椎間板ヘルニアのためのエクササイズをエキスパートが伝授
健康とウェルネス
医師と理学療法士が椎間板ヘルニアについて解説。痛みを和らげるためのエクササイズと、根本にある問題の対処方法を伝授する。
クリーブランドクリニックによると、米国では毎年、最大2%もの国民が椎間板ヘルニアを患っており、かなり一般的なけがとなっている。 しかし、椎間板ヘルニアといってもさまざまだ。まったく症状が表れない場合もあれば、激しい痛みに苦しむ場合もある。
エキスパートは、椎間板ヘルニアに苦労している人にも、これから発症しないように予防したい人にも、この症状に特に有効なエクササイズを推奨している。 椎間板ヘルニアについて知っておくべきポイント、そして、発症そのものを防ぐ方法について紹介しよう。
椎間板ヘルニアとは何か?
椎間板ヘルニアを理解するためには、まず椎間板について知ることが重要だ。 人間の脊椎は、椎骨と呼ばれる33本の骨で構成されている。 各椎骨の間には、内部にゼリー状の物質が入った柔らかい椎間板があり、椎骨の衝撃を吸収してずれないように支えている。 椎間板は加齢とともに劣化し、衝撃を吸収する機能も衰える場合がある。
椎間板ヘルニアとは、椎間板が破裂してゼリー状の組織が外に飛び出し、周辺の神経を刺激する状態を指す。 腰や首が痛くなることが多いが、症状がまったく表れない場合もある。
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椎間板ヘルニアの原因とは?
エキスパートの答えは「場合による」だ。
「椎間板ヘルニアは、大きく2つに分類されます」と、医学博士でマーシーメディカルセンターの認定医でもあるニコラス・アナスタシオは説明する。「急性型椎間板ヘルニアは、椎間板に強い力が加わり、突然、椎間板の断裂、ヘルニア形成、膨張が起こることで発症します」とのことだ。
例えば、車の交通事故で受ける衝撃は椎間板ヘルニアの原因となる。そう話すのはアリソン・ブラウン博士。 理学療法博士で、ラトガース・スクール・オブ・ヘルス・プロフェッションで理学療法の助教授を務めている。 その他、重い荷物を持ち上げるときも発症しやすい。
アナスタシオによると、もう一つは慢性型椎間板ヘルニアで、こちらは通常加齢と関係する。 「慢性型では一般的に、椎間板全体が広く膨張します。 一方の急性型では、椎間板に含まれるゼリー状の組織が局所的に飛び出したり、押し出されたりする場合が多いです。」
コアウェル・ヘルス・ウェストで脊椎の外科手術と痛みの治療の責任者を務めるモイゼス・グージ整骨医学博士は、ライフスタイルも影響すると話す。「肉体労働が多い人やハイインパクトのスポーツを好む人は、椎間板ヘルニアになりやすい傾向にあります」とのことだ。
椎間板ヘルニアの症状
椎間板ヘルニアは、その位置によって腰や首の痛みを引き起こす、とブラウンは言う。
「多くの場合、椎間板ヘルニアの症状は腰の痛みとして表れます。 椎間板ヘルニアによって神経根が圧迫されるからです。」
この痛みは通常、臀部まで広がり、場合によっては椎間板ヘルニアが見られる側の脚の半ばまたは足先まで及ぶこともある。
椎間板ヘルニアの典型的な症状は、体を曲げたときや、長時間座った後に感じる痛みだ、とブラウンは説明する。 「いきみ、咳、くしゃみで腰に圧力がかかるときも要注意です」と彼女は話す。
椎間板ヘルニアは「非常に激しい痛みを伴う場合がある」と説明するのはジェイソン・コー整骨医学博士。メモリアルケア・オレンジ・コースト・メディカル・センターの脊椎ヘルスセンターで認定物理療法医を務め、トリアージ医師も担当している。 彼によると、「治るまでベッドから起き上がれないかもしれません」とのことだ。
その一方で「椎間板が膨張しているのに無症状なのでまったく気づかない人もいます」とグージは話す。
椎間板ヘルニアの予防方法
椎間板ヘルニアを防ぐ最善の方法は「コアを鍛え、脊椎を安定させること」と話すのは、ニール・アナンド医学博士。整形外科の教授であり、シダーズ・サイナイ脊椎センターで脊椎外傷部門の主任を務めている。「コアが強化されていれば、脊椎の安定性も高まり、不均等な負荷を防げます」という。
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アナンドは、脊椎の椎間板を車のタイヤに例える。 「片方のタイヤの空気が少ないと、バランスが崩れてしまいますよね。 コアが強化されていれば、負荷が健全な状態で均等にかかります。」
アナスタシオは、椎間板ヘルニアのリスクを下げる方法として、次の点も挙げている。
- 正しい方法で物を持ち上げる。 例えば、物を持ち上げるときには膝を曲げること。そうすれば背中への負荷が減る。
- サポート性の高い椅子やマットレスを選ぶ。 腰椎を支える筋肉は「サポート性の低い椅子やマットレスによって過度の圧力にさらされる可能性がある」とアナスタシオは指摘する。 その結果、一部の部位の負荷や疲労が高まり、不適切な動きや圧力によって椎間板ヘルニアを発症するリスクが増大する。
椎間板ヘルニアの治療方法
実際に椎間板ヘルニアを発症したのか判定するためには、医師による画像検査を受ける必要がある。
グージによると、椎間板ヘルニアでは通常、「保存療法」つまり「自然治癒を重視する方法」を採用する。 医師の診断によっては、理学療法を含め、さまざまな治療法や処置をすすめられるかもしれない。いくつか例を挙げてみよう。
- ステロイド注射
- 抗炎症薬
- 冷却療法(または温熱療法)
- カイロプラクティック
- マッサージ
- 鍼治療
しかし、ヘルニアの症状が深刻な場合、または激しい痛みや脱力感が伴う場合は手術が必要かもしれない、とグージは話す。
一方で、手術は他の治療法で効果が見られないときの最終手段と考えるのが一般的だ、とブラウンは述べている。 治療計画については、必ずかかりつけ医や認定理学療法士に相談しよう。
椎間板ヘルニアの治療計画におすすめのエクササイズ
椎間板ヘルニアの改善や予防のためのエクササイズで最も重視すべき目標はコアの強化だ、とアナンドは話す。ただし、症状が強く出ているときは避けた方がいい。
「痛みがひどいときは、コアのエクササイズをやってはいけません」とアナンドは言う。 「落ち着くまで待ちましょう。 いずれにせよ、筋肉の急性痙攣が起きたらエクササイズはできません」とのこと。
医師の許可次第だが、よく行われているエクササイズを紹介しよう。
1.プランク
ブラウンいわく、「どんな種類のプランク」も有効だ。 これまでコアを鍛えていない人は、15~30秒プランクの姿勢をキープするところから始めて、1分続くようになるまで徐々に長くしていけばいい、と彼女は言う (必ず正しい姿勢で行うこと。背中を伸ばしすぎると悪化する恐れがある)。
2.スーパーマン
このエクササイズではうつ伏せになるため、ヨガマットなどの心地良い平らな面を用意するといい、とアナンドはアドバイスする。 肩、腕、太もも、脚をゆっくり持ち上げてマットから離し、お腹で床を押しながら手足を宙に浮かせ、飛んでいるようなポーズをとる。 その状態を数秒間維持した後、力を抜く。 コアを引き締め、視線は床に向けよう。 あごを引いておくのもポイントだ。 この姿勢をキープできる時間を長くしてコアを鍛えよう、とアナンドは言う。
3.グルート ブリッジ
コーによれば、このエクササイズでは緩やかな動きでコアを鍛えることができる。 最初に、ヨガマットなどの心地良い平らな面に仰向けになり、膝を曲げ、足裏を床につける。 骨盤を天井方向へ持ち上げ「ブリッジ」の姿勢をとる。このとき、お尻、ハムストリング、腰に力が入るはずだ。 その姿勢を数秒間維持した後、力を抜く。 コーは、10~15回を1セットとして3セット以上行うことをすすめている。
4.スパイン マーチ
コーの説明によれば、まず仰向けになり、膝を曲げ、足の裏を床につける。 膝より下の部分を持ち上げ、すねが空中で床と平行になるようにする。 それから、左右の脚を交互にゆっくり下ろし、つま先を床につけてからもう一度脚を持ち上げる。 合計10~15回を1セットとして、3セットを目標に繰り返す。 「これは難しいはずです」とコーは言う。 簡単すぎるようだったら足首にウェイトを着けてみよう、と彼はすすめている。
ピラティスのレッスンを受けてみる
アナンドによれば、ピラティスはコアの強化にうってつけのエクササイズだ。
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結論
椎間板ヘルニアの痛みに悩んでいて治療法が分からない場合は、医師に相談しよう。 詳細に調べてから、理学療法士や背中の痛みの専門家を紹介してくれるはずだ。そうすれば、一人ひとりの症状に合ったアドバイスを得ることができる。
文:コリン・ミラー