運動が免疫系に与える効果

健康とウェルネス

運動が免疫機能に与える影響について、専門家の評価を紹介する。

最終更新日:2022年7月27日
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運動が免疫系に与える影響

骨を丈夫にすることやストレスの緩和など、運動にはさまざまな健康上のメリットがあるが、 運動と免疫系にはいったいどのような関係があるのだろうか。 ここでは、運動が免疫機能に与えるメリットについて説明しよう。

運動時に免疫系で起きる現象

運動時には細胞レベルで反応が生じる。

「筋収縮はサイトカインの放出を促し、このサイトカインが免疫細胞活動の調整を担います」と話すのは、ショーン・へフロン博士。ニューヨーク大学ランゴーンヘルスの心血管疾患予防センターに所属する心疾患予防の研究者で、スポーツヘルスに造詣が深い。

サイトカインは、免疫系細胞や血液細胞を活性化させる小さなタンパク質だ。 アメリカがん協会によれば、サイトカインは主に、細胞間で情報を伝達し、病気を引き起こす病原体に対する体の免疫反応や炎症反応において、欠かせない役割を果たすとされている。

体内で分泌されるさまざまなサイトカインは、炎症性と抗炎症性に大別されている。 炎症性サイトカインには、体の免疫反応において炎症を促すはたらきがある一方で、それをきっかけに活動を開始する抗炎症性サイトカインには、炎症を和らげるはたらきがある。

運動が免疫系に与えるメリット

病気を引き起こす病原体の早期検出から、慢性疾患のリスク低減まで、運動は、免疫系にいくつものメリットをもたらす。 運動で汗を流せば、次のような効果がある。

  1. 1.免疫反応の向上効果

    運動をすれば、強度を問わず一定量の炎症性サイトカインが分泌されるため、感染を撃退し、炎症を抑える効果が期待できる。 『Frontiers in Physiology』に掲載された2020年のレビュー論文では、中程度の強度と高強度の運動をすると炎症性サイトカインが分泌されるが、その後には炎症反応を打ち消すために、抗炎症性サイトカインが放出されることが示されている。

    運動によって生成される炎症性サイトカインがメリットをもたらす仕組みは完全には解明されていないが、へフロン博士によれば、運動後の分泌量の増減が何らかの役割を果たしているようだ。

    さらに、運動をすればストレスホルモンが減少し、病気の予防効果が期待できると話すのは、トレーシー・ザスロー博士だ。彼女はロサンゼルスのシダーズ・シナイ・ケルラン・ジョーブ・インスティテュートのスポーツ医学専門医として、エンジェル・シティFCのチームドクターを務めている。 ワークアウト中やワークアウト後には、体温が上昇して、感染症と戦う体の力が高まると考えられていると、ザスロー博士は言う。

    また、がんの治療経験者の体内において、運動が炎症性サイトカインの減少に寄与したことを示す調査結果も報告されている。 2019年に学術誌『Brain, Behavior, and Immunity』に掲載されたレビュー論文によれば、有酸素運動とレジスタンストレーニングを組み合わせて行うと、ナチュラルキラー(NK)細胞を含むリンパ球が増えるため、前立腺がんと乳がんの治療経験者の炎症マーカー値を下げる効果が期待できるという。

  2. 2.身体の感染検出力をアップ

    運動をしていると、さまざまな臓器や細胞でリンパ球(白血球の一つ)を放出するよう促すホルモンも生成される。このリンパ球が病原体を発見し、それを追い払う体の機能が働くとヘフロンは説明する。

    「白血球と抗体は、感染症と戦う免疫系の2つの立役者です。 運動することで抗体と白血球に変化が起き、循環が速まるため、理論的には病気をより素早く発見できるのです」と、ザスローは語ってくれた。

    また、へフロンによれば、有酸素運動は骨髄を刺激し、白血球の産生と古くなった細胞の代謝を促すという。

    さらに、『British Journal of Sports Medicine』に掲載された2011年の研究では、週に5日以上運動したグループは、運動しなかったグループと比べて、上気道感染症のリスクが12週にわたり43%低下していた。

  3. 3.慢性疾患の予防にも効果

    酸化ストレスは、フリーラジカルとして知られる分子と抗酸化物質のバランスが崩れることで体に起きる現象だ。 酸化ストレスは、呼吸、食べ物の消化、運動など生きるための体の活動に伴って自然に発生する副産物だが、高レベルの酸化ストレスに慢性的にさらされていると、悪影響を被るおそれがある。

    実際に、糖尿病、心臓病、がんといった病気との関連性が指摘されている。 『Frontiers in Physiology』に掲載されたレビュー論文によると、その原因は、体内にフリーラジカルがたまりすぎた状態で調整役の抗酸化物質が不足すると、細胞や組織が傷つき、病気の発症につながるおそれがあるからだという。

    運動は酸化ストレスの原因になる場合もあるが、運動には体の抗酸化力を高める効果もあり、運動に限らずさまざまな要因を持つ酸化ストレスの悪影響を抑えるはたらきが期待できるとヘフロン博士は言う。 これは、抑制と均衡のシステムと考えるといいだろう。

    「計画的で体系的なトレーニングか、日常生活に伴う活動かにかかわらず、身体を動かす行為には、フリーラジカルがもたらす悪影響を和らげる効果があります」とザスロー博士は話す。

    彼女によれば、中強度の運動には酸化ストレスを抑え、アテローム性動脈硬化症(心臓の動脈にプラークが蓄積したもの)などの軽度の炎症を伴う疾患の予防効果があるそうだ。

    2013年に『Clinics』に発表されたレビュー論文では、運動をすれば、心臓病、2型糖尿病、一部のがんなど、加齢に伴い増加する慢性疾患の発症率が減少することも示された。 2019年に『Frontiers in Physiology』に掲載されたレビュー論文では、高齢者が筋力トレーニングを行えば、有酸素運動と同じだけ、慢性疾患のリスク低減効果を得られることが分かっている。だからこそ、ウェイトトレーニングに取り組むべきなのだ。

    ちなみに、どのような運動を中強度と感じるかは人によってさまざまであり、各個人の健康状態によって決められる。 クリーブランドクリニックの説明によると、ほとんどの場合、心拍数が安静時より50〜60%高くなる運動は、すべてここに含まれる。

    どんな運動を(どれだけ)すればよいかわからない場合は、自分に合った運動メニューについて、かかりつけの医師に相談するとよい。

文:ティファニー・アユーダ

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公開日:2022年5月13日

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