フォームローラーを使用する一番のメリットを専門家が解説
健康とウェルネス
フォームローラーには、パフォーマンスの向上やリカバリーの促進といった効果がある。ただし、こうした効果が得られるのは、正しく使用した場合のみだ。 そこで今回、フォームローラーの効果を最大限引き出す方法をご紹介しよう。
ほとんどのジムや理学療法施設に導入されているフォームローラーだが、実は自宅でのトレーニングにも気軽に取り入れることができる。フォームローラーは軽くて持ち運びしやすいものが多く、筋肉痛の緩和、ワークアウト前の筋肉の活性化、ワークアウト後のリカバリーなど、さまざまな使い方ができる便利なツールだ。
ただし、フォームローラーのさまざまなメリットを得るためには、正しく使用することが重要だ。特に、ワークアウト後のリカバリー目的で使用する際は注意する必要がある。 まず、エクササイズ後にフォームローラーを使ったセッションを行っているから、リカバリーが促進されると思ってはいないだろうか。残念ながら、それは違う。 そこで、フォームローラーに期待できる効果とパフォーマンス向上に役立つヒントを紹介しよう。
フォームローラーがもたらす効果とは?
まず、フォームローラーを使用することにより圧力がかかり、筋肉と筋膜の血流が刺激される。 『European Journal of Applied Physiology』に掲載された2017年の研究によれば、その結果、神経筋レベルで鎮痛(痛みが和らぐ)作用が働く。
さらに、『Frontiers in Physiology』に掲載された2019年のメタ分析によると、この痛みの軽減効果は結合組織のこわばりの緩和によるものだ。結合組織とは、要所で筋肉、神経、筋膜を繋ぎ、脳が痛みを認識するメカニズムを正常に保つ役割を果たす。 フォームローラーには、ほかにも次のようなメリットがある。
- エクササイズ前に筋肉の血流が増加すると、リカバリーが早くなるということが、『International Journal of Sports Physiology and Performance』に掲載された2017年の研究から明らかになっている。
- また、『Frontiers in Physiology』に掲載された2021年の研究によると、筋組織の炎症が短期間で治まれば痛みの軽減につながる。
- 『Journal of Sports Science and Medicine』に掲載された2022年の研究では、筋肉の緊張をほぐし、リンパと血流の循環を促す効果のある筋膜リリースには、可動域を広げる効果があると報告されている。
- 『Sports Medicine-Open』に掲載された2022年の批評によると、可動域が広がれば、跳躍力や敏捷性、筋力の向上を期待できるそうだ。
フォームローラーを使うタイミングはワークアウトの前と後のどちらが良い?
フォームローラーをウォーミングアップルーティンの一部として使用するのは効果的だが、ワークアウト後のリカバリー目的で使用しても意味がないことが、『Frontiers in Physiology』に掲載された2019年のメタ分析によって明らかになっている。
フォームローラーを使えば筋肉に乳酸が溜まるのを防ぐことができ、それによってリカバリーが早まると広く信じられている。 問題は、この説を裏付ける証拠がないことだと、ウィンストン・セーラム大学の理学療法学部の学長で理学療法士のリン・ミラー博士は指摘する。
「エクササイズ後のフォームローラーの使用が、筋肉の成長の一部である通常の治癒過程に影響を与えたり、痛みを軽減してパフォーマンス向上を促進したりするという推測を裏付けるような研究は全く存在しません」と博士は言う。 「実のところ、治癒過程を変化させようにも私たちの力では限界があるのです」
では、フォームローラーを使用するタイミングはエクササイズ前がベストなのだろうか? エクササイズの前にフォームローラーを使うことにはいくつかのメリットがある。そう説明するのは、理学療法士のダイアナ・ギャレット博士 (認定ストレングス・コンディショニングスペシャリスト=C.S.C.S有資格者)。州立セント・ジョンズ・ヘルスセンター・パフォーマンス・セラピーで外来患者のリハビリテーション部門のマネージャーも務める人物だ。
「(運動と静止で構成される)ダイナミックストレッチ同様、フォームローラーを行うことで可動域や柔軟性が改善し、より高負荷のアクティビティに備えるよう体に合図を送ることができます」と博士は語る。 血流の増加も作用するので、筋肉だけではなく、神経や関節にも効果がある。
ダイナミックストレッチには、バスケットボール前のジャンプや、スプリント前の軽いジョギングやランジなど、これから行うアクティビティに似た動きが含まれる。ダイナミックストレッチと同じように、フォームローラーでもこれから使う筋肉に重点を置くべきだとギャレット博士は話す。 例えば、ランニングするときは大腿四頭筋、ハムストリング、ふくらはぎを丸める動きをすることで、走るのに必要な下半身の筋肉を目覚めさせることができる。
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フォームローラー使用に関するよくある間違いと注意点
認定ランニングコーチでACSM認定エクササイズフィジオロジストのヘザー・ハートは、ワークアウト後のフォームローラーの使い過ぎのほかにも、いくつか誤解されている点があると指摘している。以下に紹介しよう。
1.かたいと感じるすべての部位でフォームローラーを使用してしまう
アスリートは、「かたい」と感じる部位にフォームローラーを使用してしまいがちだ。しかし、その場合に起こる痛み、炎症、損傷は、筋肉自体ではなく、実は靭帯、腱、骨に起こっているのだ。 これらの部位にフォームローラーを使ってしまうと、不快感が生じるだけでなく、体の緊張をほぐす効果もほとんど得られない。そればかりか、状態が悪化してしまうこともある。
ハートはこう続ける。硬直した状態の筋肉にフォームローラーを使用してしまうと、こわばりを感じるどころか、触れると痛みを感じる状態になってしまう。指でつついて圧迫すると特に痛みを感じるだろう。 フォームローラーの使用中に鋭い痛みを感じるようならば、その部位に直接使用するのではなく、その周辺の筋肉に使用するのがおすすめだ。
2.腸脛靱帯(ITバンド)にフォームローラーを使用してしまう
ハートによると、特にランナーは太ももの外側に付いている腸脛靱帯にフォームローラーを当てて上下に動かすという間違いを犯しがちだ。 筋組織と同様に、腸脛靱帯は非収縮性(非動的)なので、この使い方によって、不快感や痛みが増してしまう可能性がある。
腸脛靱帯は膝関節に繋がっているので、正しくフォームローラーを使用しないと膝の痛みを悪化させてしまうことにもなりかねない。 そこで、大腿筋膜張筋に重点を置き臀部や大臀筋にフォームローラーを使う方法をハートは勧める。大腿筋膜張筋とは、臀部の上部から側面に付いている小さな筋肉なのだが、これが腸脛靱帯の痛みの軽減に一役買う。
3.ケガをしている部位にフォームローラーを使用してしまう
傷ついた筋組織に直接フォームローラーを使ってはいけないとハートは忠告する。損傷部が悪化し、回復が遅くなるかもしれないからだ。 フィジオロジストが勧める実践的な使用方法は 軽-中程度の強さで触れたときに痛いと感じるような部位には、フォームローラーを使用しないこと。
フォームローラーを使用しても痛みを感じないのが通常の状態。痛みのためにフォームローラーを押し付ける力を緩めるなんてことは本来必要のないことだ。 ただし、フォームローラー初心者が鈍痛や多少の不快感を持つ場合、ケガの可能性は低い。 だが、突然の鋭い痛みを感じるようならば、フォームローラーの使用は一旦中止したほうがいいだろう。
4.1つの部位に対して集中的に使用してしまう
1つの部位ばかりに長くフォームローラーを使用し続けると、神経が炎症を起こしたり、アザができたり、他の組織を傷つけてしまったりする可能性がある。 ハートいわく、対象部位の筋肉に沿ってフォームローラーを上下に動かす時間は、一般に30秒程でも十分過ぎるそうだ。
正しくフォームローラーを使えているかどうか不安なときは、 担当の理学療法士やパーソナルトレーナー、コーチなどに相談してアドバイスをもらおう。
5.背中にフォームローラーを使用してしまう
広背筋、僧帽筋、肩などを含む背面上部はあまり圧力をかけなくても効果が得られるが、関節、骨、靭帯、腱などの高濃度組織がある背骨、首、腰などの部位にはフォームローラーの使用を控えたほうがよいとハートは言う。
組織量が特に多い、より大きな筋肉群ほど、より圧力に耐える力が強いと彼女は説明する。 例えば、大臀筋、ハムストリング、大腿四頭筋、ふくらはぎはすべてフォームローラーの使用に適しているそうだ。
6.フォームローラーをメインの回復手段として使用してしまう
先ほども説明したとおり、フォームローラーは回復目的に作られたものではなく、ワークアウト前の筋肉の活性化に最適なツールだ。 そのため、ワークアウト後には、適切な食事と十分な休憩を取るなどの効果が認められている回復手段をまず実践しよう。
7.特定の疾患を抱えている状態でフォームローラーを使用してしまう
「糖尿病、リンパ浮腫、食道静脈瘤、重度の骨粗しょう症などの特定の疾患を抱えている人は、担当医のすすめがない限りフォームローラーは使用しないほうがいいでしょう」
文:エリザベス・ミラード
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