ONE ON ONE: Yuki Nagasato x Yuka Momiki x Shiho Shimoyamada
Athletes*
日本を代表するサッカー選手であり、社会的問題にも臆することなく積極的に声をあげつづけている永里優季選手、籾木結花選手、下山田志帆選手。プライベートなトークを交えながら、それぞれの今の想いを率直に話してくれた。
“ONE ON ONE” はナイキアスリート同士のリアルな会話をお届けするシリーズです。
2011年のW杯優勝チームのメンバーでもある永里優季選手。2020年10月に兄がいる男子サッカーチームに入団し、世間を驚かせた。ジェンダーの壁を超えた挑戦やさまざまな発信を通じて、女性をエンパワーメントし続けている。好奇心旺盛な性格で、サッカーだけでなく様々なジャンルにも挑戦し、現在はバンドのドラマーとしても活動中。
永里選手と同じく、サッカー女子日本代表を務める籾木結花選手は現在アメリカのOL REIGN FCに所属している。サッカー界のよりよい発展を願い、ファンとの交流企画やマスメディアへの出演など積極的に活動している。アメリカでのプレー経験を通じて、人種差別やLGBTQIA+といった課題に対しても、深い関心を寄せている。
下山田志帆選手は、スフィーダ世田谷FCに所属するサッカー選手。日本でセクシャル・マイノリティであることを公表した数少ないアスリートの1人でもある。ドイツのチームに在籍時、LGBTQIA+がごく普通に受け入れられていることに感銘を受け、2019年に彼女がいることを発表。同年10月にはRebolt Inc.を立ち上げSNS、講演会などを通してさまざまな発信を続けている。
サッカーという共通のスポーツを愛し、社会問題にも深い関心と行動力をもつ3人は、意外にもお互いゆっくり話すのは初めてという。それぞれが向き合ってきたジェンダーの問題やスポーツ界の今後のあり方など、3人の胸のうちにある想いとは?
“問いを立てることで当たり前を変えたり、壊すきっかけを作りたい”
ー下山田志帆 選手
—今年は改めてスポーツの役割を再認識するような年でしたが、社会に変化をもたらすために、アスリートとしての役割をどう考えますか?
籾木選手:
自分は意見というよりも、問いを与え続けていきたいと思っています。海外経験で得た気付きや学びを日本のみなさんに届けることで、みなさんが考えるきっかけになればと思うので、そういう存在になれたらと。
下山田選手:
すごくびっくりしたんですけど、自分自身も籾木選手と同じです。問いを立てることをすごく重要視していて、それが今まで発信してきた目的でもあります。スポーツって試合の時はジェンダー・セクシュアリティーの問題は全く関係ない。でも、それ以外では性別で区別されたり、それらしく振舞うことを求められたりする。長い間スポーツ界に所属している立場から問いを立てることで、当たり前の部分を変えたり、壊すきっかけを作れたらいいのかなって思いますね。
永里選手:
今までは結果のみを追い求めていたけれど、アメリカへ行ってから、少しずつ変わっていきました。スポーツを1つのアートとして捉えることで、多様性、価値観が尊重される世界になっていくなというのはすごく感じました。
今回の男子への挑戦もそうですけど、境界線をなくして全ての人がフラットにお互いの価値観を尊重し合って生きられる社会にしていきたい。そんな社会を目指す上でアスリートと社会の結びつきも大切だと思っています。
“既存の価値観などをどう変えていくか。アクションを通じてポジティブなメッセージを伝えることができる。”
ー永里優季 選手
-男子チームへの挑戦は「社会的にも意味があると感じる」と以前インタビューで話していましたが、どのような時にそう感じましたか?
永里選手:
正直、ここまで注目されると思っていなかったです。自分がやりたかったチャレンジが、結果的に個人だけのものではなくて、地域や社会、世界へとメッセージ性のあるアクションにつながったと感じました。移籍した後に、アクションを通じてポジティブなメッセージを伝えることもできるなと実感して、ここから既存の価値観などをどう変えていくかとさらに考えるようになりましたね。
籾木選手:
永里選手のチャレンジもまさにそうですが、スポーツはプレイヤーにとって状況や年齢などにより、どんどん多様化していくところが面白いところだと思います。選手だけでなく、見ている人の解釈も多種多様であることを発信していけたら、より多くの人にスポーツを身近に感じてもらえるかなと思いますね。
“10年後のスポーツの未来は私たちアスリートがどう発信するかにかかっている”
ー籾木結花 選手
-さまざまなチャレンジや発信を続けるにあたり、どのような面からそのようなパワーやインスピレーションを受けていますか?
永里選手:
スポーツだけではなく、本気でやりたいことをやれていたら自然と輝くだろうし、生き生きするだろうし。それを見つけられているかいないかの差なのかなというのは感じますね。
その点でいうと、私自身はサッカーだけでなく、やりがいや生きがいを感じているので、毎日が純粋に楽しいですね。
サッカー以外から学ぶことがすごく多いっていう経験をしたので、気になったものはとりあえずやってみて、自分がハマったものを続けています。ドラムは続いていますが、ギターは挫折しました。ゴルフや、スノーボード、ウェイクボード、合気道とか柔道にもチャレンジしましたね。
籾木選手:
自分も同じようなタイプで。元々は本が好きでよく読んでいました。
大人になってビジネス書を読むようになって、実際に経験したくなって今の会社に入ったんです。家にある名刺を見返すとこれだけたくさんの人に出会えて、思いを伝えられたのかと変化を感じましたね。
社会人経験を経て、さらにいろいろな人や世界に触れてみたいという想いがより強くなりました。
下山田選手:
永里さんが“ワクワク型”としたら、私は真逆かもしれないです。苦しい思いや嫌な思いをした時に、その理由や問題はなぜって深掘りして解決していくのが昔から好きでした。
例えば、スポーツの場面で苦しんでいるけど、社会の他の場面でも根底では、同じ理由で苦しんでいるのでないかといった共通項を導き出したりするのも好きだったりとか。
スポーツを起点として、問題を考えたり、いろんなことを発見していくのはとても楽しいことです。
-今スポーツをしている小さい女の子から見て、自分達の姿はどういう意味を持つと思いますか?
永里選手:
スポーツが子供達の選択肢として、10年後も残っていたらいいな。情報も含めこれだけ色んなものが溢れているし。スポーツが価値のあるもの1つとして、その先も何十年も何百年も残り続けていたらいいなと思いますね。
下山田選手:
自分の姿を「こういう人もいるんだ」くらいの感覚で見てもらえるのが、すごく嬉しいですね。自分のようなセクシャリティの人でも、スポーツ界から隠されることなくプレーできるんだって思ってもらえたりとか。どんな姿でどんな髪型で、どんなスタイルでスポーツしてもいいんだっていうのを小さい子たちに見てもらいたいなって。
今、自身がしたいスタイルでスポーツができない子って結構世の中にいると思うので、10年後はそれを無くしたいし、もっと選択肢を増やしたいですね。
例えば中学生の女子がサッカーする場所が少ないとか、スポーツに関わる色んな場所で選択肢が削られているので、それがもっともっと増えたらいいなと思います。
籾木選手:
スポーツに関わりのなり女の子たちは全く自分に関係ないことだと、漠然とその世界と繋がろうともせず、時間が過ぎていってしまうこともあるのかなって。そういう子たちとスポーツの架け橋になるのが、私たちアスリートだと思うんです。
10年後にどんなスポーツの未来になるのかは、今私たちアスリートたちが何をどうやって発信していくかにかかっていると感じます。
より多くの人に色んな形でスポーツに関わる機会を持ってほしいなと、2人の話を聞きながら思いました。
-最後にお互いに質問はありますか?
籾木選手:
今何かやりたいことやこれから挑戦したいことはありますか?
永里選手:
私に質問(笑)? 次の目標は、再来年に日本でバンドでライブをやりたいなっていうのが直近のやりたいことかな。
下山田選手:
そのスケジュール感はどんな理由からなんですか?
永里選手:
今レコーディングを始めたところだから、ちゃんとプロモーションしていって、ある程度バンドの実力も上げていって。1年半くらいかなっていう。
籾木選手:
すごーい、さすが!私は今コーヒーにハマっていて、淹れるのがすごい好きなんです。コロナの前は飲めなくてブラックコーヒーを飲めなかったんですけど。
永里選手:
豆からちゃんと挽いてる?
籾木選手:
はい。豆を挽いてお湯の温度とかちゃんとやるのが好きで。
最近スウェーデンに行ってから、ブラックコーヒーの美味しさに気づけて好きになったんですけど。今はコーヒーの教科書を買って、焙煎方法とかいろんなものを学んでいます。
もともと、カフェでバイトとかしてみたいなとかコーヒー屋さんの店員になりたいなという想いがあったので、バリスタ目指したいなって思ってます(笑)。
Illustration: Utomaru
Text: Ayako Ueno