運動がストレスを和らげる仕組み

健康とウェルネス

ここでは、いかにして身体的な活動が脳の配線を変え、より効果的にストレスに立ち向かっていくのかを紹介する。

最終更新日:2022年6月29日
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なぜ運動でストレスが軽減されるのか?

良質なワークアウトは、自分を生まれ変わらせてくれる。 仕事で大変だった日、友人との口論、目が回るほどの忙しいスケジュールといった困難に直面すると、人はストレスを感じ、打ちのめされてしまう場合がある。 そういうときには、いたって単純な解決策が何よりも高い効果を発揮することがある。それは運動だ。

脳は運動に強く好ましい反応を示す。 身体的な活動は脳の配線を生化学的なレベルで変え、より効果的にストレスを処理できるようにしてくれる。 だからこそ、科学者やヘルスケアの専門家の多くが、慢性的なストレスに対抗するためのツールとして運動を推奨している。 頻繁な運動には、投薬と同じような治療効果がある。その効力は、趣味としての楽しみにもひけをとらない。

人は体を動かすようにできている。 しかし、米国では成人の60%以上が運動不足であり、そのせいでストレスレベルが上昇してしまっている。 アメリカ人の大半はいすに座ってばかりの生活を送っており、運転やデスクワークなど、1日のかなりの時間を座って過ごしている人は多い。 米国ストレス研究所によると、およそ77%の人が体の健康に影響が出るほどの強いストレスを感じているという。

もちろん、身体的な活動が足りていないことだけがストレスの原因ではない。 それでも、事実として運動は脳に強い影響を与えるのだ。

運動がストレスを軽減させる仕組み

運動をすると、心拍数が上がる。 その拍動で全身に送り込まれる血流量が増加して、重要な臓器や運動中の筋肉に酸素や栄養素を運ぶ。 その運搬先には、もちろん脳も含まれる。 ある研究では、慢性的にストレスを溜めていると、前頭前皮質などの感情処理をつかさどる脳領域への血流量が低下するという相関関係が指摘されている。 運動で脳への血流が増えると、ストレスの蓄積による悪影響を緩和できると考えられているのだ。 こうした現象は、脳がストレスのような感情をより効果的に処理するうえでの助けとなる。

気分がよくなる化学物質の放出

また、運動は脳由来神経栄養因子(BDNF)、エンドルフィンや、セロトニンやドーパミンなどの幸福感をつかさどる神経伝達物質といった、脳の働きを活性化させる分子の放出も誘発する。

BDNFのようなタンパク質は、神経の健康を維持し、神経発生の過程における新たな神経の成長を促進する。 神経発生は、学習、記憶、不安とストレスの制御に関係する脳領域である海馬に、直接的な影響を与える。

ストレスは、大人の神経発生を減少させる。 それに伴い、海馬の大きさと機能も低下する。 これがストレスレベルを悪化させ、抑うつなどの症状につながっていく。 MRIを使った研究では、重度のうつ病の人は、そうではない人と比べ海馬の体積が10%少ないことが明らかになっている。

ランニングのような有酸素運動は、海馬に著しいプラス効果があることが確認されている。 2014年の臨床試験では、30分の有酸素運動を週3回、3カ月に渡って行ったところ、海馬の体積が16.5%増加したことが明らかになった。

運動中に放出されるエンドルフィンは、ストレスに立ち向かううえで役に立つ。 エンドルフィンは、天然の鎮痛剤だ。 エンドルフィンは脳内でオピオイド受容体と結びつくと、痛みの感覚を和らげて幸福感を生み出す。 人が「ランナーズハイ」を経験することがあるのは、そのためだ。

運動中に放出されるドーパミンやセロトニンのような、幸福感を与えてくれる各種の神経伝達物質もまた、ストレスと闘ってくれる。 それらは脳の快楽系と報酬系を制御している物質で、気分を調整し、希望に満ちた気持ちをもたらす。 慢性的なストレスは脳内のドーパミン分泌量を低下させるが、運動はそれを回復させることができるのだ。

実際に、頻繁な運動は時間とともに脳を作り変えていく。 脳内に設置されている受容体が増えて、ドーパミンの循環を高い水準で体感できるようになり、 それによって幸福感を感じやすくなり、ストレスを感じにくくなる。

2014年に発表された、ある研究では、被験者に緊張感の高い作業をさせて、その前後で彼らの心拍数、血流量、コルチゾール量、主観的な気分がどのように変化していたかを測定した。 頻繁に運動をしていた被験者は、低い心拍数を維持し、実験を通してよい気分のまま安定していた。 この結果を受けて、感情面での回復力とストレスへの対応力は運動で高めることができると結論づけられている。

ストレスを和らげる運動の種類

どんなタイプの運動にも、精神衛生上のメリットがあることは明白だが、 その中でも有酸素運動、特にランニングは、ストレス発散に効果的であることが証明されている。 このような運動でストレス発散を行えば、明るい気分を保ち、日常生活のストレス要因に簡単に対処できるようになる。

流れるような動きで全身を動かすと、思考から抜け出して、身体に集中できるようになる。そして呼吸と体の動きを同調させることで、さらに「今」に集中できるようになる。 研究者たちが、マインドフルネスを実践する活動としてランニングを挙げているのはそのためだろう。

学術誌『Acta Psychologica』に掲載された、ある研究によると、約1.5〜3キロを走るだけでも瞑想時より気分が良くなり、ストレスが減少して、認知パフォーマンスが向上するという。

マインドフルネスや瞑想を実践すれば、戦闘・逃避モードから効果的に抜け出して、副交感神経がつかさどる休息・消化モードに入ることができる。 副交感神経優位の状態では、筋肉が弛緩し、神経系が沈静化し、心身が全体的なストレスから解放される。

ランニングがマインドフルネスを実践する活動であり、瞑想よりも効果的であるならば、非常に効果的なストレス発散法となるだろう。 ランニング中は深い呼吸を続けるように心がけることで、気持ちをリセットしてストレス発散効果を最大限に高めよう。

トレッドミルでのランニングが好きでない方には、屋外でのランニングがおすすめだ。こちらも、ストレスレベルとメンタルヘルスに関して優れた効果があることが、研究で明らかになっている。

Medicine & Science Sports & Exercise』誌に掲載された研究では、ランニングをした被験者は、しなかった被験者に比べて、ストレスレベルと感情的反応が低下したことが示された。 これはおそらく、運動による神経の再編によるものだろう。

自分に合った方法を探す

ランニングが自分に向いていなかったとしても、心配する必要はない。 どのような身体活動でも、ストレスレベルの改善には役立つため、ストレスの管理計画に活用することができる。 2021年に発表された研究では、コロナ禍のロックダウンで人々にもたらされた不安、ストレス、抑うつが、中程度から高強度の運動によって低下したことが判明した。

また、太極拳やヨガといった負担の少ない運動を行ってもよい。 研究によると、これらのスポーツの呼吸と瞑想という要素が運動のメリットと組み合わせられることで、ストレスに対抗できるという。 2018年の研究では、太極拳はその他の中程度の運動と同じくらい不安を低減させることが明らかになっている。

ただし、特定の運動とそのメリットを、万能のアプローチと見なしてはならないことには留意しておきたい。 大切なのは自分にとって最適だと感じる運動を見つけることだ。それが有酸素運動でも、ウェイトトレーニングでも、ヨガだったとしても構わないので、体を動かしてストレスを発散しよう。

ストレスを和らげるために必要な運動量

世界最大級の医療センター、メイヨークリニックによると、1日あたり30分以上の運動を、週3〜5回を目標に取り組むとよいとされている。 こうした運動はストレス、抑うつ、不安に伴う諸症状を大幅に改善してくれる。 1日30分の運動を行う余裕がなければ、毎日10〜15分の運動を組み込むだけでもストレスレベルに大きな違いが生まれるだろう。

運動のストレス発散効果を即座に実感できる人もいるだろうが、継続的な変化が現れるまでも数週間以上は運動計画をやり通すようにしよう。 そして、新しいワークアウトウェアを見つけたいときはNike.comも要チェック!

公開日:2021年12月28日