耐用距離を伸ばす:ランニングシューズを長持ちさせる12の簡単な方法
Innovation
お手軽なデイリーケアのコツをランナーたちが紹介。ヒントを活用して捨てるシューズを減らし、より意識の高いランナーになろう。
「誰もがイノベーター」は、アスリートが直面する問題を革新的な発想で乗り越えていくシリーズ。
2020年の夏、ロンドン在住のドーラ・アティム(ランニングコーチ)は、イングランドの田舎でふと我に返った。
ドーラは当時を振り返る。「森の中で、突然涙が止まらなくなりました。でもそれは、自分がこの場所に来られた奇跡を喜ぶ安堵の涙でした」
自然とのつながりは感動を呼ぶ。美しい景色を目にし、土地のパワーを感じながら走れば、その環境を守りたいと思うのもごく当然だ。
ランナーなら喜んでほしい。地球を大切にすることは、より良いランナーになることによく似ている。どちらも毎日の積み重ねが結果につながるのだ。ランニングシューズの手入れのようにささいなことでも、長く続けていればいずれ大きな違いを生み出す。シューズを買い換える頻度が減るからだ。
プロアスリートからNikeのデザイナーまで、グローバルなランニングコミュニティにギアの賢い使用法を尋ねてみた。完全な回答は得られなくても、お互いから学べることはたくさんある。これから紹介する珠玉の知恵を読んで、役立つ習慣を一緒に始めよう。
シューズは友達だ。Nikeデザイナーのリッケ・ボンデ(左)とシェルビー・ウォーリグマン(右)が、ギアと個人的なつながりを築く方法を伝授。シューズにメッセージを書いたり、シューレースを交換することも重要だ。
1. ギアとつながる
シェルビー・ウォーリグマン(Nike Runningアパレルデザイナー)は語る。「自分の持ち物と心からつながることは、よりサステナブルな習慣を身につける大きなチャンスになります。持ち物に敬意を抱くほど、長持ちするようになりますから」
ランニングシューズと心からつながる方法は簡単だ。自分好みのシューレースと交換すること。シューズに自分を鼓舞するメッセージを書くこと。旅行には必ずシューズも連れていくこと。ラージ・ミストリ(Nikeシニアアパレルデザイナー)は、シューズを携えてエディンバラ城からハノイの路地まであちこちを旅する。
長期的な成功を目指して、自分にぴったりのシューズを見つけよう。ランナーのチャンタル・ゴンザレス(左)、アムリトパル・ガートラ(中)、ケレチ・オコリエ(右)のように、距離、路面、ランのタイプにあったシューズを選ぼう。
2. 目的に適したシューズで走る
次回のショッピングに役立つアドバイスがある。「シューズに成果を期待するのではなく、まずは自分のランにどんな成果を期待しているのか問い直してみよう」と語るのは、ロサンゼルス在住のジョー・ミッケリー(EKIN)。ちなみEKINは「NIKE」の綴りを逆さにした称号で、Nike製品のエキスパートに与えられる。
シューズの性能を最大限に引き出し、ランから最大限の効果を得るため、具体的な目的を自問してからシューズを購入しよう。自然の中で走るなら、岩場などの不規則な地形に強いトレイル用シューズ。アスファルトやトレッドミルで長距離を走るなら、クッション性の高いロード用シューズが最適な反発力を提供する。
2021年7月、英国ロンドン。前年にランニングチーム「Ultra Black Running」を立ち上げたドーラ・アティムは、黒人女性、トランスジェンダー、ノンバイナリーなどの人々と屋外やトレイルで走っている。ドーラにとって、ランニング用品はスポーツのパワーを増幅する重要なツールだ。「走るときのコーディネートには、かなり気を遣います。気持ちに影響を与えますから。ウェアを完璧に着こなしているという自信も必要ですね」
2021年7月、英国ロンドン。前年にランニングチーム「Ultra Black Running」を立ち上げたドーラ・アティムは、黒人女性、トランスジェンダー、ノンバイナリーなどの人々と屋外やトレイルで走っている。ドーラにとって、ランニング用品はスポーツのパワーを増幅する重要なツールだ。「走るときのコーディネートには、かなり気を遣います。気持ちに影響を与えますから。ウェアを完璧に着こなしているという自信も必要ですね」
3. シューズはラン専用にする
「どんなシューズにも寿命があり、履くたびにその寿命は減っていきます。まだ300kmしか走っていないのにシューズの反発力が落ちてきたら、そのシューズを普段履きにして800kmくらい歩いてきたのでは?」とクリス・ベネット(Nike Runningグローバルヘッドコーチ)は語る。ただのお出かけにランニングシューズを履くたび、ランで使用できる回数が1回減るという原則を思い出そう。
新しいランニングシューズを履き慣らすため、無駄に歩き回って貴重な走行距離を浪費した人もいるだろう。クレイグ・エンゲルス(プロ中距離ランナー)は、「古いシューズからインソールを取り出し、新しいシューズに入れるといいですよ」とアドバイスしている。使い古したインソールは、足のけいれんを防いでくれる。だから新品のシューズでも、すぐに全力で走れるのだ。
ジョー・ミッケリー(EKIN)いわく、正しいランニングシューズの脱ぎ方というものがある。ささいなことが、大きな変化をもたらすのだ。
4. シューレースをほどく
ここで紹介するヒントは、本当に簡単なものばかりだ。シューレースをほどくだけでも、ランニングシューズの寿命が大きく変わるかもしれない。
シューズを脱ぐときには、毎回きちんとシューレースをほどこう。これを怠ると、ヒールカップの構造や機能を損なうおそれもある。「かかとをつぶし始めたときから、ランの質が低下していきます」とジョーは警告する。シューレースを結んだままシューズを脱ぐ癖がつくと、次回走るときもシューレースを結びっぱなしでシューズに足を押し込んでしまう。これではサポート性が損なわれ、シューズへの損傷も倍増するだろう。だからシューズと足のために、時間をかけてシューレースを正しく結んでほしい。
シューレースが苦手な人は、着脱しやすいナイキ フライイーズやNike By Youのカスタマイズを試してみてもいいだろう。着脱が簡単なトグル付きの編み構造を選べるモデルもある。
シューズは乾燥した状態が大好き。ランニングコーチのアムリトパル・ガートラ(ロンドン在住)が、シューズの湿気を取って雑菌の繁殖を防ぐ簡単なコツを教えてくれた。それはランの後、シューズに新聞紙を詰め込んでおくという方法だ。
5. 必ず乾かす
湿気を放置すると、シューズの寿命が極端に短くなりかねない。ベネットコーチは説明する。「湿ったシューズの中では、雑菌が繁殖します。シューズの中では汗をかいているし、小川や水たまりを走り抜けたらなおさらです。まだ600kmしか走っていないシューズを買い替えたくなる理由は、機能、クッション、反発力の低下だけではありません。単に臭いのが嫌で捨ててしまうこともあるのです」
悪臭を防ぐには、走った後に必ずシューズを乾かすこと。まずは風通しのいい場所にシューズを保管することから始めよう。
ずぶ濡れの場合は、もう少し手順を追加。シューズに丸めた新聞紙を詰め込み、水分を吸わせて乾燥を促そう。ラージ・ミストリー(Nikeシニアアパレルデザイナー)は、バケツ1杯の生米をガレージに置いてシューズの乾燥に利用している。水没した携帯電話を生米に入れておくと内部の湿気も取れる。そんなライフハックを応用したアイデアだ。
ほとんどのランナーが同意したのは、乾燥機を使わないということ。Nike製品の耐候性実験を担当する品質管理技術者によると、シューズをつなぎ合わせている接着剤や結合剤は高熱に強くない。
6. シューズを休ませ、ローテーションを組む
ランニングシューズにも休日を与えよう。マラソン選手でもあるロンドン在住のアムリトパル・ガートラ(ランニングコーチ)は言う。「シューズにリカバリーの機会を与えるようなもの。次回のランに備えるため、ランの後にはクールダウンの時間を与えてください」
Nikeの技術者によると、クールダウンには24~48時間以上のブランクが必要だ。正確なリカバリー時間は、複数の要因(素材、体重、地形、走行距離)によって変わってくる。ラン後にフォームミッドソールが復元するまでの時間を十分に取ると、次回のランでも本来のサポート性能が発揮され、反発力の持ちもよくなる。
必要なブランクよりも頻繁に走っている人は、シューズのローテーションを組んでみよう。もう1足を買うのは先行投資になるが、ローテーションを組みことでシューズは長期間にわたってベストの状態を保てる。使いすぎによる早期の劣化を防ぐこともできるのだ。
2021年7月、英国ロンドン。コロナ禍が終息したら、ドーラは、Ultra Black Runningで週1回のトレイルランを復活させる予定だ。ロックダウン前は30~40人もの参加者が集まる人気イベントだった。「黒人女性には、自分らしくいられる場所が必要です。私たちはいつも誰かの都合に振り回され、絶えず排除されたり、存在を無視され続けてきました。彼女たちのために始めた活動は、すばらしい方向へ発展を遂げています」
2021年7月、英国ロンドン。コロナ禍が終息したら、ドーラは、Ultra Black Runningで週1回のトレイルランを復活させる予定だ。ロックダウン前は30~40人もの参加者が集まる人気イベントだった。「黒人女性には、自分らしくいられる場所が必要です。私たちはいつも誰かの都合に振り回され、絶えず排除されたり、存在を無視され続けてきました。彼女たちのために始めた活動は、すばらしい方向へ発展を遂げています」
7. 路面のバリエーションを増やす
「ランニングは路面によって変わってきます。芝生は路面が衝撃を吸収してくれるので、それほどクッショニングが必要ありません」とベネットコーチは指摘する。可能ならアスファルトよりも柔らかい路面(芝生、トレイル、トラック、ビーチ)をローテーションに取り入れ、シューズと体を同時に休ませてみてもいい。これはランニングシューズを何足も買う余裕がない高校生ランナー(トラック競技とクロスカントリー)にベネットコーチが与えていた助言だ。だがクレイグ・エンゲルスのようなプロ選手でも、この教えを実践しているランナーはいる。
クレイグ自身が好きな路面は、人口土のアンツーカートラックだという。「週に120~160kmくらい走りますが、いつも柔らかい路面を探しています。コンクリートの上を走っている場合は、シューズにより多くの圧力をかけていますから」
シューズの通算走行距離は、数値で把握しておこう。Nike Run Clubアプリを使えば、いとも簡単に(しかも自動的に)走行距離が記録できるとジョー・ミッケリー(EKIN)は言う。アプリができる以前は、ジョーもおろしたてのシューズに「使用開始日」を書き、そこから毎月の走行距離を見積もるというアナログな方法に頼っていた。
8. 走行距離を記録する
ランニングシューズの場合、使用年数の数字は大して意味がない。使用年数よりも走行距離が重要なのだ。ベネットコーチいわく、シューズには牛乳のような賞味期限はない。だからあまり使っていなかった古いシューズを引っ張り出し、もう一度使ってもOKだ。ただし走るたびに、必ずトータルの走行距離をチェックしておくこと。
簡単な方法は、Nike Run Clubアプリでシューズをタグ付けすること。シューズごとに目標距離を設定しておく。すると走るたびにアプリが自動的に距離を記録し、目標に達すると通知が届く。
走行距離が、シューズの寿命を決める最重要事項という訳でもない。それでもおおよその状態を簡単に評価する基準にはなる。Nikeの品質管理技術者によると、通常のシューズは設計時に最低300~500kmの耐久テストが実施される。この「最低」という言葉が重要だ。500km走ったシューズでも、まだ良好な状態なら捨てる必要はない。引き続き元気に走ってくれるはずだ。
自分の体を知ることで、必要なギアも理解できる。競技ランナー出身のダニエル・ジラール(Nike直営店スタッフ)は、痛みの原因を特定するためにウォームアップとクールダウンが重要であると説く。
9. シューズのケアとセルフケアについて理解する
ちょっとしたうずきや痛みが起こると、すぐ新しいシューズを探し始めるランナーもいる。だが自身もランナーであるダニエル・ジラールは、あえて新しいシューズの購入を促さない。その前に、ラン前後のルーティンを見直すよう接客時に勧めている。
「走るたびに、ふくらはぎが痛くなるんですね? シューズのクッショニングが劣化した可能性もありますが、ひょっとしたらふくらはぎが硬くなっていてストレッチの必要があるのかもしれません」とダニエルは問いかける。シューズではなく、ランナーに問題がある場合もあるからだ。
体とギアは、走れば走るほど調和が深まる。調和が深まれば、トラブル発生時にも適切に解決できるようになる。そのような深化を目指しながら、シューズに関する結論を急ぐ前にウォームアップとクールダウンについても確認しよう。もちろん繰り返し発生する問題については、注意深くモニタリングする必要もある。
2021年7月、英国ロンドン。「私にとってサスティナビリティとは、シューズを大切に使い続けること。誰かに譲るつもりはありますか?買い替えの頻度は?」とドーラは問いかける。違いをもたらす方法は、時間をかけてシューズを適切に洗うこと。走った直後でも、しつこい汚れをおとす場合でも同じだ。「シューズを最大限に活用するため、定期的に洗濯しています。新品のように見えたら、シューズを買い換える必要もないでしょう?」
「私にとってサスティナビリティとは、シューズを大切に使い続けること。誰かに譲るつもりはありますか?買い替えの頻度は?」とロンドン在住のドーラ(ランニングコーチ)は問いかける。違いをもたらす方法は、時間をかけてシューズを適切に洗うこと。走った直後でも、しつこい汚れをおとす場合でも同じだ。「シューズを最大限に活用するため、定期的に洗濯しています。新品のように見えたら、シューズを買い換える必要もないでしょう?」
10. 洗うタイミング(と方法)を知る
Nikeの素材デザイナーで、熱心なウルトラランナーのリッケ・ボンデは次のように語っている。「シューズを洗濯する目的は、ほこりや泥が付いてほしくない場所や縫い目に入り込まないようにすること。素材の寿命を伸ばすのが重要なんです。汚れを落とすと、シューズが長持ちしますよ」
低刺激性のせっけんと水でシューズを洗い、しつこい汚れをおとすのが好きなランナーもいる。ロンドン在住のクリエイター、ケレチ・オコリエもその一人だ。ランニングクラブ「TrackMafia」にも所属するケレチは、月に一度シューズを徹底的に洗う「シューズバス」の日を設けている。
もっと簡単なお手入れ方法を好む人もいる。シェルビー・ウォーリグマン(Nike Runningアパレルデザイナー)が勧めるのは、草の上で余分な泥を落とし、木の枝でソールの溝から泥を取り除き、ボロ布で汚れをぬぐうスタイルだ。
多くの人が、シューズを洗濯機で洗ってもいいのか訊いてくる。でも今回協力してくれたランナーたちは、シューズを丁寧に手洗いしたがる傾向が強かった。お気に入りのシューズとつながるもう一つの機会と考えてみよう(ヒント1を参照)。
小さな修繕は自分でやってみよう。素材デザイナーのリッケ・ボンデは、小さな裂け目を縫い合わせる作業が好きだ。この作業を「瞑想タイム」と位置づけ、自分自身とギアのつながりをマインドフルに深める機会にしている。
11. できる範囲で修繕する
ランニングシューズは複雑に作られている。だからといって、修繕の工程も複雑な訳ではない。ケレチ・オコリエは、YouTubeで学んだ裁縫技術を駆使し、アッパーにできた裂け目を縫い合わせた。「部分的に壊れていても、構造全体の状態がまだ良い場合は修繕します。今の時代は、何でもネットで調べられますから」
構造に関わる大きな修理は、プロに任せたほうがいい。でもアッパーやアウトソールの簡単な修繕なら、どんなランナーでも挑戦できる。擦り切れたシューレースを交換したり、摩擦を受けやすい部分を粘着テープで補強したり、簡単な方法で解決する場合もあるのだ。
素材デザイナーのリッケは、ウルトラマラソンに修繕キットを持参する。「シューズをそれほど大切に扱ってるわけではないんです。でもうまく修繕できたらシューズはちゃんと履けるし、失敗しても試みる価値はある。とりあえずやってみるんです」
人生は続いていく。一線から退いたシューズは、普段着や野良仕事で履き続けてもいい。ベネットコーチも、そうやって古いシューズを活用している。ランニングシューズを引退させるタイミングについて、アムリトパル・ガトラが見極め方を指南する。
12. シューズの引退を受け入れて祝う
ベネットコーチは言う。「シューズを永久に使い続けたい訳ではありません。設計上の寿命に達するまで、しっかり使い続けるのが目的です。役目が終わったシューズをあの世からよみがえらせるつもりもありません」
シューズの限界は、どうやって判断できるのだろうか。ポイントはたくさんある。まずはそのシューズを履いて走った距離をチェック(Nikeの品質管理技術者によれば、300~500kmがひとつの目安だ)。次に、シューズと自分の体の調子を確かめる。シューズに明らかな損傷はないか。靴底がすり減って、滑りやすくなっていないか。反発力が低下したり、ラン後の復元に時間がかかるようになっていないか。このような兆候が見られたら、シューズが長い寿命をまっとうしたということ。シューズを誇らしく引退させよう。
もう一緒に走れないからといって、永遠の別れになる訳でもない。古いシューズがまだ履ける状態なら、毎日の散歩やガーデニング用への登用も検討しよう。欲しがってる人がいたら寄贈してもいい。本当に寿命が尽きた場合は、どんな種類のスポーツシューズでもNikeストア(一部店舗)のリサイクルプログラムで引き取ってもらえる。
ここで得た知識を広めよう
日常の習慣が積み重なり、みんなの経験が集まれば大きな知恵も生まれる。シューズのお手入れ方法について新しいヒントを学んだら、ぜひ他の人たちとも分かち合おう。
アパレルデザイナーのシェルビーは、心の平穏やひらめきを得るために走り続けている。「ランニングコミュニティは、すばらしい実践の場です。思いやりのある人が大勢いて、みんな外に出て走るのが大好き。そこで社会的なつながりを築くこともできます。持ち物を大事にする習慣も、当たり前になるように広めていきたいですね。多くの人々が実践するほど、世界の変化を推進できるので」
Move to Zeroについて:Nikeはカーボンゼロと廃棄物ゼロを目指し、スポーツの未来を守る「Move To Zero」プロジェクトに取り組んでいます。
文:エミリー・ジェンセン
写真:ホリー=マリー・カトー