コートの内でも外でも、ブルックリン在住の2人の起業家にとって勝利の決め手はチームワーク

Culture

ベッドフォード=スタイベサント地区の変革に取り組むエル・クレイ(プロデューサー)とゼナット・ベグム(コーヒーショップオーナー)。2人の成功は、周囲の人々に支えられている。

最終更新日:2021年8月2日

「Game Recognize Game 通じ合う哲学」は、アーティストとアスリートがスポーツと芸術のつながりについて語りあう対談シリーズ。

ブルックリンのベッドフォード=スタイベサント地区にある、Playgroundコーヒーショップ。ここに足を踏み入れた瞬間に、エル・クレイは、このショップとそのオーナー、ゼナット・ベグムが特别であることがわかった。

「コーヒーにはちょっとうるさくて、近所のコーヒースポットは一通りチェックずみ」とエル・クレイは当時を振り返る。しかし、このショップに足を運んだのは、ローストの良さもさることながら、インスタグラムで見たゼナットの働きぶりに感銘を受けていたからだ。「だから、ショップに入って彼女を呼んでもらいました。そして、店内を見回して、ここは何かが違うと思ったんです」

GAME RECOGNIZE GAME 通じ合う哲学:Playground Coffeeのジナト・ベイガムとプロデューサーのエル・クレイ

確かに、ゼナットの造るスペース、Playgroundは他のコーヒーショップとは一線を画している。2016年のオープン以来、コミュニティの中心になってきたからだ。エルの推薦文にもあるように、このショップは美味しいコーヒーを提供するだけでなく、詩の朗読、ワークショップ、ラジオ放送、本の交換(近隣住人は誰でも無料で本を寄付したり持っていったりすることができる)などが行われるスペースでもある。ここ1年間、ニューヨーク市全体で開始されたコミュニティフリッジの取り組み(近隣住民が寄付した食料品を、必要な人が誰でも持っていくことができる)にも参加している。

ゼナットは、同じ場所で20年間金物店を営んでいた父親から小規模なビジネスの運営ノウハウを学んだ。エルもまた、プロジェクトを一から主導するのがどういうことかを知っている。彼女は、ワイルド・チャイルドNYCという制作会社の創立者だ。この会社は、実体験から得たストーリーテリングと社会から取り残された人々の物語を専門に扱っている。さらに、エルは自分のポッドキャストを持ち、映画やオーディオのプロジェクトにも数多く携わっている。

ブルックリンの近隣地域とコミュニティ活動に対する情熱を抱きながら、自分たちのビジネスへも情熱を注ぐという共通点を持つエルとゼナットは、強力なタッグを組んで、Playgroundの多目的スペースで行われるイベントに精力的に取り組んでいる。この対談で、2人はコミュニティのサポートを成功させるチームの作り方や、仕事の中でバスケットボール(2人とも熱心なファンだ)が果たす役割について語ってくれた。


エル:ゼナットは、初めて会ったときから「近隣の人たち」を大事にしてきたし、常にコミュニティに関わっていた。新型コロナが流行り始めたときも、Playgroundは率先してコミュニティを受け入れ、抗議行動をする人たちにリソースを提供する一方で、コミュニティフリッジとして食料品を提供するなど、他とは一線を画していた。いつもコミュニティのために活動してきた人だから、普段と同じことをしているだけかもしれないけど、どういう経緯でショップの中からショップの外に活動を広げたの?

ゼナット:コミュニティフリッジをやろうと言い出したのは、高校時代の旧友だった。ここ数ヶ月、農産物直売所では野菜や食料品が余っていて、無料で配ったり、フードバンクから配ったりしていたから。少し周りに呼びかけただけでいつの間にか動き始めていたわけだけど、それ以来、Playgroundの常連さんや地元の人たちが、毎日フリッジから食料品を取り出すのを見かけるようになった。サービス業の人、エッセンシャルワーカーの人、建設現場で働く人、デイサービスを運営している人、それから働くのを止めると経済的に困窮するという人たちがたくさんやってきた。この1時間でも10人ぐらいがやってきては物を置いていったり持っていったりしているから、いま話している間も私はフリッジから目を離せない。このプロジェクトは、驚くほど順調に進んでる。多くのプロジェクトと同じように、これまでちょっとした問題はあったけど、乗り越えて一生懸命続けていかないと、人々が切実に食べ物を必要としているときに私たちがそれを提供するという大きなビジョンが実現できないからね。

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エル:問題が起きたときは、どうやってそれを解決し、チームをまとめ上げたの?

ゼナット:最大の難関にぶち当たったのは、「あれ?私はすべての時間をコミュニティフリッジに費やしているのに、コーヒーショップまで運営しなければならないの?」と我に返ったときだった。Playgroundのスタッフに私の考えを理解してもらって、私と効率的なコミュニケーションを取ってもらうには、彼らにも参加してもらう必要があった。そうして、みんなが懸命に協力してくれて、問題も過程の一部だと理解できるようになった。あのときのことは、常に謙虚さを忘れないための教訓になっている。

よくインスピレーションを与えてくれるのは、周りにいる人たちだったよね?自分のビジョンを実現するために招き入れる人たちや友人をどのように選んだり決めたりしているの?

エル:たいていはフィーリングによるけど、その人との間のエネルギーも理由になっている。ゼナットと私の相性が良いのは、2人とも地の星座だからだろうね。私は山羊座で、そっちは乙女座でしょ。

ゼナット:一緒に大地を歩んで行こう。

エル:私たちは、連携して仕事をする方法を理解している。でも、私にインスピレーションを与えてくれる人たちも大切。そういう人たちと一緒に作れるものに可能性を見いだせるかどうかも大事だけど、彼らのエネルギーや能力、そして彼らに参加できる余裕があるかどうか、彼らが楽しんでいるか、情熱を持っているかどうかもポイントになる。

ゼナット:チームリーダーであると同時にチームプレーヤーでもあるということは、各自の長所と短所を把握した上で、どうやって彼らの力を増強し、向上させれば良いかを理解しているということ。でもそれだけではなく、彼らがあまり関心を示さないことや、まったく知識がないことに取り組んでもらう場合もある。

「あのときのことは、常に謙虚さを忘れないための教訓になっている」

ゼナット

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じゃあ、エルは協力者と一緒に仕事をするとき、どうやってチームプレーのお膳立てをするの?

エル:私は、プロジェクトに取り組むたびに何かを学んでいる。これは、そういうものだと思う。ボールが人生で、私はバスケットボールのプレーヤーであると同時にコーチ。そして、プロデューサーであると同時にプロダクション・アシスタントでもある。だから、人々と明確にコミュニケーションを取り、理解や認識が一致していることを確認していかなければならない。チームってそういうものでしょ?私が勝利を目標に掲げていても、チームメイトが全力で努力していないことがわかったら、状況を確認する必要がある。チームを軌道修正し、役割を再編成する方法を考え出さないと。

ゼナット:チームをまとめるときに、エルの強みと弱みになるものは?自分の弱みを克服する方法をどのようにして学んだの?

エル:プロデューサーとしての私の強みは、自分のビジョンを信じられること。私自身が自らのビジョンを信じていなかったら、チームがそれを実現することはできない。弱みは、友人関係と協力者の間に明確な線引きをすることと、物事を個人的に捉えないこと。私は感受性が強いからから、批判されると自分を拒否された気持ちになり、意地悪されたように感じてしまう。人との関係を信頼し、その人がくれるフィードバックによって自分が向上できるようになれたら良いのにと思う。こういうことにもっと慣れて、対処できるようにならないといけないよね。

ゼナット:エルは自分とはまったく違う人たちと仕事をしても、すごく斬新なものを生み出すことができるから、それがさらに個性を際立たせてくれるんだと思う。この先に出会う人たちの物語を、エルならではの視点できちんと捉えることができるかどうかも重要だね。

エル:ゼナットのチームとの相性は、他に類を見ないと思う。全員が各自の役割を担いながら、ここぞというときには、誰もが臆せずステップアップしてパフォーマンスを発揮する。きっと、そうやって成功をつかみ取って行くんだろうね。

ゼナット:そのとおり。それが重要なのは、成功がさまざまな形でもたらされることがわかっているから。何もかもが素晴らしいイベントの最中に成功を実感できなくても、誰かが「Playgroundのコーヒーは最高だ」という感想を残してくれた日に実感することもある。どこか生き物のようだと思わない?

エル:本当に生き物のよう。成功ってビジョンに魅了され、良く理解した上で、全員がそれを確実に実現しようと同意するところから生まれるんだね。

GAME RECOGNIZE GAME 通じ合う哲学:Playground Coffeeのジナト・ベイガムとプロデューサーのエル・クレイ

ゼナット:ビジョンを実行に移す前であっても、ビジョンを育成する必要がある。ビジョンを収穫できるように物事を準備しないといけない。私はすべてを農業に回帰させたいと思っている。私たちは、多くの優しさと配慮を必要とする人間だから、周囲の人たちから自分をガードしすぎると、効率的に仕事をすることができなくなる。それは誰にとってもポジティブな経験にはならないよね。

エル:他の人を育てようと思ったら、自分自身を育てる必要があるということだね。

ゼナット:仕事に取り掛かる前に、自分の心を整える時間をどうやって見つけているの?

エル:まだ確固とした方法はないかな。現在起きていることに圧倒されながら感情を処理する中で、さまざまなレベルで自分自身を知るための時間をたくさん持てた人もいると思う。私は、こうなる前は、自分自身をどうやって強くしようかなんて、真剣に考えていなかった。どうやって自分をリセットし、回復させ、ある種のバランスを維持したり達成したりすればいいのだろう?この数ヶ月はペースを落としているけど、以前より堅実になったと思う。セルフケアや散歩、ワークアウトや瞑想といった、良いことを取り入れる方法について考えるようにしている。

ゼナット:確か、バスケットボールをするよね。

エル:そうだよ。でもここではその話はしないことにしているんだ。

ゼナット:これまでコートにいるところを見たことがないな。

エル:少し腕前も落ちたし、あまり冴えないから、インスタグラムには載せない。でも、バスケットボールをまたプレーするようになったよ。

文:ダリアン・ハーヴィン
ビデオ:トラヴィス・ウッド

レポート:2020年11月

公開日:2021年7月30日