運動習慣がうつ病や不安症に効果的な理由
健康とウェルネス
運動を定期的に行うメリットは身体的なものだけではない。うつ病や不安症の症状改善にも効果を発揮する。
運動は心身にすばらしい効果をもたらす。 たとえば、減量や体重維持、心臓の健康維持、筋肉量増加、社会的なつながりの強化といったメリットがある。 では、身体的なアクティビティはうつ病や不安症にも効くのだろうか?
ひと言で答えるなら「イエス」だ。
学術誌『Journal of Personality and Social Psychology』に投稿されたレビュー論文の著者は、不安や気分の悪さを解消する上で運動が非常に効果的だと結論づけている。
今回は、定期的な運動習慣がうつ病や不安症の緩和に役立つ理由を説明する。 また、どうすれば身体的なアクティビティのメリットが得られるかについても紹介しよう。
運動が心の平静を保つのに効果的な理由
運動が気分を盛り上げて不安を抑える働きを持つ理由はたくさんある。 基本的には、体を動かすことによって、うつや不安の原因から気持ちを紛らわすことができるからだ。
運動の効果として、エンドルフィンやセロトニン、ドーパミン、ノルエピネフリンといった、幸福感をもたらす物質が体内で増加することがよく知られている。 こうした活力や高揚感を生む物質が体内に広がると、不安感やストレスが大幅に減る。そう指摘するのは、不安症やうつ病を抱える患者を研究する臨床心理学者、カーラ・マリー・マンリー博士だ。
2017年に『Frontiers in Psychology』で発表されたレビュー論文によると、運動によって、健全な脳内結合の維持に中心的な役割を担う脳由来神経栄養因子(BDNF)と呼ばれる分子の分泌が促される。 BDNFの減少は、うつや自殺行動と関係があるとされている。
「定期的な運動には、脳の健康を促進し、より良い状態に整えるいう素晴らしい働きがあります」と、南カリフォルニアを拠点とするTMS & Brain Healthセンターの創立者兼CEOにして理学修士の神経科学者であるベン・スピルバーグ氏は述べる。
もちろん、運動が持つ社会的な側面が心の健康に及ぼす影響も見逃せない。 「運動をすることで、人と人との関係が密接になります。人との接し方に自信が高まり、さまざまな状況における不安が軽減します」とスピルバーグ氏は続ける。
うつ病と不安症に最も効果的な運動
1.ヨガ
「うつや不安を抱える人が手軽にできるアクティビティとして、ヨガをおすすめします」と助言するのは、心のファーストレスポンダー資格取得者であり、トラウマインフォームドヨガインストラクターを務めるジュエル・シングルタリー氏だ。 「軽く体を動かしたり、息を整えて気持ちを落ち着かせたりすると、副交感神経が優位になり、体が自然にリラックスします」という。
また、学術誌『Journal of Alternative and Complementary Medicine』に投稿された2019年の論文によると、ビクラムヨガ(通称ホットヨガ)を8週間行った女性にうつ病症状の改善が見られた。ヨガに参加した女性が回答した改善効果の中で特に顕著だったのは、絶望感をはじめとするうつ病症状と生活の質だった。
ヨガにはビクラムヨガ、ハタヨガ、ヴィンヤサヨガ、陰ヨガなどさまざまな形態があり、ゴートなどのヨガポーズとスタンドアップパドルボードのようなアクティビティを組み合わせる方法もある。2.ランニング
ランニングの効果の1つとして、即時的および長期的な気分の改善が挙げられる。 2021年11月に学術誌『Scientific Reports』で発表された研究論文では、たった10分間に及ぶ中程度の負荷のランニングが、気分の高揚に結びつくことが明らかにされている。
また、長時間のランニングや強度の高いランニングを行うと、内因性カンナビノイド系が刺激される。 2015年に学術誌『Frontiers in Psychology』で発表されたレビュー論文によると、これによって神経化学物質の分泌量が急激に上昇し、深い陶酔感が生まれるとのことだ。 この状態は、一般的に「ランナーズハイ」として知られている。
長期的なランニングにも気分を高める効果があることが研究で明らかになっている。 たとえば、2018年に学術誌『BMJ Open Sport and Exercise Medicine』で発表された研究論文では、気分障害のある被験者に12週間のランニングプログラムを実施したところ、徐々にうつや不安の症状が低下したことが明らかにされている。
ランニングが得意でない人は、ウォーキングやトレイルラン、ハイキング、ローイング、サイクリング、水泳といった身体的なアクティビティや有酸素運動を試してみよう。キックボクシングでもよい。3.筋力トレーニング
ウェイトリフティングは筋肉だけでなく心の健康にも大きな効果がある。 たとえば、2018年に学術誌『JAMA Psychiatry』で発表されたメタ分析によると、筋力トレーニングを行った男性に著しいうつ病症状の低下が認められた。この効果は、回数、セット数、ワークアウト数によらない。
学術誌『Sports Medicine』に投稿された初期のレビューでは、健康的な人と、心身いずれかを患っていると診断された人の両方に、不安低減効果が認められたことが示されている。
ウェイトリフティングについては、有酸素運動やヨガほど研究が進んでいないものの、気分高揚のメカニズムは似たようなものと考えられる。 実際に、学術誌『The Journal of Consulting and Clinical Psychology』で発表されたある臨床試験では、ウェイトリフティングとランニングの比較が行われ、両方ともうつ病の女性の間で症状の軽減効果が確認された。
さまざまなリフティングスタイルを試し、しっくりくるものを見つけるのがよさそうだ。 これから始める人におすすめの運動を挙げてみよう。
- サーキットトレーニング
- 筋力増強(または肥大)
- ヘビーリフティング
- 自重のみを使った動き(またはカリセニクス)
ありがたいことに、いきなりマラソンにのめりこんだり、ボディビルディングの大会を目指したりしなくても、気軽なエクササイズや身体的アクティビティから精神的なメリットは得られる。
実際、毎日1時間のウォーキングか15分のランニングを続けるだけで、大うつ病の発症リスクを26%減らせることが、学術誌『JAMA Psychiatry』に発表された研究論文で示されている。 また、毎日運動を続けることが再発防止につながることも示されている。
大切なのは、自分に合った身体的アクティビティを見つけ、それを実行すること。 そして、それを何度も繰り返すことだ。
「何事もそうですが、回復力を高め、時間をかけて変化を生み出すには継続的な練習が必要です」と、シングルタリー氏は言う。
注意点
1.運動とは個人的なものである
研究では、特定の運動によるメリットが示されている。 しかし、結局のところ、どの運動が適しているかは十人十色だ。 最適な身体的アクティビティは個性やニーズによって異なる。
たとえば、不安感が小さい人は、ヨガのグループクラスから癒やしを得られるかもしれない。 しかし、人との関わりに不安を感じる人は、ヨガのグループクラスで他の人と時間を共有することが難しいかもしれない、とマンリー氏は指摘する。
さらに、アクティビティの内容、環境、強度が自分に合っていなければ、かえってフラストレーションが溜まることや、自信喪失を助長することもある、と続ける。 そうしたネガティブな感情が湧くと、むしろ、うつや不安が悪化する場合がある。
だからこそ、自分が心地良く感じる身体的アクティビティを見つけることが大切なのだ。 「楽しいことが見つかると、すぐに精神面への効果が現れるものです」とマンリー氏は言う。2.運動がもたらす効果には限界がある
定期的に体を動かすことは、短期的な気分高揚や、症状軽減に役立つ。しかし、ギクシャクした人間関係や薬物乱用、パニック障害といった、うつと不安の根本原因となっているものを取り除くことはできない、とマンリー氏は述べる。
場合によっては、運動だけでなく、抗うつ剤や認知行動療法(CBT)、瞑想などのストレス解消法を併用する必要がある。 心理学や行動保健学の専門家に相談し、自分に最適な治療プランを立てることを検討しよう。