ポジティブに物事を受け入れる
Coaching
驚くほど簡単なマインドフルネスの習慣を身に付け、苦痛やネガティブな感情を乗り越えよう。
- マインドフルに物事を受け入れる習慣は、蓄積したネガティブな感情の決壊を防ぐ効果がある。
- まずは現実を当事者として受け止めるのではなく、観察者として客観的に把握する訓練を始めよう。
- 短時間のエクササイズを実践するだけで、以前よりもポジティブな気持ちになり、目前の問題を乗り越えられる自信が生まれるはずだ。
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瞑想の効果を科学的に実証
この研究者のグループは、瞑想未体験の被験者を集めて、マインドフルに現実を受け入れるレッスンを30分間実施した。被験者は、レッスン内でまずコンセプト(物事を評価せずにありのまま受け入れること)を学び、そのメカニズム(自己ベストに及ばなかった残念な結果を受け入れつつ、その失望を罪悪感、怒り、劣等感につなげない方法)を学習した。そして空想でバスの運転手になってみたり、嵐が通り過ぎるのを待ったりしながら、この原則を現実の状況に応用する方法も学んだ(詳細は後述)。
レッスンの直後、被験者たちは次のような指示を受けた。まずはこれから見せるイメージに対して自然に反応してみること(ニュートラルなイメージとネガティブなイメージの2種類がある)。そして2種類の温度に自然に反応すること(心地よい温かさと痛いほどの熱さの2種類がある)。最初の実験が終わった後、被験者はネガティブなイメージや痛いほどの熱さをマインドフルに受け入れた上で同様の刺激を体験した。その結果、マインドフルな受容を経た被験者は、ただ自然に反応した時よりもネガティブな感情や身体的な痛みを感じにくくなっていたのである。
研究の共著者であるケビン・N・オクスナー博士(コロンビア大学心理学科長)によると、物事をマインドフルに受け入れることで解釈に変化が生まれる。これが苦痛を減らす原因のひとつだ。ここでいう「解釈」は、「評価」と言い換えてもいい。この解釈や評価が、人間のあらゆる感情をつかさどっている。
「マインドフルに物事を受け入れると、ある体験から自分の意識を切り離す感覚が得られ、現実に対する評価を変えてくれます。これは目の前で起きていることに自分は関与しておらず、ただその状況を外から観察しているようなイメージです」とオクスナー博士は語る。たとえば腕立て伏せ10回という目標を立てたのに、9回目で両膝をついてしまった場合には2種類の評価ができる。ひとつは目標に届かなかった不甲斐なさに執着して不機嫌になること。もうひとつは、目標達成に限りなく近づいたことに注目し、次回はもう少しだけ粘ってみようと思うことだ。
「人間の心には、感情のうえに感情を重ねて雪だるま式に太らせるクセがあります。たとえば不安や恐れを感じていると、その感情にさらなる怒りを覚え、そんな自分の怒りを悲しんだりするのです。でも最初にマインドフルな受容ができていれば、そんな感情も受け流せるようになります。増幅が抑えられれば、ネガティブな感情も長く続くこともありません」とオクスナー博士は語る。つまりマインドフルに現実を受け入れれば、「反応せずに放っておく」ことができる。期待通りの結果にならなかった時は、ぜひこの考え方を思い出してみよう。
マインドフルな受容の第一歩
マインドフルな受容への入門ガイドを試してみよう。これはオクスナー博士の研究で使用したエクササイズの改良版だ。
- 気の散らない静かな環境を用意し、楽な姿勢で座る。まずは2~5分間、呼吸に意識を集中する。そして自分がバスの運転手であると想像する。乗客は乗り降りするが、バスは進み続ける。乗客の中には、声が大きくて感じの悪い人もいる。そんな乗客たちが、自分の不穏な考えや不愉快な感情を表していると考えてみよう。彼らに反応することなく、ただ存在を認め、そのまま受け入れてみる。彼らがバスを降りたら、そのまま運転を続ける。
- 別のアプローチも試してみよう。あなたは屋外にいて、嵐が近づいている。地面、木々、建物と同じように、あなたはいつもそこにいる。雨の日も、雪の日も、晴れの日もその場から動かない。あなたは嵐から逃げるのではなく、嵐の来訪を受け入れる。そして、ただ通り過ぎるのを待ってみる。
- ここで身に付けたイメージは、機会があるたびに実践できる。大きな感情の高まりを感じても、まずは物事の良し悪しで決めつけないこと。バスの運転手や嵐の観察者になったつもりで、自分の感情をそのまま受け入れてみよう。そのまま受け流すか、通り過ぎるのを待つのだ。
このエクササイズが素晴らしいのは、短時間のセッションを1回受けただけで効果が実感できること。マインドフルな受容を心がける機会が増えるほど、簡単に実践できるようになるのだとオクスナー博士は語る。「1日に数分間、呼吸に意識を集めてください。そして自分の感情と向き合い、心身の状態を観察するのです。自分の人生で起きていることを受け入れれば、ネガティブな反応を改める能力も向上していくでしょう」
こんな効果を知れば、瞑想への疑念も晴れることだろう。
文:リンジー・エメリー
絵:セバスチャン・プラサー