ランをパワーアップするプレイリストの作り方
Coaching
最適な音楽を選べば、もっと速く、もっと長く走れるようになって自信もつく。効果的なプレイリスト作成のヒントをチェック。
ロングランでイヤホンを忘れた経験がある人は、二度と同じ失敗を繰り返すまいと心に誓ったはず。自分の足音を聞きながら、走り続けるのは苦行だ。音楽さえあればやる気が増して、もっと速く、もっと遠くまで走れるのに。気分をポジティブに変えてくれる音楽の力は侮れない。
こうした音楽の効能は、単なる気分の問題ではない。科学的にも効果が実証されている。学術誌『Nature Neuroscience(ネイチャーニューロサイエンス)』に発表された研究によれば、音楽を聴くとドーパミンの分泌量が増えて気分が高揚する。あまり気が乗らない日でも、ちょうどいいタイミングで音楽を聴いたら外に出る気力が湧いたりする。別の研究でも、音楽にはストレス緩和効果があるという結果が出ている。
気分が良くなるだけではない。別の研究では、ランニング中に音楽を聴くことで、筋肉を動かす脳信号が強化されるという結果も出ている。さらに、フロリダ国際大学で精神生理学の助教授を務めるマルセロ・ビグリアッシ博士によれば、疲労によるパフォーマンス抑制効果から脳を守る働きもあるという。
こうした効果を頭に入れておけば、『Journal of Sports Sciences』誌に発表された研究結果にも納得できるだろう。この研究に参加したランナーは、音楽があったほうがインターバルトレーニングをより楽しめたと回答している。また別の研究では、アップテンポなプレイリストを聴いたランナーが距離を大幅に伸ばした。ちなみに、アップテンポな音楽を聴きながら走ると、セッションの後に感じるストレス発散効果が増大する。
「ハードなワークアウトが少しでも楽に感じられるなら、ぜひ活用すべきですよね」と語るのはクリス・ベネット(Nikeグローバルランニングシニアディレクター)。「音楽を聴くことは、ときに苦しさも伴うランニングから退屈を取り除いて、楽しい時間に変える1つの方法ですから」
全力のランニングにパワーを注入する最高のプレイリスト作成法を紹介しよう。
「ハードなワークアウトが少しでも楽に感じられるなら、ぜひ活用すべきですよね」
クリス・ベネット
(Nikeグローバルランニング シニアディレクター)
1. 好きな音楽にこだわる
尊敬するインストラクターが攻撃的なラップに夢中だからといって、それが自分のプレイリストに最適なジャンルだとは限らない。やる気を引き出してくれる音楽が何かをよく考え、気が済むまで試行錯誤を繰り返し、本当に自分が好きな音楽だけをプレイリストに集めよう。ビートの効いたヒップホップでも、ハイテンションのEDMでもいい。研究によると、自分が好きな音楽であるほどパフォーマンスを向上できる。
2. 気分が上がる歌詞の曲を選ぶ
普段は内省的なインディーズや90年代のグランジを聴いている人も、ランニングにはポジティブで元気になれる歌詞の音楽を選ぼう。学術誌『Psychology of Sport and Exercise(スポーツ運動心理学)』で発表された研究によると、アップビートで気分を上げるタイプの音楽には、エクササイズ中のパワーと楽しさを増大させる効果があるという。ビグリアッシ博士のおすすめは、心身に力がみなぎってくるような歌詞の音楽。効果的な曲は、実際に聴いてみれば自分で判断できるはずだ。
3. BPMを基準にプレイリストを作る
全速力モードに切り替えたい時、一定のペースをキープしたい時、ゆったりペースでリカバリーしたい時。それぞれのランに合った簡単なアプローチがある。BPMと呼ばれる音楽のテンポを、自分のランのペースや着地の頻度に合わせてみよう。学術誌『PLOS One』に発表された研究によると、自分の走りに音楽のテンポを合わせたランナーは、音楽なしで走った時よりもパフォーマンスが大幅に向上した。ドラマーがメトロノームでテンポをキープするのに似たイメージだ。
ロンドンのブルネル大学でスポーツとエクササイズの心理学教授を務めるコスタス・カラジョージス博士は、運動に音楽を取り入れる理論書『Applying Music in Exercise and Sport』の著者である。博士によると、最大心拍数の約60%の強度(負担だが何とか耐えられる程度)でランやワークアウトに取り組む際に、最適なテンポは120-140BPM。だが適正テンポはランのニーズによっても異なるので、以下のBPMを目安にして完璧なランニング用プレイリストを作成してみよう。
- 120BPM未満:ウォームアップ、気楽なラン、リカバリーランに最適。カラジョージス博士いわく、必要以上の無理をせずに心拍数とペースを維持したい時に役立つテンポだ。ランの後のクールダウンにも理想的である。研究によれば、ゆっくりとした音楽を聴くと、音楽なしの場合よりも血圧と心拍数が速やかに下がる。
- 120–140BPM:ロングランやトレーニングラン全般に最適。自己ベストを狙ってはいないものの、ペースを維持したり、少し上げたりしたい時に役立つテンポ。
- 140BPM超:激しいトレーニングセッション(最大心拍数の75%以上)、レース当日、スピードワークアウトに最適。学術誌『The Journal of Strength and Conditioning Research(筋力コンディショニング研究ジャーナル)』で発表された研究によると、このハイテンポには活力をアップさせる効果がある。カラジョージス博士いわく、BPMが速いほど、もちろん足を動かすスピードも上がる。
ちなみに曲ごとのBPMは、アプリやオンラインのBPM測定カウンターで調べられる。自分で20秒間のビートを数え、それを3倍にして求めてもいい。
Nikeのプレイリストを使ってみよう
いろんな音楽を検索したり、自分でプレイリストを作ったりするのが面倒なら、ランニングにぴったりなNikeセレクトのプレイリストを使ってみよう。シャレーン・フラナガンやエリウド・キプチョゲなど、一流アスリートが作成したプレイリストも用意されている。NikeのプレイリストはSpotifyやApple Musicでチェック。さらにNike Run Clubアプリなら、ランニング中も存分に音楽が楽しめる。音楽を聴きながら音声ガイドランを利用しても、コーチングが入るときは楽曲の音量が自動的にトーンダウン。コーチングと音楽を完璧に両立させながら快適に走ろう。
文:アシュリー・マテオ
イラスト:グラシア・ラム