スイミングはいい運動になる? エキスパートの解説
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水泳のワークアウトは関節痛やバランスの問題などに効果がある。
トレッドミルやフィットネスバイクでエネルギーを燃やし、汗をかくことに慣れていたとしても、専門の競技者でなければ、特に夏以外は水泳は有酸素運動の一番の選択肢にはならないかもしれない。 専門家のお墨付きを得た、エクササイズとしての水泳のメリットを解説する。
1.水泳は初心者にも取り組みやすい
「体を鍛えようと思っても何から始めればいいか分からない人は、水泳を検討してみましょう」と語るのは、認定パーソナルトレーナーであり、Back In Motionの創設者でもある理学療法博士のスコット・グレイだ。
水泳は、体重減少(ダイエットが目的の場合)、筋量アップ、全体的な健康増進に貢献する。
泳ぎのスピードを変えたり、浮具や水中用のウェイト器具を使ったり、ストロークを自由形から平泳ぎに切り替えたりすれば、その時々の体力や実力に応じて、エクササイズの難易度を調整することができる。
関節痛を患っている、バランス感覚に問題がある、怪我からの復帰中といった場合は、有酸素運動を水泳や水中ジョギングなどの水中運動に置き換えることで、身体に負担をかけずにそれまでと変わらない有酸素効果を得ることができる。
水泳に興味があるものの、始めるにあたりサポートが必要という場合は、スイミングのレッスンを受講するか、資格を持つ登録スイミングコーチの指導を受けることを検討しよう。 さまざまなレクリエーションセンターやフィットネスクラブ、シニア向け生活施設に、大人向けの水泳プログラムが設けられている。 生活圏内で、どのような講座が開かれているかを調べてみよう。
あるいは、水泳に詳しい友人や家族にコツを教わるという方法もあるだろう(その場合は楽に足がついて、顔を出せる場所で行うのが望ましい)。
2.水泳は少ないトレーニング時間で高い効果が得られる
水泳は究極の全身運動のため、ワークアウトにかける時間をなるべく有効に使いたいという人にとっては、優れた選択肢となる。
水泳は、筋力アップと有酸素運動の効果をまとめて得られる運動だ。 ストロークをするたびに、胸、背中、肩、腕、体幹、脚といった大型の筋肉群を総動員することになる。
「泳いでいると、僧帽筋と菱形筋という、肩甲骨の間にある非常に重要な小さい筋肉も鍛えられます。これらの筋肉は良い姿勢を保ち、痛みなく体を動かすために欠かせません」と語るのは、Pappas OPT Physical, Sports and Hand Therapyを共同創設した理学療法士、ドン・レバイン博士だ。
水泳で有酸素運動効果と筋力増強効果が得られる秘訣は、水圧にある。 これは静水圧とも呼ばれるが、重力で流体が下方向に引っ張られることで、圧力が発生しているのだ。
泳ぐ際は、自然に生じる抗力にあらがって水中を進まなければならない。
「ストロークのたびに体を引き込み、押し出す動作を続けていると、筋肉にかなり大きな負荷がかかります」と、民間のスイミングスクールAquaMobileでCEOを務めるダイアナ・グッドウィンは話してくれた。 また、筋肉を激しく使うときは、心肺機能にも相応の反応が求められる。
3.水泳は関節に痛みがある際のトレーニングとしても有用
関節に痛みが多発している場合は、水泳でトレーニングをするとよいだろう。
「腰や膝に関節炎や変性が見られるなどの問題を抱えている場合は、地上での運動は難しいかもしれません。 それでも、筋力が高ければ関節にかかる負荷が弱まるため、筋肉を鍛えることが非常に重要です」とレバインは言う。
前述のとおり、水泳には高い筋力増強効果がある。 また、水中では自然に浮力が生じるため、関節に負担がかからない。
「水中では、浮力によって体重と関節にかかる負荷が減少します」とグレイは説明する。
水泳が習慣化すれば、関節の健康増進も期待できる。 2016年3月号の『The Journal of Rheumatology』に掲載された論文では、変形性関節症の中でも多く見られる骨関節炎の患者が水泳をすると、関節の痛みとこわばり、身体制約が有意に軽減されることが明らかになった。 被験者は、6分間の歩行試験でも、試験開始時より長距離を歩けるようになっていた。 研究は中高年の骨関節炎患者を対象として、45分間の水泳を週3回、12週間にわたって実施されたものだ。
4.水泳でバランス感覚が養われる
バランス感覚が損なわれている人も、水泳からさまざまなメリットを享受できる。
レバインによると、水泳をすると体幹の筋肉が鍛えられてバランス感覚が向上し、陸上でも安定感を保てるようになるという。 すでに述べたとおり、泳いでいる間は上半身と下半身を同時に使う。 すると、手足を安定させて体を常に正しい方向へ進ませるために、胴体と腰の筋肉を絶えずはたらかせることになる。これは、歩行中にバランスを保ち続けなければならないのと同じことだ。
また、水泳をすると背中の上部と両肩にある小さな筋肉が鍛えられて、姿勢が良くなるとレバインは語る。 姿勢筋を鍛えると、歩行中や運動中に態勢を保つうえで必要なサポートが得られる。
さらに、水中でワークアウトを行うと、バランスを制御する体のさまざまなシステムにも刺激が加わる。 具体的には、固有受容系と前庭系、視覚機能が鍛えられるのだ。 「固有受容とは、身体が司る位置感覚のことです。 例えば人は目を閉じると、両足が地面についていることが分かり、その感覚が得られます」とグレイは説明する。
また、前庭系は、平衡感覚を保つために必要な情報を脳に伝えている。 最後に、両目が周囲の環境から情報を受け取って、バランス感覚を向上させる。 水中を進んでいると、体は新しい環境に置かれ、ふだんと異なる移動方法を強いられる。 こうした環境の変化によって、体内のバランス感覚を司る組織が総動員されるのだ。レバインは、これらの組織も他の器官と同じく、「一定の負担をかけなければ、機能の向上は望めません」と語っている。
5.水泳はアスリートにも効果的
ふだんから水泳を行っていない場合でも、水中でトレーニングを積めば新しい体の使い方が求められる。そうした刺激はさまざまなスポーツでパフォーマンスを上げる鍵となるのだ。
レバインによれば、1週間のほとんどを路上で過ごすランナーなどは、プールに入ることで関節を休められるだけでなく、水中の抵抗によって他の方法では負荷をかけられない筋肉を鍛えられるという。 レバインは、彼の診療を受けるランナーに、トレーニングプランを補う目的として、1日以上は水中でのトレーニングを組み込むように勧めることが多いという。 具体例としては水泳や、アクアジョギング(プールなどの底に足がつかない場所で、水中を走ること)という深水中のランニングを試してみるといい。 アクアジョギングのひとつの利点は、関節に負担をかけずに体力を維持できることだ。そうした見方は、2012年の『The Physician and Sportsmedicine』誌のレビュー論文で示されている。
「深水中のランニングや、水の抵抗を受けながら体を引き込み、押し出す動作は、レースのラストスパートでとくに必要となる筋肉を効果的に鍛えられます」とレバインは言う。
水泳はサイクリングやヨガ、ウェイトリフティング、パワーウォーキングに取り組むアスリートにとっても有効なクロストレーニングとなる。 鍛える筋肉を切り替えながら、関節への負荷を和らげることができるためだ。
さらに、泳いでいると筋肉を細く引き延ばした状態で鍛えることになる。これはレバインによれば、「腰の筋肉を長時間曲げ縮めた状態にしなければならないサイクリストにとても効果的」なのだという。 水泳は他にも、筋肉を局所的に酷使しがちなウェイトリフティング選手にも効果的だ。
文:ローレン・ベドスキー