ウルトラマラソン挑戦の前に知っておくべきこと
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自分史上最長のマラソンに挑む前に、ランニングコーチが疑問をすべて解説。
多くのランナーにとっては、フルマラソンでも十分に大きな挑戦だ。 しかし中には、もっと大きな挑戦に惹かれるランナーもいる。時に何百キロもの距離を走り、完走までに数日から1週間も要するようなウルトラマラソンだ。
ここでは、ウルトラマラソン初挑戦の心構えについて詳しく紹介しよう。
ウルトラマラソンの距離は?
距離が指定されたフルマラソン(42.195km)とは異なり、ウルトラマラソンは大会ごとに50km、80km、160km以上までさまざまな距離がある。
自身もウルトラマラソンランナーであるジェームズ・ボネット(マクミラン認定ランニングコーチ)は、こう語っている。「最後まで残った選手が勝ちというような、実質的に終わりがないレースまであります」
ウルトラマラソン挑戦に必要なトレーニング期間は?
ウルトラマラソンに向けたトレーニングの期間は、個々の現在の身体能力、これまでのランニング経験、挑戦するウルトラマラソンの距離、レースコースの環境などに応じて異なる。
ようやく5kmを完走したばかりの初心者ランナーは、経験豊富なマラソンランナーよりも準備により長い時間がかかるだろう。 だが、オリンピックのトライアルマラソンで3度の予選通過経験を持つケイティー・マギー(マクミラン認定ランニングコーチ)によると、たとえ経験豊富なマラソンランナーであっても、高低差が激しく岩がちな地形を走る50kmのウルトラマラソンなら、挑戦前に6ヵ月以上のトレーニングが必要となるケースもある。
また、米国陸上競技連盟トレイルマラソンで2回優勝したウルトラランナーのデビッド・ローシュ(ランニングコーチ)は、50kmレースに向けたトレーニングを開始する前に、一般的には週あたり30~50kmのランニングを6週間継続できるようになることを推奨している。 この練習量なら50kmを走るトレーニングに必要な筋力と持久力を鍛えることができ、レースの距離を完走する際に怪我のリスクも抑えられる。
ただし、レースの地形に応じてトレーニングスケジュールを調整する必要があることも心に留めておこう。 最善策は、ウルトラマラソンのトレーニングを専門としたランニングコーチに指示を仰ぐことだ。 ウルトラマラソンに挑戦するにあたって、現実的に何が必要なのかを教えてくれるだろう。
ウルトラマラソンに必要なギアを見つける方法
まずはレースコースについて情報を収集し、気温、地形、エイドステーションのサポート内容などを把握しよう。 レースのレポートや写真を調べれば、当日に役立ちそうなギアや、逆に必要なさそうなものも把握できる。
エイドステーションが多く設置されている大会なら、携帯するものは最小限で済む可能性がある(ボネット談)。 ただし、薬、水、電解質、軽食、ホイッスル、催涙スプレー、ヘッドライト、予備バッテリー、コンパス、小型の救急セットなどの必需品は携帯しておいた方がいいだろう。
気温や地形が把握できたら、どんな機能のギアが必要となるかもわかるはずだ。
ウルトラマラソンにおすすめのギア
ウルトラマラソンにおすすめのギアについて、マギーとボネットによる詳しい解説を見ていこう。
シューズ:コースの地形を確認して、ニーズに合ったシューズを選ぼう。 コースの大部分を道路や平坦な道が占める場合は、ロードランニングシューズが適切だ。逆に濡れた地面や特殊な技術を必要とする地形では、グリップ性の高いトレイルランニングシューズが適している。
この条件を踏まえた上で、自分の足の構造に合ったシューズを選ぼう。 ランニングシューズの専門店で何足か試し履きして、トレッドミルの上で使用感を確認してみるといい。
最適なシューズが見つかったら、あらかじめ2足購入しよう。トレーニングで交互に使用することをボネットは推奨している。 この方法により、トレーニングの合間にシューズのフォームや機能を復元できるため、体への負担も減らせる(ボネット談)。
ハイドレーションパック:ハイドレーションパックとは、ランナーが手を使わずに水を運べるベルト、ベスト、バックパックのことだ。 このギアがあれば、水分を補給するために立ち止まる必要がなくなり、場合によってはスピードさえ緩めずに水が飲める。
ランニングウェア:気温が15℃以上なら、ポケット付きの軽量ランニングショートパンツ、吸湿速乾性に優れた白のシャツ、吸湿速乾性に優れたランニングソックスを着用するのがおすすめだ(ボネット談は)。 早朝や夜に気温が著しく低下する場合は、必ず軽量の防水・防風ジャケットを用意しておこう。 気温が低い場所がレース会場となる場合、タイツやランニングパンツの着用も検討しよう。 気温の低さによっては長袖のシャツとジャケットが必要になる(ボネット談)。 他に必要なものがあれば、ボランティアがエイドステーションに運んでくれるドロップバッグに入れておくこともできる(多くのウルトラマラソンで許可されているサービス)。 これで何も携帯する必要がなくなる (詳しい説明は後ほど)。
必需品:この他のアイテムとしては、摩擦防止グッズ、サングラス、日焼け止め、リップクリーム、バイザーまたは帽子、腕時計、小型の救急キット、軽食・水分、吐き気止めのジンジャーチューイングキャンディーやタブレットなどを検討しておこう。 また、レースに夜間のランニングが含まれるかどうかも確認しよう。 その場合は、ヘッドランプと予備のバッテリーも必要になる(マギー談)。 より安全性を高めるために、ホイッスル、催涙スプレー、コンパスの携帯も考慮しよう。
ウルトラマラソンのトレーニング方法
1週間に30~50kmのランニングを6週間続けられたら、50kmのランニングに向けたトレーニングを開始しても構わない。
ローシュによると、1週間に4~6日は走るのが理想的だ。 ランの内容は80~90%が軽めの安定したペース(問題なく会話できるペース)で走り、残りの10~20%はインターバルを挟みながら、より速いテンポ(断片的にしか話せないペース)で走ることを推奨している。 できれば本番のレースに似た地形でトレーニングしよう。 こうすることで、レースを走り抜ける身体が準備できる(ローシュ談)。
楽に走れる距離を毎週10%ずつ増やしていこう。 ローシュによると、トレーニングの強度は反復、時間、距離を増やすことで高められる。必ず現在取り組んでいるトレーニングボリュームを楽にこなせるようになってから、強度を高めるようにしよう。
筋力トレーニングもお忘れなく。 筋力トレーニングをどの程度ルーティンに取り入れるかは、確保できる時間や好みによって異なる。 ローシュのおすすめは、数分程度で終わる筋力トレーニングを毎日取り入れること。 たとえばランニングの前に、バンドを使用したサイド、フロント、バックステップを実践してもいいだろう。 ランニングが終わったら、そのままリアランジとステップアップで締めくくるのもおすすめだ。
ウルトラマラソンに適した食事方法
レース前: レース前に適した食事は、炭水化物が多く、タンパク質を適度に含むものだとブリタニー・ウェールは言う (管理栄養士、スポーツ栄養学認定スペシャリスト)。 たとえばオートミールとプロテインシェイクや、卵とチーズのサンドイッチベーグルとフルーツスムージーなどの組み合わせがいいだろう。 レースの数日前からは、食べ慣れた食事や軽食を取るように注意しよう。 「この時期は食事内容を変えるべきではありません」とウェールは述べている。
(関連記事:レース前の食事方法:専門家からのアドバイス)
レース中: 必要な栄養には個人差があるものの、一般的にランニング中は1時間に60gの炭水化物を取るのがおすすめ(ウェール談)。 「ゼリーやチューイングキャンディ、炭水化物を含むスポーツドリンク、フルーツやプレッツェルといった軽食が例として挙げられますが、いずれにしてもトレーニング中に食べ慣れていて、問題なく消化できるものを選びましょう」とウェールは説明する。
補給すべき水分量にも個人差があり、これは気温によっても左右される。 一般的には、毎時間約700~950mlの水分(電解質入り)を補給する(ウェール談)。 栄養や水分を補給する方法については、必ずトレーニング期間にテストし、どんなタイミングで何をどのくらい補給すればいいのか把握しておこう。
ウルトラマラソンで注意すべき落とし穴
- 不適切な食事:レースには胃腸に関わる問題が発生しがちで、ウルトラマラソンではその傾向が顕著だ。 「胃の調子を崩すのは、考えられる最悪の問題のひとつです」とマギーは語っている。 レース中の不快感くらいならまだいいが、 最悪の場合には食べた物を嘔吐してしまい、途中棄権を余儀なくされる。 胃腸の問題が起きるリスクを下げるため、トレーニング期間から決まった食べ物でエネルギー補給の練習をしておこう。 さまざまなアプローチを試して、胃腸の不快感なしで長時間走れる方法を探してみよう。 そして見つかった適切なアプローチをレース当日にも適用しよう。 ただし一度決めたエネルギー補給計画であっても、レース中にうまく機能しないようであれば、ためらわずに切り替えること。
- ペース設定:ペースはトレーニング期間に練習できるが、レース本番の雰囲気に飲み込まれて、速いペースで走り出してしまうことがよくある(ボネット談)。 ペースが速すぎると、ゴールのはるか手前で失速してしまう可能性が高まる。 「ラジオのボリュームダイヤルに例えて説明しましょう。 最初はゼロから始めて、そこから徐々にボリュームをあげていきます」とボネットは説明する。遅すぎると感じるくらいのペースで走り出すのがおすすめだ。レース後半で他の選手たちを追い抜いていくとき、最初に飛ばさなくて良かったと実感するだろう。
サポートクルー:ほとんどのウルトラマラソンで、食べ物やギアを入れたドロップバッグの持ち込みが許可されている。このドロップバッグはボランティアによってエイドステーションに運ばれ、レース中に選手がピックアップできるようになっている。 サポートクルーが来てくれるのなら、指定したエイドステーションにドロップバッグを運んでもらうことも可能だ。 こうすることで、補給品をすべて携帯する必要がなくなる。 ただし、サポートクルーやボランティアに頼りすぎるのも考えものだ(ボネット談)。 「サポートクルーが道に迷ったり、クルーの車がパンクしたりしたことは何度もあります。だから私は、必ず予備のドロップバッグを持っていくようにしています」とボネットは語る。
文:ローレン・ベドスキー