脱水症の症状と対処法
健康とウェルネス
脱水の主な症状と、脱水を予防するための実用的なヒントをエキスパートが解説。
気温30度の晴れた日も、10度の肌寒い日も、体内の水分を維持することは必要不可欠だ。 適切な水分補給は、具体的なパフォーマンス目標を達成するだけでなく、何よりも体の正常な機能活動を支えるためのものだからだ。
脱水症とは?
脱水症の定義をごく簡単に言うと、「体内の水分バランスが損なわれている状態」とハナ・キットレルは語る。理学修士、 登録栄養士、 認定透析看護師の資格を持ち、ニューヨーク市のMount Sinai Physiolabでディレクターを務める。 彼女によれば、脱水症は喉の渇きに直接関係し、日常生活で失われる水分を補う十分な量の水分を取っていない場合に起こるという。
「脱水症は、補給した水分を上回る量の水分を一定時間内に失うと起こります」と語るのは、ニューヨーク市のNYU Langone’s Sports Performance Centerの臨床運動生理学者であるケイトリン・ベアード。
脱水症に適切に対処するには、腎臓の役割を理解することが重要だ。 腎臓は生命維持に不可欠な器官で、体内の水分量のバランスを取り、電解質などのミネラルや栄養素の血中濃度を適切に保つ役割を担っている、とキットレルは言う。 つまり、脱水症が起こっているときは、血中の水分が失われ、水分や各種ミネラルのバランスが崩れているのだ。
注意すべき主な脱水症状
ベアードとキットレルによると、脱水症の症状は人によって異なるが、基礎疾患がない場合の最も一般的な症状は、喉の渇き、暗色尿、稀尿だ。
「尿の色が非常に濃い場合、これは尿中のさまざまな栄養素の濃度が高いということを意味します。脱水症の兆候の可能性があるため、水分摂取量を増やす必要があります。これに対し、尿の色が薄い黄色であれば体内の水分量は正常です」とキットレルは言う。 「尿の頻度に関しては、2~3時間ごとに尿が出ていれば、おそらく十分に水分補給ができています。 尿意をもよおす間隔がとても長い場合は、脱水症の兆候の可能性があります」
その他にも、成人の脱水症の症状には疲労感や無気力などがある。 分かりづらい症状として、頭痛、目まい、立ちくらみ、錯乱、記憶喪失などが挙げられる。 ベアードによると、頻脈(正常より脈が速くなること)、足のむくみ、便秘、そして時には筋けいれんも、意識しづらい脱水症の症状だ。
ほとんどの人は、喉の渇きによって脱水症を自覚する、とキットレルは言う。喉の渇きは血液の濃度が上がることで生じるからだ。 汗をかくと血中の水分が失われ、電解質などのミネラルの濃度が上昇する。 そして、体が血液の濃度を正常範囲に戻そうとするため、喉の渇きが生じる。
喉の渇きは間違いなく最も分かりやすい脱水症の兆候だが、アマチュアでもプロでもアスリートにとっては当てにならない、とキットレルは述べている。 身体活動中は脳が喉の渇きの信号を認識しない(簡単に言うと喉の渇きを感じない)ことがよくあり、認識したときにはすでに発汗によって体重の1%が失われている場合がある。 これにより、全身に血液を循環させるために心臓の働きが活発になる。
また、運動中に脱水症が起こると、パフォーマンスが低下し、あらゆることがつらく感じるようになる、とベアードは言う。
「体はすでにすべての血液を運動中の筋肉に送り出そうとしているため、負担が高まっています。水分補給が不十分だと、さらに血液を送り出しづらくなり、より負担を感じるようになります」とベアードは述べている。
脱水症に伴う健康リスク
喉の渇きや疲労感などの症状の他に、脱水症によって電解質のバランスが損なわれることで筋けいれんが生じる場合がある、とキットレル。 また、重度の脱水症は熱中症、ヒートショック、吐き気、嘔吐、錯乱、見当識障害につながり、深刻な場合は命に関わると言う。
反対に水を飲み過ぎると、低ナトリウム血症(血中のナトリウムが不足した状態)になり、脱水症と同様に疲労感、膨張感、吐き気といった症状が表れることがある。
脱水症の予防法
喉の渇きの感覚は運動によって鈍ることがよくあるため、喉が渇く前に水分を十分に補給して脱水症を予防することが推奨される。「喉の渇きを実感してから水分補給をしている人は、すでに少しだけ脱水状態になっている可能性があります」とキットレルは言う。
ベアードによると、体内の水分を保つ簡単な方法は、水分量の多い食品(スイカ、キュウリ、イチゴ、グレープフルーツ、スープ、セロリなど)を食べることだ。 また、朝晩に1杯の水を飲む習慣をつけることで体内の水分レベルを改善できると言う。
平均的な人の場合、一般に1日8杯の水を飲むことが推奨される。ただし、日光を浴びる量、運動時間、温度、湿度などによって必要な水分補給量は変動する。 そのため、キットレルはワークアウトの前、最中、後の水分補給に重点を置くことを勧めている。 さらに、長時間の持久力トレーニングを行う場合は、トレーニング中に水分だけでなく栄養を補給する必要がある、とベアードは言う。
キットレルによると、トレーニング前の目標は、体内の水分のバランスが取れた状態でワークアウトを始められるようにすることだ。 現在は、一人ひとりに合ったフィットネスがあることに専門家が気付き始め、たくさんの研究結果が発表されている。さらに、専門家たちは一般的な推奨摂取量を定めるのではなく体重に応じた水分摂取を推奨するようになっている。 キットレルは、このように個々に応じた推奨摂取量を示すのは難しいと認めながらも、個別にアプローチするこの方法の方が適切であると強調した。
運動の3~4時間前に体重0.5kgあたり2~3mlの水を飲み、 さらにワークアウトの約5~15分前にも水を数口飲むことを、キットレルは推奨している。
体内の水分を保つためのもう一つの鍵は、自分の発汗率を把握することだ。 発汗率を測定するには、運動の前後に体重を図り、どれくらい体重が減ったかを確認する。発汗率を測れない場合は、トレーニングセッション中に定期的に水分を摂取し続けるとよい、とキットレルは述べている。 長時間のワークアウト行っているときは15~20分ごとに約250mlの水分を取るよう、キットレルはアドバイスする。ただし、トレーニングを行う環境やワークアウトの長さと強度に応じて異なる。
水はいつでも水分補給に適しているが、状況によってはスポーツドリンクが必要になる、とキットレルは言う。 天候(特に温度と湿度)、日当たり、発汗量、ワークアウトの長さといったあらゆる変動要因を考慮し、スポーツドリンクを飲むかどうかを判断しよう。 装備を必要とするアクティビティ(アメリカンフットボールなど)を行う場合は、ギアの着用によって発汗量が増加するため、スポーツドリンクがおすすめだ。
発汗率の測り方
発汗率を把握することは、自分の体の状態と水分補給の必要性を把握する最善の方法の一つだ。発汗率はとても簡単に測定できる。 発汗率を測定するためのパッチを買ってもよいが、運動の前後に全裸または可能な限り衣服を着用せずに体重を計るだけでも十分だ。 大体の目安として、運動中に体重の2%が失われた場合は脱水状態になっている。 キットレルによると、2%を超えた場合は重度の脱水状態であり、有酸素運動に重大な障害が生じる可能性がある。
「運動中の体重減少量に応じて、失われた水分量の80~100%を補給しましょう」とキットレルは勧めている。 たとえば、運動中に体重が500g減少したら、400~450mlの水を飲むとよい。
しかし、これは推奨にすぎない。特に胃腸の問題を避けるためにトレーニング中にあまり水分を取らないようにしている人は、自分に合った水分摂取方法を試してみるよう、キットレルは勧めている。
「何が起こるか分からないので、試合やレースの当日に新しいことをするのは避け、トレーニングランや練習で試して、何が自分に最も合っているかを確認しましょう」と彼女は述べている。
結論
脱水症は重大な問題につながる可能性があり、軽く見てはならない。 脱水症の兆候や症状を把握し、認識することが重要だ。 また、脱水症を単なる疲労や頑張りすぎと誤解しないことも大切。 脱水状態になったら、すぐにアクティビティをやめ、日陰か冷房の効いた場所に移動し、首や頭を冷たいタオルで冷やすことを、ベアードは勧めている。 冷たい飲み物(水やスポーツドリンク)を飲み、自分の状態を誰かに伝えよう。 そうすることで、熱中症に至るのを回避できる。
「脱水症と疲労を見分けるのは難しい場合がありますが、安全を確保するためには、何かがおかしいと気付き、適切に対処することが必要不可欠です」とベアードは述べている。
文:タマラ・プリジット