エキスパートが教える、プルアップの始め方
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トレーナー公認のコツを学んで、体の動かし方を学ぼう。
プルアップは難易度が高いながらも非常に効果的な自重トレーニングで、上半身の複数の筋肉と腹筋に働きかける。 運動能力を計る基準の1つとされているプルアップだが、この強化トレーニングは、決して容易なものではないと専門家は考えている。
「プルアップとは、全体重を重力に逆らって垂直に持ち上げること。 これは簡単なことではありません」そう語るのは、Nikeフィットネストレーナー兼ヘルスコーチのアレックス・ピッキリリだ。
容易ではなくとも、この自重トレーニングができるようになる体づくりの方法はいくつかある。 ただし、プルアップの上達方法を学ぶ前に、プルアップで使う筋肉について知った上でトレーニングに臨むことが大切だ。
プルアップで使う筋肉群
プルアップを行う際は、腕、肩、背中、体幹の筋肉群を使用する。 『Strength and Conditioning Journal』の2014年のレビューによると、プルアップには3つの段階がある。スターティングポジション、上昇、そして下降の3ステップだ。そしてそれぞれの段階で、同じ筋肉が使用される。
各部位で使用される筋肉一覧:
- 肩
- 中部僧帽筋
- 後部三角筋
- 棘下筋
- 大円筋
- 肩甲下筋
- 背中
- 下部僧帽筋
- 菱形筋
- 広背筋
- 脊柱起立筋
- 胸
- 小胸筋
- 大胸筋
- 腕(上腕・前腕)
- 上腕二頭筋
- 上腕筋
- 上腕撓骨筋
- 長掌筋
- 橈側手根屈筋
- 尺側手根屈筋
- 深指屈筋
- 浅指屈筋
- 長拇指屈筋
- 腹部
- 外斜筋
理学療法士および理学療法博士の資格を持ち、 オレゴン州タイガードのLife’s Work Physical Therapyで臨床部長を務めるエリン・コートニーによると、プルアップを正しく行うためには、これらの筋肉をすべて連動させる必要がある。 上述した筋肉はどれもプルアップを行ううえで重要だが、その中でも特に重要な役割を果たす筋肉がある。
「プルアップにおいて主要なはたらきをするのが広背筋です」とコートニーは語る。 「広背筋は背中にある大きな筋肉で、腕と繋がっています。広背筋は肩を内旋、伸展、内転させる筋肉。 そしてプルアップには、これらすべての動作が入っています。 上腕二頭筋もプルアップをアシストし、 肘を曲げたり、さらには肩を屈曲(腕を上げる動作)するときにも役立っています。 また、菱形筋は肩甲骨の安定を支え、三角筋は肩の安定をサポートします」
プルアップを上達させる方法
プルアップ未経験者なら、動作を修正したり、他者からのサポートを受けたりすることもなく、できることがいくつかある。
1.まずはプルアップバーにぶら下がることを極めよう。
そう、ただぶら下がるだけでいい。 コートニーによると、プルアップを行うには、手は肩幅よりやや広めに、手の平を前に向けた状態でバーを握ること。 「腕を広げすぎたり、手の平を後方に向けた状態でバーを握ったりすると、肩の関節に負荷がかかり、肩の滑液包や腱に悪影響が出る恐れがあります」とコートニーは語る。 2022年の観察研究によると、肩の腱が肩甲骨を摩擦し、炎症を起こす可能性があるそうだ。
正しい位置でバーにぶら下がることができたら、次は体幹に力を入れて欲しいとピッキリリは続けている。そして毎日数秒ずつ、ぶら下がる時間を伸ばしていこう(最初は5~10秒から始めて、そこから1、2秒ずつ時間を伸ばし、最終的には15~20秒を目指す)。
「(ぶら下がっている時は)つま先が見える状態にしてください」とピッキリリ。 「骨盤を立てたまま、脚は自分の前に出します。 よく背中を曲げてしまう人がいますが、これでは体幹を使うことができません。 ぶら下がった姿勢で体幹に力を入れることに慣れたら、プルアップ上達が近づきます」
2.正しいフォームを学ぼう。
プルアップバーに適切にぶら下がれるようになって、手の位置もマスターしたら、次は正しいフォームを学ぼう。 正しいフォームとは、腕の力だけに頼らず、肩と背中の筋肉を使って体を引き上げること。
「肩甲骨を寄せて下げることで、広背筋と肩甲筋から動かしていきます」とコートニーは言う。 「体幹に力を入れて、バーが胸の位置に来るまで上がり、そこからしっかりとコントロールしながら体を下ろしていきます」
3.バーティカルプルエクササイズで練習しよう。
プルアップの難易度が高いのは、プルアップがロウなどのように水平に引く動作ではなく、体を垂直に持ち上げる動作であることが理由の1つであるとピッキリリは言う。 このため、バーティカルプルエクササイズを取り入れることで、重力に逆らって体を垂直に動かす練習をすることを彼女は推奨している。 ピッキリリがおすすめするのは2種類のエキセントリック プルエクササイズで、どちらもプルアップの下降時に使う筋肉に働きかける。
1つ目はバーを使ったエキセントリック ロウアー ダウン。いわばプルアップの逆バージョンとなるエクササイズだ。
- まず丈夫なボックスをバーの下に置く。
- 立った状態から、手を伸ばしてバーに手を置く。
- そこからプルアップを行う際の最も高い位置まで登るか、ジャンプする。
- 4、5秒ほど時間をかけてゆっくりと体を下ろし、地面に足を着ける。
- この動作を繰り返す。
2つ目はリングまたはストラップを使用したエキセントリック プル。地面に座った状態で行う。
- 地面に座った状態から、腕を上に伸ばし、リングまたはストラップを掴む。 脚は前に伸ばしたまま、背中、肩、腕を使って臀部を地面から押し上げる。
- そこからなるべく下半身を使わないようにしながら、4、5秒ほど時間をかけてゆっくりと体を下ろす。
- この動作を繰り返す。
4.肩甲骨プルアップのやり方を学ぼう。
背中と肩の筋肉を使ってバーにぶら下がる感覚を掴むには、肩甲骨プルアップから始めてみるといい。
「(肩甲骨プルアップは)ぶら下がった状態で、肩を背中の下の方に引くことだけに集中します」とピッキリリは言う。 「腕はそのままの位置で、曲げたりせずに、肩だけを下げることで感覚を掴みましょう。 この動作で、プルアップの第一歩である、背筋への働きかけができるようになります」
コートニーは、背中の中央と上部にある筋肉にフォーカスすることが、プルアップで使う適切な筋肉の活性化に重要だと説明する。
5.補助付きプルアップに進もう。
違和感なくバーにぶら下がれるようになり、肩甲骨プルアップができるようになったら、補助付きプルアップに進む準備の完了だ。 補助付きプルアップでは、道具の助けを借りながら、フォームに集中して練習を行っていく。 画像処理を用いた2017年の研究では、補助付きの場合と、サスペンションを使った場合や「伝統的な」プルアップで見られる筋肉の活動は同じで、補助付きの練習をすることによって、補助なしでプルアップをするための刺激を筋肉に与えることが可能だということが確認された。
「まずはバンドを使った補助付きプルアップから始めることをおすすめします。 バンドの強度が高いほど、プルアップを行う際のアシストが強くなります」とコートニーは言う。 「ボックスの上に立って行う補助付きプルアップもあります。 このエクササイズでは、正しい動作からプルアップを始めることができ、プルアップを適切に行うために必要な運動パターンと筋肉の記憶を構築していくことができます」
補助付きプルアップは、アシスト付きのプルアップマシンを使うか、あるいはプルアップバーにレジスタンスバンドを結んで行う。 バンドで輪をつくり、片膝または片足を乗せてプルアップを行う(バンドの強度が低いほど、補助力は弱くなる)。
6.自分の力でプルアップに挑戦してみよう。
「補助付きプルアップを10回程度こなせるようになったら、補助なしのプルアップを取り入れていくことをおすすめします」とコートニーは言う。
最初は少しずつでいい。トレーニングルーティンに補助なしのプルアップを1回だけ加えてみよう。痛みを感じるようなら無理はしないこと。 プルアップができるようになるまでにどれくらいの時間がかかるか、明確な指標はない。 人それぞれに個人差がある。 どこかの時点でプルアップのやり方の再確認が必要になったとしても、それを後退とは捉えないで欲しい。 プルアップを正しい方法で行うためのテクニックを、改善させようとしているだけなのだから。
文:アシュリー・ローレッタ