面を走っている。
「つまり私たちの足は、さまざまな種類の路面に着地したり、本当の自然の中でうまく進路をとりながら進むという経験を十分に積んでいません」とケネディは指摘する。 「私たちが主に走っている硬い地面は、足には過酷で不快なものです。シューズを履いていてもそうなのですから、裸足で走るなら尚更です」
裸足でのランニングは本能的で自然な行為と見られがちだが、その動きや地形に慣れていなければ、筋違いや捻挫などのけがのリスクを高める可能性もあると彼女は言う。 そのため、実際に裸足で走る前に、医師や理学療法士に相談してみるのが安全だ。
裸足でいることは人間にとって自然な状態であるとはいえ、靴に適応してきたことの影響を忘れてはならない。 ある研究によると、靴は何世紀にもわたって人間の足を小さくし、歩き方、土踏まずの発達、そして運動パターン全体に影響を与えてきたという。 裸足で歩くとき、人は足の中央部で着地する傾向がある。これにより、かかとへの衝撃が軽減され、歩幅が短くなる。 そこに靴のクッション性が加わると、かかとからの着地が増え、脚全体、特に関節に圧力がかかるようになる。
経験豊かなランナーでないとベアフットランニングは難しい?
ケネディによると、たとえベテランのウルトラマラソン選手であっても、ベアフットランニングに関しては初心者がほとんどだと言う。
「ランニングの経験がどうであれ、基本的にはゼロからのスタートになるでしょう」とケネディ。 「裸足で走るというのはまったく新しいスキルであり、これまでとは違うトレーニングが必要になるためです。 たとえば、足と足首の筋力と安定性を今よりもずっと高める必要があります」
ランナーが犯す最大の過ちは、シューズを履かずにいつも距離を走ろうとすること。 このアプローチでは、ベアフットランニングによって足にかかるストレスに対処するための十分な時間やトレーニングを確保できないと、ケネディは説明する。
「靴を履かずに走るのは、ランニング未経験者のほうがよほどうまく対応できるでしょう」と彼女は言う。 「慣れるにつれて徐々に距離を伸ばすことができますし、足も徐々に順応し、学習していけます」
ベアフットランニング初心者がけがをしないための対処法は?
まず覚えておいてほしいのは、ベアフットランニングは、オールオアナッシング(すべてか無か)である必要はないということ。 たとえばトム・ホランドの場合は、ミニマリストシューズを履いて芝生や砂の上を走る練習をしたり、短めのトラックでワークアウトをしたりと、走り方に基づいていくつものトレーニングをミックスしているという。 5Kを超えるランニングではクッション性のあるシューズを使用し、オフロードランニングではトレイルシューズを使用する。 これまでにランニングをまったくしたことのない初心者の場合は、裸足で数分間だけ歩いてみること、そしてウォーキングとランニングのインターバル走にフォーカスすることを検討してはどうだろう。 そうすれば、このアクティビティの感覚に慣れていくことができる。
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ケネディが提案するのは、ゴツゴツしていない砂の上のようなトレイルを選ぶこと。そしてベアフットランニング初心者であればミニマリストフットウェアを使用すること。 はじめは、ほんの短い距離だけを裸足で走り、その週の他のランニングはシューズを履いて行うことを彼女はすすめる。
「裸足に慣れて足が強くなってきたら、少しずつベアフットランニングを増やしてみましょう。 シューズで走ることを一気にやめて、ランニングシューズを全部処分するなんてことはしないでください」とケネディ。 「筋力とバランスのトレーニングも非常に重要です。 裸足で走れるようになるためには、持ちこたえられる足と足首をつくるために、シューズで走るときよりもずっと長く、しっかりと鍛える必要があります」
もう1つのメリットとしては、固有受容フィードバックの増加による神経筋接合部の改善が挙げられる。つまり、足の裏で地形を感じ取った瞬間、その情報が脳へと送られ、それに基づいて体がより的確に反応するようになる。
「私にとってベアフットランニングとミニマリストシューズは、下半身の筋骨格系の強度を高めながら、走るための体の構造も改善してくれるトレーニングツールです」とホランドは言う。
最善策は? コツコツ時間をかけて行うこと。 何十年もシューズを履いて走ってきた足に、今日から突然裸足で走れと言っても、すぐに順応することは期待できないとホランドは指摘する。足首があまり強くない人や土踏まずに扁平足などの問題を抱えている人は、特に厳しい。 クリーブランドクリニックは、裸足で走ると足の筋肉が引き締まり、扁平足であっても安定性が生まれるとしているが、痛みが生じた場合は大抵、無理しているか、ペースが速すぎることを意味し、その場合はベアフットランニングをやめてサポート性のあるシューズを履いて走ったほうがよいという。
ある研究は、ベアフットランニングのやりすぎは足の疲労骨折のリスクを上昇させる可能性があると指摘する。 何はともあれ、ベアフットランニングをアドベンチャーの一環として捉え、トレーニングルーティンに変化を加える1つの機会と見なすのがちょうどよいのではないだろうか。そしてもちろん、必要に応じて医師に確認し、あらゆる段階で自分の身体の声に耳を傾けることを忘れないでほしい。
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文:エリザベス・ミラード