普通の水より塩水で水分補給するほうが効果的か?
食事
海水をがぶ飲みすることはおすすめしない。いや、むしろ飲まないでほしい。だが、スポーツ栄養学を専門とする管理栄養士によると、塩水を少し摂るとワークアウト後の電解質の不足を補えるそうだ。
ナトリウムが不可欠である理由
運動中に水だけで水分補給すると体内のナトリウム濃度が低くなる可能性がある、と語るのはミズーリ州立大学生物医科学臨床助教授で、スポーツ栄養学を専門とする管理栄養士でもあるナタリー・アレン。 濃度が低くなるのは困る。なぜならナトリウムは細胞の内外を移動する体液の量を適切に保つことにより、体液のバランスを維持する役割を果たしているからだ。
「アスリートは、筋肉のけいれんや、さらに心配な低ナトリウム血症を予防するために、ナトリウムと水分のバランスを維持しなければなりません。 ナトリウム濃度が低下し過ぎると、低ナトリウム血症になります」とアレンは話す。
低ナトリウム血症になると、浮腫が生じ、頭痛、突然の倦怠感、筋力低下、吐き気といった症状を引き起こすことがある。 症状が重くなれば、けいれん発作や昏睡に至る可能性もある。
そして意外にも、これは決して稀な症状ではない。 ある研究論文では、低ナトリウム血症が「軽視されていることは深刻な事態だ」と述べられており、別の研究論文でも、低ナトリウム血症は最もよくある電解質異常の疾患であり、入院患者に広く見られるという事実が明らかになっている。
このような状況をふまえ、アレンはこう語る。「食事で適切な量のナトリウムを摂取し、運動時には少量のナトリウムを含む飲み物を飲むことが重要です。特に暑い日や長時間のワークアウトには欠かせません。 ほとんどのスポーツドリンクに適度な量のナトリウムが含まれているのは、血液中の濃度の低下を防ぐためなんです」
ナトリウムの役割は筋肉のけいれんを防ぐことだけではないと指摘するのは、管理栄養士でトレーナーの、レダ・エルマルディ (認定ストレングス・コンディショニングスペシャリスト=C.S.C.S有資格者)だ。 特にアスリートにとっては、ミネラルも、以下の機能を向上させるうえでも非常に重要な栄養素だという。
- 血圧を調整する。 血圧が上昇すると、体中の動脈に血液を送り出す心臓への負担が大きくなり、倦怠感やめまいにつながる。 食事に含まれるナトリウムの量を管理することで、こういった症状を予防することができる。
- 筋機能を強化する。 筋肉の収縮には、ATP(アデノシン三リン酸)から供給されるエネルギーが必要。ATPは体内における細胞へのエネルギーの運搬と貯蔵を助けな分子だ。 ATP生成の基になるのが酸素とグルコースで、いずれも正常に機能させるためにはナトリウムイオンが欠かせない。
- 消化を改善させる。 スムーズな消化には、食べ物を分解する唾液中の酵素が欠かせない。 この酵素を効果的に働かせるためにナトリウムが必要になる。
- 神経の情報伝達を助ける。 神経は、ナトリウムを利用して体中に電気信号を送る。 ナトリウムが不足すると、神経信号がうまく伝わらなくなり、痛みの感覚などの伝達プロセスに悪影響を及ぼすおそれがある。
- 脳の働きを高める。 脳は、気分、思考、行動をコントロールする化学物質を生成するのにナトリウムを使う。
ワークアウト後の水分補給にどの程度の塩を加えるべきか?
思い切って水に塩を加えると、想像以上の味の悪さに気付くことになるだろうと話すのは、Go for the Gold Nutritionでスポーツの専門家として管理栄養士を務めるアシュリー・ハープスト。 体力を維持するためだからといって海水を飲む必要はないが、自分の味覚にとって最適な分量を知るには、ある程度の試行錯誤が必要かもしれない。
ハープストは、塩水で水分補給する前に以下の点に注意することを推奨している。
- アクティビティの強度と長さ、さらに天候:失われたナトリウムを補充するということは、汗をかく量を考慮する必要があるということ。 たとえば湿度が高い場合、セッションごとに大量に水分補給するよりも、塩分を含む飲み物を頻繁に飲んだほうがいいとハープストはアドバイスしている。 具体的には、20分ごとにスポーツドリンクか塩を加えた水を約120-180ml程度飲むとよい。
- 食事で摂取するナトリウム:塩だけがナトリウムの供給源ではないことを覚えておこう。 ワークアウト前の食事や軽食(特にプレッツェルや塩味のクラッカーなど)から摂取する方法でも、ナトリウム濃度は上昇するとハープストは指摘する。 当然、塩分の取り過ぎにも注意しなければならない。水分が不足すればなおさらだ。 塩分過多になると一時的に血圧が上昇し、異常にのどが渇くことがある。その場合はバランスを取り戻すために水分を多めに取る必要があるとハープストは話す。
- 自分の汗に塩分が含まれているかどうか:発汗によってナトリウムを多く排出してしまう人もいる。 ワークアウトの後、肌やウェアに白い汚れが付きやすいのなら、汗とともにナトリウムが流れ出している可能性が高いため、食べ物や飲み物からナトリウムを補う必要があるとハープストは話す。
- ナトリウム不足のサイン:ハープストによると、ワークアウトの最中や終了後に筋肉のけいれんがあるかどうかが、ナトリウム補充の必要性を判断する1つの目安になるそうだ。 これは、電解質のアンバランスを示すサインと言っていいだろう。
ではとのくらいの塩を加えればよいか。筋肉のけいれんを予防するために約240mlのウォーターボトルやスポーツドリンクに入れる分量として、使い切りの塩の小袋がちょうど良いとアレンは話す。 これは通常、ナトリウム100mgに相当する。 食塩(塩化ナトリウムとも言う)とは、一般的に40%がナトリウム、60%が塩化物から成ることを覚えておこう。 アレンは、スポーツバッグにこの塩の小袋をいくつか入れておくよう、ミズーリ州立大学のアスリートに推奨している。筋肉のけいれんや筋力低下にすぐに対処できるからだ。 理想的には、カリウム、マグネシウム、カルシウムなど、他の電解質も補えるとなおよい。スポーツドリンクなら必要な栄養素をまとめて補えるとアレンは補足する。
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アレンは次のように話す。「スポーツドリンクは特に有効です。 含まれている炭水化物がナトリウムの吸収を助け、すばやい水分補給を促してくれるのです」
塩の種類は重要か?
最近、食品売り場の棚にさまざまな種類の塩が並んでいるのを見たことはないだろうか。専門店や健康食品店の品揃えはさらに豊富だ。 たとえば海塩、ヨウ素添加食塩、ヒマラヤピンクソルト、セルティックグレーソルト。さらに、活性炭が入ったアイスランドの黒い溶岩塩もある。
アレンによると、どれか1つが特に優れていることを突き止めた研究はないそうだ。 また、違いはないに等しいとも言える。 ほとんどの塩は98%が塩化ナトリウムで、カリウム、マグネシウム、カルシウムのようなミネラルは残りの2%にいくらか含まれるだけだとアレンは話す。
つまり、塩はごく少量摂取するだけなので、大量のミネラルの補給は期待できない。 だから値段の高い高級塩と普通の食塩を比べても効果はほとんど変わらない、とアレンは説明する。
ワークアウト後にナトリウムを補給できるその他の飲み物
しかし、いくら完璧にバランスの取れた飲み物が作れたとしても、塩を加えた水やスポーツドリンクは一口すするのも抵抗があるという人にとっては、飲めなければ意味がない。ハープストによれば、塩分を取り過ぎることなくナトリウムを摂取する別の方法があると言う。
たとえば、ココナッツウォーター。ナトリウムとカリウムが含まれるので効果的なドリンクだ。 筋肉の収縮と体液の保持を助けてくれる。これにパイナップル果汁を少々加えれば、しょっぱさを感じずに味わうことができるとハープストは言う。 水に混ぜて水分補給に使える電解質パウダーも市販されている。このパウダーだとナトリウムが摂取できるうえ、味が付いているものも多い。
あらゆるトレーニングやフィットネスと同じく、いろいろとオプションを試し、自分のパフォーマンスにどのような影響が現れるか注意するとよいだろう。 それから次に飲食店でテイクアウトをするときは、塩の小袋をいくつかもらってスポーツバッグに入れておくとよいかもしれない。
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執筆:エリザベス・ミラード