エクササイズが免疫に与える影響
Coaching
毎日のワークアウトは、感染症と戦うための免疫力を高めるのだろうか。答えをチェックしてみよう。
少し体調が優れないと感じた時、あなたは筋力アップのワークアウトに取り組んで元気を出そうとするだろうか。それとも、ワークアウトはせず、体を休めるだろうか。これは重要な選択だ。
エクササイズは、体に負担をかけ、一時的な炎症を引き起こすことがある。しかしその一方で、免疫細胞の循環を遅らせ、侵入する細菌からの攻撃を受けやすい状態にしてしまう慢性的な炎症を防ぐ効果もある。そのような適切な種類のワークアウトに取り組むことで、病原体に対する体の抵抗力を上げられる可能性があると研究者たちは言う。
免疫システムのしくみ
ここで少し生物学の話をしよう。免疫システムは、細胞とタンパク質で構成される複雑なネットワークであり、有害なウイルスや細菌に対する防御を最初に、そして最善の方法で行うものだ。免疫システムを強化するには、そのネットワークに直接影響を与える健康的な習慣(ここではエクササイズ)に注目する必要がある。
「有酸素トレーニングでも、筋力トレーニングでも、エクササイズは重要な免疫細胞の循環を促進し、感染のリスクを減らします」アメリカスポーツ医学会の会員でアパラチア州立大学ノースカロライナリサーチキャンパスの生物学教授を務めるデビッド・C・ニーマン博士は語る。博士は最近、『Exercise Immunology Review』誌にこのテーマに関する論文を発表している。
運動、特に30分間の中程度から高負荷のエクササイズをすると、重要な免疫細胞(好中球、単球、ナチュラルキラー細胞、キラーT細胞)が周辺の「ベース」(脾臓、リンパ節、骨髄)から動員され、通常よりも速いペースで全身を循環する血液とリンパ管に送り込まれるため、前述の重要な免疫細胞が活性化する。これにより、ウイルスや細菌に対する細胞の監視体制が強化されるのだ。「また、アクティビティはマクロファージ(別の重要な免疫細胞)の機能も促進するため、ウイルスへの防御力が向上します」ニーマン博士は語る。
まるで兵士のようなこれらの細胞は、反応したり攻撃プランを立てたりする前にウイルスと接触してしまうため、日頃から十分に活性化させておくべきだとニーマン博士は語る。日課の散歩やワークアウトをさぼってベッドで過ごしたり、来る日も来る日もデスクにへばりついていたりすると、兵士の数は必要最小限になってしまう。そうなると強力な兵士たちが召集されることはないため、免疫システムが十分に保護されていない状態になる可能性があるのだ。
運動をするかしないかだけでなく、どんな運動をするかも重要だ。前述のとおり、エクササイズは体に負担をかける。だが、アクティビティには、兵士たちを動員するのに十分だが、炎症によって動きを止めることのない最適なレベルが存在する。以下では、その見つけ方を紹介する。
「有酸素トレーニングでも、筋力トレーニングでも、エクササイズは重要な免疫細胞の循環を促進し、感染のリスクを減らします」
デビッド・C・ニーマン博士、アメリカスポーツ医学会会員、アパラチア州立大学ノースカロライナリサーチキャンパスの生物学教授
持久力を必要とするエクササイズにゆっくり着実に取り組む
血液の循環を良くするものなら何でも、兵士の細胞を活性化させるのに役立つ。しかも、そのために必要な運動量は「それほど多くない」とニーマン博士は語る。博士が推奨するのは、ウィンドウショッピングよりも速いペースでほぼ毎日歩くこと。時間に関しては、30分から75分継続して有酸素運動を行うのが理想的だと話している。頻繁に有酸素運動を行うと、すぐに血液の循環が良くなるだけでなく、心臓を強化し、運動をしていない時の血流も促進できる可能性があるという。
ランニングにも似たような効果があるため、ウォーキングよりも速いペースが好きな人は、ぜひランを取り入れてみよう。ただし、いつもより速いペースで走ったり、長い距離を走ったりすると、(繰り返しになるが)体に過度の負荷がかかり、免疫システムをリスクにさらす場合があることを覚えておこう。この分野では現在も最大規模となる1987年の歴史的な研究にも、負担をかけすぎた場合のリスクをよく示す例が記載されている。研究によると、マラソン選手がレースを完走した後の1週間は、走らない人と比べた場合、風邪、インフルエンザ、咽頭痛が発生する可能性がほぼ6倍も高くなるというのだ。
現在、長距離レースに向けてトレーニングをしている人は、徐々に距離とスピードをアップさせていくトレーニングプランにすること(フィットネスレベルにもよるが、ハーフマラソンなら12週間、フルマラソンなら20週間程度が望ましい)。また、細菌にさらされる危険が少ないため、実際のレースよりもバーチャルのレースに参加するほうが安全な場合もあるとニーマン博士は指摘する。さらに、トレーニングランやレースに向けた食事の方法が大きな違いを生み出す場合もあるという。これは、グルコース(炭水化物に含まれる糖)が免疫細胞にとっての主要栄養素であることが理由で、持久力を必要とするアクティビティ中やその前後に適切な量の炭水化物を取ってエネルギーを保つと、健康的な状態をキープするのに役立つと博士は語る。アクティビティが75分未満の場合でも、その前後にフルーツや全粒穀物などの天然の糖源を取っておくといいだろう。
無理のないウェイトリフティングを行う
免疫を高めるために、心拍数をどんどん上げる必要はない。前述の『Exercise Immunology Review』誌に発表された研究によれば、筋力セッションの後、体は筋肉組織を修復するため、白血球に加え、冷酷な戦士のような細胞を送り込み、損傷した組織の近くに留まらせることで防御力を強化するという。
「有酸素エクササイズと筋力エクササイズでは、その両方で似たような種類の免疫細胞が動員されます」と、ニーマン博士。ただし、より多くの筋肉量を動かすため、中程度の有酸素運動のほうが筋力トレーニングよりも少しだけ効果が高いと考えられている。だが、有酸素運動と比較した時の筋力トレーニングの利点は、免疫にダメージを与えるほどハードな動きにはなりにくいということだ。「ハードなウェイトリフティングを2時間行った後に免疫反応を調査しましたが、悪影響を与える要素は見つかりませんでした」ニーマン博士は語る。これは恐らく、貯蔵されたグリコーゲンが空になることがなかったため、高い負荷がかかる状況を防げていたのだと考えられる。
当然ながら、さまざまなワークアウトを組み合わせると1つの筋肉群を酷使せずにすみ、ストレスホルモンや炎症を蓄積させて免疫システムに悪影響を及ぼすのを防ぐことができる。おすすめは、週に3日、1日おきにウェイトリフティングをすること。そして、ウェイトリフティングをした翌日は、軽めのハイキングやジョギング、ヨガセッションでリカバリーしよう。
戦略的にHIITワークアウトに取り組む
毎日違ったワークアウトに取り組むのが好きな人には朗報だ。「短時間の高負荷ワークアウトには、長期間にわたってハードな運動を続けたときのようなマイナス面はありません」ニーマン博士は語る。持久力を必要とする長時間のアクティビティは免疫システムに悪影響を与える可能性があるが、リカバリーの時間が入ったインターバルトレーニングには、このような影響を軽減させる効果があるように見えるという。
その証拠を示すものの1つに、ニーマン博士がテニス選手を対象に行った研究結果がある。ダッシュ、休憩、ダッシュ、休憩を繰り返すテニス選手には、速いペースで歩いた時と同じ免疫アップ効果が見られたという。その他の定番HIITエクササイズであるスクワットジャンプ、ジャンピングランジ、バーピーなどでも同様の効果が得られるということだ。
リカバリーの時間をしっかりと確保したインターバルトレーニングに取り組みたいなら、60秒間の全力の動きと75秒間のアクティブリカバリーを交互に行う30分間のHIITワークアウトに挑戦してみることをニーマン博士は推奨する。ただし、筋肉やその他のストレスマーカーが回復できるよう、毎日HIITを行うのはやめよう。
すべての運動をミックス
ニーマン博士は、有酸素運動、筋力トレーニング、HIITを組み合わせたバランスの良いフィットネスルーチンこそ、ウイルスに対する最高の防御策であり、最高の攻撃であると考えている。このルーチンなら、3種類のトレーニングの効果をすべて得られるだけでなく、健康全般をサポートすることができるのだ。
逆に避けるべきなのは、体調が悪い日や病気の時に無理してトレーニングすること。「感染症にかかった際、エクササイズが回復に効果を発揮するという科学的なデータはありません」ニーマン博士は語る。だからこそ、そんな時は自分と他の人たちのためにしっかりと休養を取ろう。