リカバリーが免疫システムに与える影響
Coaching
ワークアウトからの回復に役立ち、健康維持に重要な役割を果たす手順を紹介。
職場や、ジムや、日常生活には休暇が欠かせない。たっぷり英気を養って、以前より元気な状態で活動することは目標達成の役に立つ。そしてほんのわずかな休養でも、免疫システムに良い効果があることがわかっている。
汗をかいて体を動かせば、免疫システムの機能は高まる。だがトレーニングにやり過ぎはつきものだ。適切なリカバリーを挟まずに高負荷のエクササイズを続けると、病気のリスクを高めてしまいかねない。そう語るのは、ジョナサン・ピーク博士。オーストラリアのクイーンズランド工科大学で上級講師を務める専門家だ。負荷や頻度が過剰になると、人体に本来備わっている外敵への防御機能が損なわれてしまうという。
免疫システムのしくみ
免疫システムは細胞とタンパク質の複合ネットワークで、有害なウイルスや細菌に対する第一防衛線として機能する。このシステムを強化するには、健康に関わる他の領域からネットワークに好影響を与えなければならない。そこで今回注目するのが「リカバリー」だ。
「1時間もかけて全力を出し尽くすハードなエクササイズの後は、数時間にわたって白血球の数が減少し、機能も低下します」とジミー・バグリー博士(サンフランシスコ州立大学運動学准教授)は言う。エクササイズ後の感染症対策を実践していれば、この免疫低下も大した問題にはならない。だが高負荷のエクササイズを頻繁に続けると、疲労の蓄積によって免疫機能が慢性的に低下してしまう恐れがある。
「適切な休養日を設けずに高負荷のエクササイズをやり過ぎる人は、慢性的な重度の炎症を患う傾向があります。休みなくセッションを継続すると、このような炎症もどんどん悪化します」と語るのは、グレゴリー・グロシツキ博士(ジョージア・サザン大学運動学助教)だ。
「適切な休養日を設けずに高負荷のエクササイズをやり過ぎる人は、慢性的な重度の炎症を患う傾向があります」
グレゴリー・グロシツキ博士
(ジョージア・サザン大学運動学助教)
炎症が続くと、免疫細胞はその炎症を治癒しようと動き出す(だが治癒の訳には立たない)。すると体全体が、外部の病原体への抵抗力を弱めてしまうのだ。「鼻の中にいる侵入者と戦わなければならないときに、体が慢性的な炎症に気を取られてしまうからです」とバグリー博士は説明する。
ここでは最適なリカバリーの習慣を確立し、体の抵抗力を正常に保つ方法を紹介しよう。
- 激しいワークアウトは休息を入れながら。
高負荷なトレーニングとは、毎日激しいワークアウトを続けることだと誤解されがちだ。しかしピーク博士は警告する。長距離ランやサイクリングなどの持久系運動も、厳しいペースで続ければ大きな心配の種になる。なぜなら高負荷エクササイズの定義は「年齢による予測最大心拍数の85%以上の心拍数が30分以上持続する場合」を指すからだ。(自分が取り組んでいるワークアウトが高負荷かどうかは、計測しなくても察しがつくだろう。)
「それに比べると、レジスタンスエクササイズは断続的に負荷がかかるので、持久力エクササイズほどのストレスが体に加わることはありません」とピーク博士は言う。また高負荷インターバルトレーニング(HIIT)は、1時間未満で終わる上に、インターバルが組み込まれているため、ワークアウト中にある程度のリカバリーができる。とはいえ免疫と筋肉の健康を考えたら、HIITワークアウトを毎日やりたいとは思わないだろう。
もちろん高負荷エクササイズを禁止している訳ではない。たとえ翌日に痛みがなくても、エクササイズ後は休息の必要があるということだ。レベッカ・ブレスロー博士(ハーバード大学医学大学院整形外科スポーツ医師)は、ストレッチ、ウォーキング、ヨガ、フォームローリングなどの軽いアクティビティを推奨している。バグリー博士によると、体を動かすことで免疫細胞が循環し、免疫システムを阻害するストレスを軽減できる。痛みがある場合は、もう一度体を追い込む前に痛みが引くのを待ってほしいとブレスロー博士は言う。
- 睡眠を優先する。
筋肉を修復して、ウイルスと戦うT細胞を生成するのが成長ホルモンの役割だ。この成長ホルモンは、主に睡眠中に分泌される。人は7.5時間以上の睡眠をとるべきだが、極めて激しいトレーニングをした場合はさらに長時間の睡眠が必要だとピーク博士は言う。
- オーバーワークの兆候に注意する。
どのようなスポーツでも、原因不明のいら立ち、疲労、強い痛み、食欲の変化など、明らかなやり過ぎの兆候に気付いたらペースを落とそう。「軽度なオーバーワークの症状が見られるときは、1~2週間くらいトレーニングの量と負荷を普段の50~70%ほど抑えるよう勧めています」とブレスロー博士は言う。オーバーワークの兆候が日常生活に影響を及ぼしている場合や、数日休んでも改善しない場合は、数週間または通常の感覚に戻るまで、30分の軽い低負荷エクササイズ(いわゆるアクティブリカバリー)に制限するとよい。
- 他のストレス要因を考慮する。
もちろん、免疫システムに影響を与える要因はエクササイズだけではない。仕事やプライベートの問題が悪影響を及ぼす場合もある。体はストレスに敏感だが、ストレスの原因まで教えてくれる訳ではない。
「人間関係や仕事上の悩みを抱えているときは、それが解決するまでトレーニングの負荷を下げるべきです」とピーク博士は言う。そうすることで、免疫システムが過活動状態に陥るのを防ぐことができるのだ。日々のルーティーンに、マインドフルネスのエクササイズを加えるのもよい。学術誌『神神経内分泌免疫学』に掲載された研究結果によると、たった25分の瞑想でもストレスは軽減できる。
- いったんリラックス。
これまでに紹介したヒントは、どれも健康な免疫システムを保つために役立つ。だがリカバリーの正しさを気にしすぎてしまうのは、1歩進んで2歩下がるようなもの。考え過ぎは禁物だ。心と体に良いと思うことを、必要なときに実行しよう。そうすれば、免疫システムにもきっと良い効果があるはずだ。