不足しているかもしれない大切なミネラル
Coaching
疲れを感じているなら、鉄分が足りていないのかもしれない。アスリート(特に女性)は、パフォーマンスを左右するこの栄養素が不足することがよくある。その理由を説明しよう。
懸命にトレーニングをしているのに、ワークアウトの質が低下し、リカバリーに時間がかかる。そんなとき不足しているかもしれないのが、ここで取り上げるミネラルの鉄分だ。
「赤血球にはヘモグロビンを作る鉄が不可欠です。ヘモグロビンが血流に乗って、体内の組織や細胞に酸素を運ぶのです」と説明するのはロビン・フォルータン氏。ニューヨークを拠点とするRDN(登録栄養士)で、Academy of Nutrition and Dietetics(栄養と食品学に関する学会)のスポークスパーソンを務めている。「鉄の供給が不足すると、ヘモグロビンを十分に作れないため、赤血球の大きさや色に異常が現れることがあります」赤血球の質が下がると酸素の循環が悪くなり、運動や仕事をいつもよりつらく感じるようになる。
鉄は、必要量がごくわずかである「微量」ミネラルとされるが、他の7つの主要ミネラルと同等に体の働きにおいて不可欠だ。鉄は必要量が多いわけではないが、運動や健康的な食事のせいで必要量を取りにくくなることがある。その理由を説明する。
鉄は必要量がごくわずかである「微量」ミネラルとされるが、他の7つの主要ミネラルと同等に体の働きにおいて不可欠だ。
鉄の欠乏がもたらす問題を探る
鉄は特に活動的な人には、摂取するのが難しい栄養素のになり得る。それはまぎれもない事実で、『European Journal of Applied Physiology』に発表された2019年のレビューによると、女性アスリートの15-35%、男性アスリートの5-11%が鉄分不足である(女性は月経があるためリスクが高い)。
どうして鉄はそれほど不足しやすいのだろうか。摂取カロリーを減らしたり、ベジタリアンやビーガンの食事を取っていたりする場合、鉄分を含む食品を十分に摂取できていないか、摂取できていても吸収しきれていない可能性もある。そこにハードなワークアウトが加わると、実際には摂取した鉄分をいくらか失ってしまっていることもあるのだ。「ランナーなど持久力の必要なアスリートが、硬い路面を、特に質の悪いシューズを履いて走っていると赤血球が損傷を受けます」とフォルータン氏は言う(シューズのクッション性とサポート力が足りないと受ける衝撃が大きくなり、多くの赤血球が傷ついて鉄分も失われる)。また、高負荷インターバルトレーニングであるHIITや持久力トレーニング、気温が高いときなどの大量の汗をかくワークアウトでも、鉄分がある程度失われるとフォルータン氏は続ける。ただし通常は発汗だけで、欠乏症に陥るほどの鉄が失われることはない。
「鉄欠乏は段階的に進行します」と、アリゾナ州立大学、スポーツ栄養学助教授のフローリス・ウォーデナー氏は言う。「最初はいわゆる軽度の欠乏症です。鉄の貯蔵量は減っていますが、体中に酸素を届けるだけの量はまだあるので、気付かないこともあります。さらに鉄の供給が減り続けると、赤血球に潜在的欠乏症の影響が出はじめます」場合によっては疲れを感じたり、パフォーマンスやリカバリーに変化が現れたりする。慢性的な胃腸の不調があれば、栄養素をうまく吸収できていない兆候かもしれない。潜在的欠乏症を見逃すと、重度の症状である鉄欠乏性貧血に発展し、適切に機能する赤血球を作れなくなる。赤血球がうまく機能しなくなると、疲れを感じる、肌の血色が悪くなる、手足が冷える、舌が荒れる、肌や髪の毛が乾燥する、爪がもろくなるといった症状が出ることがあるとウォーデナー氏は言う。
このような症状、特に説明しようのない疲れに気付いたら、医師に相談し、全血球算定、フェリチン値(体内の鉄貯蔵量を反映する)、総鉄結合能を検査してもらうことをフォルータン氏は勧める。検査結果が正常でも違和感が続く場合は、さらに詳しい検査の実施を検討してもらおう。
鉄分の摂取量を増やすには
では、鉄不足の修正方法と必要量についてざっと説明しよう。まず、鉄には2種類ある。動物、特に赤身の肉や鶏肉に含まれているヘム鉄と、植物に含まれる非ヘム鉄だ。「ヘム鉄は吸収しやすい傾向があります」とフォルータン氏。一方、非ヘム鉄は分解されにくい天然植物由来の化合物を含むため、吸収されにくいとも説明する。
米国国立衛生研究所(NIH)によると、1日の推奨摂取量は男性で8ミリグラム、女性で18ミリグラム(妊娠中は27ミリグラム)。ベジタリアンは低い吸収率を補うために、ほぼ倍の量を摂取する必要があると言及されている。鉄分を多く取るには、ホウレンソウなどの緑の濃い葉物野菜、ドライフルーツのアプリコットやピーチ、豆類、ヤシの芯を食べると効果的。鉄分の摂取量を急に増やすことや、サプリメントからの摂取を考えている場合でも医師に確認しよう。医師の処方でない限り、鉄を45ミリグラム以上取ると胃の不調を招く可能性がある。
非ヘム鉄の吸収を助けるには、ヘム鉄を含む食品を組み合わせるとよい。たとえばホウレンソウとレンズマメの料理に小さめのステーキを加えると、ステーキが野菜料理からの鉄分の吸収を高めてくれる。肉類を好まない場合は、鉄分が豊富な食品とピーマン、トマト、柑橘類、イチゴなどのビタミンCを含む食品と組み合わせよう。「ビタミンCの働きで強固な植物性化合物の分解を助ける化学反応が起き、鉄の吸収率が高まります」と言うのは、Precision Nutritionでパフォーマンス栄養部門のコーディネーターを務めるアダム・フェイト氏だ。興味深いことに、紅茶やコーヒーに含まれるタンニンは鉄の吸収を妨げる場合があるため、鉄を多く含む食品を食べてから60-90分間は、これらの飲み物は避けた方がよいとウォーデナー氏は付け加えている。
鉄の貯蔵量が一定水準に達すると、数日以内に気分が良くなってくるはずとウォーデナー氏は言う。鉄分の摂取もトレーニングも、二度とさぼりたくないと思うに違いない。