1日に必要な摂取カロリーは?
栄養
適切なカロリー摂取量を見極めるのは難しい。だが管理栄養士によると、1日に摂取するカロリーの量より栄養の質のほうが重要だ。
栄養学の専門家に最も多く寄せられる質問が、「1日に何カロリー摂取するべきか?」。しかしこれはかなり複雑な質問でもある。
体重の維持、増量、減量のため、研究者たちは何十年にもわたって必要なカロリー摂取量を正確に突き止めようとしてきた。そしてわかったのは「最適なカロリー摂取量は、個人の目標によって異なる」ということだ。 1日に必要なカロリー摂取量を把握する際に、考慮すべき要因はたくさんある。 その人の目標はもちろん、年齢、性別、活動レベル、病歴、生活面での習慣などによっても変動するのだ。
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この件に関しては無数の意見があるにしても(ヘルスケアの専門家の意見や、そうではない人の意見もある)、いくつかの質問に基づいて判断することが重要だ。できれば資格を持つ管理栄養士や医師で、自分の健康やニーズについてよく理解している人の手を借りることが望ましい。 必要なカロリー摂取量を知るための質問には、たとえば次のようなものがある。これまでに成功したダイエット法やカロリー記録法にはどんなものがあるか? 必要なカロリー摂取量を把握する目的は何か? 数値よりも消費するカロリーの質に着目することは可能か?
こういった質問に答える前に、まずはカロリーとは何かを理解しておきたい。
カロリーとは何か?
簡単に言うと、カロリーとはエネルギーの量を示す値だ。 食べ物から得られるカロリーは、あらゆる日々の活動(皿洗いから散歩まで)を行うのに体が必要とするエネルギーの源になる。 カロリーという言葉には、恐怖と紐づけられていた歴史もある。少なければ少ないほど良いという考え方を、多くの人々が持っているのだ。 エネルギー所要量を満たすという観点で1日の最適なカロリー摂取量を捉えようとすれば、この言葉が連想させる恐怖を取り除けるかもしれない。
生きていくには、必ず適切な量のカロリーが必要だ。 カロリーは、ランニングやウェイトリフティングなどの運動で消費される。しかしそれだけではなく、座っているときやメールを書いているときも消費される。 食べ物をエネルギーに変換するプロセスは代謝と呼ばれる。 得られたエネルギーは、生存を維持するために使われる。 運動の種類にかかわらず(運動をしない場合も含む)、体はエネルギーを必要とする。ただし毎日の必要量は活動によってまちまちだ。
食事から摂取するカロリーが不足すると、日常の活動を行うのに必要なエネルギーが足りなくなる。 体を自動車に例えてみよう。食べ物から得るカロリーがガソリンだ。燃料タンクにガソリンがなくなると、自動車は走れなくなる。 自動車と同じように、体も十分な量のエネルギーなしではうまく機能しなくなるのだ。
では、自分の体が必要とするカロリーの適正量をどのように判断すればいいのだろうか。
カロリー所要量を把握する方法
栄養学の分野には、カロリー所要量の計算に使われる主な式が2つある。ハリス=ベネディクト方程式とミフリン=セイント・ジョー式だ。
どちらの計算式も、推奨される1日のカロリー摂取量を判断するための出発点として役立つ。だが2005年に学術誌『Journal of the American Dietetic Association(米国栄養士協会ジャーナル)』に掲載されたレビュー論文によれば、ミフリン=セイント・ジョー式の方が精度の点で信頼できそうだ。 どちらの計算式でも、基礎代謝量(BMR)がわかる。BMRは、呼吸などの基礎的な体の働きを維持するのに必要なカロリー量のこと。 安静時代謝量(RMR)と同義で使われることも多い。RMRは、安静に過ごしているときに必要とするカロリー量だ。
ミフリン=セイント・ジョー式は、男性と女性で異なる。
女性:(10 × 体重(kg))+(6.25 × 身長(cm))-(5 × 年齢(1年刻み))- 161
男性:(10 × 体重(kg))+(6.25 × 身長(cm))-(5 × 年齢(1年刻み))+ 5
この計算式は、現在の体重を維持するのに必要なエネルギー量の算出に使われる。 ただし、この計算結果は1日の大半を座ったまま過ごすようなライフスタイルの維持に必要なカロリー量であることを忘れてはいけない。この計算式では、活動レベルが考慮されていないのだ。 そこで次に、この計算結果に活動係数を掛け合わせる。活動係数は、運動の頻度や、やけど、手術、特定の疾患からの回復など、考慮すべきさまざまな要因によって変動する。どの要因も、カロリー所要量を増やす原因になる。 この係数には、1.2(ほぼ座ったまま)から1.9(激しい運動をする)まで幅がある。
理論上は、計算によって弾き出された1日あたりのカロリー所要量と同じ量を消費すれば、体重は一定に保たれる。このことを前提に考えると、カロリー摂取量が変動すれば、それに応じて体重も変動する。 最適なカロリー摂取量を把握するため、計算式を使うことに興味を持つ人はいる。しかしこのような計算式で、カロリーの質は考慮されていない。そしておそらく心身の健康全般にとっては、カロリーの量よりも質の方が重要である。
質の高いカロリーとエンプティカロリー
超加工食品(エンプティカロリーとも呼ばれる)からカロリーの大半を摂取する人は、低脂肪タンパク質、全粒粉、ナッツ、果物、野菜などからカロリーを摂取する人に比べて健康効果が劣ってくる。 つまりエンプティカロリー2,000カロリーを摂取する1日と、栄養を豊富に含む2,000カロリーを摂取する1日では、体にもたらす効果が異なる可能性も高い。
主要栄養素の脂質に例えてみても原理がわかるだろう。脂質のカロリーは1gあたり9カロリー。 トランス脂肪1gと一価不飽和脂肪1gのカロリーは同じで、いずれも9カロリーだ。 超加工食品に含まれるトランス脂肪は、心疾患のリスク上昇との関連性が指摘されている。 だがアボカド、ナッツ、植物油に含まれる一価不飽和脂肪は、心疾患のリスク低下と関連性があるという。 要するに、2種の脂肪のカロリー量が同じだからといって、その質(および健康全般にもたらす効果)も同じとは限らないのだ。
「低カロリー」をアピールする食べ物にも、同じことが言える。低カロリーの食べ物だからといって、必ずしも高カロリーの食べ物より栄養的に優れているわけではない。 例として、米が原料の軽食であるライスケーキのような低カロリー食品とアボカドを比べてみよう。 ライスケーキは低カロリーだが栄養に欠け、満腹感も得られにくい。それに対してアボカドは、高カロリーだが栄養を多く含み、満腹感を保つ効果が期待できる。
減量、筋肉量増加、体重維持、健康全般の向上などと、人によって目的はさまざまだ。しかし最も持続可能な方法で心身の健康を目指すには、消費するカロリーの種類について高い意識を持つ必要がある。
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カロリー所要量の計算に関して考慮すべきこと
結局のところ、カロリーの記録には欠点がある。 第一に、たとえ栄養成分表示ラベルが付いているものでも、ある食品のカロリーを正確に把握することは不可能だ。 だから、食品のラベルに記載されているカロリーの数値が絶対的に正しいとは言えないことも心に留めよう。
第二に、カロリーを計算して摂取量を制限しても、必ず体重を維持できるとは限らない。それどころか、心の健康にマイナスの影響を及ぼすおそれもある。 『Journal of Nutrition and Dietetics(栄養食事学ジャーナル)』に2018年に掲載された研究が好例だ。この研究では1,800人(半数以上が女性で、平均年齢は31歳)を対象とする調査を実施。 カロリー摂取量を制限する手段としてメニューのラベルに記載されている栄養の情報を利用した人は、メニューのラベルに気付かなかった人や、ラベルに気付いてもカロリー摂取制限に利用することがなかった人と比べて、過食、体重の問題、極端なダイエット、不健康な体重コントロール行動を引き起こしやすいことがわかった。
結論 カロリー計算を軽く見るべきではない。だが大半の人にとって、1日のカロリー必要量だけを知る必要もない。 資格を持つ登録栄養士といったヘルスケアの専門家に相談すれば、安全かつ持続可能な方法で健康目標をサポートをしてもらえるはずだ。
文:シドニー・グリーン(理学修士、 管理栄養士)