プッシュプルワークアウトとは? エキスパートの解説
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ヒントを出そう。この運動は、今の筋力トレーニングプランにすでに組み込まれている可能性が高い。
筋肉に負荷をかけるレジスタンストレーニングプログラムを開始する際(またはプログラムを変更する際)に考慮すべきポイントの1つは、楽しめるワークアウトを見つけることだ。 とはいえ、目標や志によっては、満足感が多少低いワークアウトでも、多くのメリットが得られることもある。けがを予防するプレハブエクササイズや可動性を高めるモビリティワークアウトなどが、これに含まれるだろう。
そして、どんなワークアウトプログラムを選び、実施するにしても、運動能力全般の向上には、上半身と下半身のプッシュプルエクササイズを組み込むことが欠かせない。 プッシュプルエクササイズは、全身の筋力強化に役立ち、けがの予防効果も期待できるため、 どんなフィットネス目標に対しても、効果的で効率的なアプローチが可能になるからだ。
プッシュプルワークアウトという言葉を聞くのが初めてだとしても、心配ご無用。 これから、2人のエキスパートが解説する主要なコンセプトを紹介しよう。これを参考に取り組めば、最大限の効果が得られるはずだ。
プッシュプルワークアウトとは?
普段あまり意識していない人もいるだろうが、スクワット、デッドリフト、ベンチプレス、プルアップなどのトレーニングをすると、プッシュとプルの運動を行うことになる。 つまり、プッシュとプルの運動では、ポステリアチェーン(体の背面の筋群)とアンテリアチェーン(体の前面の筋群)の両方を使うのだ。
「プッシュエクササイズというのは、『押す』動作の際に使われる筋肉を主なターゲットにする運動です」と説明するのは、理学修士で、 アメリカスポーツ医学会の認定パーソナルトレーナーであり、カリフォルニア大学サンフランシスコ校ヒューマンパフォーマンスセンターの運動生理学者でもあるニール・パンチャルだ。 上半身のプッシュエクササイズでは、胸、肩、上腕三頭筋が鍛えられる。たとえば、ベンチプレス、ショルダープレス、プッシュアップ、トライセッププッシュダウンといったエクササイズだ。 下半身のプッシュエクササイズには、スクワット、レッグプレス、ランジなどがある。
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一方、プルエクササイズは、「体重を引き上げたり、体に向かって何かを「引き」寄せたりする運動」で、上半身の背面や上腕二頭筋が主なターゲットになるとパンチャルは話す。 上半身のプルエクササイズには、ロウ、ラットプルダウン、プルアップ、カールなどがあり、下半身のプルエクササイズには、デッドリフトのバリエーションやハムストリングカールなどがある。
プッシュプルワークアウトが重要な理由
「どんなトレーニングプログラムに取り組むにしろ、ワークアウトには、さまざまな方向への動きを取り入れましょう。 一方向の運動だけだと、ワンパターンの動きしか強化できなくなってしまいます。それに私たちの体は非常にダイナミックにできています。多様な方法でトレーニングし、鍛える必要があるのです」そう語るのは、理学療法博士でランニングコーチのカーリー・グラハム・ブレディ。ニューヨーク州ロチェスターにあるOn Track Physical Therapy and Performanceのオーナーでもある。
日常生活での動きを思い出してみよう。しゃがんで地面にある物を拾い上げたり、腕を伸ばして棚の中の物を取ったり、体をねじって自動車の後部座席にある物をつかんだり。多様なパターンの動きが含まれている。 トレーニングプログラムにプッシュプルエクササイズを組み込むべき理由はもう1つある。 筋力のアンバランスや差異への対処に役立つのだ。
さらに、「ワークアウトプログラムでプッシュとプルの2つの概念を区別することで、休息と回復の時間を十分に組み込み、エクササイズの日に最大限の力を発揮できるよう、ルーティンを適切に設定するピリオダイゼーションが可能になります」とパンチャルは語る。 『International Journal of Sports Physical Therapy』に掲載された2015年の研究論文によると、「ピリオダイゼーションは、筋肉の適応を促し、オーバートレーニング症候群の発症を防ぐために、トレーニングの内容(強度、セットの長さ、繰り返しの回数)を期間で分けて調整する方法」と定義される。
2つの運動パターンをトレーニングのルーティンに組み込めば、ワークアウトを行う時間と、休息して回復を促す時間を最適に設定できるうえ、週に2回、各パターンの運動で前述の筋群を鍛えられるとパンチャルは語る。 これらの筋群を、週2回鍛えることをパンチャルが推奨する理由は、週2回なら、回復に十分な時間を、負荷をかけた筋肉に与えられるからだ。週1回では何らかの効果が出るには不十分で、週3回だと回復のための時間が十分に取れなくなる可能性がある。
適切なピリオダイゼーションと、自分のライフスタイルや目標にふさわしいスケジュールを設定すれば、オーバートレーニングを防いで、プッシュプルエクササイズをルーティンに組み込めるはず(コアエクササイズもお忘れなく)。それによって、けがのリスクを減らし、結果を最大限に高めることにつながると、パンチャルは語る。
(関連記事:オーバートレーニング症候群とはーその予防法)
ワークアウトプログラムの組み立て方
もし、10人の専門家にプッシュプルワークアウトの組み立て方を尋ねたら、おそらく10通りの答えが返ってくるだろう。 パンチャルによると、ワークアウトをバランスよく実施するには、「毎週決まった曜日に実施できるよう」、プッシュとプルそれぞれの運動パターンにつき4~5種のエクササイズを選ぶようにするといいようだ。
達成したい目標によって、1セットの長さや繰り返しの回数に加え、エクササイズ間の休憩時間を調整することが、筋力や筋持久力の強化、筋肉の増量、体力やパワーの向上の鍵を握る。
1日で異なる運動パターンに取り組むかどうかは、個人の判断によるとパンチャルは言う。
「時間が許せば、プッシュとプルを別の日に取り組むと回復が早まり、同じ週にもう1日、各エクササイズに取り組める日が確保できます」 しかし、トレーニングにそれほど時間をつぎ込めないなら(多くの人にとって実現可能なスケジュールとは言えないだろう)、同じ日にすべての運動に取り組んでもよいとのことだ。
「ただし、運動の量は減らす必要があります」とパンチャルは言う。
そして、いつもと同じことだが、プログラムの組み立て方に不安がある場合は、認定資格を持つパーソナルトレーナーやスポーツパフォーマンスコーチ、運動生理学者といったエキスパートに相談し、自分の目標や能力に合ったプランを一緒に組み立ててもらうことをおすすめする。
文:タマラ・プリジット