トライアスロンのトレーニング方法をコーチが伝授
スポーツ&アクティビティ
トレーニングプランの例や栄養補給のヒントなど、初めてトライアスロンにチャレンジする前に知っておくべき情報のすべてを、エキスパートが解説する。
水泳、サイクリング、ランニングの愛好家もいれば、 オリンピック種目の標準的なトライアスロンとスプリントトライアスロンの違いに興味を持ったという人もいるだろう。 レースで満足のいく結果がなかなか出せず、考え抜かれたコーチングの力を借りて、チャレンジを続けようとしている人もいるかもしれない。
理由は何であれ、トライアスロンのトレーニングは、3種目すべてのフォームを最適化し、けがを防ぎ、そして単純にレースを楽しむための鍵になる。 具体的にはどのようなトレーニングが必要だろうか?
ここでは、認定資格を持つ3人のトライアスロンコーチとスポーツ栄養学の専門家が、トップレベルのアドバイスを伝授する。トレーニングプランの例を参考に、自分に合うプログラムを組み立てよう。
(関連記事:トライアスロンに欠かせない装備)
スプリントトライアスロンのトレーニング方法
スプリントトライアスロンは、トライアスロンデビューを検討している人や、持久力よりもスピードの向上に注力したい人のスタート地点にふさわしいかもしれない。 スプリントトライアスロンは一般的に、スイム750m、バイク20km、ラン5kmで行われるが、これよりサイクリングの距離は長いがランは短いというように、大会によって各種目の距離が多少異なることがある。
これに対し、オリンピックディスタンストライアスロンとも呼ばれるフルトライアスロンは、スイム1.5km、バイク40km、ラン10kmだ。 さらに距離の長いレースもある。特に長いアイアンマンレースは、スイム3.9km、バイク180km、ラン42.2kmで競われる。
一定レベルの体力と経験があることがトレーニング開始の前提条件になるということと、どのトライアスロンを目指す場合でもトレーニングは大体同じでいいことを覚えておいてほしいと、トライアスロンコーチのナターシャ・ファン・デル・メルベ(2010年以来プロのトライアスリートとしても活躍している)は話す。 主な違いはトレーニングの強度と頻度だが、ポイントはほぼ同じ。3種目すべてのパフォーマンス向上だ。
3つの異なるスポーツのスキルを高めなければならないことを考えると、トレーニングに割ける時間の長さによって、とりあえずは各種目を週に2~3回練習するのがよいだろうと、ファン・デル・メルベは話す。 すでに習慣的にワークアウトに取り組んでいる場合、スプリントトライアスロンに向けての1週間のトレーニングの例は、次のようになる。
- 1回につき30分~1時間のサイクリングを2~3回
- 1回につき30~45分のランを2~3回
- 1回につき30~40分の水泳を2~3回
覚えておいてほしいのは、初心者に適したトレーニング強度で行うということ。強度を徐々に高めていくのではなく、いきなりこのような計画に沿って始めようとすると、オーバーワークによるけがのリスクが高まるおそれがある。 ともかくこのように習慣化すれば、トレーニングを発展させて最終的にどのようなスケジュールで取り組めばよいかの見当がつく。
このレベルのトレーニングに取り組む人も、このレベルを目指している人も、楽なペースのワークアウトと、強度が高めの短時間の運動を組み込むインターバルトレーニングを交互に行うことで、効率性とパワーを強化できるとファン・デル・メルベは話す。
トライアスロン初心者は、基礎的な持久力をつけることに重点を置きつつ、フォームを微調整して健康な体を維持できるように注意しなければならない。 初心者やブランクを経て復帰しようとするアスリートは、ワークアウトの強度と時間を徐々に進歩させた方がいいと、ファン・デル・メルベはアドバイスする。 けがを予防するうえで、ゆっくりと着実に進歩していくことがとても重要なのだ(体のリカバリーやエネルギーの補充に十分な時間が必要なのは言うまでもない)。
ファン・デル・メルベが次に紹介する例は、トライアスロン完走を目指す中級から上級のアスリート向けの、毎日のトレーニングプランだ。
月曜日:楽なペースの水泳と可動性を向上させる運動(可動域の向上に重点を置くレジスタンストレーニングなど)
火曜日:午前中にインターバルバイクワークアウト、夕方に楽なペースのランニング
水曜日:午前中にインターバルランニング、午後にレースペースでの水泳
木曜日:午前中に持久力アップを目指すサイクリング、午後に筋力トレーニング
金曜日:長距離の水泳のみ
土曜日:長距離のサイクリング(隔週)
日曜日:長距離のランニング(隔週)
長距離のサイクリングとランニングを隔週で組み込むことで、スケジュールに休息日を設定できる。トレーニングを構成するうえで、休養は欠かせない要素だ。
通常、週に6~8時間程度を費やすことになるが、最初のうちは、全速力でのサイクリングやインターバルランといったスキルを身につけるために、もっと時間が必要かもしれない。 ファン・デル・メルベ曰く、インターバルトレーニングにあまり時間をかける必要はなく、15分で十分とのことだ。 頑張り過ぎないことで、疲労を起こさずにパワーを強化できる。
スプリントトライアスロンに必要なトレーニング期間の長さは、自分の力量にどの程度自信を持っているかによるそうだ。 4週間集中してトレーニングを積めば十分という人もいれば、6か月以上必要という人もいる。 ランニング、サイクリング、水泳それぞれについて一定以上の経験がある場合は、一般的に、トレーニング開始からレース当日まで8~12週間ほど見込んでおけば十分だ。
ワークアウトの負荷を高める前に、まず基礎を身につけ、決めた練習をうまくこなせるようになることが重要なので、必要なだけ時間をかけるようにしよう。
「持久力スポーツに初めてチャレンジする場合は、どんなトライアスロンに参加するにしても、12週間がベストです。最初の4週間は、レジスタンストレーニングを組み込むなどさまざまな方法で体力をつけ、次の8週間で重点的にトレーニングプランに取り組むというやり方です」と、アイアンマン認定トライアスロンコーチであるアディナ・オニールは語る。
レース前の約2~3週間は、種目間の移行の練習をするために、レース本番に近いトレーニングを重ねるとよい。
弱点の強化に焦点を当てよう
トレーニングでは習熟度も考慮するべきだとファン・デル・メルベ。 「泳法を学び始めたばかりの人のように、明らかに弱点がある人は、たとえば水泳に重点を置いてトレーニング回数を増やし、バイクとランはそれぞれ週に2回ずつにするというようにした方がいいでしょう」
水泳が身近ではない地域に住む人にとっては、水泳が最大の課題になるようだと、アイアンマン認定トライアスロンコーチのジェニー・フレッチャーは話す。 ランニングとサイクリングの経験が豊富であるという人は多いが、住んでいる地域や経験によって力量は異なる。 たとえば、海の近くに住み、子どもの頃から水泳を楽しむ機会が多かった人は、たまに近所のプールで遊んだだけの人より、水泳のスキルは当然高くなる。
「水泳の力量が高いほど有利といえます。しかもそれが有利に働くのはトライアスロンの水泳の部分だけではありません。 水泳は、足に衝撃をかけることなく有酸素持久力を鍛えられるため、サイクリングやランニングのリカバリーでも大きな役割を果たすのです」
たとえ水泳の経験が十分にある人でも、時間をかけてさまざまな水泳ワークアウトに取り組むことを、フレッチャーはすすめる。 たとえば、スピードを強化する水泳トレーニングを行った次のトレーニングでは持久力に重点を置くというような方法だ。 「水泳はかなりの労力を要するので、長距離のトライアスロンにチャレンジする場合は特に、水泳トレーニングが大事です」
標準的なトライアスロンのトレーニング
スプリントトライアスロンのトレーニングプランは、標準的な距離のトライアスロン向けに簡単に調整できるとファン・デル・メルベは言う。
「フルトライアスロンに備える場合の最大の違いは、スイム、バイク、ランの最長距離。レースを完走できるように伸ばす必要があります。 週に1度の長距離トレーニングのほか、休息日を設けるのも距離が短めのレースの場合と同じです」
1日あたり1時間~90分のトレーニングを目標にし、この時間内で1種目か2種目に取り組むようにしよう。 トレーニングにもっと時間を割けるようであれば、最後の12週間で徐々にトレーニングの量を増やしていけばよい。 くれぐれも週に一度休息日を入れることを忘れないように。それから、休息日を増やす必要がないかどうか、体の声を聴くことも大切だ。
トライアスロントレーニングのヒント
スプリントトライアスロンでもフルトライアスロンでも、トレーニングの開始に役立つヒントについて、ファン・デル・メルベとフレッチャーが以下のように説明している。
- 最初はゆっくり:量と強度が軽めの運動からスタートし、トレーニングの頻度や量(毎日続ける)に慣れてから、負荷を高めるようにしよう。
- ワークアウトの目標を定める:フォームの改善、基礎的な有酸素運動能力の向上、レースペースへのチャレンジといったように、毎回のワークアウトで何を達成したいのかを明確に定める。
- ハードなトレーニングを連日で行わない:初心者は、ハードなトレーニングを2日続けて実施しないこと。けがのリスクが高まり、リカバリーが難しくなる可能性があるためだ。
- ブリック練習を取り入れる:ブリック練習では、サイクリングの後に短いランを組み込む。 サイクリングの後に走れるよう、脚を鍛える必要がある。
- 筋力トレーニングを組み込む:筋力トレーニングによって、トライアスロンのすべての種目に役立つ筋力を強化でき、体力全般が向上する。
少なくとも週に1日の休息日を設けてリカバリーを促す方法も、毎週のルーティンとして積極的に取り入れてほしいと、オニールは言う。 たとえば、セルフマッサージをする(またはマッサージを受ける)、ハードなワークアウトの後にエプソムソルトの入浴剤を使う、負荷の低いヨガフローを行うといった方法がある。
栄養に気を配ろう
トレーニングプランと同じく、ワークアウトに必要な栄養補給も人それぞれ。一緒にトレーニングに励む仲間とも違うかもしれない。 とはいえ、どんな栄養補給プランにも不可欠な要素がいくつかあると話すのは、トライアスリートのミシェル・ハウ。登録栄養士と スポーツ栄養学認定スペシャリスト(C.S.S.D.)の資格を持つ、スポーツ栄養学の専門家でもある。
脱水状態を起こさないようにすることが重要で、水分に電解質を加えることが、血圧の調節、筋肉の収縮、心機能、体温の調節といった体の働きの鍵を握る。
もう一つの大事なポイントは、炭水化物をいかに効率的に利用するかだと彼女は言う。
「炭水化物はトライアスロンのトレーニングの主なエネルギー源になり、グリコーゲン貯蔵量を補い、血糖値を維持する役割を果たします。 タンパク質も大事ですが、摂取のタイミングは、トレーニング中の炭水化物ほど重要ではありません」
トレーニング中はタンパク質の重要性はあまり高くないが、トレーニング後やレース後の食事に、ホエイのような消化しやすいタンパク源を加えることで、筋タンパク質合成を早め、リカバリーを促進できると、ハウは付け加える。
また、トレーニングの前や最中は、食物繊維や脂質を多く含む炭水化物を摂らない方がよいとのこと。食物繊維や脂質は消化に時間がかかり、必要とする炭水化物の吸収を遅らせるからだ。 これがトレーニング中の胃腸障害の原因になることも多い。
「トレーニングの長さに応じて、1時間ごとに50~120gの炭水化物を摂るようにしましょう。 トレーニングが長時間になるほど、エネルギーの吸収率は高まります」 この数値には性別による違いはなく、男女とも同じ量の炭水化物を摂るよう、ハウはアドバイスしている。ただし、ワークアウトを行う時間の長さは考慮する必要がある。
ハウによるその他のアドバイスは次のとおり。
- サイクリングには多めの炭水化物が必要:ランニングでは、胃腸障害を起こさないようにするために、炭水化物の摂取量をわずかに減らした方がよい。 前述の炭水化物摂取量の上限は、サイクリングではちょうどいいことが多い。
- 根気よく:炭水化物を摂りながらトレーニングを積むほど、レース中に炭水化物を吸収する胃腸の機能が向上する。
- レース当日はエネルギーを満タンに:血液に炭水化物を送り込むことがレース当日の鍵となり、自己ベストを確実に更新できるか、過酷な一日になるかの明暗を分けることになる。
(関連記事:筋肉の回復を促す食品の選び方を管理栄養士が解説)
仲間を見つけよう
熟練トライアスリートも、初めてレースにチャレンジする人も、コーチとともにトレーニングに取り組めば大きな力になる。
「コーチに協力してもらうのは、フィードバックやアドバイス、知識を得る最善の方法です」とフレッチャーは言う。
コーチは、ギア選びやトレーニング目的の設定でも力になってくれるだろう。 トライアスロンのトレーニングが興奮に満ちあふれるのは、自分の体にとって初めてのチャレンジだからという理由だけではない。その喜びは、同じトレーニングに取り組んで切磋琢磨する仲間がいてこそ得られるものだ。
トレーニング仲間を見つけると、これまでのトレーニングを続けようと努力している場合は特に、効果が上がる可能性がある。2022年に行われたStravaによるコミュニティに関する調査では、ペアやグループでトレーニングを行ったアスリートは、単独で取り組んだアスリートよりもトレーニングの時間と距離の両方が長かったという。 たとえばサイクリストでは、仲間とトレーニングをした人の走行距離は、単独でトレーニングをした人の2倍に及んだ。
グループでトレーニングをすると、レースでの不安感が和らぐ可能性もある。 2017年の『Journal of the American Osteopathic Association』(米国整骨医協会の論文誌)で発表された研究では、グループでワークアウトを行うと、単独で取り組むよりストレスが26%減少していた。
結論
スプリントトライアスロンであれフルトライアスロンであれ、トレーニングで重要なのは、自分のニーズとスケジュールに合った計画を立てること。 トレーニングは、単独で行う人もいればグループで行う人もいる。トレーニングの取り組み方は人それぞれだ。 コーチに協力してもらえば、安全に目標達成への道を歩める可能性が高いが、コーチに頼ることが必須というわけではない。 とにかく、トレーニングの道のりを楽しむことが大切だ。
「トライアスロンはとてもエキサイティングなスポーツです。自分の体がどれだけのことを達成できるかを知って、きっと驚くでしょう」とオニールは言う。
文:エリザベス・ミラード