How We Play:6人制アメリカンフットボール

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急激な変化を遂げるテキサス州マーファ。激しく得点を奪い合う6人制のアメフトが、地域の伝統を守る。

最終更新日:2022年2月3日
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「How We Play(世界にひとつ)」は、世界中でユニークなスポーツとの関わり方を実践するコミュニティに密着するシリーズ。

パンデミックで中断されたシーズン最終戦。マーファ・ショートホーンズは、第2クォーターの闘いに臨んでいた。クォーターバック兼ランニングバックのジョン・アグエロが、スナップからボールを後方にトス。受け取るのは、スターティングクォーターバックのイーサン・ズビアだ。イーサンは、スクリメージラインの向こうで待つ敵陣をうかがう。

オフェンシブラインの3人から離れ、15ヤード後方にスクランブルをかけるイーサン。フィールドにいるのは、両チームあわせて12人のみ。イーサンは、ヴァンホーン・イーグルスのディフェンダーを1人、また1人とかわす。プレッシャーを受けながら、イーサンはエンドゾーン内にいるショートホーンズのワイドレシーバー、イアン・マルケスへパスを投げる。イアンがジャンプしてボールをキャッチ。タッチダウンだ。マーファのファンたちが、喜びを爆発させる。地元のチームを応援しようと、今夜はヴァンホーンのイーグルフィールドまで1時間以上も車を走らせてきたのだ。

ホームフィールドでのアドバンテージがあるイーグルスは、前半が終わった時点で34対12とリードしていた。しかし今のタッチダウンによって、ショートホーンズは45点差によるコールド負け(ハーフタイム以降に45点差以上がつけばコールド成立となる規定)を回避できる目処が立った。一般的な高校フットボールなら、45点差もついたらゲームは台無しだ。しかし6人制では1回のタックルミスが即タッチダウンにつながるため、45点ぐらいの差は珍しくない。

これは、おなじみのアメリカンフットボールではない。
6人制アメリカンフットボールなのだ。

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町のアイデンティティを守る

マーファの人々にとって、フットボールは町のアイデンティティそのものだ。プレーする人、コーチする人、サイドラインから応援する人にとっても同じ。新型コロナウイルスで暮らしが変わり、地元の人々は余計にフットボールの重要性を再認識した。金曜日の夜には、必ずスタジアムの照明を点灯させなければならない。こんな習慣が、簡単に失われてしまう現実を思い知ったからだ。

近年のマーファは、芸術と文化が栄える砂漠のオアシスとして発展してきた。洒落たレストランや流行のホテル、そして風刺の効いたアート作品に旅行者が押し寄せている。しかし教師や労働者や古くからの住民たちにとって、新しい観光施設や商品は高価すぎて手が届かない。高騰する家賃も、洒落たブティックも、60ドルのステーキも、地元の人々は冷めた目で見ている。

エルパソから320km離れた町で、助け合いながら暮らす2,000人のコミュニティ。フットボールは、住民たちが無条件に集まるイベントの1つになった。ショートホーンズでアメリカンフットボールのヘッドコーチを務めるアルトゥーロ・アルフェレスは言う。「町に入ると、窓にペンキが塗られ、マーファの精神を表す紫と白の旗が掲げられています。町の住人である自分も、この町の魅力を引き出す役割に誇りを感じています」。

古くから住み続けてきた地元住民の流出は続いている。その結果として、2011年よりマーファのフットボールは11人制から6人制へ移行したのである。

歴史を振り返る

大恐慌時代、ネブラスカ州の教師兼コーチであったスティーブン・E・エプラーは、アメリカンフットボールのルールをもとに、新しい「6人制」のフットボールを作った。人口が減少している町の人々にも、フットボールがプレーできる機会を提供したいと考えたのである。6人制の公式試合が、ネブラスカ州で初開催されたのは1934年。テキサス州には1938年に伝わった。そして1953年までに、何千校もの地方学校でプレーされるほど普及した。

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現在、6人制チームがある小規模校は350校以上。そのほとんどがネブラスカ州、モンタナ州、ニューメキシコ州、オレゴン州、テキサス州に集中している。だが大恐慌時代に農村部が衰退した歴史をなぞるように、いずれの州も人口が流出し続けている。2020年から2022年までの2年間に、テキサス州では150校以上が6人制に移行すると予想されている。

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ルール

  • 参加できるのは、生徒数105人未満の学校のみ。
  • 15ヤード前進でファーストダウン獲得(11人制は10ヤード)。
  • クォーターは各10分(11人制は12分)。
  • フィールド上のプレーヤー全員にレシーバーの資格がある。
  • クォーターバックは、クリーンなエクスチェンジが完了するまで、スクリメージラインを越えて前進することができない。このため一度他のプレーヤーにスナップしてからクォーターバックにパスを戻すことが多い。こうすることで、クォーターバックは自由にスクランブルができる。
  • フィールドゴールは4点(11人制は3点)。ポイントアフタータッチダウンのキック成功で2点追加(11人制は1点)。コンバージョンのタッチダウンで1点追加(11人制は2点)。
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ゲームの目標

  • 勝つこと。それが難しい時でも楽しむこと。
  • 規律を保ち、プレーに集中すること。そうしないと、ディフェンスコーディネーターのコーチ、ジョシュ・ケリーに見放される。
  • 第4ダウンでパントに逃げないこと。たとえ27ヤードを残していても、6人制でパントはあまり使われない。ヘッドコーチのアルトゥーロ・アルフェレスは、そもそも一か八かの勝負を好む。
  • 45点のリードを許さないこと。後半開始以降で45点リードされたら負けが確定する。
  • とにかく動こう。フィールドにいるプレーヤーは少ない。すなわち全員で走り回る必要がある。
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ホームグラウンド

ショートホーンズのホームゲームは、マーティンフィールドで開催される。他の6人制フィールドと同様に、縦80ヤード、横40ヤードしかない(11人制は縦120ヤード、横53 1/3ヤード)。日焼けしてあちこちがすり切れ、黄色くなった芝生に数字とハッシュマークがペイントされる。パンデミックの前は観客席が満員だった。しかし今でも観戦しにやってくるのは、筋金入りのファンだけ。躍動的な練習やダイナミックな攻防が、フットボール命の観客を引きつけている。

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名物男たち

競技のDNAは、プレーヤー以外の人々にも支えられている。コーチ、管理人、勝敗に関係なくサイドラインを埋め尽くす長年のファン。この町の存在自体が、6人制フットボールの存続を担っている。

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「The Natural(自然児)」
イアン・マルケス
年齢:16歳
ワイドレシーバー

「6人制フットボールが素晴らしいのは、小さな学校でもプレーできること」とイアンは言う。今シーズン開幕まで、6人制をプレーした経験はほぼ皆無だった。高校1年生のとき、イアンは一度フットボールをプレーしない道に進んだ。代々アスリートを輩出してきたフットボールファンの家系だったので、両親はがっかりしたものだ。兄のエンジェルは6人制の伝説的なプレーヤーで、1試合に10回のタッチダウンを成功させて地元の有名人になった。しかしイアンは高校3年を前にして、ついにユニフォームを身にまとう。チームに参加して以降は、めきめきと頭角を現した。「イアンが入ってから、オフェンスのオプションが増えました」とコーチのアルフェレスは言う。イアンの運動神経のおかげで、ショートホーンズは敵陣内へボールを投げる回数が増えたのだ。

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「The Teddy Bear(テディベア)」
アルトゥーロ・アルフェレス
年齢:46歳
ヘッドコーチ

コーチのアルフェレスは、20年にわたってテキサス州のさまざまな学校で数々のスポーツを指導してきた。生徒や仲間のコーチには「テディベア」「ショートホーンズの心臓」などと呼ばれている。「ここマーファで、フットボールのコーチができて幸せです」と語るアルフェレス。コーチとして、常勝チームのメンタリティを根付かせようと奮闘している。その一方で、フットボールとは縁のない伝統にも情熱を燃やしている。そのひとつが、メキシコ伝統の踊りであるフォークバレエだ。パフォーマンスの振り付けを担当し、プレーヤーたちに踊り方を教えようとしている。よく冗談で引退を口にするが、チームを強くしたいという熱意は明らか。「いつも選手にはハッパをかけています。トロフィーやチャンピオンリングを最終目標にしていないんだったら、このチームには向いていないって」

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「The Gamer(ゲーマー)」
ジャスティス・オルティス
年齢:17歳
セーフティ/ワイドレシーバー

ジャスティスは、テレビでフットボールを観戦することもない。好きなのは、コール・オブ・デューティ、レッド・デッド・リデンプション2、グランド・セフト・オート、マインクラフトなどのビデオゲームだ。紫のユニフォームでフィールドに出る時間を除けば、ほぼ終日ゲームに没頭している。フットボールにほとんど興味がない細身の少年が、3年生からショートホーンズのメンバーになった理由は何だろう。ジャスティスは答えて言う。「友だちとの思い出を作るため。コミュニティの一員でいたいんだ」

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「The Chip Off the Block(瓜二つ)」
トリスタン・ケリー
年齢:15歳
オフェンスライン/ディフェンスライン

トリスタンの父ケリーは、フットボールのコーチであり数学教師でもある。6人制のサンダーソン・イーグルスでプレー経験があり、2002年にはあと5ポイントで州選手権出場と無敗記録を達成しそうになった。トリスタンはまだ1年生だが、上級生との対戦で素晴らしい才能を発揮している。数学が大好きで、将来はテキサス大学でエンジニアリングを学ぶのが夢。つまりトリスタンは、父親と同じような道を歩んでいる。だが本当の望みは、自分自身の道を切り開くことなのだという。「昔の父を追い越すために頑張っているんだ。いつか僕に子どもができたら、子どもには僕を追い越してほしい。人生はそういうものだから」

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「The Marf Native(マーファの長老)」
アルモンド・ガルシアとルーシー・ガルシア
年齢:83歳と81歳
退職者

1957年に結婚したガルシア夫妻は、生まれも育ちもマーファ。高校時代から恋人同士だ。アルモンドの兵役で全米各地を転々としたが、70年代にマーファへ帰ってきた。チームとの絆は強い。子どもたちはショートホーンズでプレーし、チアリーダーとして活躍した。孫のディエゴ・エストラーダは、1年生で現役のメンバーだ。アーティストだった息子のサミーは19歳で亡くなったが、ショートホーンズのロゴをデザインした。そのロゴは、現在もチームで使われている。「あれを見るたびに、涙ぐんでしまう」とルーシーは言う。

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シーズン最後のスナップ

結局、ヴァンホーンでの試合には大敗を喫した。対戦相手は6人制に参入したばかりのイーグルスだったが、ショートホーンズは全く歯が立たなかった。残り1分15秒で、75対26で45点のリードを許してしまったのだ。試合終了後、ショートホーンズのコーチは少年たちに語りかけた。「ずっと目標通りに前進してきたから、いつか勝利を手にする日が来るよ。ほんとうにありがとう。君たちをとても誇りに思う。心の底から愛している。大好きだよ」。少年たちは、鼻をすすりながら「僕たちもコーチが大好きです」と応えた。

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試合翌日、土曜日の午後。ジャスティス、クリスチャン・オンティベロス、ウリエル・トーレスがイアンの家に集まっていた。イアンの父は「ディスコ」(メキシコ料理に使われる大きな円盤状のグリル)でタコスを作りながら、テレビでテキサス・テックの試合を見る準備をしている。少年たちは前夜の試合のミスを残念がり、ビデオゲームや音楽について語り合っている。そして部外者がマーファに抱きがちな誤解についても。「マーファの誇りは住民なんだ。僕たちはアート作品なんかよりずっと素晴らしい存在だと思う」とクリスチャンは言う。

アルフェレスがコーチに就任してからの数年間で、チームが勝利を上げたのはわずか1回。シーズンを終えた今、アルフェレスは次シーズンに新たな希望を託している。「チームは進歩しました。得点を積み上げて、張り合えるようになりましたから」。

このチームには、家族のような結びつきがある。試合になれば、古き良き時代の精神が町をひとつにする。トリスタンやイアンのようなプレーヤーのおかげで、マーファのフットボールは次世代にも受け継がれていくのだ。

How We Play:6人制アメリカンフットボール

文章:ドリュー・ブラックバーン
写真:チェンギズ・ヤール
イラストレーション:デビッド・リンチェン

報告:2020年11月

公開日:2022年2月4日