初心者がパワークリーンをマスターする4段階
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オリンピックのウェイトリフティング競技でも実践されるパワフルな動きを正しいフォームでマスター。エキスパートがステップごとに解説する。
重りを付けたバーベルを床から肩まで引き上げる。パワークリーンは、切れ目のない連続的な動きのように見えるかもしれない。 だがこのリフティングは、小さいながらもたくさんの筋肉が力強く連動する作用の集積だ。 パワークリーンはクリーンとジャークからなるエクササイズであり、オリンピックの公式ウェイトリフティング競技でも基本の動作となる。正しくマスターするために、アスリートは数か月から数年に及ぶトレーニングを積む。そう語るのは、CrossFitレベル1トレーナーのメーガン・デイリーだ。
トップアスリートでなくても、パワークリーンをマスターすると多くのメリットが得られるという。 「パワークリーンによって鍛えられるのは、体力を発揮する方法。すばやく動こうとするときに、かなり重要な技術なのです」とデイリーは説明する。 「アスリートにとっては、垂直方向への跳躍力や瞬発力。アスリート以外の人にとっては、ソファーからさっと立ち上がったり、お子さんと一緒に走り回ったりするための体力でもあります」
パワーアウトプット(体力の発揮)とも呼ばれるパワートレーニングは、瞬発的な動きによって筋力を鍛え、スピードや敏捷性を向上させるタイプのトレーニングだ。 2008年に学術誌『Journal of Strength and Conditioning(筋力とコンディショニング)』に発表された研究では、習慣的な筋力トレーニングにパワークリーンを組み込むと、ジャンプの高さや短距離走の速度など、瞬発的な運動のパフォーマンスを向上できる可能性が示された。 14~15週間トレーニングを続けた後に、最も顕著な成果が見られていた。
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パワークリーンの手順や筋肉の動かし方、さらにはパワークリーンを筋力トレーニングのルーティンに組み込むメリットについてデイリーが解説する。
パワークリーンの手順:4つのステップ
初心者なら、ウェイトを軽めに設定したり(自覚的運動強度を10段階で表した指標の5~7程度)、ウェイトを外したバーベルを使ったり(ウェイトなしで15~20kg)、長い塩化ビニルパイプを使用してみよう。
1.最初の姿勢
- 足を腰幅に開き、できるだけバーベル(床に置いた状態)に近い位置に立つ。 バーが土踏まずの上あたりに来るように立つとよい。 すねがバーに軽く触れても構わない。 つま先は少し外側に向ける (スクワットを始める姿勢に似ている)。
- 手のひらを手前に向けた状態で腕を伸ばして下ろし、バーを握る。 脚の外側に親指1本分程度の幅を広げて握ること。
- バーをしっかり握り、ハーフスクワットの姿勢になるよう腰から上体を倒す。太ももと床が平行になるよりも少し高い位置に腰を保つ。 胸を多少上げるようにする(シャツの胸のロゴを見せるようなイメージ)。 肩と腰のラインを揃え、背中をまっすぐにし、コアを引き締める。 横から見たときに、腕と太ももと上体で三角形ができるはずだ。
- 両足に均等に体重をかけ、この姿勢をキープする。 背中をまっすぐにし(脇の下をくすぐられそうになって脇を締めるようなイメージ)、引き続きコアを意識する。 デッドリフトの最初の姿勢と同じだ。
2.ファーストプル
- 腕を伸ばしてバーをしっかり握った状態で、床をしっかり踏みしめて(足指10本すべてに力を入れて床を押すイメージ)、ハーフスクワットの姿勢から腰を上げていく。この動きには下半身を使う。 腰と肩を同じ速度で上げていくようにする。 つまり立ち上がる過程で、腰の角度を一定に保つ必要がある。
- 膝の位置に来るまでバーを引き上げていく。 ここではまだバーを膝より高い位置まで持ち上げないようにしよう。
3.セカンドプルからトリプルエクステンション
- 勢いよく腰を前に突き出しながら、バーを「すくう」ようにして太ももの上に持ち上げる。このとき胸は直立にする。 足の裏をしっかり床につけたまま、膝は少し曲げた状態に保つ。
- できるだけ勢いをつけ、両足に体重をかけて、腰と膝を完全に伸ばしたトリプルエクステンションの状態になる。 床を強く踏みしめることで、反射的につま先立ちになるのは問題ない。
4.サードプル(または「キャッチ」)
- バーが胸の高い位置に近づいたら、上体をバーの下にすばやく引きつけ、肘をバーの下へ突き出しながら手首を返して手のひらを上に向ける。 手首と肘の位置の変化に対応するために、バーを握った手は必然的に緩めることになる。
- 肘をバーの下で前後に動かし、浅いスクワットの姿勢になる。つまり、落ちるバーをキャッチできる程度に腰を落とす。 バーは肩の前に乗せ、手のひらは上に向け、手首が前方を向くようにする。
- 肘を高い位置に保ち、真っ直ぐに立つ。 この姿勢を少しキープした後、手首を返し、腰から上体を倒してバーを床に下ろす。
パワークリーン:鍛えられる筋肉と、瞬発力や筋力を強化できるエクササイズ
パワークリーンは複合的な運動であり、実践することで一度に複数の筋肉群を鍛えられる。
「パワークリーンは全身のワークアウトです」とデイリーは言い、鍛えられる筋肉として、大臀筋、コア(腰を含む)、大腿四頭筋、ハムストリング、内転筋、肩、前腕を挙げる。
パワークリーンにチャレンジする前に、もっとシンプルな別の運動をマスターしておく必要は特にない。それでも対象となる筋肉群の強化に役立つエクササイズがいくつかあるとデイリーは言う。そのようなエクササイズは次の通りだ。
- デッドリフト:デッドリフトはパワークリーンのあらゆる動作の基本。 デッドリフトの適切なやり方を習得すれば、さらに力強く、安定した動きでパワークリーンができるようになるはずだ。
- ハイプル:パワークリーンの後半の動作をうまくこなすには、ハイプルが有効だとデイリーは言う。 というのも、パワークリーンと同じく、バーベルを腰から肩まで引き上げる際に、大臀筋と腰を使って勢いをつけるからだ。 ハイプルに取り組むことで、セカンドプルとサードプルで使う筋力を高められる。
- ケトルベルスイング:パワークリーンと同様に、ケトルベルスイングも重力、勢い、力によって動きを生み出す。 また大臀筋、ハムストリング、コア、肩など、パワークリーンと同じような筋肉を使う。
フロントスクワット:フロントスクワット(バーベルを後ろに担ぐ従来のスクワットに対してバーベルを肩の前に置く)は、大腿四頭筋、大臀筋、ハムストリングの強化に加え、パワークリーンのように体の前でバーベルを扱う動作に慣れるのに役立つ。
パワークリーンにありがちな5つの間違い
パワークリーンは4段階にまたがる複雑な運動であるため、それぞれのステップを正確に運ぶことが重要だ。 初心者に散見される間違いとして、デイリーは以下の点を挙げる。
- 最初のデッドリフトの段階で、腰の位置が高すぎるか低すぎる。 この場合、バーを引き上げる軌道がずれてしまうおそれがあり、バーを引き上げるのに十分な勢いをつけられなくなる可能性があるという。
- 肘を引くタイミングが早すぎる。 パワークリーン初心者は、サードプルよりもセカンドプルで肘を前後に揺らす人が多いとデイリーは説明する。 この場合、バーを肩に引き上げるのに十分な勢いをつけるのが難しくなる。
- 肘を引き上げるまでに時間がかかり過ぎる。 反対に、肘をバーの下に突き出してバーベルを肩まで引き上げるまでに時間をかけ過ぎると、バーをつかみ損ねたり、前に落としてしまったりすることがよくある。
- バーベルを体に近い位置にキープできない。 バーベルは、すね、太もも、上体に沿うように引き上げなければならない。 この軌道を外れると、勢いを利用してバーを引き上げることができなくなる可能性がある。背中や肩に負荷がかかり過ぎて、けがを引き起こすおそれもある。
- 両足に均等に体重をかけていない。 この場合、バランスを崩したり、バーを引き上げるのに十分な力や勢いを発揮できなくなったりする可能性がある。
文:ジュリア・サリバン(A.C.E.認定パーソナルトレーナー)