完璧なランニングフォームのために
Coaching
筋肉への負担を減らし、走りやすさを向上するには基本のストライドを見直してみよう。ステップごとのガイドをチェック。
インスタ向けの姿はこうだ。森の中で最高のトレイルランを楽しむあなたの髪がそよ風になびき、体は宙に浮くように優雅に動いて、ガゼルのような脚で滑らかなストライドを繰り出す。だが、実際の姿は、ドラマ『フレンズ』に出てくるフィービー・ブッフェの走り方そのもの。左右に激しく揺れる奇抜なフォームで、レイチェルを困惑させた走り方だ。
だが、恥ずかしく思うことはない。ベネットコーチでお馴染みのクリス・ベネット(Nikeグローバルランニング シニアディレクター)は、走り方はその人らしさだと語る。「引きずるような足運びだったり、頭を振ったり、少し後ろへ反っていたり、膝の上げ方が足りなかったり、これらはすべてあなたの個性です」とはいえ、フォームの改善に取り組めば、ランナーとして成長が期待できるのも事実。
まずは、以下でベネットコーチやランニングのエキスパートが紹介するヒントから実践してみよう。
「引きずるような足運びだったり、頭を振ったり、少し後ろへ反っていたり、膝の上げ方が足りなかったり、これらはすべてあなたの個性です」
クリス・ベネット
(Nikeグローバルランニング シニアディレクター)
1. ピッチを増やそう
理想的なランニングフォームを目指すうえで重要なのは、まず足の着地だ。「自分の体の前ではなく、体の真下に足が着地するようにしましょう。体の前に着地するのはオーバーストライドと呼ばれています」と語るのは、ブルー・ベナダム(Nike Run Club ロサンゼルスのコーチ)。
デレク・サミュエル(認定理学療法士、Nikeパフォーマンスカウンシルメンバー)によれば、オーバーストライドは趣味レベルのランナーに多く見られる間違いだという。「トップレベルのアスリートを見てみてください。重心の真下に足を着地させ、脚は地面に対して垂直になっています」と語るサミュエル。こうすることで、プロアマ問わず素早く効率的に動けるようになるのだという。
オーバーストライドを防ぎながら理想の動きを身につけるため、サミュエルは1分あたりのピッチを増やすように助言している。「歩数を増やすと苦しくなりそうな気もしますが、消費するエネルギーが増えるわけではありません」と彼は説明する。実際にはスムーズに走れるようになって、消費エネルギーが減少するのだ。逆にオーバーストライドは、足が目の前の地面にあたって、走りにブレーキをかけてしまう。「地面から下肢に向けて上方向の力がかかり、速度を低下させる走り方です」速度の面を別にしても「怪我をするリスクも高く、大きな問題が潜んでいる」ということなので、是非とも避けるべきだろう。
2. 正しくできているか確認しよう
ピッチを増やすフォームは、実際に走る前から練習できる。ベナダムが提唱するのは「その場でランニング」だ。「これにより、走りに必要な感覚をつかむことができます。つまり、自分の体の前ではなく真下に足を着地させるということ」
もうひとつのヒントは、あごを胸の前に出すことだとベネットコーチは言う。「このシンプルな助言をヒントに、足の着地場所を改善できるランナーが多いんです。つまり、かかとに重心を置き過ぎることなく、腰の真下に着地できるようになります。そうすることで、腰やハムストリングスへの負担を軽くできます」サミュエルは、慣れるまで実際にそう感じることから、この練習を「コントロールドフォールフォワード(制御された前のめり姿勢)」と呼んでいる。
オーバーストライドかどうかを確かめるには、トレッドミルで走る自分のフォームを横からビデオ撮影してみるとよい。これはサミュエルからのアドバイスだ。「目で見るとはっきりわかりますよ。本人にビデオを見せると、すぐに納得してもらえます。自分の足が垂直に地面に着いていないことを実際に目で確認できますからね」
3. 傾斜に合わせて走り方を調節しよう
傾斜地を走るときに効率的なストライドを維持するには、まず深刻に考え過ぎないこと。「上り坂では軽やかに、すばやいステップでダンスをするように走ろうとアドバイスしています」とベネットコーチは語る。リラックスした状態で前傾し、勢いよく腕を振り、呼吸をコントロールするように努める。下り坂ではスピードを利用する。「上半身がリラックスするように気をつけて、両腕の力を抜き、背を伸ばし、足裏中央部から母指球にかけての部分で地面を蹴ります」と助言するのはジェイソン・レキシング(Nike Run Club サンフランシスコのコーチ)。
4. リラックスしよう
ランニング中は、緊張している部分がないか、頭からつま先まで時折チェックしよう。両肩が上がっていないか? 手を固く握っていないか? しかめっ面をしていないか? 硬くなった筋肉をほぐすために、深く呼吸をして、ゆっくりと緊張を緩める。両腕や両手を振ったり、頭を左右に動かしたりしてみてもよい。リラックスすればするほど、ランニングに多くのエネルギーを使えるようになる。ベネットコーチからの助言だ。
5. 腕の振りを調整しよう
腕の振り方はアスリートによって異なるが、可能な限り効率を高めることはできる。肘を後ろに真っすぐ動かし、両手はリラックスした状態をキープしよう。そして胴を真っすぐ保ち、両腕を体の前で振らないようにとベネットコーチは注意を促す。「そうしないと、腰が腕の動きに伴って左右に揺れて、エネルギーを浪費します」
6. 成功のための土台を作ろう
適切なランニングフォームを維持するためには、筋力トレーニングとモビリティワークが不可欠。イアン・クレイン(オハイオ大学クロストレーニング/外傷予防専門の運動生理学者)いわく、その理由は明らかだ。体が強く、リラックスしていれば、ランニングはうまくいく。弱くて硬くて、疲れやすければ、不適切な筋肉が使われ、フォームが崩れて怪我をしやすくなる。
これが特に当てはまる部位は膝だ。ランニングの怪我のおよそ50パーセントは膝で発生する。「膝はよく橋の中央に例えられます。足先と腰をつないでいる橋。ここが最も弱く、双方の問題から大きな影響を受ける部分なのです」とクレインは説明する。内股気味だったり、オーバーストライドだったり、フォームが悪いと膝を痛めてしまうのはそのせいだ。
足の筋肉から大臀筋まで、膝の上下にある筋肉を強化しよう。ランニング中の衝撃吸収力が向上し、フォーム崩れの原因となる疲労を軽減できる。そんなアドバイスをしてくれるのは、ジャネット・ハミルトン。アトランタで筋力とコンディショニングのコーチを務め、自身のコーチング会社Running Strongを経営している。ハミルトンいわく、重いウェイトを繰り返し持ち上げる訓練をすれば、自分の体重を何キロにもわたって運ぶのもずっとラクになるという。
体全体に筋力をつけることで、ランニングに必要なバランスの維持にも役立つ。「片足で着地するたびに、体全体のバランスを取る必要があります。姿勢を真っすぐ保ち、どちらかに曲がったり傾いたりしないように」とハミルトンは言う。
「そのための筋力トレーニングには、ランニング中と似たパターンで筋肉に負荷をかけるのがおすすめ」とクレイン。ランジ、ステップアップ、シングルレッグデッドリフトなど、片足のエクササイズを重点的に行ってみよう。
モビリティを向上させるには、少なくとも週に2、3回はトレーニングに取り組もう。ワークアウトの前後にフォームローリング、ストレッチ、ヨガを行っても、モビリティに特化したセッションに取り組んで、思いっきりリラックスするのもいい。
7. 考え過ぎないこと
たくさんのことを紹介してきたが、すべてを今すぐ行動に移す必要はない。ランニング中やそれ以外の時間に、どれか1つでもヒントを意識するようにすれば、フォームは少しずつ改善していく。そこから、ヒントで学んだことを1つずつ追加して実践してみよう。強いランナーになれるだけでなく、奇抜なフォームで走り、友達の前で気まずい思いをすることもなくなっていくだろう。
文:アシュリー・マテオ
イラスト:ユエ・ウー