リカバリーに乾杯

Coaching

ワークアウト後に飲酒すると通常の筋肉増強プロセスが遅くなることがある。それを回避するためのガイドを紹介。

最終更新日:2020年12月1日
アルコール飲料が筋肉増強に及ぼす影響

長距離ランの後に屋外のレストランでグラスを傾けたり、ハードなトレーニングセッションをビールで締めたりするのはよくあること。頻繁に運動する人のほうが、運動しない人よりも飲酒量は多くなりがちだ。一般的に、運動した日は飲酒量が増えるという調査結果もある。しかし最初の一口が最高だとわかっているのなら、お酒とは賢く付き合いたいものだ。アルコールのせいで体重が増え、リカバリーも阻害される可能性がある。ここでは、悪影響を及ぼさないお酒飲の飲み方を紹介しよう。

飲酒がリカバリーを遅らせる

お楽しみの気分を台無しにするつもりはない。だが実際に、アルコールは免疫システムに悪影響を与える。摂取量にもよるが、アルコールは体の通常の炎症反応と内分泌反応を阻害する。学術誌『スポーツ医学』に発表された研究によると、飲酒量が増えるほど免疫、血流、脱水症状の回復が損なわれやすくなり、筋肉組織などの細胞の修復と再生に時間がかかる。また就寝間際に飲酒すると、深い眠りに入りにくくなり、筋肉を修復するのに十分な睡眠時間が取れなくなる可能性もある。飲酒の影響はさまざまな形で現れるのだ。

学術誌『PLOS One』に掲載された調査によると、運動後4時間以内に多量のアルコールを摂取した場合、筋タンパク質合成が少なくなり、筋肉の回復と成長が損なわれる可能性がある。はっきりとした原因はわかっていないが、筋肉の修復を開始するよう体に知らせる信号が、あるアルコール副産物によって邪魔されているのかもしれない。そう指摘するのは、ニュージーランドのマッセイ大学体育学でアルコールと運動の関係を研究しているマシュー・バーンズ博士だ。

「はっきりとした原因はわかっていないが、筋肉の修復を開始するよう体に知らせる信号が、あるアルコール副産物によって邪魔されているのかもしれない」

マシュー・バーンズ博士
(マッセイ大学体育学教授、アルコールと運動の研究者)

バランスを考える

だからといって、汗を流した後の冷たい一杯を諦めろという訳でもない。飲酒には正しい方法と間違った方法があり、主な問題は摂取量だ。「リカバリーと筋肉の適応にアルコールが悪影響を与えるのは、体重1kgあたり1g以上を超えて摂取した場合です」とバーンズ博士は説明する。

わざわざ計算する必要はない。バーンズ博士いわく、政府が発行する『米国人のための食生活ガイドライン』が推奨する飲酒量を守っていれば、リカバリーと筋肉の適応には問題がない。推奨される1日あたりの飲酒量は、女性は1ドリンク、男性は2ドリンクまで。この1ドリンクとは純アルコールで14gに相当し、通常のビールであれば350ml、ワインなら140ml、蒸留酒なら40mlだ。男性は一般的にアルコールの代謝に必要な酵素の機能が高く、さらに体液の多さによって体内のアルコール濃度を低くできるので、女性より多く飲める場合が多い。ただしアルコール分解酵素の有無には個人差があるので注意しよう。

学術誌『国際スポーツ栄養ジャーナル』に掲載された新しい研究によると、週に5回の適度な飲酒(アルコール濃度5.4%で、女性なら1ドリンク、男性なら2ドリンク)を守っている場合は、10週間のHIITプログラムの後、VO2 max(最大酸素摂取量)と握力の適応にマイナスの影響は見られなかった。トレーニングによるプラスの影響が、飲酒によって損なわれてはいなかったようだ。

また、学術誌『機能形態運動学ジャーナル』に掲載された研究では、対象者にレジスタンスワークアウトの数時間後に適度な飲酒をしてもらい、運動後60時間以内にテストを実施している。その際も、筋力、筋パワー、筋持久力、筋肉痛、自覚的運動強度(運動をどのぐらいハードだと感じるか)には、プラスの変化もマイナスの変化も見られなかった。バーンズ博士は次のように結論づけている。「適量のアルコール飲料を飲み慣れた人が、運動後に1、2杯のお酒を飲む程度なら、リカバリーが阻害されることはないでしょう」

最適な1杯は何か

運動後に適したドリンクは、冷えたビールである。学術誌『国際スポーツ栄養ジャーナル』に掲載された研究によると、水と適量のビールを組み合わせて飲んだランナーと、水だけを飲んだランナーの比較で、脱水症状の回復に差は見られなかった。これは体がアルコールの吸収よりも水分補給を優先させるからだ(ビールには水分が含まれている)。

ビール好きではない人が、何を選べばよいかについてはさらに多くの研究を待たなければならない。飲みたいと思うものを選び、ゆっくりと味わって、1杯だけでやめておくのがベストだとバーンズ博士は言う。

いずれにしろ、トレーニング後に飲酒するなら、その前に必ず水を飲んで水分補給し、ヘルシーな炭水化物とタンパク質を組み合わせた栄養を補給するようにバーンズ博士は勧める。「こうすることによって、体内でリカバリーを始めるシステムのバランスが整います。そして血流に水分が入るとアルコール濃度が下がり、アルコールを吸収する速度が遅くなります。この2つの働きによって、体への悪影響も減らせるのです」

1ドリンクのつもりが、ついつい3ドリンクになってしまった。そんなときも、後悔しすぎなくていい。たった一度の不摂生な食事で、トレーニングの結果が台無しになるわけではない。同じように、飲み会の時間がちょっと長引いたからといって、成長のレールから外れてしまうわけではない。本当に悪影響を及ぼすのは、そのような飲み方が習慣化したときだ。

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公開日:2020年8月17日